判例全文 | ||
【事件名】海賊版サイト「漫画村」事件 【年月日】令和6年4月18日 東京地裁 令和4年(ワ)第18776号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年2月9日) 判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、原告KADOKAWAに対し、4億0575万5964円及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告集英社に対し、4億2923万0844円及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告小学館に対し、9億0165万5469円及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを40分し、その36を被告の負担とし、その1を原告KADOKAWAの負担とし、その1を原告集英社の負担とし、その余を原告小学館の負担とする。 6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 略語は別紙略語一覧表のとおり。 第1 事案の要旨 本件は、出版社である原告らが、本件作品の各著作権者から本件作品を出版及び公衆送信することにつき出版権又は独占的利用権の設定を受けているところ、被告が、本件サイトにおいて、本件作品の画像データを自動公衆送信(送信可能化を含む。)したことは、本件作品に係る原告らの出版権又は独占的利用権を侵害すると主張して、被告に対し、損害賠償を求める事案である。 第2 当事者の求めた裁判 1 被告は、原告KADOKAWAに対し、4億5083万9961円及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告集英社に対し、4億7692万3161円及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告小学館に対し、10億0183万9410円及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (請求の法的根拠) いずれも 主たる請求:不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条、719条。損害額につき著作権法114条3項(主位的主張)又は1項(予備的主張)) なお、本件において原告らが損害賠償請求の対象とする被告の行為は、平成29年6月~平成30年4月の間のものである。 附帯請求:遅延損害金請求権(起算日:訴状送達日の翌日、利率:平成29年法律第44号による改正前の民法所定の法定利率) 第3 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張の要旨 1 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。以下同じ。) (1)当事者 原告らはいずれも出版社であり、原告KADOKAWAは別紙作品目録1記載の各漫画の、原告集英社は別紙作品目録2記載の各漫画の、また、原告小学館は別紙作品目録3記載の各漫画のコミック単行本等をそれぞれ発行又は電子配信している。(甲1~3、5) 被告は、少なくとも本件サイト(com)の開設、運営に関与した者である。 (2)本件作品に係る原告らの権利等 原告らは、それぞれ、平成29年6月~平成30年4月の間を含め、本件作品の各著作権者から、別紙作品目録1~3の各「許諾区分」欄記載のとおり、本件作品について出版権の設定又は独占的な利用許諾を受けていた。 原告らは、原告ら又は原告KADOKAWAの完全子会社の電子配信サイトにおいてのみ、上記各別紙の各「販売価額(税込)」欄記載の金額で、本件作品(ただし、別紙作品目録3の番号174~221の作品を除く。)を電子配信していた。また、原告小学館は、別紙作品目録3の番号174~221の各作品については電子配信しておらず、同目録の「販 売価額(税込)」欄記載の金額で、コミック単行本等の紙媒体によってのみ発行していた。 (以上につき、甲5) (3)本件サイトの概要 本件の対象となるウェブサイト(本件サイト)は、「漫画村」と称するウェブサイのうち、本件サイト(com)、本件サイト(net)及び本件サイト(org)である。 本件サイトは、平成28年1月18日に本件サイト(com)のドメイン登録がされ、平成29年6月27日に本件サイト(net)のドメインに変更された後、同年8月29日、本件サイト(org)のドメインに変更され、平成30年4月に閉鎖された。 本件サイトは、数万件以上の漫画作品等の画像データを不特定多数の利用者が無償で閲覧可能な状態としたものであるところ、掲載作品には本件作品がいずれも含まれていた。本件作品の本件サイトへの掲載について、原告らによる許諾はない。 (以上につき、甲5、6、8、9、14~17、46) (4)被告に対する刑事事件 福岡地方裁判所は、令和3年6月2日、被告に対する著作権法違反、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件(同庁令和元年(わ)第1181号等)につき、懲役3年及び罰金1000万円に処し、6257万1336円を追徴する旨の判決(甲49)を宣告し、その後、同判決は確定した。 その「罪となるべき事実」のうち、著作権法違反罪に係る事実の概要は、被告が、共犯者3名と共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けないで、平成29年5月11日頃に漫画「キングダム516話陥落の武器」の画像データを、また、同月29日頃に漫画「ワンピース866話“NATURALBORNDESTROYER”」の画像データを、それぞれ、インターネットに接続された氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータの記録装置に記録保存して、その頃から、前者については同月17日までの間、後者については同月31日までの間、インターネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にし、各作品の著作権者の著作権等を侵害した、というものである。 (5)原告らの被告に対する損害賠償債務の履行請求 ア 原告集英社は、被告に対し、令和4年3月3日付け「催告書」(甲22の1)において、別紙作品目録2記載の作品を含む同原告の発行・電子配信する漫画作品について、本件サイトに掲載されたことによる権利利益侵害に係る損害賠償債務の履行を請求して催告し、同催告書は、同月4日に被告に到達した(甲22の2)。 イ 原告KADOKAWA及び同小学館は、それぞれ、被告に対し、同年4月12日付け「通知書」(甲23の1、24の1)において、別紙作品目録1及び3各記載の作品を含む各原告の発行・電子配信する漫画作品について、本件サイトに掲載されたことによる権利利益侵害に係る損害賠償債務の履行を請求して催告し、各通知書は、いずれも同月13日に被告に到達した(甲23の2、24の2)。 (6)本件訴えの提起 原告らは、令和4年7月28日、本件訴えを提起した。 (7)消滅時効の援用 被告は、令和4年11月15日付け答弁書を第1回弁論準備手続期日(令和5年5月30日実施)において陳述し、本件における原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効を援用した。 2 争点 (1)被告による権利侵害(公衆送信(送信可能化を含む。))の有無(争点1) (2)被告の故意の有無(争点2) (3)損害額(争点3) (4)消滅時効の成否(原告らが損害及び加害者を知った時)(争点4) 3 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(被告による権利侵害(公衆送信(送信可能化を含む。))の有無) (原告らの主張) ア 被告が本件サイトの管理・運営に関与していたこと 被告は、本件サイト(com)だけでなく、本件サイト(net)及び本件サイト(org)の管理・運営にも関与しており、自ら又は協力者に指示して、本件作品のアップロードを実行していた。 イ 公衆送信について 本件サイトは、そこに掲載された本件作品を含む漫画等の画像データを閲覧しようとする不特定多数の利用者からの求めに応じて、本件サイトのサーバから自動的に当該画像データを当該利用者に送信するものである。 本件サイトに漫画等の画像データを掲載する方法には、本件サイトのサーバの記録媒体に画像データを手作業でアップロードする方法(方法①)と、被告及び共犯者らと無関係なサーバコンピュータ(第三者サーバ)に存在する画像データを、本件サイトのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにする方法(方法②)の2種類があり、本件サイトにおける漫画等の画像データの掲載は、全て方法①又は②のいずれかによる。 いずれの方法による場合も、本件サイトの利用者は、掲載作品の画像データを閲覧するために、本件サイトのサーバにアクセスしてその送信を求め、本件サイトのサーバは、この求めに応じ自動的に本件作品の画像データを本件サイトのサーバから直接送信していた。方法②の場合も、利用者が第三者サーバに対して本件作品の画像データの送信を求めることはなく、第三者サーバから利用者に対して当該画像データが直接送信されることもない。 したがって、本件作品の画像データの本件サイトへの掲載は、方法①又は②のいずれによるにせよ、本件作品の画像データを本件サイトで閲覧可能な状態にし、本件サイトにアクセスした不特定多数の利用者に対して自動的に送信した行為にほかならず、これは自動公衆送信(著作権法2条1項9号の4)に該当する。 ウ 送信可能化について (ア)本件サイトのサーバにリバースプロキシを設定することにより、インターネットに接続されている「自動公衆送信装置」である本件サイトのサーバの記録媒体に、第三者サーバに記録保存されていた本件作品の画像データが利用者の求めの都度入力されることになる。このため、上記設定行為は、「自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を入力すること」(著作権法2条1項9号の5イ)に当たる。また、これにより本件サイトのサーバにおいて本件作品の画像データが自動公衆送信し得るようになった(同号の5柱書)といえる。 したがって、上記行為は、自動公衆送信装置である本件サイトのサーバにおける「送信可能化」に該当する。 (イ)被告は、インターネットに接続されている「自動公衆送信装置」である本件サイトのサーバの記録媒体に、利用者の求めの都度、第三者サーバに記録保存されていた本件作品の画像データが入力されること、それにより当該利用者に対して本件サイトのサーバから当該画像データが自動的に送信されるようにすることを意図・意欲して、リバースプロキシの設定等をした者である。 したがって、被告は、本件サイトのサーバにおいて生じている当該画像データの送信可能化の行為主体といえる。 (ウ)被告の主張について 「送信可能化」が生じるかどうかの検討にあたっては、特定の自動公衆送信装置に着目すべきところ、ある自動公衆送信装置において送信可能化された画像データ等であっても、それを取得して別の自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に入力、記録等することにより、当該別の自動公衆送信装置においては、それまで自動的に公衆送信し得なかったものが自動公衆送信し得るようになる(すなわち当該別の自動公衆送信装置において送信可能化が生じる)こととなる。このことを踏まえると、送信可能化の対象となる画像データ等につき、他の自動公衆送信装置において未だ送信可能化されていないものに限定するのは適切でない。 また、いわゆるリーチサイト等の場合、提供された送信元識別符合等(URL等)を用いて利用者が送信元に対して侵害著作物等の送信を求め、その求めに応じて送信元が利用者に対して侵害著作物等を送信する。すなわち、リーチサイト等の場合、送信元から利用者に対する侵害著作物等の送信は、リーチサイト等運営者のサーバを経由することなく、利用者に対して直接行われる。他方、リバースプロキシ設定行為は、閲覧者のリクエストに応じて、侵害コンテンツのデータ自体を第三者サーバから取得して受信者に送信するという点で、データを送信せずに侵害を示すURLを表示するリンクを張る行為とは、その態様を異にする。 (被告の主張) ア 公衆送信について 被告は、本件作品の画像データにつき、自らアップロードしたことも、協力者を通じてアップロードしたこともない。被告は、他者の求めに応じて、本件サイト(com)の設立に関わり、システム開発・管理、広告業者とのやり取りを担当したことはあるが、本件サイト(net)及び本件サイト(org)には関与していない。 また、本件サイト(org)においては、少なくとも平成29年10月4日時点において、一覧表示がなされ、その画面を見れば作品の画像が閲覧可能であるかのように受け取れるものであっても、数百冊以上の規模で、画像が壊れ、実際には閲覧不可であったことがうかがわれる。このため、本件サイトの一覧画面をクローリングして作品情報を収集したとしても、そのことをもって当該作品の画像が本件サイトで閲覧可能であったとはいえず、本件作品に係る画像データにつき、本件サイトにアクセスした不特定多数の利用者に対し自動的に送信したとはいえない。 イ 送信可能化について 被告は、本件サイト(com)の開設・運用にあたり、リバースプロキシ設定等を通じて、同サイトのURLにアクセスすることによって、被告が運営に関わっていない第三者によって既にアップロードされ、インターネットを通じて一般に閲読可能であった画像データについて閲読を可能とする設定を行った。このような被告の行為は、第三者により既にインターネット上において「自動公衆送信し得る」状態を作出されていた侵害コンテンツに誘導するものに過ぎないから、文理上、「自動公衆送信し得るようにする」(著作権法2条1項9号の5)ものである送信可能化とはいいがたい。 また、いわゆるリーチサイト等にみられるように、第三者が既にインターネット上で「自動公衆送信し得る」状態を作出し、公衆による侵害コンテンツへのアクセスが可能な状態において、当該コンテンツに誘導する行為の権利侵害性については、令和2年法律第48号による改正後の著作権法により、公衆を侵害コンテンツに殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト・アプリや、主として公衆による侵害コンテンツの利用のために用いられるものと認められるウェブサイト・アプリが、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為と「みなす」と規定された。上記改正前に被告がした上記リバースプロキシ設定行為は、結果としてデータが公衆に受信できる状況を作り出すという意味で、データの送信ではなくウェブサイトに侵害コンテンツの所在を示すリンクを貼る行為と等価であって、送信可能化には当たらない。 (2)争点2(被告の故意の有無) (原告らの主張) 被告は、故意に原告らの権利を侵害した。 (被告の主張) 否認ないし争う。 (3)争点3(損害額)について (原告らの主張) ア 本件作品の閲覧数(公衆送信の回数) (ア)平成29年6月~平成30年4月の間の本件サイトへのアクセス総数(いわゆるページビュー数ではなく、訪問者数を意味する。)は、5億3781万と推計される。 このため、アクセスした利用者が1アクセス当たり平均して漫画コミック1巻を閲覧したとすると、上記期間中に本件サイトにて合計5億3781万巻の閲覧があったと推計される。 また、本件サイトに掲載されていた作品巻数は、最大で7万2577巻程度と推計される。 そうすると、本件サイトにおける作品1巻当たりの平均閲覧数は、7410(≒5億3781万/7万2577)を超えることになるところ、本件作品はいずれも人気作品であるから、本件作品1巻当たりの閲覧数はこれを上回ると考えられる。 したがって、本件作品は、上記期間に、それぞれ、少なくとも7410回は閲覧(公衆送信)されたといえる。 (イ)被告の主張について 被告自身、自らのTwitter(現X)のアカウントにおいて、漫画村の月間利用者が8500万人であった旨投稿しているところ、上記推計の基礎となる調査結果によれば、本件サイトのアクセス数は最大でも平成30年3月に9286万であり、その数値は近似しているから、上記推計の正確性に欠けるところはない。 また、被告は、漫画村の月間ユニークユーザーが8500万人であったとも投稿しているところ、同一人物が同一月内に複数回本件サイトを訪問することがあり得ることを踏まえると、被告の当該投稿を前提とすれば、サイトアクセス数(セッション数)はその何倍にもなり得る。 イ 主位的主張(著作権法114条3項) (ア)著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額」 a 対象期間当時の本件作品の販売価額(税抜金額)は、それぞれ、別紙作品目録1~3の「販売価額」欄記載の額である。仮に原告らが被告に本件サイトを通じた本件作品の公衆送信を許諾したとすれば、それにより被告から受けるべき金銭の額は、公衆送信1回につき、この「販売価額」に当時の消費税率8%を加算した金額である別紙作品目録1~3の「販売価格(税込)」欄記載の金額を下回ることはない。 したがって、本件サイトにおける本件作品の公衆送信によって原告らが受けるべき金銭の額は、別紙作品目録1~3の「原告主張損害額」欄記載の額(=「販売価額(税込)」欄記載の金額×「アクセス数」欄記載の回数)のとおりであり、その合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき4億0985万4510円 ・原告集英社につき4億3356万6510円 ・原告小学館につき9億1076万3100円 b 被告の主張について 漫画定額読み放題サイトにおいては、ユーザーから定額の利用料を収受しており、各作品の権利者に対しては、各漫画作品に対するアクセス数等の指標に応じて、当該サイトの売上の一定割合を一定の計算式に従って分配するのが通例である。他方、本件サイトは無償でアクセス可能であり、このような売上を観念することはできない。その意味で、漫画定額読み放題サイトは、本件サイトと同種のサイトとはいえない。 加えて、本件サイトでは、ユーザーは、いつでも自分の好きな時に好きな場所において、完全に無料で各漫画作品を閲覧することができ、しかも広告を一定時間視聴し終わるまでは各漫画作品を閲覧できないといった制約を受けることもなかった。原告らは、本件作品をそのようなサービスの対象とすることを許諾したことはないから、そのライセンス相当額は存在しない。また、本件サイトにおいて本件作品が自由に閲覧できるようにされることにより、本件作品を閲覧することの対価を支払う動機がユーザーから失われ、本件作品の有償での販売活動が著しく困難になる。 さらに、原告らは、本件作品について、対象作品及び期間を限定したプロモーションの場合を除き、漫画定額読み放題サイトの対象とすることを許諾したことはない。原告らは、自ら又は完全子会社が管理・運営する漫画閲覧サイトを通じて本件作品を有償で販売していた。そうである以上、「定額読み放題」か否か以前の問題として、そもそも、他の漫画閲覧サイト運営者に対するライセンス料を基準にすること自体が妥当でない。 このため、仮に、本件サイトのようにユーザーがいつでもどこでも無料で本件作品を閲覧できる態様での提供をあえて許諾するとすれば、本件作品の販売価格と同額を求めることが合理的であり、ユーザーから定額利用料を収受する漫画定額読み放題サイトに対するライセンス料を参照することは不適当である。 (イ)弁護士費用相当損害金 原告らは、本件訴えの遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任した。その弁護士費用のうち、上記損害額の10%が被告による著作権侵害行為と相当因果関係のある支出である。したがって、弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき4098万5451円 ・原告集英社につき4335万6651円 ・原告小学館につき9107万6310円。 (ウ)損害額合計 以上より、原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき4億5083万9961円 ・原告集英社につき4億7692万3161円 ・原告小学館につき10億0183万9410円 ウ 予備的主張(著作権法114条1項) (ア)著作権法114条1項の損害額 a 本件サイトのユーザーは、本件サイトにアクセスしさえすれば、本件作品に係る画像データを何らの制限なく閲覧することが可能であった。本件サイトにおける1アクセス当たりの平均滞在時間は16分から25分程度であるところ、これは漫画コミック1巻を読むのに十分な時間である。また、本件サイトが利用していた米国クラウドフレア社の提供するコンテンツデリバリネットワーク(CDN)サービスは、通信の遅滞による影響を受けないから、ダウンロードして漫画を読むのと同等の効果をもつものであった。 したがって、本件においては、著作権法114条1項が適用又は類推適用される。 b 電子書籍が販売された際に出版権者ないし独占的利用権者が著作権者に支払う金額は、一般に販売価額の15~20%である。 したがって、被告による侵害行為がなければ販売することができた本件作品に係る正規商品の単位数量当たりの原告らの利益の額は、少なくとも対象期間当時における本件作品の販売価額(税抜金額)(別紙作品目録1~3の「販売価額」欄に記載の額)の80%を下回ることはない。 そうすると、著作権法114条1項に基づく原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき3億2788万3608円 ・原告集英社につき3億4685万3208円 ・原告小学館につき7億2861万0480円 (イ)弁護士費用相当損害金 原告らは、本件訴えの遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任した。その費用のうち、上記損害額の10%が被告による著作権侵害行為と相当因果関係のある支出である。したがって、弁護士費用相当損害金は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき3278万8360円 ・原告集英社につき3468万5320円 ・原告小学館につき7286万1048円 (ウ)損害額合計 以上より、原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき3億6067万1968円 ・原告集英社につき3億8153万8528円 ・原告小学館につき8億0147万1528円 (被告の主張) ア 否認ないし争う。 本件作品の閲覧数(公衆送信の回数)について、その推計の基礎とする実数値は数倍のブレが発生することが多いといわれていることなどから、推計の正確性には疑義がある。 イ 主位的主張について 著作権法114条3項による損害額は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト(漫画定額読み放題サービスサイト)の運営者と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料相当額に限られる。 ウ 予備的主張について (ア)受信複製物について 著作権法114条1項について、売上減少の逸失利益が生じるためには、単にユーザーが閲覧したということでは十分ではなく、コンテンツを購入したのと同等の反復利用可能性が必要である。したがって、「譲渡等数量」は、著作物又は実演等の複製物(受信複製物)に限定される。受信複製物は、ユーザーのダウンロード操作によって作成されるものに限られ、ストリーミング配信や単なる閲覧の場合はこれに含まれない。 本件サイトは、基本的にはダウンロード操作を要せずに漫画が閲覧できるタイプのサイトであり、ユーザーが特にダウンロードを意図して特殊な操作をしない限り、ダウンロードはできなかった。このため、受信複製物の数量はごく限られ、多く見積もっても100分の1を超えることはない。 また、仮に貸与と同様の類推適用を認めるとしても、その数量につきダウンロードと同等程度の評価をすることはできず、通常の漫画ダウンロード作品と同等の反復利用分を減じる必要がある。 (イ)単位数量当たりの利益の額について 「単位数量当たりの利益の額」とは、限界利益を指すところ、原告らが主張する単位数量当たりの利益の額は粗利益であって、限界利益でない。 また、平成30年当時の電子書籍の価格構造及び原告らの主張する著作権者に対する支払を考慮すると、原告らの単位数量当たりの利益は、販売価格の30%〜45%を上回らないことになる。したがって、仮に粗利益を中心に考えても、単位数量当たりの利益の額が販売価額(税込)の30%を超えることはない。 (4)争点4(消滅時効の成否(原告らが損害及び加害者を知った時)) (被告の主張) ア 仮に、原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するとしても、これらの請求権は、いずれも時効により消滅している。 イ 原告らは平成30年4月までに「損害」を知っていたこと 以下の事情に鑑みると、原告らは、平成30年4月までには「損害」を知っていたといえる。 すなわち、原告らは、平成30年4月11日までに、本件サイトにつき、DCMAに基づき、Googleに対し、著作権侵害を理由とする削除通知フォームへの申立てを行った。Googleは、これを受けて、本件サイトのトップページを検索結果から削除した。 また、同月2日には、政府の知的財産戦略本部に本件サイトを念頭に置いた検討会議が設置されたところ、その委員に原告KADOKAWAの当時の代表者が選任された。同年6月22日に開催された検討会議第1回会合において配布された事務局資料には、本件サイトが名指しされている。さらに、原告KADOKAWAの上記代表者は、同会合において「漫画村」について言及した。そうすると、原告KADOKAWAは、同日までに、本件サイトによる損害を知っていたといえる。さらに、同会議の委員には、原告KADOKAWAのほかにも大手出版社の代表取締役が選任される状態に至っていたのであるから、原告集英社及び同小学館も、同日までに本件サイトによる損害を知っていた。 これらの事情等に鑑みると、原告らは、平成30年4月までに「損害」を知っていたといえる。 ウ 原告らは遅くとも平成30年11月までに「加害者」を知っていたこと 以下の事情に鑑みると、原告らは、遅くとも平成30年11月までには「加害者」を知っていたといえる。 (ア)平成29年8月には、インターネット上で、本件サイトに被告が関与していること及び被告に関する情報が公開されていた。 また、原告らは、平成30年2月13日、知的財産戦略本部・検証・評価・企画委員会コンテンツ分野に、本件サイトを念頭に置いて、「海賊版にはブロッキングが有効」との申入れを行った。加えて、同年3月、原告らが関与する出版広報センターが海賊版対策に関するワーキンググループを発足させ、海賊版に対する情報の一元化を行い、原告らも、同年4月頃から、海賊版対策の会議を開催し、本件サイトを含む海賊版サイトに関する情報や被害対策についての協議を行い、本件サイトに関する情報を共有していた。 さらに、同月13日には、NHKの記者が本件サイトの運営者として被告を特定し、その連絡先を把握して被告を取材し、同記者と被告との会話の様子が同月18日に放送された。 同年5月18日には、原告集英社から、本件サイト及び被告をモデルとして登場させたコミックスが刊行された。 同年10月10日及び同年11月1日には、日本国内の権利者から委任を受けた弁護士が米国で匿名訴訟を提起し、ディスカバリー制度を利用するなどして、17日間程度で本件サイトの運営者として被告の氏名、住所等を特定できることが報道され、同年10月15日に開催された検討会議の会合にもそのような内容の資料が提出された。また、同月12日、原告KADOKAWAの当時の代表者は、インターネット上のテレビ番組において、本件サイト運営者の身元が判明したのは非常に良いニュースである旨を発言した。同月26日、原告小学館の当時の顧問弁護士も、インターネット上のニュースサイトに対し、既に本件サイトの運営者とみられる人物に「たどり着いている」旨を発言した。 (イ)上記(ア)の事情に加え、前記イの経緯に鑑みると、遅くとも平成30年11月までには、社会通念上、原告らが調査すれば容易に被告に対する損害賠償請求が可能な程度にその氏名、住所が判明し得る状態にあり、本件サイトを念頭に置いた海5版サイトへの対策等に絶大な関心を抱いて調査研究をしていた原告らは、遅くともこの頃までには、被告に対する損害賠償請求が可能な程度に加害者を知っていたといえる。 (ウ)原告らが加害者を知ったとする平成31年4月16日の時点は、本件サイトの運営に関わっていたとの情報がインターネット上で広く公開されている状況にはなかった共犯者らを含めた加害者全員を知った時を意味するに過ぎない。 エ 小括 したがって、原告らは、遅くとも平成30年11月までには、被告に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を知っていたといえる。 (原告らの主張) ア 原告集英社が加害者を知ったのは、本件サイトに係る告訴について、警察から被疑者が特定された旨の連絡を受けた平成31年4月16日である。また、原告集英社は、令和4年3月3日付け催告書により、被告に対し、本件訴えに係る損害賠償債務の履行を請求して催告を行い、同催告書は、同月4日に被告に到達した。 他方、原告KADOKAWA及び同小学館が加害者を知ったのは、フィリピン入国管理当局が本件サイトの運営者として被告を拘束したことを発表した日である同年7月9日である。また、原告KADOKAWA及び同小学館は、それぞれ、令和4年4月12日付け催告書により、被告に対し、本件訴えに係る損害賠償債務の履行を請求して催告を行い、同催告書は、同月13日に被告に到達した。 イ 被告の主張について 被告が縷々指摘する事実は、いずれも原告らが加害者を知った時を裏付けるものではない。 すなわち、まず、原告らが過去にGoogleに対してDMCAに基づく申立てをしたことはあり、その時点で原告らが本件作品のうち当該申立ての対象とした作品に係る損害の発生を現実に認識していた可能性はあるとしても、加害者を知ったのは当該申立ての後である。 また、米国の匿名訴訟手続の利用については、それにより得られる情報は「契約者」として登録されている情報に過ぎず、本件のようなインターネットを悪用した侵害事案において、契約者として登録された情報が当然に加害者本人の情報であるとは限らない。仮に、契約者として登録されていた情報が結果的に加害者本人の情報であったとしても、契約者を知り得ることをもって当然に「容易に」加害者を知り得ることになるわけではない。加えて、本件は被告以外の共犯者と共に遂行された侵害事案であるところ、被告の法的責任を裏付ける具体的な関与態様等は契約者情報だけからは判明しない。本件においてそうした事情が判明するには、最終的には刑事手続の進展を待つ必要があった。 さらに、弁護士が米国で匿名訴訟を提起するという手法は、当時、インターネットを悪用した国際的な侵害事案に係る最先端の対応事例として紹介されたものであり、実務上定着していたような手法では全くない。米国の匿名訴訟も各手続は独立している以上、同種の訴訟を提起したからといって必ず同様に開示されていたという保証もない。 一般に、捜査機関に刑事事件化を依頼した事案においては、捜査や立件の妨げにならないよう留意する必要もある。民事上可能な手続があるからといって、当然にそれらの手続の全てを実施し得るわけではない。 したがって、米国の訴訟手続を利用することが可能であったとしても、原告らは、本件サイトの運営者である加害者を容易に知り得たとはいえない。 その他被告が縷々指摘する事情も、いずれも原告らが本件サイトの運営者である加害者を容易に知り得たことを裏付けるに足りるものではない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実のほか、証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1)本件サイトについて ア 本件サイトの運営形態 本件サイトにより漫画等の閲覧を可能とする方法としては、①本件サイトのサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法(方法①)と、②本件サイトとは別のサーバコンピュータ(第三者サーバ)に存在する画像データを、本件サイトのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにする方法(方法②)があった。リバースプロキシとは、オリジンサーバ(本件においては第三者サーバ)とユーザー(本件サイトの閲覧者)との間のデータ送信を中継する機能又はその機能を有するサーバ(本件においては本件サイトのサーバ)をいう。リバースプロキシには、一般的に、オリジンサーバのセキュリティや匿名性を高めると共に、送信されるデータをキャッシュ(一時保存)することによりオリジンサーバヘの負荷を軽減する機能がある。 また、本件サイトは、クラウドフレア社が提供するCDNサービスを利用していた。同社のCDNサービスは、世界各所にCDNサーバを設置し、画像データ等をCDNサーバにキャッシュしておくことで、ウェブサイトにアクセスしようとするユーザーに対し、物理的に最も近いCDNサーバデータからデータを配信し、これにより上記サイトの通信速度を確保するなど、データ伝送の効率化を図ることができ、かつ、CDNサーバのプロキシ機能により、セキュリティと共に上記ウェブサイトのサーバの匿名性が高まるという特徴がある。このため、本件サイトの場合、運営者が、そのサーバにリバースプロキシを設定することで方法①又は②によりそのサーバを通じて漫画等の画像データを閲覧可能な状態を作出すると共に、CDNサービスを利用することで、ユーザーは、CDNサーバから本件サイトが閲覧可能とした漫画等の画像データを取得し、閲覧することができることとなる。 (以上につき、甲35、36、47、52) イ 本件サイト相互の関係 本件サイトについては、平成28年1月18日に本件サイト(com)のドメイン登録がされ、平成29年6月27日に本件サイト(net)のドメインに変更された後、同5年8月29日、本件サイト(org)のドメインに変更されたものである。 これら3つのドメインの相互関係については、それぞれリダイレクト(アクセスしたウェブサイトから、別のウェブサイトに自動的に移動させること)の設定がなされていた時期が存在する(甲50)。また、本件サイト(com)のドメインで使用されていたGoogleアナリティクスのID「(IDは省略)」は、同年6月30日当時、本件サイト(net)のドメインにおいても使用されていた(甲56、57)。その後の同年7月5日までに本件サイト(com)のドメインの上記IDが「(IDは省略)」に変更されると、同月7日までに本件サイト(net)のドメインの上記IDも同じIDに変更された(甲58、59)。さらに、本件サイト(net)は、平成29年9月30日当時、そのトップページに、「新デザインできました。http://(以下省略)/テストお願いします。」と掲載していた(甲60)。 これらの経緯に鑑みると、本件サイトは、上記ドメインの変更を経ても、その内容は概ね同一性を保っていたことがうかがわれる。 ウ 本件サイトの利用方法 本件サイトにおいては、ジャンルや50音、キーワードによって、閲覧可能な漫画等を検索することができ、ユーザーが検索結果から閲覧したいタイトルをクリックすれば、当該作品がブラウザ上に表示され、ブラウザをスクロールすることにより作品を閲覧することができる仕組みとなっている。すなわち、本件サイトでは、漫画等の画像ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、ストリーミング形式により閲覧することが可能であった。 もっとも、本件サイトにおいては、仕様として各画像ファイルを保存するための専用の機能は設けられていないものの、各画像ファイルを保存することを制限するような技術や機能も採用されていなかった。そのため、ユーザーが通常のOSやブラウザの機能を用いて「名前を付けて画像を保存」したり、スクリーンショットを撮影したり、画像ダウンロードソフトを利用したりなどといった一般的な方法によって各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒体に保存することは可能であった。 (以上につき、甲31、41) (2)本件サイトに関する被告と関係者との通信 ア 被告は、平成27年7月3日~平成29年2月14日の間、本件サイトの他の関係者5名と構成していたLINEグループ「ちーむはにらん」において、次の内容の通信をするなどして、本件サイトや本件サイトのドメイン登録名義及びアフィリエイト収入の入金先である「WorldJobProject」について言及するなどしていた。(甲44) ・「漫画村の画像のurl隠そうと思ってテストしてた」 ・「今漫画村のメンテしてる」 ・「http://(以下省略)」、「自分のホームページ作ってもアピールする人がいなかった」 ・「http://(以下省略)」、「SVの開発とサポートってことにしておいた」、「全部俺のことなんだよなぁ」 イ 被告は、平成29年5月1日~同年7月31日の間、本件サイトの他の関係者2名と構成していたLINEグループ「村住民の掟」において、次の内容の通信をするなどして、本件サイトの更新作業等についての連絡・情報共有を行っていた。(甲37) ・平成29年5月2日 「管理画面絡(から)みてほしいんだけど」、「http://(以下省略)」 「ジャンル頁で漫画のアップがない作品が表示されるバグ修正」、「自動取得のスピードアップテストしてるから投稿増えるかも」 ・同月3日 「需要ありそうなの発売カレンダーでアップして欲しい」、「今日の人気漫画を参考に単行本無いやつ結構あるから単行本アップ行って欲しい」 ・同月4日 「今アクセス伸びてるから毎日(更新を)やって欲しい」 ・同月6日 「一部サーバーで画像が表示されないバグ修正」 ・同月7日 「残念だけどpv落ちるから単行本は他の人に投げるからもういいや」、「今後は週刊誌の分割の日だけ作業して欲しい」 ・同月9日 「サムネイル直した」、「壊れたサーバーも復帰処理しておきます」 ・同月22日 「サーバーの1台が調子悪くて何度直しても駄目だから取り替えとく」 ・同年7月5日 「村アップデートしてて今から3時間くらい管理画面止まります」 また、同LINEグループにおいては、そのほかに、本件サイトにアップロードする漫画の画像データの入手先及び更新に関する情報共有も行われていた。 さらに、被告は、同LINEグループが作成される以前である平成29年4月頃、その構成員1名との間で、本件サイトに関する作業を担当したいとの同人の申入れを受け入れ、仕事内容及び報酬についての説明をした。(甲38) ウ 被告は、平成29年1月22日~同年11月2日の間、本件サイトの関係者3名とのLINEグループ「真ハニ部屋」において、次のような内容の通信をした。(甲45) ・平成29年1月29日 「pv急に3倍になったから元から作り直し中」 ・同年5月3日~同月4日 (アダルトサイトである「シェアビデオ」がDDos攻撃の対象となっていることを受けて)「漫画村も明日防御固める」、「漫画村も鉄壁の守りいれた。」 ・同年8月20日 「対策おわた」、「取り敢えずビュワー部分だけなおした」、「ソフトバンクに攻撃するように指示しなくては」 (3)本件サイト(net)及び本件サイト(org)に係る本件調査 なお、本項においては、「本件サイト」は、本件サイト(net)と本件サイト(org)を指す。 ア 本件調査の実施 原告らは、調査会社に対し、各原告の取り扱う作品につき、本件サイトにおける掲載作品数及びアクセス数等の調査を委託した(本件調査)。本件調査の概要は、次のとおりである。 本件サイトにおける掲載作品情報について、まず、本件サイトにおいて、表示方法を「作品タイトルのみ」、ソート順を「人気順」としてスクレイピングし、これにより、「作品タイトル」、「著者」、「登録巻数」、「タイトルURL」、「ジャンル」に係る情報を収集する。GoogleBooksAPIにより作品名及び著者名から出版社を特定すると共に、出版社ごとの作品リスト等とマッチングするなどして、出版社ごとの作品を特定した。本件調査に係るスクレイピングは、平成30年4月6日に実施された。 また、本件サイトのアクセス数は、ウェブサイト分析ツール「SimilarWeb」を利用して算出された。SimilarWebにおいては、訪問者が1つ以上のページにアクセスした場合にウェブサイトの訪問(セッション)とみなし、30分以内に同じサイトへのアクセスがあった場合は同じ訪問に含まれ、30分以上操作を行わなかった場合やそれ以降にユーザーが再びアクティブになった場合は新たな訪問としてカウントすることになっており、また、新しいセッションは午前0時に開始されることとされている。 (以上につき、甲6、51) イ 本件調査の結果 本件調査の当時、本件サイトには、全体で、作品タイトル数8223冊、作品巻数7万2577巻の作品が掲載されていた。また、平成29年6月~平成30年4月の間における本件サイトのアクセス総数は、5億3781万回超(月平均4889万2057回)、平均滞在時間は19分18秒であった。(甲6、8、9、14~17) (4)被告自身の本件サイトに関する言及 なお、本項において、「/」は改行部分を示す。 ア 被告は、令和4年7月30日、Twitterに「漫画村の月間利用者は8500万人で日本最大。」などと投稿した。(甲10) イ 被告は、令和3年10月5日発行の自著「漫画村の真相出過ぎた杭は打たれない」(甲52)において、「漫画村」について、次のように述べている。 ・「そもそもぼくが主導して作ったサイトではありません。」、「サーバー周りやテクノロジー関係の部分ではぼくが主導的な役割を果たしていたと思います。でもそれは、会社で言うならばCTO(最高技術責任者)のようなもので、ぼくは経営方針のすべての責任者であるCEO(最高経営責任者)では決してなかったのです。」(59頁) ・「ぼくの出した条件は、…プログラム開発やサーバー周りはやるけれども、メインとしてはあくまでもDさんの事業であることを明確にしてほしい、ということでした。/そもそもDさんに誘われて始めた事業なのですから当然です。サイトで得た収益は、50:50で配分する、というルールにしました。」、「「運営会社」はぼくの会社でしたが、そこから収益は半分半分に分配されていました。」(66頁、67頁) ・「漫画村は、その後、2018年2月時点で、月に1億6000万のアクセスがあり、…と一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が発表したそうです…。」(78頁) ・「この問題を、同じく違法アップロードに悩む放送局が取り上げました。2018年2月11日、NHKが漫画村を含む、いわゆる「海賊版サイト」について取り上げたのです。」、「この番組が放送されてから、漫画村のアクセスはむしろ、さらに爆発的に増えたのです。」(78頁~79頁) ・「結果的に実施されなかったとはいえ、ブロッキング問題をめぐって政治主導で状況がめまぐるしく変化していました。…/ぼくはその状況に、そして先述のような国の対応にたしかにウンザリしていました。とはいえ、最終的にサイトを閉じるという決断をし、ぼくにその指示を出したのは主たる運営者のDさんです。…/ともかく漫画村というサイトを閉鎖し、ぼくはフィリピンに飛びました。」(89頁) ・「漫画村のプログラムコードをすべて書き(ただし、オーナーではない)、それで捕まり罰せられ、みなさんに手伝ってもらって再起しようとしている人間としては、…」(195頁) 2 争点1(被告による権利侵害(公衆送信(送信可能化を含む。))の有無) (1)被告による本件サイトの管理・運営への関与 本件サイト(com)及び本件サイト(net)において、各ドメインのGoogleアナリティクスのIDは同一のものが使用されていたこと(前記1(1)イ)、及び、本件サイト(net)が、トップページに、「新デザインできました。http://(以下省略)/テストお願いします。」と掲載し、本件サイト(org)にユーザーを誘導していたこと(前記1(1)イ)は、いずれも、本件サイトの主たる管理・運営者に一貫性・連続性があることをうかがわせる。これらに加え、本件サイトはいずれも「漫画村」と称するウェブサイトであること、本件サイト間ではそれぞれリダイレクトの設定がされていた時期があるところ、そのような設定を本件サイトに無関係な第三者がすることは考え難いことなどを考えると、本件サイトの主たる管理・運営者には一貫性・連続性があることがうかがわれる。 また、被告自身は、他の関係者の求めに応じて本件サイト(com)の設立に関わり、システム開発・管理、広告業者とのやり取りを担当したことは認めている。加えて、被告による本件サイト関係者とのLINEグループにおけるやり取り(前記1(2))の内容からは、技術的事項への対応にとどまらず、掲載作品の選定を含む本件サイト(net)及び本件サイト(org)の管理・運営に関して、被告が積極的に関与していたことがうかがわれる。加えて、被告は、自著(甲52)において、「漫画村」について、少なくとも技術面では主導的な役割を果たしていたことやその閉鎖に至る経緯等も述べているところ(前記1(4)イ)、その記述からは、被告は、本件サイト(com)に限らず、本件サイトの開設から閉鎖に至るまで、本件サイトの管理・運営に一貫して積極的に関与していたことがうかがわれる。 これらの事情に鑑みると、被告は、本件サイトの開設当初から閉鎖に至るまで、本件サイトの管理・運営に一貫して連続的かつ積極的に関与していたことが認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 (2)本件サイトにおける公衆送信の有無について ア 前記(1(1)ア)のとおり、本件サイトに漫画等を掲載する方法には、本件サイトのサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法(方法①)と、被告及び関係者らと無関係な第三者の設置したサーバコンピュータ(第三者サーバ)に存在する画像データを、本件サイトのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにする方法(方法②)があったことが認められる。 本件サイトにおいて本件作品の画像データが閲覧可能とされるに際し、個別に方法①又は②のいずれの方法が行われたかについては、証拠上必ずしも判然としない。もっとも、被告は、本件作品の画像データを自ら又は協力者を通じてアップロードしたことはなく、本件サイト(com)につき、リバースプロキシの設定等を通じて、本件サイト(com)のURLにアクセスすることによって、被告が運営に関わっていない第三者によって既にアップロードされ、インターネットを通じて一般に閲読可能であった画像データの閲読を可能とする設定を行ったとしている。被告と本件サイトの他の関係者によるLINEグループでのやり取りや被告の自著の内容も、これに沿うものと理解される。 これらの事情を踏まえると、本件作品は、いずれも方法②により、本件サイトにおいて閲覧可能とされていたものとみるのが合理的である。 イ したがって、被告は、本件サイトの他の関係者と共同して、本件サイト(net)及び本件サイト(org)において、方法②により(さらに、本件サイトのサーバにつきCDNサービスをも利用して)、ユーザーの求めに応じて本件作品の画像データを閲覧可能としていたものといえる。 このプロセスを子細に見ると、本件サイトのサーバは、インターネット回線に接続し、リバースプロキシの設定により第三者サーバから送信された画像データを、不特定多数のユーザーによる本件サイト上の本件作品のサムネイル又はURLのクリック等に応じて、自己にキャッシュされたデータに基づき(本件サイトのサーバに画像データのキャッシュがある場合)、又は第三者サーバから画像データの送信を受け(キャッシュがない場合)、CDNサービスを通じて、ユーザーによる本件作品の画像データの閲覧を可能とするものといえる。 そうすると、本件サイトのサーバは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置であり、これに第三者サーバから取得した本件作品の画像データを記録し(画像データのキャッシュがある場合)、又は画像データが記録された第三者サーバの当該画像データを記録保存している部分を自己の公衆送信用記録媒体として加え(キャッシュがない場合)、これにより、公衆からの求めに応じ自動的に公衆送信し得るようにしたものといえる。すなわち、被告は、他の関係者と共に、本件サイトのサーバにより本件作品の画像データを送信可能化(著作権法2条9号の5イ)したものと認められる。 なお、仮に本件作品の画像データの中に方法①により閲覧可能とされたものがあったとしても、当該アップロード行為は、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録」するものであるから、やはり「送信可能化」に当たる。 ウ 被告の主張について これに対し、被告は、本件サイトにつきリバースプロキシの設定等を行ったことは、第三者により既にインターネット上において「自動公衆送信し得る」状態を作出していた侵害コンテンツに誘導するものに過ぎず、「自動公衆送信し得るようにする」ものとはいえない旨主張する。 しかし、本件サイトのサーバに係る被告及び他の関係者の行為につき、送信可能化に該当することは上記のとおりである。リバースプロキシの設定とリーチサイト等とが等価であるとする点も、ユーザーに対し、画像データが第三者サーバから直接提供されるか(リーチサイト等の場合)、本件サイトのサーバ(リバースプロキシにより第三者サーバからデータを都度取得する場合を含む。)を介し、本件サーバによるものとして提供されるかという相違があることに鑑みると、これらを等価ということはできない。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。 (3)本件作品が公衆送信に供されていたこと 本件サイトには本件作品が掲載されており、本件作品全てについて、公衆送信に供されていたと認められる(前提事実(3))。 この点につき、被告は、本件サイトにおいて、一部の作品について不具合が指摘されていたことから、本件作品の全てが本件サイトにおいて公衆送信に供されていたとはいえない旨主張する。 確かに、本件サイト(org)において、「問題のあるファイルを報告」というページの送信フォームに「数巻はあるが続きの巻が無い」、「画像が壊れている」、「画像がばらばら」等の理由が設定されていること、その下部に「現在数百冊の画像壊れ、抜けを修正中です。修正が終わり次第リクエストを受け付けますのでもうしばらくお待ちください。(今は送信できません。)」などの説明書きが掲載されていた時期があることが認められる(乙9)。しかし、上記ページは定型的なものに過ぎず、その説明書きの記載内容の真偽も定かでない。また、本件作品について、上記不具合が発生していたことをうかがわせる具体的な事情も見当たらない。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。 (4)小括 以上より、被告は、他の関係者と共同して、本件サイト(net)及び本件サイト(org)において、本件作品の画像データを公衆送信(送信可能化)したものであり、これにより、原告らの本件作品に係る出版権又は独占的利用権が侵害されたものと認められる。 3 争点2(被告の故意の有無) 前記1及び2認定の各事実によれば、被告は、故意により、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害につき、被告には故意があったことが認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 したがって、被告は、原告らに対し、上記権利侵害の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 4 争点3(損害額) (1)著作権法114条3項に基づく損害について ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法114条3項に基づき、また、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その損害賠償を請求することができるといえる。 イ 利用料率について (ア)本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売上高は観念できない。 もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録1~3の各「販売価額(税込)」欄記載の金額で、原告ら又は原告KADOKAWAの完全子会社の電子配信サイトで電子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実(2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められる。 また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、いわゆるストリーミング形式により無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サイトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒体に保存することも可能であった(以上につき、前記1(1)イ)。これらの事情に鑑みると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはいえ、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセスしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。これは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することができる。 これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件において、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法114条3項)の算定にあたっては、別紙作品目録1~3の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売価額(税込)」欄の金額から10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とすることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。 (イ)被告の主張について 被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービスサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。 しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作品目録3の番号174~221)については、この主張が妥当する余地はない。 また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであって、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定すると考えることには合理性がある。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。 ウ 閲覧数 本件調査によれば、平成29年6月~平成30年4月の間の本件サイトへのアクセス総数は5億3781万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約20分程度でされるところ(前記1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品1巻を閲覧するのに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザーが1アクセス当たり漫画1巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおいては、合計5億3781万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。 また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は7万2577巻とされるから、本件サイトにおける本件作品1巻当たりの平均閲覧数は、7410回を下回らないものとみられる。 この点、被告は、SimilarWebによるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘して、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。 確かに、本件調査の推計が依拠するSimilarWebによる調査結果の信頼性については、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙6)、本件において、その調査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点を措くとしても、本件調査においては、平成29年6月~平成30年4月の間における本件サイトへの月平均サイトアクセス数は4889万2057回とされている(前記1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記1(2)、(4))、被告によれば、令和4年7月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は8500万人とされ(前記1(4)ア)、また、平成30年2月時点の本件サイトの月間アクセス数は1億6000万とされている(前記1(4)イ)。被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものとはうかがわれない。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。 エ 著作権法114条3項に基づき算定される損害額 以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法114条3項)は、別紙作品目録1~3の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売価額(税込)」欄記載の金額から10%を控除した金額に、各作品の閲覧数7410回を乗じた金額と認めるのが相当である。 このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき3億6886万9059円 ・原告集英社につき3億9020万9859円 ・原告小学館につき8億1968万6790円 (2)弁護士費用相当損害金 原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき3688万6905円 ・原告集英社につき3902万0985円 ・原告小学館につき8196万8679円 (3)小括 したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。 ・原告KADOKAWAにつき4億0575万5964円 ・原告集英社につき4億2923万0844円 ・原告小学館につき9億0165万5469円 なお、原告らは、予備的に著作権法114条1項に基づき算定される損害額をも主張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ることはないから、この点に関して判断する必要はない。 5 争点4(消滅時効の成否(原告らが損害及び加害者を知った時)) (1)認定事実 前記各認定事実のほか、証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア NHK記者による取材等 (ア)「無能ブログ」と題するブログにおいて、平成29年8月2日、「漫画違法配信サイト「漫画村」の黒幕に迫る」と題する投稿(乙1)がされた。当該投稿においては、本件サイト(com)のドメイン登録の名義人であるセーシェル共和国の法人「WorldJobProject」を手掛かりとして調査すると「C’」という人物がアメリカで創業した企業名にたどり着くこと、本件サイト(com)のデータベースに格納されたメールアドレスのデータに「C”」が含まれていることなどを根拠として、「C’」が本件サイトの運営者であると推論している。 (イ)NHKの記者は、平成30年4月上旬、被告が本件サイトの運営者であると見込み、被告に対して電話取材を行った。その内容につき、当該記者は、令和元年7月9日付け「漫画村容疑者との一問一答」と題するニュース記事(乙2)を掲載している。これによれば、取材の際、当該記者は、被告に対し、本件サイトの運営者であるか否か等について質問したものの、被告は、「自分がやっているっていう人はいないんじゃないんですか。」、「違います。」などと回答した。このような被告の対応を踏まえ、当該記者は、被告は「漫画村のサイトに関連して、プログラム開発などを担うとする会社の関係者だと認めた。一方で、自らが漫画村の運営者であることは否定した。」などとその取材結果をまとめている。 同様の内容は、NHK取材班を著者とする「暴走するネット広告1兆8000億円市場の落とし穴」と題する書籍(令和元年6月10日電子書籍版発行。乙20)にも記載されている。 (ウ)なお、新聞及び雑誌において、被告が身柄拘束された令和元年7月9日より前の時点における実名報道は見当たらない。(甲20、21) イ 政府におけるインターネット上の海賊版対策に関する検討等 (ア)知的財産戦略本部は、「検証・評価・企画委員会座長決定」として、平成30年4月2日、「昨今、運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請すらできないマンガを中心とする巨大海賊版サイトが出現し、多くのインターネットユーザーのアクセスが集中する中、順調に拡大しつつあった電子コミック市場の売り上げが激減するなど、著作権者、著作隣接権者又は出版権者の権利が著しく損なわれる事態となっている。」などとして、「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」(検討会議)を設置することとした。検討会議の委員には、原告KADOKAWAの当時の代表者も選任された。(乙13) (イ)同月13日、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急方針」を決定し、本件サイトを含む特に悪質な3つの海賊版サイト等について、「法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として」「ブロッキングを行うことが適当」とした。(乙16) (ウ)検討会議第1回会合(同年6月22日実施)において、原告KADOKAWAの当時の代表者は、本件サイトの被害について言及した。(乙14) (エ)同年10月10日、日本国内の権利者から委任を受けた弁護士が同年6月に米国で匿名訴訟を提起し、ディスカバリー制度(クラウドフレア社に対する証拠開示手続)を利用するなどして、17日間程度で、本件サイトの運営者の氏名、住所等の情報の開示を受け、開示対象となった人物の氏名及び住所が特定されたことが「BuzzFeedNews」により報道された(乙3)。もっとも、当該記事に被告の氏名等は記載されておらず、また、「この契約者が、漫画村を運営していた可能性が高いという。」とされるにとどまる。 当該訴訟の代理人を務めた弁護士は、検討会議等を宛先として、同年10月10日付け「意見書(ディスカバリー制度を利用した海賊版サイト運営者の特定について)」と題する意見書(乙17)を提出した。当該意見書において、当該弁護士は、「米国内のCDN…サービスを利用している海賊版サイトについては、ディスカバリー制度を利用することにより、運営者の特定は可能である。」、「訴訟提起からCloudflareからの情報開示まで17日であり、…実効性が高い。」などとしている。 当該意見書は、検討会議第9回会合(同月15日実施)において、資料として提供された(乙15)。 (オ)同年11月1日、朝日新聞は、「漫画村運営者を特定、提訴を検討」などとする見出しの記事(乙4)を掲載し、「海賊版サイト「漫画村」に無断で作品を掲載されたとして、…配信ネットワークを提供する米クラウドフレア社に対し、漫画村運営者の情報開示を求めた訴訟で、開示記録から運営者の氏名や住所などが特定できたことがわかった。」、「運営者に著作権侵害の損害賠償請求訴訟を起こすことを検討している。」、「漫画村をめぐっては、6月に米カリフォルニア州で別の漫画家がクラウドフレアを提訴した裁判で、運営者側の氏名、住所などが開示されていた。」などと報道した。ただし、当該記事においても、被告の氏名等は記載されていない。 ウ 原告らの本件サイトに対する対応 (ア)原告らは、平成30年2月13日、知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会コンテンツ分野に対し、本件サイト等のいわゆる海賊版サイトを念頭において、「海賊版にはブロッキングが有効」などとの申入れを行った。(乙28) (イ)原告らを含む複数の出版社は、同年4月11日までに、Googleに対し、DMCAに基づき、本件サイトについて著作権侵害の情報提供又は削除の申立てを行い、Googleは、同日、検索結果から本件サイトのトップページへのリンクを削除した。(乙10、11) (ウ)同年10月12日、原告KADOKAWAの当時の代表者は、インターネットテレビの番組において、「漫画村運営者の身元が判明したのはすごく良いニュース」と発言した。(乙31) エ 本件サイトに係る著作権法違反被疑事件に係る警察の捜査状況及び原告らによる本件サイトに関する告訴等 (ア)警察は、平成29年5月17日、本件サイト(com)に対するサイバーパトロールを通じて、同サイトに「キングダム516話」が同月11日に登録され、掲載されていることを把握し、同サイトのトップページ及び当該作品が表示されたページをキャプチャーし、保存した。(甲41) (イ)同月31日、警察は、ACCSの情報提供を受け、原告集英社が出版等する「ONEPIECE866話」が本件サイト(com)に掲載されていることを確認し、その画像データを保存した。(甲31) 原告集英社は、警察からの鑑定嘱託を受けたACCSの依頼に基づき上記画像データについて鑑定し、同年6月14日、上記画像データは、作者である漫画家が著作権を有し、原告集英社が出版権を有する著作物が記録されているものであること等を報告した。(甲32) (ウ)同年9月7日、警察は、本件サイト(net)のURLからIPアドレスを調査したところ、CDNサービスを提供するクラウドフレア社に割り当てられたIPアドレスであること、このため、本件サイト(net)のウェブサーバの特定には至らなかったことなどが明らかになった。(甲35) (エ)原告KADOKAWAは、平成30年9月28日、本件サイト(org)について、同サイト掲載作品である著作物「機動戦士ガンダムTHEORIGIN(24)」の著作権者と共に、出版権者として、被告訴人を氏名不詳者(本件サイト(org)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴した。(甲19の1) また、原告小学館は、同日、本件サイト(org)について、同サイト掲載作品である著作物「「名探偵コナン」第94巻」の著作権者と共に、独占的利用権の権利者として、被告訴人を氏名不詳者(本件サイト(org)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴した。(甲19の2) さらに、原告集英社は、同日、以下の3件の告訴をした。(甲29、39) ・本件サイト(net)について、同サイト掲載作品である著作物「ワンピースカラー版1」の著作権者と共に、出版権者として、被告訴人を氏名不詳者(A)(本件サイト(net)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴。 ・本件サイト(org)について、同サイト掲載作品である「ワンピース モノクロ版1」の著作権者とともに、出版権者として、被告訴人を氏名不詳者(B)(本件サイト(org)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴。 ・本件サイト(net)について、同サイト掲載作品である著作物「キングダム528話「犬戎の末裔」」の著作権者と共に、独占的利用権の権利者として、被告訴人を氏名不詳者(本件サイト(net)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴 (オ)警察は、平成31年2月20日、この頃までに本件サイトに係る著作権法違反被疑事件の捜査において本件サイトの関係者として把握されていた者(3名)のスマートフォン3台を差し押さえた。 このうち1台について、平成31年3月11日~同月22日の間に警察がデータの解析を行ったところ、LINEグループ「ちーむ はにらん」のメンバーに被告が含まれること及びそのグループ内でのトーク内容が判明した。警察は、その内容に基づき、被告が本件サイトを管理・運営していたこと、本件サイトのドメイン登録名義及びアフィリエイト収入の入金先であるセーシェル共和国の法人「WorldJobProject」が被告の関与するものであること、同社の日本代理店とされる会社は被告が代表取締役を務める日本法人であること、本件サイトのGoogleアナリティクスのトラッキングIDの登録メールアドレスが被告のメールアドレスであることなどを把握した。(前記1(2)ア、甲44) また、他の2台について、同年4月4日及び令和元年5月20日~同月21日に警察がデータの解析を行ったところ、1つからは、LINEグループ「村住民の掟」のメンバーに被告が含まれること及びそのグループ内でのトーク内容が(前記1(2)イ、甲37)、もう1つからはLINEグループ「真ハニ部屋」のメンバーに被告が含まれること及びそのグループ内でのトーク内容が、それぞれ判明した(前記1(2)ウ。甲45)。 (カ)平成31年4月1日、警察は、上記「ONEPIECE866話」の画像データの本件サイトへの登録時期を捜査し、平成29年5月29日であることが判明した。(甲34) (キ)原告集英社は、平成31年4月16日、警察から、上記作品及び「キングダム516話」に係る著作権法違反の事実について、被疑者を特定した旨情報提供を受けた。 原告集英社は、令和元年5月13日付け(同月14日受理)で、本件サイトについて、上記2作品につき、いずれも著作権者と共に、出版権者ないし独占的利用権の権利者として、被告訴人を被告他3名として、これらの著作物に係る著作権法違反の事実で追加告訴した。 (以上につき、甲30、40) (ク)原告集英社は、警察からの鑑定嘱託を受けたACCSからの依頼に基づき上記「キングダム516話」の画像データについて鑑定し、平成31年4月18日、上記画像データは、作者である漫画家が著作権を有し、原告集英社が発行する著作物であることなどを報告した。なお、上記鑑定嘱託において被疑者とされる者には被告も含まれる。(甲42)。 (ケ)令和元年7月9日、フィリピン入国管理局は、マニラ空港において、本件サイトの運営者として、被告を拘束した。なお、これに関する同局の発表については、被告につき、「C’容疑者」として実名で報道された。(甲20) (2)検討 ア 原告らが本件に係る損害を知った時期 原告らは、平成30年4月11日までに、Googleに対して、DMCAに基づき、本件サイトについて著作権侵害の情報提供又は削除の申立てを行い、Googleは、同日、本件サイトへのリンクを検索結果から削除した(前記(1)ウ(イ))。そうすると、原告らは、同日までには本件に係る損害を知ったと認められる。これに反する原告らの主張は採用できない。 イ 原告らが本件に係る加害者を知った時期 (ア)「加害者を知った時」(民法724条)とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味し、被害者が不法行為の当時加害者の住所・氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所・氏名を確認したとき、初めて「加害者を知った時」にあたるものというべきである(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁)。 (イ)被告は、原告らが、遅くとも平成30年11月までに「加害者」を知っていた旨主張する。 まず、平成30年11月までに、本件サイトの管理・運営に関与した者として被告の氏名、住所等が判明していたと認めるに足りる客観的証拠はない。 確かに、同年10月10日までには、日本国内の権利者が、弁護士に委任し、米国の訴訟手続を通じて本件サイトの利用するCDNサービスの契約者情報を入手し、その者の氏名、住所等を特定し、かつ、その旨が公表されている(前記1(1)イ(エ))。 しかし、その際、当該契約者として被告の氏名等が明らかにされていたことをうかがわせる具体的な事情はない。これ以前に本件サイトの運営者ないし関係者として被告の氏名等を挙げるブログ記事はあったものの(前記(1)ア(ア))、被告を特定する根拠としては確実なものとはいい難く、なお推測の域を出ない程度のものに過ぎない。また、NHKの記者による被告に対する取材もされたが(前記(1)ア(イ))、これも、取材時点では被告を本件サイトの運営者と特定するには至っていない。 また、本件サイトの運営者を特定する手法という観点からみても、上記米国の訴訟手続を利用する手法は、当該事件では一定の成果を上げたものといえるとしても、他の事件でも同様に有効な手法として機能するものであるか否かは、必ずしも明らかでない。その点を措くとしても、少なくとも、平成30年10月ないし同年11月当時、海賊版サイトによる著作権侵害事案の加害者の特定方法として、日本において一般化されていたとまではいい難い。 加えて、上記当時、本件サイトについては、著作権法違反被疑事件として警察による捜査が既に進められており、原告らも、既に本件について告訴を行っていた(前記(1)エ)。捜査機関が刑事事件として被疑者の特定等に関する捜査を進めており、剰え自ら捜査機関に対し告訴をした事案においては、捜査の妨げにならないように、告訴人としては、少なくとも当面の間は捜査状況の推移を見守り、自ら加害者の特定を図る措置を取ることを控えることは、一般的にみられるところである。 これらの事情を総合的に考慮すると、原告らは、平成30年11月時点で、原告らに対する出版権等侵害の不法行為の加害者につき、氏名等は把握していないまでも、本件サイトの運営に当たる特定の人物として具体的に被告を認識していたとはいえず、また、米国の訴訟手続を利用するなどして調査すれば容易に加害者及びその氏名等を特定し得る状況にあったともいえない。したがって、この時点では、原告らは、損害賠償請求が可能な程度に被告が加害者であることを知っていたとはいえない。これに反する被告の主張は採用できない。 (ウ)そうすると、原告らが加害者である被告を知った時点は、原告集英社については、警察から被疑者を特定した旨情報提供を受けた平成31年4月16日の時点であり(前記(1)エ(キ))、原告KADOKAWA及び同小学館については、早くとも、フィリピン入国管理当局が本件サイトの運営者として被告を拘束したことを発表した令和元年7月9日の時点(前記(1)エ(ケ))と認められる。 また、被告に対し、原告集英社は令和4年3月4日到達に係る催告書により、原告KADOKAWA及び同小学館はいずれも同年4月13日到達に係る催告書により、それぞれ、本件訴訟に係る損害賠償債務の履行を請求して催告を行った上(前提事実(5))、同年7月28日、本件訴えを提起した(前提事実(6))。 したがって、本件における原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権については、いずれも消滅時効は完成していない(民法150条、147条1項1号)。 6 まとめ 以上より、原告KADOKAWAは、被告に対し、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に基づき、合計4億0575万5964円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為以降の日である令和4年8月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求権を有する。 同様に、原告集英社は、被告に対し、不法行為に基づき、合計4億2923万0844円の損害賠償請求権及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金請求権を有する。 また、原告小学館は、被告に対し、不法行為に基づき、合計9億0165万5469円の損害賠償請求権及びこれに対する令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金請求権を有する。 第5 結論 よって、原告らの請求はいずれも主文の限度で理由があるからその限りでこれらを認容し、その余をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 久野雄平及び裁判官 吉野弘子はいずれも差支えのため、署名押印できない。 裁判長裁判官 杉浦正樹 (別紙)当事者目録 原告 株式会社KADOKAWA(以下「原告KADOKAWA」という。) 原告 株式会社集英社(以下「原告集英社」という。) 原告 株式会社小学館(以下「原告小学館」という。) 上記3名訴訟代理人弁護士 前田哲男 同 中川達也 同訴訟復代理人弁護士 福田祐実 同 中込悠斗 被告 C 同訴訟代理人弁護士 木村道也 (別紙)略語一覧表
(別紙作品目録1~3 省略) |
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