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【事件名】タオルのライセンス契約事件 【年月日】令和6年3月28日 東京地裁 令和元年(ワ)第30628号 損害賠償請求本訴事件、令和2年(ワ)第27477号 損害賠償請求反訴事件 (口頭弁論終結日 令和5年11月20日) 判決 本訴原告兼反訴被告 株式会社カボ企画(以下「原告会社」という。) 本訴原告兼反訴被告 A(以下「原告A」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 福井健策 同 寺内康介 同 伊藤真 同 平井佑希 同 丸田憲和 本訴被告兼反訴原告 一広株式会社(以下「被告一広」という。) 本訴被告兼反訴原告 株式会社タオル美術館(以下「被告タオル美術館」という。) 本訴被告兼反訴原告 B(以下「被告B」という。) 本訴被告兼反訴原告 C(以下「被告C」という。) 上記4名訴訟代理人弁護士 木下雅之 同 上谷佳宏 同 松宮慎 同 末吉亙 同 佐藤安紘 主文 1 原告らの本訴請求をいずれも棄却する。 2 被告らの反訴請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを41分し、その40を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴 (1)被告タオル美術館、被告一広、被告B及び被告Cは、原告Aに対し、連帯して24億9929万円並びにこれに対する被告タオル美術館及び被告Cについては令和元年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし、これに対する令和元年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告一広及び被告Bと連帯して)並びに被告一広及び被告Bについては令和元年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被告タオル美術館、被告B及び被告Cは、原告会社に対し、連帯して17億2330万0904円及び別紙遅延損害金一覧表記載の各金員に対する各起算日から、各支払済みまで年2割5分の割合による金員を支払え。 2 反訴 原告らは、被告らに対し、連帯して1億0487万6957円及びこれに対する令和2年11月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件訴訟に至る経緯 原告Aの制作に係る著作物(当該著作物を商品化したものを、ATSUKOMATANOブランド〔以下「AMブランド」という。〕に関する商品をいうものとして、以下「AM商品」と総称する。)の権利を管理する原告会社は、被告タオル美術館との間で、平成10年1月1日、上記著作物の使用を許諾するマスターライセンス契約(以下「基本契約」という。)を締結し、被告タオル美術館は、被告一広に対し、上記基本契約に基づき、著作物の使用に係るサブライセンス契約を締結し、被告らは、AM商品を製造販売した(以下、被告ら製造販売に係るAM商品を「被告商品」という。)。 しかしながら、原告会社と被告タオル美術館は、平成29年12月27日、被告タオル美術館に違法コピー等の重大な契約違反があったとして、同月31日、基本契約を解除した。その上で、被告らは、原告らとの間で、平成30年4月27日、違法コピー等に係る損害賠償金の一部弁済として、3億円の支払義務があることを認め、これを一括して支払うとともに、違法コピー等の問題を解決するために、損害賠償金の総額等の決定等につき、別途協議する旨の合意をした。 本件本訴は、原告らが、上記にいう3億円を超える損害があると主張して、次に掲げる請求をする事案であり、本件反訴は、被告らが、原告において上記合意に違反する行為があると主張して、次に掲げる請求をする事案である。 2 本件本訴 (1)原告Aの請求 原告Aが、被告らに対し、被告タオル美術館及び被告一広(以下、併せて「被告会社」という。)による別紙被告商品の数量等目録記載の各商品(以下、同目録の目録番号に合わせて、被告商品1−1ないし471といい、これらを併せて「被告商品1」という。)の製造及び販売は、原告Aの著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)、著作者人格権(同一性保持権)及びパブリシティ権を侵害する共同不法行為を構成するとともに、取締役である被告B及び被告Cによる任務懈怠責任を構成するとして、被告会社については民法719条1項、709条、著作権法114条2項及び商標法38条2項又は不正競争防止法5条2項に基づき、被告B及び被告Cについては会社法429条1項に基づき、逸失利益74億0607万6691円、慰謝料390万円及び弁護士費用相当損害金4億5901万2544円の一部請求として、24億9929万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被告タオル美術館及び被告Cについては令和元年11月28日、被告一広及び被告Bについては同月29日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(各被告への請求範囲が重なる部分に限り連帯支払)を求めるもの (2)原告会社の請求 ア 原告会社が、被告タオル美術館、被告B及び被告Cに対し、原告Aの著作権等を侵害する被告商品1が製造、販売されたことは、被告タオル美術館による契約上の管理義務違反並びに被告B及び被告Cによる任務懈怠責任を各構成するとして、被告タオル美術館については債務不履行に基づき、被告B及び被告Cについては会社法429条1項に基づき、被告タオル美術館受領に係るオーバーロイヤリティ相当額6億2330万0904円の支払を求めるもの イ 被告タオル美術館が、原告会社に対し数量報告を行わずに被告商品(以下、未報告に係る当該商品を総称して「被告商品2」という。)を製造及び販売したことは、被告タオル美術館による契約上の報告義務違反及び管理義務違反並びに被告B及び被告Cによる任務懈怠を構成するとして、被告タオル美術館については債務不履行に基づき、被告B及び被告Cについては会社法429条1項に基づき、被告タオル美術館受領に係るオーバーロイヤリティ相当額15億2598万1680円の一部請求として、11億円の支払を求めるもの ウ 別紙遅延損害金一覧表記載の各金員(支払対象期間に応じて、上記ア及びイを合計したオーバーロイヤリティ相当額)に対する各起算日(契約所定の支払期限の翌日)から、各支払済みまで契約所定の年2割5分の割合による遅延損害金の支払(各被告への請求範囲が重なる部分に限り連帯支払)を求めるもの 3 本件反訴 被告らが、原告らは、被告らとの間で中間合意をし、同3条1項に基づき、被告らが基本契約解除後から継続的に販売していた在庫商品全てに対し、ライセンサーとして権利行使をしてはならない不作為義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、売上げのうち75%がAM商品の違法コピーである旨主張して3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、上記不作為義務に違反し、また、原告らは、被告らとの間で中間合意をし、同7条に基づき、いわゆる違法コピー問題の解決に向けて、在庫の販売期間の延長等に関し、被告らと協議すべき義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、在庫の販売期間の延長等に関し一切協議を行わず、かえって3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、更に被告らに100億円を超える多額の損害金を請求するなどして、在庫の販売期間の延長等に関する協議義務に違反したと主張して、債務不履行に基づく損害賠償請求として、1億0487万6957円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和2年11月21日から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商法所定の年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 4 争点整理の概要 (1)侵害類型分類一覧表の位置付け 本件においては、被告商品1−1ないし471の著作権侵害の成否等が争点とされているところ、別紙侵害類型分類一覧表の侵害類型番号のとおり、争点の類型に応じて、被告商品を1ないし26に分類し、当該侵害類型番号ごとに、原告らの主張の骨子及びこれに対する被告らの反論の概要を、当事者双方においてそれぞれ記載し(以下、侵害類型番号を単に「類型番号」という。なお、各類型番号に対応する被告商品は、別紙類型番号対応被告商品記載のとおりである。)、争点の骨子を整理している。 (2)準拠法 原告らと被告らは、令和4年7月4日、中国における不法行為によって生ずる債権の成立及び効力について適用すべき法を中国法から日本法に変更することにつき、合意した(同日付け書面による準備手続調書参照)。そのため、本件については、一部渉外的法律関係を含むものの、全て日本法が適用されることになる。 (3)原告らの申立てに係る文書提出命令の取扱い 原告らは、被告商品2の存在を立証するための証拠の提出を求め、令和3年3月26日及び9月15日付けで、各文書提出命令の申立てをしたところ、被告らは、裁判所の訴訟指揮に基づき(令和3年10月1日及び5日付け各経過表等参照)、原告らとの間で秘密保持契約を締結するなどして、被告らが所持を認める各文書を任意開示した。そのため、上記申立ては、令和4年11月15日(第9回弁論準備手続期日)、いずれも取り下げられた。 (4)調停委員の関与 裁判所は、上記任意開示に係る会計帳簿等を踏まえ、被告商品2に係る被告らの主張立証を検討するために、当事者双方の合意の上、調停委員を選任し、令和5年6月9日、本件を商事調停に付した。そして、調停委員は、同年9月29日付けで、意見書(第12回弁論準備手続調書参照)を提出し、当事者双方は、上記意見書に関する調停委員との協議期日(令和5年10月3日付け調停期日調書参照)を経た上、上記意見書に対する各主張を提出した(第13回弁論準備手続調書参照)。 以上により、当事者双方は、令和5年11月20日、その他に主張立証はないとし、弁論が終結された(第2回口頭弁論調書参照)。 5 前提事実(当事者間に争いがない事実及び証拠によって明らかに認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。) (1)当事者等 ア 原告ら 原告Aは、画家、作家、デザイナー、作詞家、映像作家など様々な形で表現活動を行うマルチクリエーターとして、約40年間にわたり数多くの作品を発表しており、その中で、生活雑貨等の絵柄の制作等を行っている。 原告会社は、絵画、繊維製品等のデザイン等を目的とする株式会社であり、原告Aの作品に関する著作権等の権利を管理し、第三者とのライセンス契約の締結を行っている。 イ 被告ら (ア)被告一広は、タオルの製造及び販売等を目的とする株式会社である。 (イ)被告タオル美術館は、タオル等の卸売業等を目的とする株式会社であり、小原株式会社(以下「小原」という。)が、令和2年8月1日、訴外株式会社タオル美術館(被告タオル美術館とは別会社であり、以下「旧タオル美術館」という。)を吸収合併し、商号を株式会社タオル美術館に変更した会社である(弁論の全趣旨)。 (ウ)旧タオル美術館は、タオル等の販売等を目的とする株式会社であったところ、旧タオル美術館、小原、被告一広、株式会社TTL、DalianIchihiroTowelCo.,Ltd(以下「大連一広」という。)及びIchihiroVietnamCo.,Ltd(以下「一広ベトナム」という。)は、いわゆるタオル美術館グループを構成し、同グループ内では、被告一広が製造、小原が卸売、旧タオル美術館が小売という役割を担っていた。 (エ)被告Bは、被告一広及び旧タオル美術館の創業者であり、被告一広及び小原の代表取締役並びに旧タオル美術館の取締役を務め、現在は被告会社(被告一広及び被告タオル美術館)の代表取締役会長を務めている(弁論の全趣旨)。 (オ)被告Cは、被告Bの子であり、被告一広、旧タオル美術館及び小原の代表取締役を務め、現在は被告会社(被告一広及び被告タオル美術館)の代表取締役社長を務めている(弁論の全趣旨)。 (2)基本契約(甲16の1) 原告会社と被告タオル美術館(同社は、前記(1)イの吸収合併及び商号変更前は、小原及び旧タオル美術館であるが、以下、特に区別の必要がない限り、吸収合併及び商号変更前においても、被告タオル美術館という。)は、平成10年1月1日、次に掲げる内容で、マスターライセンス契約(基本契約)を締結した。 ア 基本合意(1条2項、4項及び5項) (ア)許諾商品の種類(アイテム)については、その都度、原告会社と被告タオル美術館の両者間で協議して決定し、その範囲を定めない。 (イ)原告会社は、原告Aの制作に係る著作物(以下、基本契約を通じて「著作物」という。)を被告タオル美術館に対して継続的に供給し、被告タオル美術館は、その著作物を使用した商品(以下、基本契約を通じて「許諾商品」という。)を日本国内外で製造し国内外で販売する権利を被許諾者(サブライセンシー)に対して付与する。 (ウ)(イ)において、「使用」とは、著作物を構成するタイトル名、サブタイトル名、登場キャラクター、コレクションの名称、形状、シンボル、ストーリー、プロット等を、許諾商品の使用価値を高めるために捺染、印刷、彫塑、撮影その他の技法を用いて、許諾商品に具現化することをいう。 イ 許諾商品の企画(2条1項) 原告会社は、前条に定める許諾商品について、そのデザイン、生地等の材料及び著作物の使用方法等について、著作物の使用が最も適切に行われるような商品企画を行う。原告会社が特に要求した場合、被告タオル美術館はそのサブライセンシーに対して基本契約に基づく商品企画を立案・策定することを要求し、原告会社の意思を可能な限り尊重する。 ウ 譲渡等の禁止(3条2項) 被告タオル美術館は、サブライセンシーに対して許諾商品の製造、保管及び販売において、著作物及び著作物を使用した原板の管理に細心の注意を払い、原告会社の著作権がみだりに侵害されないようにしなければならない。 エ 原画等の提供・その権利帰属(4条1項及び2項) (ア)原告会社は許諾商品の製造に用いる原画・原稿等(以下、基本契約を通じて「原画等」という。)の製作をし、被告タオル美術館はサブライセンシーが全て自己の負担において当該原画等を使用した許諾商品の製造を行うことについて管理する。 (イ)原告会社は、被告タオル美術館及びサブライセンシーの要求等を含め時宜に応じて、第2条の商品企画に関する意見交換を経て、原画等を制作の上サブライセンシーに提供する。この個別の著作物についてサブライセンシーが受諾の意思表示を書面でなした時点で、原告会社、被告タオル美術館及びサブライセンシー間に個別の著作物使用許諾契約書が発行されるものとみなす。 オ 見本の提供(6条) 被告タオル美術館が契約したサブライセンシーは、許諾商品の販売に先立ち、完成品一品番につき1個を無償にて原告会社に提供し、原告会社の承認を得るものとする。原告会社がその判断により第4条に定める原画等に相違するものであると認めるとき又は許諾商品の品質が十分でないときには、承認を拒否し又はサブライセンシーにその改良を指示することができる。この場合、サブライセンシーは、原告会社の指示に従わねばならない。 カ 製造販売業務(7条1項及び2項) (ア)被告タオル美術館は、サブライセンシーとの契約で定めた期間、サブライセンシーが、許諾商品を製造、販売することを要求し監督をしなければならない。ただし、やむを得ない理由によって製造販売延期を原告会社が承認した場合はこの限りではない。 (イ)被告タオル美術館はサブライセンシーが継続して許諾商品の製造、販売をするよう努めなければならない。 キ 販売価格の変更(11条) サブライセンシーが、許諾商品の希望小売価格を変更する場合には、事前に原告会社に対してその内容を報告し原告会社の承諾を受けなければならない。 ク 報告義務(12条) 被告タオル美術館は、原告会社に対して、基本契約の存続期間中、原告会社が書面にて求めた場合、被告タオル美術館が契約しているサブライセンシーが著作物を使用した原板の製造数量、許諾商品の製造販売数量及び販売金額を月末集計により、翌月10日までに原告会社の指定する書式に従って報告するものとする。 ケ 遅延損害金(20条) 被告タオル美術館は、基本契約に基づく金銭債務不履行の場合には、原告会社に対し、年2割5分の割合による損害金を支払うものとする。 (3)基本契約の変更合意(甲16の2) 原告会社と被告タオル美術館は、平成10年12月5日、次に掲げる内容で、基本契約の一部を変更する合意をした。 なお、原告らが損害論で使用する「オーバーロイヤリティ」とは、下記イの用例に倣い、被告タオル美術館が各サブライセンシーから受領したオーバーロイヤリティの額のうち、原告会社が受領すべき2分の1の額をいうものである。 ア 年間最低保証料(ミニマムロイヤリティ)の分配(1条)各サブライセンシーに対するミニマムロイヤリティの合計金額が3000万円を超えた場合その超えた金額の78%を原告会社に支払い、残り22%を被告タオル美術館に支払うものとする。 イ 使用料(ロイヤリティ)の分配(2条) 被告タオル美術館と各サブライセンシーが契約した使用料が、ミニマムロイヤリティを超えてそれぞれにオーバーロイヤリティが発生した場合、その金額を原告会社と被告タオル美術館で2分の1ずつに分配する。 (4)サブライセンス契約(乙7) 被告タオル美術館と被告一広は、平成10年1月1日、基本契約に基づき、被告タオル美術館が原告会社から使用許諾された著作物に係る商品の製造及び販売について、被告タオル美術館が被告一広に対し、次に掲げる内容で、再許諾する旨のサブライセンス契約(以下「サブライセンス契約」という。)を締結した。 ア ライセンスの許諾(2条及び5条) 被告タオル美術館は、被告一広に対し、基本契約による製造及び販売権に基づき、日本国内において、LAMERISEブランド商標を付し、かつ、原告Aの著作権又は意匠権を利用したデザイン(以下「本件デザイン」という。)を使用した商品(以下「契約商品」という。)を製造・販売する権利を許諾する。ただし、そのアイテムの明細は、タオル製品全般とする。 イ 本件デザインの活用(6条) (ア)被告一広は、本件デザインの活用については、下記の項目に沿った活用内容の詳細(以下「デザイン・プログラム」という。)を作成し、被告タオル美術館に提出する。なお、提出したデザイン・プログラムについては、速やかに被告タオル美術館と被告一広間による調整を行い、合意されたデザイン・プログラムをもって承認されたものとする。 (イ)契約商品のデザイン・プログラム a 契約商品の品目種別 b 契約商品の最終販売先 c 契約商品の製造者 d 契約商品の販売期間 e デザインに関する要望事項又は特徴 f プログラムスケジュール (5)本件4柄タオルと改善嘆願書 被告一広は、平成24年から平成26年にかけて、別紙原告著作物目録の画像欄記載の各タオルアート(以下、原告タオルアート1ないし471といい、これらを併せて「原告タオルアート」という。また、原告タオルアート1ないし471に使用されている原告A制作の絵柄を「原告絵柄1」ないし「原告絵柄471」という。)のうち、原告タオルアート143、169、178、233及び234(併せて5柄であるが、原告らの呼称に従い、以下、これらを併せて「本件4柄タオル」という。)につき、生地をガーゼからパイルに変更して販売していたところ、原告会社からの指摘を受け、平成26年5月21日、原告会社に対し、商品化申請デザイン承認書との照合をするなど、ライセンス管理体制を再構築する旨を記載した改善嘆願書(甲22の1)を提出した(甲22、弁論の全趣旨)。 なお、被告一広は、上記改善嘆願書において、原告会社に対し、C品(刺繍、プリント漏れ等の生産時規格外品)をB品(織り傷、汚れ等の検品時規格外品)として製品化し、セール品(特価品)として販売したい旨の申出をした(甲22の1、乙69の1)。その後、原告会社は、上記申出に対し、格別異議を述べることはなかった。 (6)本件14柄タオル 原告らは、平成29年10月頃、被告タオル美術館において、原告タオルアート130、156、167、177、180、181、185、187、193、199、200、203及び261(併せて13柄であるが、原告らは、原告タオルアート130を利用した侵害品が2種類あると主張しているため、原告らの呼称に従い、以下、これらを併せて「本件14柄タオル」という。)につき、フルフィーコットンを使用したものがあるなど、原告会社に無断で素材等を変更して販売されていることに気付いた(甲20、弁論の全趣旨)。 (7)基本契約等の合意解約 原告会社と被告タオル美術館は、平成29年12月27日、被告タオル美術館の重大な契約違反行為(被告タオル美術館が基本契約に基づきライセンス許諾をした被告一広による行為も含む。)を理由として、同月31日をもって基本契約を合意解約し、基本契約の終了に伴い、サブライセンス契約が同日に終了することを確認する旨の合意をした(甲29)。 (8)中間合意(甲17) 原告らと被告らは、平成30年4月27日、被告ら、大連一広及び一広ベトナムが行ったAMブランドに関する違法コピー商品、未承諾商品、ロイヤリティ未申告商品等の製造・販売に関する件(以下「違法コピー問題」という。)につき、次の内容で、中間的な合意(以下「中間合意」という。)をした。 ア 賠償金(1条1項及び2項) (ア)被告らは、原告会社に対し、連帯して、違法コピー問題の損害賠償金(以下「本件賠償金」という。)の一部として3億円の支払義務があることを認め、同金員を、平成30年4月27日限り、一括して支払う。 (イ)原告ら及び被告らは、(ア)の金員が本件賠償金の一部であることを相互に確認し、本件賠償金の総額等は、引き続き協議する。 イ 在庫の販売(3条1項) 原告らは、被告会社及び大連一広に対し、ア(ア)の金員がア(ア)に定める期日までに支払われることを停止条件として、平成30年12月末日までの間、被告一広、大連一広及び一広ベトナムが製造した中間合意締結日時点のATSUKOMATANO商品(ただし、承認済み商品に限る。)の在庫を販売することを認める。 ウ 協議(7条) 原告ら及び被告らは、中間合意締結後、違法コピー問題の解決に向けて、本件賠償金の総額等の決定、在庫の販売期間の延長、その他中間合意に定めた別途協議事項に関し、協議する。 エ 準拠法(8条) 中間合意及び違法コピー問題に関する準拠法は、日本法とする。 (9)一部弁済 被告らは、平成30年4月27日、原告会社に対し、中間合意に基づき、3億円を支払った(弁論の全趣旨)。 (10)消滅時効の援用 被告らは、令和2年8月31日の第2回弁論準備手続期日及び令和5年11月20日の第13回弁論準備手続期日において、原告らに対し、ロイヤリティ支払請求権、債務不履行に基づく損害賠償請求権及び著作権侵害に基づく損害賠償請求権について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。 6 争点 (1)本訴 ア 著作権侵害の有無(争点1) (ア)著作物性の有無(争点1−1) (イ)著作者該当性(争点1−2) (ウ)利用許諾の有無(争点1−3) a 色や織り方の違反(争点1−3−1) b 許諾期間外の製造販売(争点1−3−2) (エ)一部和解の成否(争点1−4) (オ)消尽の成否(争点1−5) イ 著作者人格権侵害の有無(争点2) ウ パブリシティ権侵害の有無(争点3) エ 報告義務違反の有無(争点4) オ 取締役の責任の有無(争点5) カ 免除又は消滅時効の成否(争点6) キ 原告らに生じた損害の有無及びその額(争点7) (2)反訴 ア 不作為義務違反及び協議義務違反の有無(争点8) イ 被告らに生じた損害の有無及びその額(争点9) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1(著作物性の有無) (原告らの主張) 原告タオルアートは、原告Aの独特の世界観である絵柄に加え、タオル生地として織られた場合の「凹凸、陰影、色合いや風合い」などを考慮し、配色や織り方まで細かく指定されたタオルアートであり、原告Aの思想感情が創作的に表現された美術の著作物である。 すなわち、原告タオルアートは、絵柄及び色、糸や素材、加工、装飾による特徴的表現によって、イラストのような平面的な印象からはおよそ伝えられない豊かなイメージを、立体的な表現や質感のみならず触感も用いて伝達するものであり、手や体を拭くタオルとしての実用的機能を離れて、鑑賞の対象となり得る美的特性を備えたものとして、原告Aの美的な思想感情を表現したものである。 (被告らの主張) 原告ら主張に係る原告タオルアートは、実用に供されるタオルであり、いわゆる応用美術の範囲に属するものである。そのため、これが著作物に該当するには、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える必要がある。しかしながら、原告ら主張に係る原告タオルアートは、タオルを製造するための図案データが特定されるにとどまり、上記美的特性が具体的に特定されるものではない。そして、原告ら主張に係る「凹凸、陰影、色合いや風合い」をみても、これらは美的鑑賞の対象となる美的特性とはいえないため、上記原告タオルアートは、著作物に該当しない。 2 争点1−2(著作者該当性) (原告らの主張) 原告Aの著作物である原告タオルアートは、@原告会社が、被告一広及び小原に対し、糸の選択、織り方、絵柄の配置等を指定した配色指示書等を送付する、A被告一広が、その送付された配色指示書等を基に、サンプル用の出稿表を作成し、サンプルを製造する、B被告一広は、原告会社に対し、サンプルを提出する、C原告会社は、サンプルが配色指示書等に相違する場合又はその品質が充分でない場合には、最終承認をしない又は被告一広に対して改良を指示する、D原告会社は、サンプルが充分なものであると判断した場合は、被告タオル美術館及び被告一広に対し、最終承認を行い、原告タオルアートの利用許諾が成立する、以上の手順で完成していた。 このように、絵柄及び配色や織り方を指定する配色指示書等は、原告Aが創作しており、サンプルは、配色指示書等に従ったものでなければ最終承認を得られないことから、原告タオルアートの著作者は、原告Aである。 また、原告タオルアートは、最終承認を経た後、小原の展示会やカタログにおいて、原告Aの作品として公表されていたから、著作者は原告Aであると推定される(著作権法14条)。 (被告らの主張) 仮に、タオルそのものが著作物であるとの前提に立ったとしても、原告Aは当該著作物の著作者ではない。 すなわち、原告らが原告Aの著作物であるとするタオルは、@原告会社が、被告一広及び小原に対し、図案データ及び色を指定するデータを送付する、A被告一広が、その送付されたデータを基に、タオルとしての仕様(糸の選択、織り方、絵柄の配置等)を検討する、B原告会社が被告一広から提出された仕様を確認する、C被告一広がその確定された仕様に基づいてタオルの設計図である出稿表を作成する、D被告一広が、その出稿表に基づいて大連一広又は一広ベトナムにタオルの製造を委託し、タオルが製造される、以上の手順により仕様が確定し、製造されていた。 このように、被告一広は、タオル製造販売企業としての専門性と技術を用い、タオルとしての実用目的を達成できる商品となるように、自社の創意工夫によってタオルの仕様を決め、出稿表を作成し、タオルを製造していた。 したがって、タオル生地として織られた場合の「凹凸、陰影、色合いや風合い」に係る表現を創作していたのは、原告Aではなく被告一広であった。 3 争点1−3(利用許諾の有無) (原告らの主張) (1)争点1−3−1(色や織り方の違反) 原告タオルアートは、原告Aによるサンプルの最終承認によって完成するものであり、原告らが利用許諾をしたのは、この最終承認を経た正規品のみである。そのため、これと異なる被告商品1を量産する行為は、原告らが許諾していない原告タオルアートを複製及び翻案するものであり、著作権侵害が成立する。 そして、本件4柄タオル及び本件14柄タオルについて、被告一広が最終承認を受けたサンプルとは異なる商品を製造販売したことは争いがなく、この点につき、被告らは、報告書(甲20)等において、当該改変行為が原告Aの著作権及び著作者人格権を侵害したことを認めている。 (2)争点1−3−2(許諾期間外の製造販売) ア 基本契約7条によれば、被告タオル美術館は、「サブライセンシーとの契約で定めた期間」について許諾商品の製造販売を監督する義務を負うこととされているが、原告会社が「製造販売延期」を承認した場合は、例外とされている。そして、サブライセンス契約6条によれば、被告一広は、各デザインの活用内容の詳細を定めた「デザイン・プログラム」を作成し、この「デザイン・プログラム」において「契約商品の販売期間」を合意することとされているところ、当該「デザイン・プログラム」に当たる書面が、原告タオルアートごとに作成される承認書(甲33の1、甲35の1、甲38の1及び甲40の1)である。そして、同条にいう「契約商品の販売期間」は、承認書の「発売期間」の欄において特定されていた。 そうすると、当該発売期間が許諾期間であるといえるから、当該期間を超えて行われた被告商品1の製造、販売は、許諾がない状況で行われた複製、譲渡であるから、著作権侵害が成立する。 イ 被告らは、ロイヤリティの支払を受けた時点において、「発売期間」を超えた商品の販売についても、事後的に黙示の承諾が成立した旨主張する。 しかしながら、ロイヤリティ報告書には、どのシーズンの商品を販売したかについて記載はない上、そもそも、単に同報告書の別紙明細に微細な文字で記載があることをもって、黙示の承諾が成立するはずはない。 ウ 原告らは、仮に小原の販売時期を基準とする許諾期間の経過が認められない場合には、被告一広の販売期間を基準とする許諾期間の経過による著作権侵害(甲115の7)も予備的に主張する。 (被告らの主張) (1)争点1−3−1(色や織り方の違反) 原告らは、被告商品1の色や織り方が、最終承認をした正規品と異なるから、利用許諾に違反する旨主張する。しかしながら、そもそも利用許諾の対象となる著作物は、絵柄であってタオルではないから、利用許諾は、原告会社が被告タオル美術館に対して図案データを提供したことにより成立する。 そして、被告らは、本件4柄タオル及び本件14柄タオルについては、生地や糸の素材を変更したものの、それ以外の被告商品1については、そのような変更をしていない。 (2)争点1−3−2(許諾期間外の製造販売) ア 原告らは、商品化申請デザイン承認書の「発売期間」が許諾期間に当たるから、当該期間を超えた製造、販売は、著作権侵害に当たる旨主張する。 しかしながら、基本契約には、製造販売期間を一定期間に制限する旨の記載はなく、かえって、契約期間は1年6か月間で、3か月前の書面による意思表示がない限り、同一期間、同一条件で自動更新される旨明記されている。また、原告らが指摘する商品化申請デザイン承認書には、「売り始めの期間」が記載されているにすぎないし、「製造期間」についての言及もない。さらに、原告Aが「記録的なロングセラー」と述べるなど、原告ら自身が、製造販売期間の制限が付されていないことを前提とした言動をとっていた。 イ 仮に、上記「発売期間」が利用許諾期間を制限したものであるとしても、原告会社は、被告タオル美術館から、商品の明細を添付したロイヤリティ報告書の提出を受けており、その中には、「発売期間」を超えて販売した商品が含まれていたにもかかわらず、原告らは、ロイヤリティの支払を受け続け、何ら異議を述べていなかった。そうすると、原告らは、遅くとも、被告タオル美術館から「発売期間」経過後のロイヤリティの支払を受けた時点において、「発売期間」を超えた商品の販売についても、事後的に黙示の承諾をしたというべきである。 4 争点1−4(一部和解の成否) (被告らの主張) (1)被告らは、中間合意の成立までに、被告商品1−1ないし125について販売数量や販売金額等を原告らに開示し、原告らは、その内容を認識した上で、中間合意を締結しているところ、被告商品1−1ないし125は、中間合意の対象から除外されていないのであるから、原告らと被告らとの間では、原告タオルアート1ないし125の利用について、和解が成立している。 (2)本件4柄タオルについては、被告一広が、平成26年5月21日に、原告会社に対して改善嘆願書(甲22の1)を提出し、同年6月頃に、追加のロイヤリティを支払っているから、遅くともこの頃までには、原告らと被告らとの間で、本件4柄タオルに係る原告タオルアートの利用について、和解が成立している。 (3)本件14柄タオルについても、被告タオル美術館が、平成30年1月9日に、原告会社に対して書面(甲21)を提出し、同年4月27日に、本件14柄タオルを対象とした中間合意を締結し、3億円を支払っているから、遅くともこの頃までには、原告らと被告らとの間で、本件14柄タオルに係る原告タオルアートの利用について、和解が成立している。 (原告らの主張) 原告らと被告らとの間において、何らの和解も成立していないことは、中間合意の文言から明らかである。 5 争点1−5(消尽の成否) (被告らの主張) 類型番号2、8の1、同18、19の1、2及び同20の1の被告商品については、以下のとおり、譲渡権は消尽している(著作権法26条の2第2項1号)。 (1)類型番号2、19の1、2の被告商品については、小原は、原告会社から提供された絵柄を使用した商品を、川辺株式会社(以下「川辺」という。)から譲渡を受けて日本国内で販売していたから(乙109の1、2)、これらの被告商品についての譲渡権は、消尽している。 これに対し、原告らは、サブライセンシー間で商品を融通し合うことは認められていない旨主張するが、譲渡権の消尽の規定は、強行規定であり、仮に譲渡先等の制限に違反した場合でも、債務不履行になるのは格別、著作権侵害にはならない。 (2)類型番号8の1、同18、20の1の被告商品についても、小原は、原告会社から提供された絵柄を使用した商品を、被告一広から譲渡を受けて日本国内で販売していたから(乙110)、これらの被告商品についての譲渡権も、消尽している。 (原告らの主張) (1)被告一広に許諾した商品を小原が流用した類型(類型番号8の1、同18、19の2、20の1)については、被告一広から百貨店等以外への譲渡は承諾されていないから、消尽しない。また、これらの類型は、許諾期間も経過しているところ、小原を販売元にすることで許諾期間を免れることは潜脱的である。そもそも、原告会社は、被告一広が製造し小原が販売する商品としてライセンスをしており、グループ企業であることのみならず、このような実態を見ても、被告一広と小原が一体であることは明らかであるから、被告一広が小原に商品を納品したことによって、権利が消尽されることはない。 (2)川辺に許諾した類型(類型番号2、19の1)については、被告らは、川辺から小原への販売の証拠として乙109の1、2を挙げるが、そもそも川辺から小原への商流が不自然である上、上記証拠には具体的な品名がなく、商品コードも全て同一であるから、サブライセンシー間で商品を融通し合ったというほかなく、譲渡権の消尽は生じない。 6 争点2(著作者人格権侵害の有無) (原告らの主張) 被告会社は、原告Aが指定した色や織り方に違反した商品を製造しているところ、これは、タオル生地として織られた場合の「凹凸、陰影、色合いや風合い」などの原告タオルアートの表現上の同一性を失わせる行為であるから、原告Aの著作者人格権(同一性保持権)を侵害する行為である。 (被告らの主張) そもそも、タオル生地として織られた場合の「凹凸、陰影、色合い、風合い」などは著作権法の保護の対象ではないから、著作者人格権侵害が生じる余地はない。 7 争点3(パブリシティ権侵害の有無) (原告らの主張) ほとんどの被告商品1には、「ATSUKOMATANO」のタグが付されているところ、強い顧客吸引力を有する「ATSUKOMATANO」という原告Aの氏名を示すタグが付されることにより、被告商品1に他のタオルとは別の付加価値が加わり、販売が促進されている。 そして、原告Aが許諾していない商品に、「ATSUKOMATANO」という原告Aの氏名を、専らその顧客吸引力の利用を目的として表示した被告商品1の製造及び販売は、原告Aのパブリシティ権を侵害する行為である。 (被告らの主張) そもそも、「ATSUKOMATANO」には商品の販売等を促進するだけの顧客吸引力がない。また、「ATSUKOMATANO」とのタグは、単に絵柄の作成者の出所を表示するものとして、その名前を表記したものにすぎず、被告会社は、専ら「ATSUKOMATANO」の有する顧客吸引力の利用を目的として、原告Aの氏名を表示したものではない。したがって、被告らにパブリシティ権侵害は成立しない。 8 争点4(報告義務違反の有無) (原告らの主張) (1)別紙損害額計算表(甲19)によれば、被告タオル美術館が原告会社に報告した被告一広のライセンス料は、原告会社のライセンシー又はサブライセンシーであった他の4社と比較して不自然に停滞、下落しており、このことは、被告タオル美術館が、原告会社に対し、製造販売していた被告商品2を報告することなく、被告一広のライセンス料を過少に申告したことを示している。 そうすると、被告一広のライセンス料は、上記他の4社と同じ割合で2003年以降推移していたはずであるから、上記割合に係るライセンス料(別紙損害額計算表の青破線)と、上記報告に係るライセンス料(別紙損害額計算表の青実線)の差額である7億6299万0840円が、被告タオル美術館において基本契約12条に基づく報告義務を怠ったことによる損害額であるといえる。 (2)被告らが原告らに提出した売上データ等のデータには、以下のとおり、極めて多くの改ざんや矛盾があり、これらのデータは、被告らが製造、販売した商品の全データを示すものではない。 ア データの削除 被告一広から提出された商品マスタと販売実績データを確認した際、商品マスタで確認された2万7640に及ぶAM商品(原告らの主張においては、原告タオルアートを使用した被告らの商品をいう。以下同じ。)の品番のうち、販売実績データに登場するものは、わずか3470品番にすぎなかった。これは、被告らが販売実績データの一部を削除していることを示す事情である。 これに対し、被告らは、品番につき、完成品、半製品、A品、B品のための4つのコードが自動生成されると主張するが、その客観的な裏付けはなく、被告らの説明によれば、先頭1、6と末尾A、Bの4パターンになるはずであるが、AM商品と確認できた2万7640の品番のうち、このような4パターンが揃って存在するものは、50%程度にすぎない。また、被告らが説明していない「先頭2」の商品も存在するから、商品コードが恣意的に付されていることは明らかである。 イ 品番の使い分け 「しろくま(原告タオルアート180)」及び「しろうさぎ(原告タオルアート197)」はよく売れていたのに、被告ら提出に係る品番には、極めて少量の売上げ又はマイナスの売上げが計上されており、当該売上げは販売実態と整合しないことからすると、上記品番は、データ削除などの改ざんがされたことを示している。 ウ 販売実態との乖離 被告らの店舗では山積みされていたのに月間売上げが平均10枚と報告されるなど、およそ実態に沿った報告がされていない。特に、「MEMEとボーダー(原告タオルアート291)」は、AM商品の中でも近年特に人気の高かった柄であるものの、2017年の被告らの販売実績では、1店舗1か月当たり僅か2.5枚ずつしか売れていない旨報告されている。 このように、被告ら提出に係る販売実績データは、被告らの店舗において山積みされていた現実の販売実態と比較しても明らかな乖離があるため、被告らがデータを改ざんしたことは明らかである。 エ D加工版というファイルの存在 2013年から2014年にかけてのベトナム工場からのインボイスのファイルに、「D加工版」という名称のファイルが存在している。これは、被告B又は被告Cが加工したファイルと考えられるところ、このD加工版におけるAM商品の枚数と、インボイスにおけるAM商品の枚数の差は12万8000枚以上あり、このように商品を削除したことは、被告らがデータを加工したことを示すものである。 オ 被告ら提出の各データの数量の不整合 (ア)インボイスと一広販売実績 海外工場からの出荷枚数のうち明らかにAM商品であると分かるものは、2017年だけで346万1917枚であるのに、ロイヤリティ報告を受けたAM商品の枚数は223万9127枚にすぎないから、ロイヤリティ報告を受けたAM商品の枚数を1とした場合、ロイヤリティ報告を受けていないAM商品(被告商品2)の枚数は0.55となる。 (イ)B品 被告ら提出のデータによれば、2013年から2017年までのB品のうち、少なくとも約68万枚がAM商品である。そして、B品は生産数量の1〜2%であるとの被告らの主張を前提とすれば、少なくともB品の50〜100倍の商品が製造されていたことになり、上記AM商品の枚数によれば、AM商品については3400万〜6800万枚が製造されていたことになるが、原告らは、これに対応するロイヤリティ報告を受けていない。このことは、被告らが、上記3400万〜6800万枚のAM商品のうち、大部分のデータを削除したことを示すものである。 (ウ)川辺の販売実績データ 川辺の仕入れ(被告一広のインボイス記載の商品数)と販売(川辺の販売実績データ)との間には、半年間で25万枚以上もの差があり、川辺においても、小原と同様、AM商品に正規品番以外の品番を付して販売していたことがうかがわれる。 また、川辺のAM商品についても、B品の枚数から推測される大量の商品に対応するロイヤリティ報告は受けていないから、データを改ざんしていたか、あるいは、B品と称して品質を落とした商品を製造していたか、いずれかであることは明らかである。 (エ)在庫データの不一致 被告らが被告商品を販売できるのは平成30年12月末日までであるため、同日時点の在庫と、その後に開示された令和2年11月末日時点の在庫とが一致すべきであるのに、在庫数が一致している商品は18%にすぎず、約40%の商品は在庫数が減っており、その数は合計約8万枚に上る。また、平成28年の被告商品の在庫数量、平成29年の在庫数量及び平成29年の販売数量が整合していない。 カ AMブランドの実績との矛盾 AM商品は、2008年2月から9月における小原のライセンス商品の中で約3分の1のシェアを占めるほどの人気商品であったところ、小原が発行していたカタログにおけるAM商品の掲載点数は減少しておらず、カタログ掲載数と売上げとが連動することからすれば、2008年から2017年までにAM商品の売上げが急落しているのは、不自然である。 また、AMブランドが、2015年に百貨店リビング賞でベストセラー賞に選出されたこととも矛盾し、被告Cが、2015年のインタビューにおいて、AM商品が「前年の5倍の売上げ」と発言していることとも矛盾する。 さらに、2011年に三越日本橋で開催されたイベントの予算は、200万ないし300万円であるところ、予算は売上目標を意味するから、その売上げが25万円であることはあり得ないことであり、また、2017年に小田急百貨店新宿店で開催されたドリームキャンペーンにおける売上げが、ほぼゼロであることもあり得ない。 以上によれば、AM商品の売上げが2008年以降下降の一途であったとする販売実績データが改ざんされていることは、明らかである。 キ 被告らのデータ改ざんを裏付ける事情 被告らは、本件訴訟提起前の調停手続中に、「小原販売実績データ」を開示したが、当該データにおいては大多数の品名が「???」になっており、全容が解明できなかった。 また、被告らは、本件4柄タオルに係る問題が発覚すると、改善嘆願書(甲22の1)を提出したものの、その後も、原告らから指摘された分だけ違法行為を報告するなど、小出しで責任を認める態度に終始してきた。 さらに、被告らは、2018年に原告らが確認するまで、EU分のロイヤリティ報告をしていなかった。 ク 海外データの矛盾 (ア)中国 被告らのロイヤリティ報告によれば、中国での2016年から2017年における1店舗当たりのAM商品の売上げは、100万円を下回ることになるが、ほぼAM商品で埋まっているような店舗の写真に照らすと、当該売上額は不自然であり、被告らの報告やデータが全くの虚偽であることを示すものといえる。 また、大連一広は、原告らに無断でAM商品を横流ししており(甲94)、この横流し品には、正式承認に至らなかったドロップ品も含まれているから、原告らのブランドイメージが傷つけられた。 (イ)韓国 原告らがAM商品の販売先として売上げを報告されていたのは、日本以外では中国とベトナムのみであったが、被告一広は、韓国でもAM商品を販売していた(甲89)。 (被告らの主張) (1)大連一広においては、タオルの仕様、サイズ等を変更したと考えられる商品(別紙損害の内訳〔被告らの主張〕の対象欄記載の「大連未承認リスト」)が存在し、ロイヤリティが未報告のものがあることは認める(乙78)。 また、別紙損害の内訳(被告らの主張)の対象欄記載の「29類番」、「42類番」及び「74類番」の商品のうち、一部の商品のロイヤリティ報告が欠けていたことも認める(乙79)。 さらに、小原の商品管理と被告タオル美術館のロイヤリティ管理の連携が十分ではなかったため、小原が百貨店の要請を受け、被告一広がセール品として製造していた商品(別紙損害の内訳〔被告らの主張〕の対象欄記載の「45類番」)については、ロイヤリティ報告が欠けていたことも認める。 しかしながら、上記以外にロイヤリティ未報告のものはない。 (2)原告らが違法商品と主張する商品のうち、B品やC品は、検品時の検査に合格しなかった製品を、セール品として販売するために加工されたものである。そして、被告らは、平成26年5月21日、原告らに対し、本件4柄タオルに係る改善嘆願書を提出した際、今後はB品及びC品についてもロイヤリティを支払う旨報告し、原告らの承認を得たことから、その後はその旨報告をしている。 (3)原告らは、被告らが原告らに提出したデータに改ざん等がある旨主張するが、以下のとおり、当該データに改ざん等は存在しない。 ア データの削除について 商品マスタに登録されているのは、2010年から2017年の8年間の商品であるが、販売実績データにおいては、2014年から2017年の4年間に販売された商品が確認できるにすぎないのであるから、このような期間の違いを考慮していない原告らの分析方法には誤りがある。また、品番のうち、実際に販売されるものは先頭が1で末尾がAのもののみであるから、これ以外の品番は、商品マスタに登録されていても、販売実績データに登場することはない。さらに、被告一広の商品マスタは、2014年1月に現行の基幹システムに移行する際、技術的な問題が発生し、得意先品番が誤って登録されたものなどが数多く存在するが、販売実績データ自体には誤った情報は記録されていない。 イ 品番の使い分けについて 「しろくま」及び「しろうさぎ」については、毛羽落ちを防ぐように改善した際、新たな品番を設けたにすぎない。また、販売数量が少ないのは、在庫が少なかったにすぎないし、販売数量がマイナスになっているのは、返品が多かったにすぎない。 ウ 販売実態との乖離について 被告らの店舗において、いつ見ても商品が山積みで販売されていたのであれば、それは売れていなかったことを理由とすると考えられる。 エ D加工版というファイルの存在について 「D」は愛媛県で3番目に多い姓であり(乙100)、D加工版というファイルは、被告B及び被告Cとは別のD姓の社員が作成したものと考えられる。 また、D加工版というファイルが、データを隠蔽するものであったとすれば、インボイス等の書類に記載された数量も加工されているはずであるのに、実際には他の書類には全く加工が存在しないのであるから、D加工版というファイルは、意図的なデータの改ざんを裏付けるものとはいえない。 オ 被告ら提出の各データの数量の不整合について (ア)インボイスと販売実績について 在庫データから確認できる在庫数量を考慮すれば、輸入数量と販売数量の差に不合理な点は見られない。すなわち、サンプルや見本、日本国内で製造した商品、パリ支店向けの商品(商品名の最後にGLと付く商品)等を除外してインボイスに基づく輸入数量を算出し、在庫数を算出すると、在庫データ上の2017年末在庫数と、被告一広のインボイス、販売実績データ及び2016年末在庫数から算出される2017年末在庫数との誤差は、1%未満にすぎない。 (イ)B品 B品の割合が1〜2%というのは、大連及びベトナム工場における生産が安定してからの数字であり、生産開始当初は、5〜10%のB品が発生していた。また、原告らは、2013年以前に発生したB品も相当に含めて算出している。 (ウ)川辺の販売実績データ 川辺の販売実績データは、被告らには開示されていないため、検証できないが、そもそも原告らは、輸入された商品の在庫数量を考慮していないから、分析方法が適切ではない。 カ AMブランドの実績との矛盾について 2008年におけるAMブランドのシェアが31%程度であったとしても、それ以降売上げが減少していることは、原告ら自身が「改ざん不可能」と認める販売実績データが示すとおりである。 また、カタログに掲載されていても、売上げが減少することはあり、「前年の5倍の売上げ」との発言についても、単に催事などを行った売り場においては、前年の5倍の売上げになったと述べたにすぎず、AM商品全体の売上げが前年の5倍になったことを述べたものではない。 キ 被告らのデータ改ざんを裏付ける事情について 原告らは、被告らが、原告らの要請に応じて、倉庫の検証や膨大なデータの開示に積極的に協力してきたにもかかわらず、些末な事実を取り上げて、被告らが悪質である旨非難しているにすぎない。 ク 海外データの矛盾について (ア)中国 中国の販売店舗の状況がどのようなものであれ、現実の売上げは、原告らに開示したデータのとおりである。また、大連一広が、商品を横流ししているという事実はない。さらに、正式承認に至らなかったドロップ品と原告らが指摘する商品は、第三者が製造した模造品である。 (イ)韓国 韓国のメーカーに商品を出荷したのは小原であるところ、小原は、被告一広から適法に商品の譲渡を受けているから、著作権侵害には当たらない(乙102)。 9 争点5(取締役の責任の有無) (原告らの主張) (1)被告Bの責任 被告Bは、被告会社の代表取締役であり、タオル美術館グループの業務を統括しているところ、被告会社は、上記のとおり著作権等の侵害行為及び債務不履行に及んでおり、被告Bにはその職務を行うにつき任務懈怠がある。 また、被告Bは、原告会社に無断で、許諾期間外の商品を安価な糸に変更して製造コストを下げながら、その販売価格を上げて販売するよう指示し、承認外の商品を販売させたことを認めているから、被告Bにおいて、上記任務懈怠につき、悪意又は少なくとも重大な過失があったことは明らかである。 (2)被告Cの責任 被告Cは、被告会社の代表取締役であり、タオル美術館グループの業務を統括しているところ、被告会社は、上記のとおり著作権等の侵害行為及び債務不履行に及んでおり、被告Cにはその職務を行うにつき任務懈怠がある。 また、被告Cは、承認外商品の販売が発覚した際に、改善嘆願書(甲22の1)を原告会社に提出し、管理体制の再構築を約束したにもかかわらず、それと同時期になされた上記(1)の被告Bによる承認外商品の製造指示及びその後の承認外商品の製造を阻止しなかった。さらに、被告Cは、「タオル美術館グループ代表」との肩書で作成した書面(甲21)では、同グループ全体としてコンプライアンス体制整備が遅れ、自らも法令遵守の意識が希薄であったことを認めている。そうすると、被告Cにおいて、上記任務懈怠につき、悪意又は少なくとも重大な過失があったことは明らかである。 (被告B及び被告Cの主張) 被告商品1−1ないし125についてはロイヤリティの未払の問題が、被告商品1−126ないし368のうち「本件4柄タオル」及び「本件14柄タオル」については素材の変更等の問題が、それぞれ生じたが、被告らにおいて誠実に調査をしてロイヤリティや解決金を支払っているから、これらの問題につき、被告B及び被告Cにおいて、何らの任務懈怠はない。 10 争点6(免除又は消滅時効の成否) (被告らの主張) (1)本件4柄タオル 本件4柄タオルについては、被告一広が、原告らに対し、改善嘆願書(甲22の1)を提出した平成26年5月21日から、3年後の平成29年5月21日の経過により、消滅時効が完成している。 (2)平成26年5月以前のB品、C品及びサンプル品のロイヤリティ 被告Cは、平成26年5月21日、原告Aと面談し、「B品」、「C品」及び「サンプル品」については、「C品」を「B品」に製品化した上で、セール品(特価品)として引き続き販売を継続することを申し入れた。 これに対し、原告Aは、この申入れを受け入れ、上記B品等について従前ロイヤリティ報告がなかったものは、報告も支払も不要とする旨述べるとともに、今後は、上記B品等についても、A品(正規品)と同様に、ロイヤリティ報告と支払を求める旨述べた。 したがって、原告らは、平成26年5月21日頃、被告らに対し、同月以前のB品、C品及びサンプル品の販売分に係るロイヤリティ支払義務を免除した。 仮に、免除されていなかったとしても、平成26年5月21日から5年後の平成31年5月21日の経過により、消滅時効が完成している。 (3)29類番、30類番/44類番、42類番、45類番及び74類番 原告らの主張するロイヤリティ支払請求権のうち、別紙損害の内訳(被告らの主張)の対象欄記載の「29類番」、「30類番/44類番」、「42類番」、「45類番」及び「74類番」については、いずれも平成26年5月までに原則として販売を中止したから、それ以前のロイヤリティ支払請求権は、支払期限である同年8月1日から5年後の令和元年8月1日の経過により、消滅時効が完成している。 (4)類型番号13、15ないし17及び22 原告らは、類型番号13、15ないし17及び22の各被告商品について、遅くとも、当該各被告商品のロイヤリティ報告書及び明細書を受領した時点で、原告タオルアートが使用された当該各被告商品が製造及び販売されていた事実を認識していた。そうすると、類型番号13、15ないし17及び22の各被告商品のうち、少なくとも本件訴訟が提起された令和元年11月14日から3年前の平成28年11月14日までにロイヤリティ報告書及び明細書を受領した部分については、原告らは、被告らに対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害及び加害者を知っていたことが明らかであるから、許諾期間を経過したことによる著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は、時効により消滅している。 (原告らの主張) 被告らは、平成30年4月27日、原告らに対し、中間合意に基づき3億円を支払っているから、仮に中間合意時点で時効が完成している債権があったとしても、時効完成後の債務の承認がある以上、信義則に照らし、その後に時効の援用をすることは許されない。 また、被告らは、改善嘆願書(乙69の1)に、「タグをつけてSALE」などと原告らが書き込んだことをもって、B品等に係るロイヤリティの支払が免除された旨主張するが、当該書き込みは、被告らの説明をメモ書きしたものにすぎず、これをもって何らかの合意が認められることはない。 11 争点7(原告らに生じた損害の有無及びその額) (原告らの主張) (1)被告商品1の損害額 ア 原告Aの損害額 (ア)逸失利益 被告商品1の販売数量及び販売額は、別紙損害一覧表の販売数欄及び金額欄記載のとおりであり、被告商品1の限界利益率は、74.3%を下回らない。 そうすると、著作権侵害及びパブリシティ権侵害により原告Aが被った損害額は、著作権法114条2項及び商標法38条2項又は不正競争防止法5条2項(商標法及び不正競争防止法については類推適用)により、別紙損害一覧表の損害額欄及び原告Aの請求額欄記載のとおり、74億0607万6691円であり、原告Aは、この損害に対する一部請求として、24億9929万円及び遅延損害金の支払を求める。 (イ)弁護士費用 被告会社の著作権侵害行為と相当因果関係にある弁護士費用相当損害金は、4億5862万2544円を下らない。 (ウ)著作者人格権侵害による慰謝料 被告会社の著作者人格権侵害行為によって、原告Aが被った精神的損害は、被告商品1種当たり30万円を下らないところ、被告らは、少なくとも本件14柄タオルについては著作者人格権の侵害を認めているから、当該損害額は390万円を下回らない。 (エ)弁護士費用 被告会社の著作者人格権侵害行為と相当因果関係にある弁護士費用相当損害金は、39万円を下らない。 イ 原告会社の損害額 被告タオル美術館は、契約上の義務を果たさないばかりか、積極的に義務違反を犯し、著作権侵害行為及びパブリシティ権侵害行為により原告会社の利益を著しく損なったものであり、マスターライセンシーとしての役割を全く果たせていないのであるから、少なくとも、各サブライセンシーから受領したオーバーロイヤリティ額については、被告タオル美術館の管理義務違反と相当因果関係のある損害といえる。 そして、被告タオル美術館は、被告商品1に関し、別紙遅延損害金一覧表記載の各金員を、各期間(同一覧表における遅延損害金の始期が各8月1日のものについては、同年1月1日から同年6月30日までの期間〔ただし、最初の1090万3814円については、前年(平成10年)1月1日から同年(平成11年)6月30日までの期間〕であり、遅延損害金の始期が各2月1日のものについては、前年7月1日から前年12月31日までの期間をいう。)のオーバーロイヤリティ額として、合計6億2330万0904円を受領した。 そうすると、被告タオル美術館が、被告商品1に関し契約上の管理義務を懈怠したという債務不履行により、原告会社が被った損害の額は、6億2330万0904円を下回らない。 (2)被告商品2の損害額 ア 報告義務違反 被告タオル美術館は、原告会社に対する数量報告を行わずに、多数の商品(被告商品2)を製造、販売しており、このような被告タオル美術館の報告義務違反行為によって、原告会社は、本来であれば受領できたはずのオーバーロイヤリティ(被告タオル美術館が各サブライセンシーから受領したオーバーロイヤリティのうち、原告会社に分配する分〔オーバーロイヤリティの2分の1〕)を受領できなかったのであり、当該金額は被告タオル美術館の報告義務違反によって生じた損害に当たる。 そして、別紙損害額計算表のとおり、被告タオル美術館が原告会社に報告した被告一広のライセンス料は、特に平成15年から不自然な停滞、下落をたどっている。これは、同時期に原告会社のライセンシー又は被告タオル美術館のサブライセンシーであった他の4社の推移と乖離するなど、合理的に説明できない下落であり、被告タオル美術館が、タオル美術館グループの一員である被告一広のライセンス料を過少に申告したことは明らかである。そうすると、このような減少分につき、被告タオル美術館は報告義務を履行しなかったといえる。 したがって、原告会社が上記の報告義務違反によって被った損害の額は、別紙損害額計算表のとおり、少なくとも7億6299万0840円を下回らない。 イ 管理義務違反 被告タオル美術館は、各サブライセンシーから、上記アと同額のオーバーロイヤリティ(被告タオル美術館が各サブライセンシーから受領したオーバーロイヤリティのうち、被告タオル美術館に分配される分〔オーバーロイヤリティの2分の1〕)を受領できるところ、当該金額は、上記(1)イと同様に、被告タオル美術館の管理義務違反と相当因果関係のある損害といえる。 ウ 小括(被告商品2の損害額) 被告商品2に関する原告会社の損害額は、上記ア及びイの合計額である15億2598万1680円であるところ、原告会社は、この損害に対する一部請求として、11億円及びこれに対する基本契約所定の年2割5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (3)著作権法114条2項の適用 被告らは、上記損害額の算定において、著作権法114条2項を適用することはできないと主張する。しかしながら、本件においては、以下のとおり、「侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」(知的財産高等裁判所平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日判決〔以下「平成25年判決」という。〕参照)が存在するから、同項の適用は認められる。 まず、平成25年判決が単に「利益」と述べていることなどからすれば、権利者が取得できたはずの「利益」がライセンス料であったとしても、著作権法114条2項の適用が認められるというべきである。 仮に、上記にいう「利益」にライセンス料が含まれないとしても、原告Aは、自身の個人会社である有限会社ら・むりーず(以下「ら・むりーず」という。)を通じてタオル販売を行っており、被告らによる著作権侵害行為がなかったならば、ら・むりーずのAM商品の譲渡による利益を得ることができたのであるから、著作権法114条2項の適用が認められるべきである。 (被告らの主張) (1)被告商品1及び2の損害額 事実は否認し、主張は争う。なお、被告商品2に関して算定される未申告ロイヤリティの金額は、被告らが本件訴訟において被告一広及び小原の販売実績データに基づき検証して再集計した金額(大連未承認リストの一部〔乙78〕、29類番の一部〔乙79〕、42類番の一部〔乙79〕、45類番の一部、74類番の一部)に、被告一広及び小原の販売実績データがない期間について原告会社に最大限有利に推計して計算した金額(45類番の残り)を加算した金額となる。したがって、被告商品2に関して算定される未申告ロイヤリティの金額は、合計4274万1223円である。 (2)著作権法114条2項の適用について 著作権法114条2項が適用されるためには、少なくとも著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して侵害者と同様の利益を得られる蓋然性が必要となるが、原告Aは、自身の著作物の利用を第三者に許諾し、第三者からその許諾料(ロイヤリティ)を得ているにとどまり、当該著作物を利用して物の製造や販売等を行っているわけではない。そうすると、第三者が原告Aの著作物を利用した物を製造又は譲渡したとしても、原告Aにおいて、著作物を利用した物の製造又は販売等に係る売上げが減少することにはならないから、著作権法114条2項を適用する前提となる損害(逸失利益)が生じることはあり得ない。 また、ロイヤリティ収入しか得ていない著作権者にも著作権法114条2項が適用されるとすると、許諾料(ロイヤリティ)相当額の損害を規定する同条3項が適用される余地をなくしてしまうばかりか、物の製造や販売に係る設備等を全く有しない著作権者でも、ロイヤリティ収入の数倍もの利益に係る損害を受けたと推定されてしまうことになり、逸失利益の損害を填補するという同条2項の趣旨から外れた不当な結果を生むことになる。 したがって、本件における損害額の算定に著作権法114条2項を適用するのは、相当ではない。 12 争点8(不作為義務違反及び協議義務違反の有無) (被告らの主張) (1)不作為義務違反(中間合意3条1項違反) 原告らは、被告らとの間で中間合意をし、同3条1項に基づき、被告らが基本契約解除後から継続的販売していた在庫商品全てに対し、ライセンサーとして権利行使をしてはならない不作為義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、売上げのうち75%がAM商品の違法コピーである旨主張して3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、上記不作為義務に違反した。 (2)協議義務違反(中間合意7条違反) 原告らは、被告らとの間で中間合意をし、同7条に基づき、違法コピー問題の解決に向けて、在庫の販売期間の延長等に関し、被告らと協議すべき義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、在庫の販売期間の延長等に関し一切協議を行わず、かえって3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、更に被告らに100億円を超える多額の損害金を請求するなどして、在庫の販売期間の延長等に関する協議義務に違反した。 (原告らの主張) (1)不作為義務違反(中間合意3条1項違反) 被告らは、「基本契約の合意解除後から販売を継続していた在庫商品の全て」について販売許諾があったと主張する。しかし、中間合意3条1項によれば、条件成就までは在庫販売ができない上、同3条2項は、停止条件の成就の前後を基準として、同条1項の停止条件成就に基づき販売する商品と平成30年1月から停止条件成就日までに販売した商品とを区別し、販売許諾があったといえるのは、前者のみである。また、同条1項によれば、対象となる商品は、「本合意締結日時点のATSUKOMATANO商品」で「承認済み商品」に限られる上、在庫販売が許される期間も定められている。 そうすると、期間経過後の販売を許諾するかはライセンサーの専権事項であり、被告らが主張するような「中間合意締結後、これらの在庫商品について、ライセンサーとしての権利行使をしてはならない不作為義務」など存在しない。 (2)協議義務違反(中間合意7条違反)について 原告らは、中間合意締結後も、被告らと約半年にわたって協議を行った上、平成30年11月7日に被告らが申し立てた調停にも応じ、令和元年7月4日に不調となるまで同調停期日に6回も出席し、被告らと誠実に協議した。したがって、中間合意7条の定める協議義務に違反したとはいえない。 13 争点9(被告らに生じた損害の有無及びその額) (被告らの主張) 被告らが原告らに提出し、中間合意の前提事実とされた販売計画によれば、平成30年12月末日までの売上げは、2億5638万2440円であったところ、原告らによる上記中間合意の違反によって、被告らは在庫商品の一部しか販売することができず、その売上げは、合計1億5150万5483円にすぎなかった。 したがって、被告らは、原告らによる中間合意の債務不履行によって、少なくとも、上記販売計画に基づく売上げと実売上げの差額である1億0487万6957円の損害を被った。 (原告らの主張) 事実は否認し、主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1に関する判断枠組み 原告Aは、絵柄を制作し、その後、被告一広は、当該絵柄の使用許諾を受け、上記絵柄(以下、上記使用許諾に係る絵柄を「本件絵柄」という。)のデータを利用し、タオル商品として被告商品を製作したものである。したがって、被告商品は、原告Aが制作した絵柄と、その後被告一広が製作したタオルを組み合わせたものであり、本件絵柄の高い美術的価値によって他のタオルと差別化する実用目的の美術量産品であると認めるのが相当である。 そして、被告商品は、先に制作された本件絵柄を利用し製作されたタオル商品であるから、被告商品のうち、本件絵柄と共通しその実質を同じくする部分(以下、当該部分を「本件絵柄部分」といい、被告商品のうち、本件絵柄部分以外の部分を「本件タオル部分」という。)は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、本件絵柄とは別個の著作物として、これを保護すべき理由がない。そうすると、被告商品のうち、本件絵柄部分には、本件絵柄と別個に、新たな著作権は生じないと解するのが相当である(最高裁判所平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。 これに対し、原告らは、被告商品における著作物は、絵柄に加え、タオル生地として織られた場合の凹凸、陰影、色合いや風合いなどを考慮し、配色や織り方を指定した立体的表現物としてのタオルアートであり、本件絵柄とは別個に、一体として著作権が成立する旨主張する。しかしながら、上記において説示したとおり、新たに付与された創作的部分に限り一定期間保護するという著作権法の趣旨目的に鑑みると、被告商品における著作物性は、先に制作された本件絵柄と、被告商品において新たに付与された部分とに、それぞれ区分して創作的要素の有無として検討されるべきことになる。そうすると、本件絵柄に加えタオル生地として織られたタオルが一体としてタオルアートとしての著作物を構成する旨の主張は、少なくとも著作権法における創作的部分の検討に関する限度においては、上記において説示したところに照らし、採用の限りではない。 したがって、原告Aの著作権侵害の成否については、先に制作された本件絵柄と、被告商品において新たに付与された本件タオル部分に区分して、それぞれ検討するのが相当である。 以上によれば、争点1については、本件タオル部分に関する争点と、本件絵柄に関する争点に区分した上、本件絵柄に関する争点については、先に、共通する論点として、@改変による著作権侵害の有無、A許諾期間経過後の製造販売に係る合意の有無、B消尽の成否を判断し、次に、各類型番号(別紙侵害類型分類一覧表の類型番号1ないし26参照)における固有の争点を、以下検討する。 2 本件タオル部分に関する争点 (1)著作物性の有無(争点1−1) 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであり(著作権法2条1項1号)、美術の著作物には、美術工芸品が含まれる(同条2項)。そして、美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解するのが相当である。 これを本件についてみると、被告商品は、原告A制作に係る本件絵柄をタオルに付して商品化した上、量産されたものであるから、美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であるといえる。そして、被告商品は、先に制作された本件絵柄を利用し製作されたタオル商品であるから、被告商品のうち本件絵柄と共通しその実質を同じくする部分(本件絵柄部分)は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、本件絵柄とは別個の著作物として保護すべき理由がない。 このような観点から、被告商品のうち、本件絵柄部分を除き、新たに付与された部分(本件タオル部分)の創作性の存否につき検討するに、被告商品は、本件タオル部分において、凹凸、陰影、配色、色合い、風合い、織り方その他の特徴があったとしても、凹凸、陰影、配色、色合いなどは、本件絵柄と共通しその実質を同じくする部分であると認めるのが相当であり、また、風合い、織り方などは、タオルとしての実用目的に係る機能と密接不可分に関連する部分であるから、当該機能と分離してそれ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。 そうすると、被告商品において、美的鑑賞の対象となるのは、飽くまで原告A制作に係る美術的価値の高い本件絵柄部分であると認めるのが相当であり、被告一広の製作に係る本件タオル部分には、タオルとしての実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものと認めることはできない。 のみならず、仮に被告一広の製作に係る本件タオル部分に著作物性が認められるという立場を採用したとしても、本件タオル部分は、原告らの主張を前提としても、第三者にとって著作権侵害を構成する範囲が明らかになる程度に、被告商品ごとに個別具体的に明確に特定されているものとはいえず、表現、創作活動等の自由の保障という観点からしても、本件タオル部分については、そもそも新たに付与されたとされる創作的部分の特定を欠くものとして、著作物性を認めるための前提を欠く。加えて、原告会社が本件絵柄の使用を許諾した基本契約の内容をみても、1条5項によれば、被告一広において許諾された本件絵柄の使用は、著作物を構成するタイトル名、サブタイトル名、登場キャラクター、コレクションの名称、形状、シンボル、ストーリー、プロット等を、許諾商品の使用価値を高めるために捺染、印刷、彫塑、撮影その他の技法を用いて、許諾商品に具現化することをいうと規定されているのであるから、上記基本契約に係るその他の条項違反を主張するのは格別、原告会社は、被告タオル美術館及び被告一広に対し、本件絵柄を複製及び翻案してタオルとして商品化し、これを製造販売することにつき許諾したものと解するのが相当である。したがって、仮に被告商品において新たに付与された創作的部分を認める立場を採用し、かつ、仮に原告会社が当該創作的部分を表現したという立場を採用したとしても、原告会社は、そもそも基本契約において、被告一広に対し当該創作的部分に係る著作物の使用を許諾していたものと認めるのが相当である。 以上によれば、本件タオル部分に著作物性を認めることはできず、本件タオル部分に係る著作権侵害に基づく原告らの請求は、いずれも理由がない。 (2)著作者該当性(争点1−2) 仮に、本件絵柄部分を除いた本件タオル部分に著作物性を認める立場を採用したとしても、証拠(甲7、甲33の2ないし5、甲35の2、3、甲38の2、3、甲40の2、3、乙6、乙27、乙113)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aは、配色指示書、配色指示図案等により、配色や糸、織り方等を指示していることまでは認められるものの、具体的な糸の番手や本数、密度、織り上がりの重量等を決定し、現実に被告商品のタオルを製作したのは、タオルの製造に関する専門的技術を有する被告一広であることが認められる。 そうすると、仮に本件タオル部分自体における上記工夫に創作性が認められる立場を採用したとしても、原告Aの上記指示等はアイデアの域を超えるものとはいえず、美的鑑賞の対象となる創作性を表現した著作者は、被告一広であると認めるのが相当である。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。 (3)色や織り方の指示違反(争点1−3−1) 本件タオル部分に著作物性を認めることができないことは、上記において説示したとおりである。そうすると、仮に色や織り方等の違反があったとしても、これが基本契約違反を構成するのは格別、本件絵柄部分を除く本件タオル部分が、著作権侵害を構成するものとはいえない。仮に、原告らが、本件絵柄と共通する部分の改変を主張する旨善解したとしても、原告会社は、被告タオル美術館及び被告一広が被告商品を製作販売するに当たり、本件絵柄の複製及び翻案を許諾しているのであるから、原告ら主張に係る色や織り方の指示違反があったとしても、少なくとも翻案の範囲であると認めるのが相当であり、著作権違反を構成するものとはいえない。 なお付言するに、基本契約によれば、原告会社がその判断により、許諾商品の製造に用いる原画等に相違するものであると認めるとき又は許諾商品の品質が十分でないときは、承認を拒否し又はサブライセンシーにその改良を指示することができると規定されており、仮に色や織り方等の違反が認められる場合には、上記の規定違反が一応問題となり得るところであるが、上記の規定違反に基づく請求は、本件においては訴訟物とはされておらず(第11回弁論準備手続調書及び別紙損害一覧表各参照)、審判の対象とはされていない。 3 本件絵柄に関する争点 (1)改変による著作権侵害の有無(争点1−1) 改変による著作権侵害をいう原告ら主張に係る侵害の対象が、本件タオル部分をいうものであれば、当該部分は、そもそも著作権によって保護されるものではなく、著作権侵害を構成するものとはいえないことは、上記において説示したとおりである。 もっとも、改変による著作権侵害をいう原告ら主張に係る侵害の対象が、本件絵柄をいうものと善解し得たとしても、原告タオルアートに各対応する本件絵柄は、そのデータが既に全て廃棄されており、具体的に特定されるものではないため、原告タオルアートから推察するほかなく、著作物の特定として必ずしも十分であるとはいえない。仮に、原告タオルアートから推察される本件絵柄を前提としても、原告ら主張に係る改変部分は、類型番号別の後記個別争点において必要な限度でその判断を示しているとおり、本件絵柄をタオル商品として具現化するに当たり行われた複製又は少なくとも翻案の範囲にとどまるものと認めるのが相当であり、本件絵柄に係る使用許諾の域を超えるものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。 (2)許諾期間経過後の製造販売に係る合意の有無(争点1−3−2) ア 合意の有無 前提事実及び証拠(甲16の1、甲18の1ないし37、乙11、乙86、乙87)及び弁論の全趣旨によれば、@原告会社は、被告タオル美術館との間で、平成10年1月1日、基本契約を締結したところ、基本契約書には、原告会社は、被告タオル美術館に対し、本件絵柄を継続的に供給し、被告タオル美術館は、許諾商品を日本国内外で製造し販売する権利をサブライセンシーに対し付与する旨規定され(1条4項)、被告タオル美術館は、原告会社に対し、本件絵柄を継続的にサブライセンシーに使用させる対価として、3000万円のマスターライセンス年間契約料を支払う旨規定されているものの(9条1項)、継続的に供給された本件絵柄の個別の許諾期間につき、合意が明記されていないこと、Aかえって、基本契約に基づく権利は、基本契約終了と同時に喪失する旨規定されていることからすれば、被告タオル美術館は、基本契約存続中は上記権利を喪失しないと解するのが相当であること、Bその後も、原告会社は、被告タオル美術館との間で、契約書その他の書面をもって上記個別の許諾期間に係る合意をしたものと認められないこと、C被告タオル美術館は、被告一広との間で、平成10年1月1日、サブライセンス契約を締結したところ、被告一広は、同契約が期間満了、解除等により終了した後の在庫商品の販売は以後6か月間に限定し、それ以降は販売できないものとする旨規定され(17条2項)、サブライセンス期間はもとより、上記契約解除後6か月間までは一律にその販売が認められる旨の合意がされている事情を踏まえると、本件絵柄の個別の許諾期間を定めていなかったと解するのが当事者間の合理的意思に沿うものといえること、D現に、原告会社は、基本契約に基づき、被告タオル美術館に対し、平成10年1月1日から同29年12月31日まで、本件絵柄の図案データを提供したのに対し、被告タオル美術館は、原告会社に対し、半年ごとに、製造販売した商品の品名等の明細書と共にロイヤリティ報告書を提出し、ロイヤリティ料を支払っていたところ、別紙侵害類型分類一覧表において原告らが許諾期間経過を個別に主張する被告商品は多数に及ぶものの、原告会社は、これらの被告商品についても、約20年もの長年にわたり、異議を述べることなく、ロイヤリティ料を受領し続けていたこと、Eさらに、本件4柄タオルに係る問題が生じた際ですら、原告らは生地の無断変更等を指摘するにとどまり、個別の許諾期間の合意違反を主張しておらず、当該主張をし始めたのは、中間合意が締結された平成30年4月27日よりも後であったこと、Fのみならず、原告A自身も、原告らにおいて許諾期間が平成20年秋冬に限定されていたと主張する被告商品1−203につき、上記許諾期間経過後の平成21年7月頃、自身のブログにおいて「記録的なロングセラーへの道をまっすぐに歩いています」などと記載して、同商品を写真付きで紹介していること、以上の事実が認められる。 上記認定に係る基本契約及びサブライセンス契約の規定内容及び当事者双方のその後の行動等を踏まえると、原告会社は、被告タオル美術館との間で、継続的に供給する本件絵柄の個別の許諾期間を合意することなく、少なくとも基本契約が終了するまでの間、本件絵柄の継続的な使用を許諾していたものと認めるのが相当である。 イ 原告らの主張に対する判断 (ア)原告らは、サブライセンス契約によれば、被告一広は、本件絵柄の活用については、デザイン・プログラムを作成し、被告タオル美術館に提出することとされており、デザイン・プログラムには、契約商品の販売期間を定めることとされているから、商品化申請デザイン承認書に「発売期間」が明記されているとおり、これが本件絵柄の許諾期間をいうものである旨主張する。 しかしながら、上記にいうデザイン・プログラムは、飽くまで、被告タオル美術館と被告一広の間で締結されたサブライセンス契約における取決めであって、原告Aの著作権又は意匠権を利用したデザインの活用申請に関するものにとどまるものであるから、被告タオル美術館及び被告一広間における同契約違反又は基本契約における承認違反が問題となるのは格別、基本契約における本件絵柄の使用許諾期間を制限するものとまで解することはできない。 のみならず、証拠(乙87)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、中間合意が締結された平成30年4月27日、被告らに対し、メール(乙87)を送信して、同3条に基づく在庫販売に関し、被告らが提出した同年3月時点の在庫リストの中に、利用許諾期間を経過しているなどの問題のある商品(乙106において黄色で表示された商品をいう。)があったとしても、セール販売でなければ、これらを販売することを承認していたことが認められる。これらの事情を踏まえると、仮に、原告らの主張を採用する立場を前提としても、少なくとも、原告らは、平成30年4月27日に成立した中間合意締結の時点において、既に許諾期間が経過していた商品の販売を明示的に承認していることからすると、仮にそれ以前に許諾期間が経過していた商品が存在していたとしても、3億円の支払を受けるのと引き換えに、これらの販売も併せて承認したものと解するのが、当時における当事者双方の合理的な意思に沿うものといえる。 これに対し、原告らは、上記メールでは、中間合意3条1項に基づき在庫の販売ができることの確認がされたわけではなく、同3条4項に基づく協議が整うまでの間は、未承諾商品を販売したとしても中間合意違反とは扱わず、提訴や事実の公表等をしないことが確認されたにすぎない旨主張する。 しかしながら、証拠(乙87)を改めて検討すると、被告らが送信したメールの内容は、「本合議締結日から3条4項に基づく協議が整うまでの期間については、昨年12月末日のライセンス契約終了から現在まで、事実上販売継続を認めていただいているのと同様の形態による在庫販売を認めていただき、万一、すでに提出している3月時点の在庫リストの中に、承認期間を経過している等の問題のある商品があったとしても、3条4項に基づく協議ができた時点までは、本中間合意違反とはしないこと」というものであり、これに対する原告らの回答は、「承知いたしました。ただし、同様の形態とある部分については「同様の形態(セール販売を除く。)」としてください」というものである。 上記各メールの内容に加え、被告らが在庫販売等を条件として原告らに3億円を一括払いしている事情を踏まえると、上記にいう「本中間合意違反とはしないこと」とは、中間合意3条1項に基づき在庫の販売を認めることを意味するものと解するのが相当である。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (イ)原告らは、原告会社の社員が、平成26年1月14日、小原の社員に対し、メールで期間外の商品が売り場に陳列されていることに抗議していることからしても、許諾期間の合意があったなどと主張する。 そこで検討するに、証拠(甲49)及び弁論の全趣旨によれば、原告会社の社員は、同日、小原の社員に対し、「継続品などについてですが、@新柄を出しても、売り場には何年も前の商品が並んでいることについて、原因と、今後の対応を教えてください。A継続になっている商品はどのように選ばれているのか、また今後どうなるのか、確認お願いします。」などと記載したメールを送信し、これに対し、小原の社員は、翌日、原告会社の社員に対し、「@販売に関しての継続品はある程度、営業側で選び販売をしていました。基準としましては前期売り上げが良く、先も売上の見込みがしやすいとの事と思われます。今後に関しては企画主導に変更しライセンスとしてやるべきデザイン、アイテムを発表し販売する流れに変えていきます。昨日、弊社副社長のEとミーティングし、会社の戦略、経営方針として上記内容で企画をすすめる事が決定しました。A今後継続が許可なく店頭に並ぶ事はないです。」などと記載したメールを返信したことが認められる。 上記認定事実によれば、原告会社の社員が送信したメールの内容をみても、許諾期間に係る合意違反を指摘するものではなく、継続品の販売の原因や対応を協議するにとどまるものであるから、前記認定に係る基本契約等の規定内容及び当事者双方のその後の行動等に照らしても、前記判断を左右するに至らない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (ウ)原告らは、ロイヤリティ報告書の別紙明細の微細な記載をもって黙示の承諾が成立したとはいえないし、被告会社との打合せに際し、再三にわたり利用許諾期間経過後の販売に対して抗議してきたことは、上記メールの内容(甲49)からも明らかである旨主張する。 しかしながら、上記メールの内容(甲49)が、許諾期間に係る合意違反に対し抗議するものとまでいえないことは、上記において説示したとおりである。仮に基本契約において本件絵柄の個別の許諾期間を合意していた場合には、原告会社において速やかに本件絵柄の著作権侵害に対し抗議してしかるべきであるのに、長年これをしなかったのであるから、これらの事情を考慮すれば、上記合意の成立を認めないのが相当であることは、上記において説示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、いずれも上記判断を左右するものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (エ)その他 その他に、上記基本契約及びサブライセンス契約の規定内容及び当事者双方のその後の行動等を踏まえると、原告らの主張は、前記判断を左右するものとはいえず、いずれも採用の限りではない。 (3)消尽の成否(争点1−5) ア 被告らは、類型番号2、8の1、同18、19の1、2及び同20の1の各被告商品につき、小原が川辺又は被告一広から譲渡を受けて日本国内で販売していたものであるから、著作権法26条の2第2項1号の規定により、譲渡権は消尽している旨主張する。 そこで検討するに、証拠(乙109、110)及び弁論の全趣旨によれば、小原は、類型番号2、19の1、2の各被告商品については本件絵柄の使用許諾を得た川辺から、類型番号8の1、同18、20の1の各被告商品については本件絵柄の使用許諾を得た被告一広から、それぞれ購入していたことが認められる。そうすると、上記各被告商品は、本件絵柄の使用許諾を得た川辺又は被告一広により、小原に譲渡されたものであるから、著作権法26条の2第2項1号の規定により、本件絵柄の譲渡権は、消尽したものと認められる。 イ これに対し、原告らは、被告一広に許諾した類型番号の各被告商品について、被告一広から百貨店等以外への譲渡は承諾されていないから権利消尽することはなく、また、被告一広と小原は一体であるのに、小原を販売元にして許諾期間を免れるのは潜脱的であるから消尽することはない旨主張する。しかしながら、仮に上記の承諾違反があったとしても、債務不履行に当たり得ることは格別、著作権法26条の2第2項1号所定の各要件充足性を左右するものとはいえない。また、被告一広と小原が、いわゆるタオル美術館グループを構成していたとしても、別法人である以上、被告一広から小原に譲渡されたという上記認定を左右するものではなく、そもそも基本契約等によれば個別の許諾期間の定めはなくこれを免れることにならないことも、前記において説示したとおりである。 また、原告らは、川辺に許諾した類型番号の各被告商品について、一般向けに販売するのであれば、小売店が川辺から直接仕入れることが自然であるから、川辺が小原に販売するのは不自然である旨主張する。しかしながら、最終的に小売店で販売されたとしても、川辺が小原に販売するのが直ちに不自然ということはできず、本件全証拠を改めて検討しても、前記証拠(乙109、110)の信用性を左右するに足る的確な証拠がなく、原告らの主張は、前記判断を左右するに至らない。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。 (4)類型番号別の個別争点 上記(2)及び(3)において判断した許諾期間経過(類型番号22)及び消尽(類型番号2、8の1、同18、19の1、2及び同20の1)を除き、以下、類型番号別の個別争点を検討する。 ア 類型番号1 原告らは、類型番号1の被告商品につき、原告らが川辺に使用許諾した本件絵柄を、被告一広が中国で流用したものであり、被告一広に対し許諾をしたものではない旨主張するのに対し、被告らは、被告タオル美術館から使用の再許諾を受けた川辺が本件絵柄を使用した商品であり、大連一広が原告Aの承諾を得て中国国内で販売したものである旨主張する。 そこで検討するに、本件全証拠を踏まえても、類型番号1の被告商品について、被告タオル美術館が使用の再許諾をしたものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。また、原告らから使用許諾を受けた川辺が大連一広に上記商品を販売したことを認めるに足りる的確な証拠もなく、消尽をいう被告らの主張は、その前提を欠く。 そうすると、類型番号1の被告商品に係る中国国内における大連一広の販売行為は、基本契約及びサブライセンス契約以外の個別の合意がない限り、本件絵柄の著作権を侵害するものといえる。しかしながら、本件全証拠を踏まえても、原告Aが大連一広に対し本件絵柄に係る個別の許諾をしたことを認める客観的証拠は存在せず、これを認めるに足りない。 もっとも、被告らは、上記個別の許諾を裏付けるものとして、中国国内で「ATSUKOMATANO」に係る商標権を取得していた事情を主張するものの、証拠(乙88)及び弁論の全趣旨によれば、原告会社と被告タオル美術館は、平成22年10月1日、上記商標権の権利は原告会社に帰属し、今後新規に登録する商標は全て原告会社の名義で申請する旨を改めて合意するなど、原告会社が被告タオル美術館に対し中国国内の製造販売を許諾していたことをうかがうことができず、被告ら主張に係る上記事情のみをもっては、原告Aが大連一広に対し上記個別の承諾をしたことまでを直ちに認めるに足りない。また、被告らは、中国国内での販売に係るロイヤリティの支払があった事情(乙9)を主張するものの、そもそも当該販売が上記個別の承諾に係るものであることを認めるに足りず、その前提を欠く。そうすると、上記個別の承諾は、本件全証拠を改めて検討しても、これを認めるに足りないというべきである。そして、上記において説示した事情を踏まえると、少なくとも被告らにおいて過失があったものと認めるのが相当である。 したがって、類型番号1の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めるのが相当である。 イ 類型番号3 原告らは、類型番号3の被告商品につき、原告らが川辺に使用許諾した本件絵柄を、被告一広が中国で流用したものであり、被告一広に対し許諾をしたものではない旨主張するのに対し、被告らは、被告タオル美術館から使用の再許諾を受けた被告一広が本件絵柄を使用した商品であり、大連一広が原告Aの承諾を得て中国国内で販売したものである旨主張する。 さらに、被告らは、上記主張に関連し、類型番号3の被告商品については完成品を原告会社に提供しその承諾を得ていないものの、類型番号3の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアート85及び89から推察されるもの)は、原告らから被告一広を通じて大連一広に提供されているため、その時点で利用許諾が成立する旨主張する。 しかしながら、証拠(甲54の85、89)及び弁論の全趣旨によれば、当該商品化デザイン承認書においてライセンシー欄に川辺と明記されていることからすれば、サブライセンシーは川辺であると認めるのが相当である。 その他に、類型番号3の被告商品が、川辺ではなく被告一広に再許諾されたものであることを認めるに足りる証拠はなく、被告らの主張は、その裏付けを欠く。また、中国国内での販売に係る個別の許諾が認めるに足りないことは、前記において説示したところと同様である。そして、上記において説示した事情を踏まえると、少なくとも被告らにおいて過失があったものと認めるのが相当である。 したがって、類型番号3の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めるのが相当である。 ウ 類型番号4、5、21の1、同25及び26 原告らは、標記の被告商品は最終承認に至らなかったドロップ品であって使用許諾がない旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に全て提供しその承認を得たものではないが、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立した旨主張する。 そこで検討するに、基本契約1条4項によれば、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が、原告Aの制作した本件絵柄を被告タオル美術館に対して提供することによって成立し、原告会社から完成品の承認を得ることを要件とするものではないと解するのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、標記の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると、完成品の未承認に関して債務不履行が成立し得るのは格別、上記被告商品に対応する本件絵柄に係る使用許諾があったものと認めるのが相当である。 したがって、標記の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 エ 類型番号6(本件4柄タオル) 原告らは、類型番号6の被告商品は最終承認がされていないため使用許諾がされていないほか、素材及び配色、織り方その他の仕様につき改変があり著作権侵害となる旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に全て提供しその承認を得たものではないが、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立した旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において説示したとおりである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、類型番号6の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、商品化申請デザイン承認書にライセンシーと明記されている被告一広がこれを使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。 そうすると、完成品の未承認に関して債務不履行が成立し得るのは格別、上記被告商品に対応する本件絵柄に係る使用許諾があったものと認めるのが相当である。 また、原告らにおいて上記改変を主張する対象が、素材及び配色、織り方その他の本件タオル部分をいうものであれば、当該部分がそもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。他方、原告らにおいて上記改変を主張する対象が本件絵柄をいうものであれば、上記被告商品に対応する本件絵柄と、類型番号6の被告商品を比較検討すると、うさぎのデザインが一部修正されているものの、それ自体に新たな創作的表現を加えるものとはいえず、上記各本件絵柄をタオル商品として具現化するに当たり行われた複製又は少なくとも翻案の範囲にとどまるものと認めるのが相当であり、上記各本件絵柄に係る使用許諾の域を超えるものと認めるに足りない。 その他に、原告らは、調査報告書(甲20)によれば、被告らは素材等の改変が著作権侵害に当たることを認めていた旨主張するものの、調査報告書は、約10日という時間的制約の中での外部監査による調査結果を報告したものにすぎず、上記判断を左右し得るものとはいえない。 したがって、標記の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 オ 類型番号7(本件14柄タオル) 原告らは、類型番号7の被告商品は最終承認がされていないため使用許諾がされていないほか、素材及び配色、織り方その他の仕様につき改変があり著作権侵害となる旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に全て提供しその承認を得たものではないが、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立した旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において説示したとおりである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、類型番号7の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、商品化申請デザイン承認書にライセンシーと明記されている被告一広がこれを使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。 そうすると、完成品の未承認に関して債務不履行が成立し得るのは格別、上記被告商品に対応する本件絵柄に係る使用許諾があったものと認めるのが相当である。 また、原告らにおいて上記改変を主張する対象が、素材及び配色、織り方その他の本件タオル部分をいうものであれば、当該部分がそもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。他方、原告らにおいて上記改変を主張する対象が本件絵柄をいうものであれば、上記被告商品に対応する本件絵柄と、類型番号7の被告商品を比較検討すると、アップリケのデザインや配色が一部修正されているものの、それ自体に新たな創作的表現を加えるものとはいえず、上記各本件絵柄をタオル商品として具現化するに当たり行われた複製又は少なくとも翻案の範囲にとどまるものと認めるのが相当であり、上記各本件絵柄に係る使用許諾の域を超えるものと認めるに足りない。 その他に、原告らは、調査報告書(甲20)によれば、被告らは素材等の改変が著作権侵害に当たることを認めていた旨主張するものの、調査報告書は、約10日という時間的制約の中での外部監査による調査結果を報告したものにすぎず、上記判断を左右し得るものとはいえない。 したがって、類型番号7の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 カ 類型番号8の2、同9、10の1、2、同11ないし13、15ないし17、21の3、同24 原告らは、標記の被告商品は最終承認がされていないため使用許諾がされていないものもあるほか、被告ら自身が糸の選択や織り方を改変した事実を認めているように当該改変が著作権侵害となる旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に全て提供しその承認を得たものではないが、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立しており、被告商品における糸の選択や織り方は本件絵柄の創作的表現とは関係ない部分であるから、著作権侵害を構成しない旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において説示したとおりである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、標記の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、商品化申請デザイン承認書にライセンシーと明記されている被告一広がこれを使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。 そうすると、完成品の未承認に関して債務不履行が成立し得るのは格別、上記被告商品に対応する本件絵柄に係る使用許諾があったものと認めるのが相当である。また、被告商品に係る糸の選択や織り方その他の本件タオル部分は、そもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。 したがって、標記の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 キ 類型番号14の1 原告らは、類型番号14の1の被告商品につき、原告らの承諾を受けずにタオルのサイズが変更されているから著作権を侵害する旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に提供しその承認を得たものではないが、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立しており、上記タオルのサイズ変更についても原告らから承諾を得ている旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において繰り返し説示したとおりである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、類型番号14の1の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、商品化申請デザイン承認書にライセンシーと明記されている被告一広がこれを使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると、基本契約1条4条によれば、原告会社は、上記提供に係る本件絵柄を日本国内外で製造し国内外で販売する権利を許諾していたのであるから、類型番号14の1の被告商品が中国国内で販売されたとしても、これに対しては使用許諾がされていたものと認めるのが相当である。 また、本件全証拠をみても、被告らが上記タオルのサイズ変更につき、原告らから承諾を得ていたものと認めるには足りないものの、被告商品に係るタオルのサイズ変更その他の本件タオル部分は、そもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。 したがって、標記の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 ク 類型番号14の2 原告らは、類型番号14の2の被告商品につき、小原に許諾した本件絵柄を被告一広が中国で流用したものであり、最終承認がされていないため使用許諾がされていない旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に提供しその承認を得たものではないが、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立した旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において繰り返し説示したとおりである。そして、証拠(甲54)及び弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、類型番号14の2の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、商品化申請デザイン承認書にライセンシーと明記されている被告一広がこれを使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると、基本契約1条4条によれば、原告会社は、上記提供に係る本件絵柄を日本国内外で製造し国内外で販売する権利を許諾していたのであるから、類型番号14の2の被告商品が中国国内で販売されたとしても、これに対しては使用許諾がされていたものと認めるのが相当である。 したがって、標記の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 ケ 類型番号20の2 原告らは、類型番号20の2の被告商品につき、原告らの承諾を受けずにタオルのサイズが変更されているから著作権を侵害する旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に提供しその承認を得ている上、そもそも、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立しており、上記タオルのサイズ変更についても原告らから承諾を得ている旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において繰り返し説示したとおりである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、類型番号20の2の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、これを被告一広が使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。 また、本件全証拠をみても、被告らが上記タオルのサイズ変更につき、原告らから承諾を得ていたものとは認めるに足りないものの、被告商品に係るタオルのサイズ変更その他の本件タオル部分は、そもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。 したがって、類型番号20の2の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 コ 類型番号21の2 原告らは、特定の在庫生地を使用した商品に限り許諾しており、類型番号21の2の在庫外商品(追加製造)については、最終承認がされていないため使用許諾がされていない旨主張するのに対し、被告らは、類型番号21の2は、小原が独自ブランドとして企画して中国の外注先に製造委託した商品であるから、そもそも本件絵柄を使用した商品ではない旨主張する。 そこで検討するに、証拠(乙83、84)及び弁論の全趣旨によれば、類型番号21の2の被告商品は、原告タオルアートと同様に、くま刺繍ではあるものの、原告Aから提供された本件絵柄とは異なる絵柄を利用したものであると認めるのが相当である。そうすると、類型番号21の2の被告商品の製造販売は、本件絵柄を使用するものではなく、本件絵柄の著作権を侵害するものとはいえない。 したがって、類型番号21の2の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 サ 類型番号23の1 原告らは、類型番号23の1の被告商品につき、巾着などのいわゆる縫製品はそもそも許諾の対象としていないため、使用許諾がされていない旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に提供しその承認を得ている上、上記被告商品は、旧タオル美術館のカタログにも掲載されていた商品であるから、黙示の使用許諾があった旨主張する。 そこで検討するに、基本契約1条2項及び2条2項によれば、原告Aの著作物を使用した商品(以下「許諾商品」という。)の種類(アイテム)については、その都度、原告会社と被告タオル美術館が協議して決定し、特定の著作物についてその許諾商品の範囲を後日被告タオル美術館が変更する場合には、原告会社の承諾を得るものとされている。そして、証拠(乙82)及び弁論の全趣旨によれば、類型番号23の1の被告商品は、原告タオルアート390及び468から推察される本件絵柄を、巾着等に使用したものであることが認められるところ、これらの巾着等は、被告商品に係るタオルの種類(アイテム)とは用途が明らかに異なることからすると、上記認定に係る基本契約の内容に照らし、被告商品に係るタオルの種類とは異なる種類(アイテム)であると解するのが、当事者の合理的な意志に沿うものとして相当である。 そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、原告会社と被告タオル美術館の間で巾着等の種類(アイテム)につき協議決定し、又は被告タオル美術館が原告会社から種類(アイテム)の変更に係る承認を得た事実を認めるに足りる客観的な証拠はなく、類型番号23の1の被告商品が旧タオル美術館のカタログに掲載されていた事実が認められたとしても、これらは一般消費者向けのものであり、上記にいう協議若しくは承認に該当し又はこれらを推認するものとまでは、認めるに足りないというべきである。 そうすると、類型番号23の1の被告商品に係る使用許諾は、これを認めるに足りないというべきである。そして、上記において説示した事情を踏まえると、少なくとも被告らにおいて過失があったものと認めるのが相当である。 したがって、類型番号23の1の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めるのが相当である。 シ 類型番号23の2 原告らは、特定の在庫生地を使用した商品に限り許諾しており、類型番号23の2の在庫外商品(追加製造)については、最終承認がされていないため使用許諾がされていない旨主張するのに対し、被告らは、完成品を原告会社に提供しその承認を得ている上、そもそも、被告商品に対応する本件絵柄自体は原告らから被告らに対し提供されているのであるから、その提供を受けた時点で使用許諾が成立している旨主張する。 そこで検討するに、本件絵柄の使用許諾契約は、原告会社が本件絵柄を被告タオル美術館に提供することによって成立することは、上記において繰り返し説示したとおりである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告会社が、被告タオル美術館に対し、類型番号23の2の被告商品に対応する本件絵柄(当該被告商品に対応する原告タオルアートから推察されるもの)を提供し、これを被告一広が使用したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。また、被告商品に係る素材及び配色、織り方その他の本件タオル部分は、そもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。 したがって、類型番号23の2の被告商品については、本件絵柄の著作権を侵害するものと認めることはできない。 ス 小括 以上によれば、類型番号1、3及び23の1の被告商品については、本件絵柄の著作権侵害が成立するのに対し、その他の類型番号については、著作権侵害が成立するものとはいえない。 4 争点2(著作者人格権侵害の有無) 原告Aは、本件14柄タオルにつき、被告らにおいて原告Aが指定した色や織り方の指示に違反した商品を製造したものであり、タオル生地として織られた場合の「凹凸、陰影、色合いや風合い」などの原告タオルアートの表現上の同一性を失わせる行為であるから、本件絵柄に係る著作者人格権(同一性保持権)を侵害する旨主張する。 しかしながら、原告らにおいて上記著作者人格権侵害を主張する対象が、素材及び配色、織り方その他の本件タオル部分をいうものであれば、当該部分がそもそも著作権によって保護されるものではないことは、前記において繰り返し説示したとおりである。他方、原告らにおいて上記著作者人格権侵害を主張する対象が本件絵柄をいうものであれば、本件絵柄の一部に改変があったとしても、本件絵柄をタオル商品として具現化するに当たり行われた複製又は少なくとも翻案の範囲にとどまることは、前記において説示したとおりである。そうすると、本件絵柄の一部に改変があったとしても、基本契約による使用許諾の範囲内として、原告Aの意に反するものとはいえず、著作者人格権を侵害するものとはいえない。 したがって、原告Aの主張は、採用することができない。 5 争点3(パブリシティ権侵害の有無) 肖像等を無断で使用する行為は、@肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、A商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、B肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。 これを本件についてみると、証拠(甲16の1、甲30)及び弁論の全趣旨によれば、被告商品は、本件絵柄を商品化したものであり、本件絵柄の高い美術的価値に鑑みると、被告商品の顧客吸引力は、専ら本件絵柄に由来するものであると認めるのが相当である。そして、上記証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告商品には、「ATSUKOMATANO」というタグ(以下「本件ネームタグ」という。)が付されているものの、本件ネームタグの形状は、被告商品に比較すれば極めて小さいものであり、更にその中に記載された「ATSUKOMATANO」の文字サイズも相当程度小さいものであることが認められる。さらに、基本契約5条(甲16の1)の規定によれば、被告タオル美術館は、被告商品1点ごとに、万国著作権条約に基づく表示((c)の記号並びに著作権を有する者の氏名及び最初の発行の年をいう。)が付されるよう監督する責任を負うものとされており、本件ネームタグは、上記責任を果たすために、被告商品に付されたものであることが認められる。 これらの事情を踏まえると、本件ネームタグは、専ら被告商品の著作権を有する者の氏名を示す目的で使用されたものというべきである。 そうすると、被告らが本件ネームタグを被告商品に付する行為は、上記にいう3類型に明らかに該当するものではなく、不法行為法上違法であるということはできない。したがって、原告Aの主張は、採用することができない。 6 争点4(報告義務違反の有無) (1)被告商品2に関する審理経過 ア 原告らは、被告タオル美術館が原告会社に報告した被告一広のライセンス料は、原告会社のライセンシー又はサブライセンシーであった他の4社と比較して不自然に停滞、下落しており、このことは、被告タオル美術館が、原告会社に対し、製造販売していた被告商品2を報告することなく、被告一広のライセンス料を過少に申告したことを示しているとした上、被告らに対し、販売実績データ等のいわゆる生データ(被告らが在庫管理等に使用する管理システムであるUNIXに保存されている販売実績データ等に係るデータをいう。以下、単に「UNIXデータ」という。)の開示などによって真実の販売数量を明らかにすべきであると主張して、UNIXデータ等の開示を繰り返し求めた(令和2年10月27日付け準備書面(3)、同年12月1日付け準備書面(4)、令和3年1月8日付け準備書面(6)及び同年3月31日付け準備書面(7)各参照)。 これに対し、被告らは、裁判所の訴訟指揮(令和3年10月1日及び5日付け各経過表参照)を踏まえ、販売実績データ等に関するUNIXデータ及びこれに対応するCSV形式のエクセルファイル(以下、当該エクセルファイルのデータを、単に「CSVデータ」という。)を任意に開示する方針を定め、当裁判所が管理するチームズ等を利用して順次これらを開示した。 イ 原告らは、被告らの任意開示に係るデータの解析作業を適時進めた上、当該データは多くの誤りを含むものであり、当該誤りが通常の業務の中で生じたというのは余りにも不自然であるから、上記データは、本件訴訟に至るまで又は本件訴訟提起後に減縮加工するなど、被告らが改ざんしたものである旨主張した(令和4年8月5日付け準備書面(13)参照)。 ウ その後、原告らは、被告らの主張によればUNIXデータとCSVデータは異ならないため、UNIXデータを確認する必要はないとしたものの、なおUNIXデータの改ざんが不可能ではないとして、UNIXデータには、周辺データとの不整合があり、改ざんされたものであると改めて主張した(令和5年2月2日付け準備書面(18)参照)。そして、原告らは、被告らの任意開示に係るデータを中心に、それ自体の矛盾点に係る客観状況につき、前記第3の8(原告らの主張)(2)に掲げる事情をまとめて主張した。 エ 当裁判所は、上記経過等に鑑み、原告ら主張に係る上記矛盾点の成否につき、専門的知見を踏まえ、より慎重に判断するのが相当であると判断し、当事者双方の合意を得た上、令和5年6月9日、本件を商事調停に付し、専門的知見を有する調停委員を選任した。 そして、当裁判所は、当事者双方の意見を踏まえた上、上記矛盾点の主要な点を中心として、@被告らが原告らに開示した販売実績データ、在庫データ等の信用性、A海外工場からの出荷枚数のうち、明らかにAM商品と分かるものの枚数、Bロイヤリティ報告を受けたAM商品の枚数、CD加工版におけるインボイス記載の商品の削除につき、調停委員に意見を求めた。 オ 調停委員は、同年9月29日付けで、意見書(第12回弁論準備手続調書参照)を提出し、当事者双方は、上記意見書に関する調停委員との協議期日(令和5年10月3日付け調停期日調書参照)を経た上、上記意見書に対する主張をそれぞれ提出した(第13回弁論準備手続調書参照)。 以上により、当事者双方は、令和5年11月20日、その他に主張立証はないとし、弁論が終結された(第2回口頭弁論調書参照)。 (2)被告商品2の争点に関する先決問題 ア 販売実績データ等に係るCSVデータの改ざんの有無 上記審理経過によれば、被告らは、CSVデータとUNIXデータを原告らに任意開示した上、両データは同一である旨主張したのに対し、原告らは、被告らの主張によればUNIXデータとCSVデータは異ならないためUNIXデータを確認する必要はないとした上、なおUNIXデータの改ざんが不可能ではないとして、UNIXデータは、改ざんされたものであると改めて主張している。 これらの事情によれば、CSVデータとUNIXデータは、同一であると推認するのが相当であり、CSVデータは、被告らによってUNIXデータから改ざんされたものと認めることはできない。 イ 債務の承認の有無 原告らは、中間合意によれば、被告らは、原告らに対し、違法コピー問題、未承諾商品、ロイヤリティ未申告商品等の製造販売に関する損害賠償金の一部として、3億円を支払っているのであるから、債務の承認があった旨主張する。しかしながら、証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、上記認定に係る経過及び被告らの主張に鑑みても、当時被告商品2に係る債務の内容を具体的に認識していたものとはいえず、また、中間合意7条によっても、違法コピー問題の解決に向けて損害賠償金の総額等の決定につき別途協議することとされるなど、中間合意は、文字通り中間的合意であって最終的なものではないことが認められる。そうすると、被告らが中間合意をもって被告商品2に係る債務を承認したものと解することはできない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 ウ B品に関するライセンス料の免除 被告らは、被告一広の副社長であり本件4柄タオル問題の対応に当たっていた被告Cが、平成26年5月21日、原告Aに対し、改善嘆願書(甲22の1)を提出し、いわゆるB品等については、福袋に入れて他の商品と共にセール品として販売しており、これらは規格外商品であり特にC品は3%程度しかないため、従前ロイヤリティ報告をしていなかったことを認めた上、その際、原告会社との間で、ロイヤリティ報告がなかったものは報告も支払も不要とする代わりに、今後はB品等についても正規 品(A品)と同様に、ロイヤリティ報告と支払をする旨合意したと主張する。 そこで検討するに、証拠(甲22の1、乙69の1、乙85)及び弁論の全趣旨よれば、@被告一広は、原告会社に対し、平成26年5月21日付けで改善嘆願書を提出したところ、同嘆願書において、従来のライセンス管理体制の問題点を掲げた上、内部監査体制の再構築等という改善策を示すとともに、商品の区分として「A品」(通常販売品としての正規品)、「B品」(織りキズ・汚れ等のある検品時規格外品)、「C品」(刺繍・プリント漏れ等のある生産時規格外品)に改めて定義した上、「C品」に関しては「B品」に製品化しセール品(特価品)にて販売することを申し入れたこと、A上記改善嘆願書の該当部分には、C品の欄に「3%」という記載があり、その欄外には「←福袋」という記載もあり、これらの記載は、その場に同席した原告会社の従業員が書き取ったものであること、B被告一広は、上記申入れを踏まえ、平成29年12月14日、原告会社に対し、ロイヤリティ報告書のアイテム欄に「セール」と記載し、B品等に係るセール品の売上げを報告し、当該ライセンス料を支払ったこと、Cその後も、被告一広は、平成30年1月18日にも、原告会社に対し、ロイヤリティ報告書のアイテム欄に「セール」と記載し、B品等に係るセール品の売上げを報告し、当該ライセンス料を支払ったこと、D原告会社は、平成29年12月31日に基本契約に基づく取引を継続したものの、その間、上記申入れ並びに上記B品等に係るセール品の報告及び支払に対し、異議を述べず、改善嘆願書提出以前のセール品に係る報告及び支払を求めていなかったこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告一広が、改善嘆願書を提出した上、原告らに対し、B品等についてロイヤリティ報告をしていなかったことを認めたにもかかわらず、原告らは、その後基本契約が終了するまでの間、従前のB品等に係るセール品の報告及び支払を求めず取引を継続し、当該セール品の報告及び支払を受けているにもかかわらず、その取扱に格別異議を述べていなかったことが認められる。 これらの事情を総合すると、原告らは、被告らとの間で、平成26年5月21日、B品等に係るセール品につき、従前ロイヤリティ報告がなかったものは報告も支払も不要とする代わりに、今後ロイヤリティ報告と支払をする旨合意したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。そして、被告らは、当該合意に基づき、上記以降にB品等に係るセール品を販売した場合には、その旨の報告をした上、ライセンス料を現に支払っていたのであり、当該事情も上記推認を裏付けるものといえる。 これに対し、原告らは、被告らの主張の根拠は改善嘆願書の書き込みがあるという点に尽きるが、当該書き込みは、被告らの説明を原告らがメモしたものにとどまり、合意の存在を認めるものではない旨主張する。しかしながら、上記書き込みは、被告らが当時上記申入れをした事実を裏付けるものであり、その後原告らが上記申入れに対し格別異議を述べていなかったという上記認定に係る事情をも考慮すれば、原告らの主張は、上記認定を左右するに至らない。したがって、原告らの主張は、採用することができない。 エ 一部和解の成否(争点1−4) 被告らは、改善嘆願書等の提出、ロイヤリティの支払又は中間合意の締結及び3億円の支払によって、一部和解が成立している旨主張するものの、中間合意の内容によれば、被告らは、原告らとの間で、被告ら支払に係る3億円につき、違法コピー問題の本件賠償金の一部であることを相互に確認し、本件賠償金の総額等は、引き続き協議する旨合意していることが認められる。そうすると、中間合意の内容を踏まえると、上記各支払は、飽くまで暫定的なものと解するのが相当であり、債権債務関係を一部消滅させる法的効力まで有するものと認めるのは相当ではない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。 (3)販売実績データ等に係るUNIXデータの改ざんの有無 ア UNIXデータ(生データ)の改ざんの有無 証拠(乙71、75、95)及び弁論の全趣旨によれば、UNIXというシステムは、開発言語をCOBOL、OSをオラクルのOracle11とし、自社開発の在庫管理、販売管理、予算管理等の基幹システムであるところ、販売実績データ等は決算データと連動していること、UNIXにおける販売実績データは、現時点でも稼働している基幹システムであり、UNIXデータは、日次で4回のバックアップ、月末処理で月次バックアップをしており、これらのデータの再取得も可能であって事後に検証できること、しかも、データの最終更新日等のタイムスタンプとデータの収集作業等の日時が一致していること、以上の事実が認められる。 のみならず、原告ら自身の提出に係る小原の従業員の陳述書(甲59)によれば、同従業員は、百貨店向けに出荷する時はUNIXに伝票を打ち、東予センターから百貨店に出荷された時に小原の売上げが計上されるところ、UNIXを通じて、本社はもとよりいずれの支店でも同一のデータを確認することができ、当該データは、営業担当が前年の販売実績のデータを引き出して営業戦略を立てる目的でも使用されていたため、UNIXの中の数字が消えることはない旨陳述している。 そうすると、上記従業員の陳述内容は、具体的かつ詳細であって、UNIXのシステムに係る上記認定事実に沿うものであり、格別信用性を疑うべき事情はないというべきであるから、その信用性が高いものと認めるのが相当である。 これらの事情を踏まえると、被告らがUNIXデータ自体を改ざんすることは、それ自体極めて困難なものであり、上記認定に係る基幹システムの性質及び取引の実情等を総合すれば、被告らがUNIXデータ自体を改ざんしたものと認めるに足りないというべきである。 イ 原告らの主張に対する判断 (ア)商品マスタにおける商品登録との不一致 原告らは、商品マスタにはAM商品の品番が2万7640あるにもかかわらず、販売実績データに登場する品番は3470にすぎないから、被告らがデータの一部を削除するなどして販売実績データを改ざんした旨主張する。 しかしながら、調停委員の意見書及び弁論の全趣旨によれば、被告一広の現行の基幹システムで使用されている商品マスタは、2014年の現行システムの導入時に、旧システムからデータ移管がされており、2010年から2017年までの8年間の商品が登録されているのに対し、販売実績データには、2014年の現行システム導入時から2017年までの4年間に販売された商品が登録されているにすぎないことが認められる。のみならず、証拠(甲111、乙95)及び弁論の全趣旨によれば、商品マスタの品番には、先頭1(完成品)、先頭6(半製品)、末尾A(良品)及び末尾B(不良品)が存在するところ、このうち販売されるのは、先頭が1(完成品)かつ末尾がA(良品)のみであることが認められる。さらに、証拠(甲96)及び弁論の全趣旨によれば、商品マスタに登録されている被告商品139、143、150、188、189、221、234、283(被告らの用例に従えば、45類番、72類番、74類番をいう。)は、最終的には販売されていないことが現に認められることからすると、商品マスタに登録された品番であっても販売に至らずに、販売実績データに存在しない品番も存在することが認められ、この理は、「MEMEボーダー(原告タオルアート291)」に係る売上実績が確認できなかった品番についても同様に当てはまるといえる。 そうすると、上記認定に係る基幹システムの性質及び取引の実情等を総合すれば、その他の原告らの主張を踏まえても、販売実績データに関するUNIXデータ(生データ)が改ざんされたものとまで認めるに足りず、上記判断を左右するに至らない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (イ)品番の使い分け 原告らは、「しろくま(原告タオルアート180)」及び「しろうさぎ(原告タオルアート197)」はよく売れていたのに、被告ら提出に係る品番には、極めて少量の売上げ又はマイナスの売上げが計上されており、当該売上げは販売実態と整合しないことからすると、上記品番は、データ削除などの改ざんがされたことを示している旨主張する。 しかしながら、証拠(乙96、113)及び弁論の全趣旨によれば、「しろくま」及び「しろうさぎ」は、毛羽落ちという購入者からのクレームに対応するため商品改良を行ったため、改良前の商品と改良後の商品を区別するため新たな品番を設けることとし、原告ら主張に係る品番は、改良前の品番であり、その在庫が少なかったことを意味するにすぎないものと認められ、また、当該品番にマイナスの売上げが計上されていることは、上記改良に伴う品番変更後に返品が多かったことを意味するにすぎないものと認めるのが相当である。 そうすると、原告らの主張を踏まえても、販売実績データに関するUNIXデータが改ざんされたものとまで認めるに足りず、上記判断を左右するに至らない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (ウ)販売実態との乖離 原告らは、被告らの店舗では山積みされていたのに月間売上げが平均10枚と報告されるなど、およそ実態に沿った報告がされておらず、特に、「MEMEボーダー(原告タオルアート291)」は、AM商品の中でも近年特に人気の高かった柄であるものの、2017年の被告らの販売実績では、1店舗1か月当たり僅か2.5枚ずつしか売れていない旨報告されており、被告ら提出に係る販売実績データは、被告らの店舗において山積みされていた現実の販売実態と比較しても、明らかな乖離がある旨主張する。 しかしながら、証拠(乙97、113)及び弁論の全趣旨によれば、原告ら主張に係る「MEMEボーダー(原告タオルアート291)」は、販売現場では必ずしも人気がある商品ではなかったものと認めるのが相当である。そうすると、仮に被告らの店舗で山積みされていたとしても、被告らが主張するように単に売れ残っている事実を示す可能性があるなど、直ちに現実の販売数量が多かったことを客観的に示すものとまでいえず、販売実績データに関するUNIXデータ(生データ)が改ざんされたものとまで認めるに足りない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (エ)D加工版の存在 原告らは、2013年から2014年にかけてのベトナム工場からのインボイス(送り状)のファイルに「D加工版」という名称のファイル(以下「加工版ファイル」という。)が存在しているところ、加工版ファイルにおけるAM商品の枚数は、インボイスにおけるAM商品の枚数よりも12万8000枚以上少ないことからすると、加工版ファイルのデータは、加工されて減縮されたものあり、被告らがデータを加工したことを示している旨主張する。 しかしながら、調停委員の意見書及び弁論の全趣旨によれば、加工版ファイルの内容をみても、得意先別等にソートをかけるなど複数のソートのかけ方が認められ、何らかの特定の目的でデータを加工したものとまではいえるものの、D加工版というファイルの作成経過は明らかではなく、UNIXデータを改ざんするためのものであるとまで認めるに足りない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (オ)その他 その他に、被告らのデータ改ざんを裏付ける事情として原告らが縷々主張する事情を改めて検討しても、上記認定に係る基幹システムの性質及び取引の実情等に照らし、上記において説示したところを踏まえると、いずれも、被告らがUNIXデータ自体を改ざんしたものと認めるに足りないというべきであり、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。 (4)販売数量自体の偽装の有無 ア 別紙損害額計算表(甲19)に基づく推認の可否 原告らは、別紙損害額計算表(甲19)によれば、被告タオル美術館が原告会社に報告した被告一広のライセンス料は、原告会社のライセンシー又はサブライセンシーであった他の4社と比較して不自然に停滞、下落しており、これは、被告タオル美術館が、原告会社に対し、製造販売していた被告商品2を報告することなく、被告一広のライセンス料を過少に申告したことを示しているとして、被告一広のライセンス料は、上記他の4社と同じ割合で2003年以降推移していたはずであるから、上記割合に係るライセンス料(別紙損害額計算表の青破線)と、上記報告に係るライセンス料(別紙損害額計算表の青実線)の差額である7億6299万0840円が、被告タオル美術館において基本契約12条に基づく報告義務を怠ったことによる損害額である旨主張している。 そこで検討するに、2003年から2017年までの被告一広に係るライセンス料の推移をみると、2016年以降、ライセンス料が急に下落しているのに対し、他の4社はライセンス料が増加している。しかしながら、証拠(甲19、甲26、27)及び弁論の全趣旨によれば、2015年12月には、「今治タオル」のブランド認定に必要な品質検査を行わずに認定商品のマークを付して被告一広において販売していたという、今治タオルブランドに係る信用を毀損する重大な不正事実が、広く報道されたことが認められることからすると、被告一広の売上げが2016年以降急に下落したとしても不自然なものとはいえない。そもそも、ライセンシー又はサブライセンシーの売上げは、各会社の販売、営業等のほか、当該年度の需要等によって異なるものであるから、個別の取引事情を踏まえずに、ライセンス料のみの推移によって、被告らが販売数量自体を偽装したことまで推認することは困難であるといわざるを得ない。そして、2003年から2015年までの被告一広に係るライセンス料の推移をみても、約4500万円から約6000万円の幅で行き来しているものであり、2014年には最も高いライセンス料となっていることを踏まえても、不自然に停滞、下落しているものと直ちにいうことはできない。 これらの事情を踏まえると、被告一広のライセンス料が、上記他の4社と同じ割合で2003年以降推移していたはずであるものと認めることはできない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 イ AMブランドの実績との矛盾 原告らは、@AM商品は、2008年2月から9月における小原のライセンス商品の中で約3分の1のシェアを占めるほどの人気商品であったところ、小原が発行していたカタログにおけるAM商品の掲載点数は減少しておらず、カタログ掲載数と売上げとが連動することからすれば、2008年から2017年までにAM商品の売上げが急落しているのは、不自然であること、AAMブランドが2015年に百貨店リビング賞でベストセラー賞に選出されたこととも矛盾し、また、被告Cが、2015年のインタビューにおいて、AM商品が「前年の5倍の売上げ」と発言していることとも矛盾すること、B2011年に三越日本橋で開催されたイベントの予算は、200万ないし300万円であるところ、予算は売上目標を意味するから、その売上げが25万円であることはあり得ないことであり、また、2017年に小田急百貨店新宿店で開催されたドリームキャンペーンにおける売上げが、ほぼゼロであることもあり得ないことであり、これらの事情によれば、AM商品の売上げが2008年以降下降の一途であったとする販売実績データが改ざんされていることは、明らかである旨主張する。 しかしながら、証拠(乙97)及び弁論の全趣旨によれば、AM商品の掲載点数が減少していないとしても、AMブランドの人気がなくなれば、売上げが減少することは明らかであり、仮に2008年当時AMブランドの人気があったとしても、原告ら主張に係る上記事情のみによっては、その後もAMブランドの人気が維持されていたものとまで認めるに足りない。 また、2015年12月には「今治タオル」のブランド認定に必要な品質検査を行わずに認定商品のマークを付して被告一広において販売していたという、今治タオルブランドに係る信用を毀損する重大な不正事実が、広く報道されたことは、上記において認定したとおりである。そうすると、2015年に百貨店リビング賞でベストセラー賞に選出されていたとしても、その後、被告一広の売上げが2016年以降急に下落したことは、必ずしも不自然なものとはいえない。そして、証拠(甲64)及び弁論の全趣旨によれば、被告Cの発言は、「売り場では催事などの仕掛けで前年の5倍の売り上げ」というものであり(甲64の1)、特定の売り場における売上げが前年の5倍になったことを述べたと解するのが相当であり、必ずしもAM商品の売上げ全体が前年の5倍となったことをいうものとはいえない。さらに、イベントの売上げについても、一般に個別具体的な事情によって左右されるものであり、当該事情を具体的に主張立証しない限り、販売実績データ以上の売上げがあったことを認めるに足りないというべきである。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 ウ 在庫データの不一致 (ア)原告らは、被告らが被告商品を販売できるのは平成30年12月末日までであるため、同日時点の在庫と、その後に開示された令和2年11月時点の在庫とは一致すべきであるのに、在庫数が一致している商品は18%にすぎず、約40%の商品は在庫数が減っており、その数は合計約8万枚に上る旨主張する。 しかしながら、証拠(甲53、乙54、61の1ないし3)並びに調停委員の意見書及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、平成30年12月末日までに販売を終了しているものの、販売先から返品を受けているため、同日以降も在庫数の変動があり、しかも、被告一広パリ支店の営業権が同元従業員に譲渡され在庫も引き継がれたため、平成30年12月末日以降その分在庫が減少していることが認められる。これらの事情を踏まえると、被告商品の在庫数量に格別不合理な増加又は減少を認めることはできず、原告ら主張に係る上記事情は、被告らが販売数量自体を偽装したことまで推認するものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 (イ)原告らは、平成28年の被告商品の在庫数量、平成29年の在庫数量及び平成29年の販売数量が整合していない旨主張する。 しかしながら、証拠(乙95)並びに調停委員の意見書及び弁論の全趣旨によれば、被告一広パリ支店の在庫は別のデータで管理されていたため、在庫数量は、被告一広パリ支店への在庫の社内移動により減少していたことが認められ、その他にも、B品の焼却処分やカウントミスがあったこともうかがわれるところである。これらの事情を踏まえると、被告商品の在庫数量に格別不合理な減少を認めることはできず、原告ら主張に係る上記事情は、被告らが販売数量自体を偽装したことまで推認するものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 エ 海外工場からの出荷枚数の矛盾 原告らは、海外工場からの出荷枚数のうち明らかにAM商品であると分かるものは、2017年だけで346万1917枚であるのに、ロイヤリティ報告を受けたAM商品の枚数は223万9127枚にすぎないから、ロイヤリティ報告を受けたAM商品の枚数を1とした場合、ロイヤリティ報告を受けていないAM商品(被告商品2)の枚数は0.55となる旨主張する。 しかしながら、証拠(乙101、111、118)並びに調停委員の意見書及び弁論の全趣旨によれば、原告ら主張に係る346万1917枚の出荷枚数には、被告一広向けの商品のほかにも、川辺及び西川産業株式会社(以下「西川」という。)向けの商品が145万4083枚、海外支店向けの商品が2万6337枚、サンプル品が2936枚、それぞれ含まれていることが認められ、更にB品(ブランド別管理はしていない)も含まれているほか、出荷から日本国内に入荷するまでには、2週間ないし1か月の期間(タイムラグ)を要することが認められる。 これらの事情を考慮すれば、2017年における海外工場からの出荷枚数とロイヤリティ報告の枚数は、販売数量が偽装されていたことをうかがわせるものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 オ B品の出荷数量の整合性 原告らは、2013年から2017年までに被告一広の海外工場から出荷されたB品のうち、少なくとも約68万枚がAM商品であるところ、B品の発生率は、生産数量の1%ないし2%であるとの被告らの主張を前提とすれば、少なくともB品の50ないし100倍の商品である3400万ないし6800万枚が製造されていた計算になるのに、原告らは、これに対応するロイヤリティ報告を受けておらず、このことは、被告らが、3400万ないし6800万枚のAM商品のうち、大部分のデータを削除したことを示すものである旨主張する。 しかしながら、調停委員の意見書及び弁論の全趣旨によれば、上記にいう約68万枚のAM商品には、被告一広ではなく、川辺及び西川向けのB品が含まれていることが認められる。また、被告らが認めたとする1%ないし2%というB品の発生率も、被告らにおいて大連及びベトナム工場における生産が安定してからの数字であり、生産開始した当初は、5ないし10%であったと被告らが主張していることからすると、1%ないし2%というB品の発生率も必ずしも正確なものとはいえない。そうすると、原告ら主張に係る上記計算は、上記2つの点において前提を欠くものといえる。 これらの事情を考慮すれば、海外工場から出荷されたB品の数量に係る原告らの主張は、被告らが販売数量自体を偽装していたことまで推認するに足りないというべきである。 (5)その他 前記認定に係るUNIXというシステムによれば、販売実績データ等は決算データと連動していることからすると、原告らが縷々主張するところは、被告らが決算書を偽造したことを意味するところ、証拠(乙93ないし94)及び弁論の全趣旨によれば、被告一広は、昭和63年以降、今治税務署長から継続して優良申告法人としての表敬を受けており、直近では平成23年に税務調査を受けたものの格別問題がなかったという事情のほか、上記認定に係る事情を踏まえると、前記(3)における原告らの主張を併せて参酌しても、いずれも上記判断を左右するに至らない。そのほかに、原告らは、川辺の販売実績データには、インボイス記載の商品数と矛盾がある旨主張するものの、その分析方法の妥当性を含め、正規品番以外の番号を付して販売していたことを裏付ける的確な証拠はなく、川辺においてデータが改ざんされたことを認めるに足りず、海外データにも矛盾がある旨の主張も、同様にその裏付けを欠くもの又は偽装をいうに足りないものというべきであり、上記判断を左右するに至らない。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。 (6)結論 以上によれば、原告らのロイヤリティ報告義務違反に基づく請求は、被告らにおいて報告義務違反を認める請求部分を除き、理由がないものといえる。 7 争点7(原告らに生じた損害の有無及びその額) (1)原告Aの損害額 ア 著作権法114条2項の適否 前記判断によれば、原告Aには、類型番号1、3及び23の1の著作権侵害につき、損害が生じているところ、原告らは、当該損害額の算定に当たり、著作権法114条2項を適用することができる旨主張するため、以下検討する。 (ア)著作権法114条2項は、著作権の排他的独占的効力に鑑み、著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下「著作者等」という。)においてその侵害の行為により売上げが減少した逸失利益の額と、侵害者が侵害行為により受ける利益の額とが等しくなるとの経験則に基づき、当該利益の額を著作権者等の売上げ減少による逸失利益の額と推定するものである。しかしながら、著作権者等がその著作物の許諾によって得られる許諾料の額は、売上げ減少による逸失利益の額とは明らかに異なるものであり、両者が等しくなるとの経験則を認めることはできないことからすると、著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、上記の推定をする前提を欠くことになる。 したがって、著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、著作権法114条2項の規定は適用又は類推適用されないと解するのが相当である。 これを本件についてみると、弁論の全趣旨によれば、原告Aは、デザイナーであり、自身の著作権を管理する原告会社を通じてライセンス料(ロイヤリティ収入)を得ており、タオル等の製造、販売は行っていないことが認められる。そうすると、仮に被告らの侵害行為によって原告らの許諾料に係る収入が減少するという関係が認められたとしても、原告Aは本件絵柄の許諾料のみを得ていたことになるから、著作権法114条2項の規定は、適用又は類推適用されないものといえる。 (イ)これに対し、原告らは、役員4名が原告Aの家族で構成され、株式を原告Aの家族3名で保有するら・むりーずが、原告A制作に係る商品を製造、販売等する会社であり、原告A及びら・むりーずは、直接的かつ密接な管理指示関係にあるから、知的財産高等裁判所令和3年(ネ)第10091号同4年4月20日判決(以下「令和4年判決」という。)が説示するところを踏まえても、著作権法114条2項の適用が認められるべきであると主張する。 そこで検討するに、令和4年判決は、株式100%を間接保有する親会社の指示管理の下で、グループ会社数社が一体となって当該特許を利用した事業を遂行している場合に、特許権者が実施していなくてもグループ会社が実施していることをもって、特許法102条2項の適用を認めたものである。 しかしながら、証拠(甲99、乙12)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aは、本件絵柄に係る著作権者であるところ、ら・むりーずの役員ではなく、その株式数又は出資の割合も、ら・むりーず全体の約26%にすぎないことが認められる。そうすると、上記において説示した著作権法114条2項の趣旨目的に鑑みても、ら・むりーずと原告Aを一体のものとみるのは相当ではなく、令和4年判決は、本件と事案を異にするため、本件に適切ではない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 イ 損害額の算定 弁論の全趣旨及び原告らの主張を踏まえると、少なくとも著作権法114条3項を適用して損害額を算定するのが相当であるところ、同項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を、以下検討する。 証拠(甲16の2、甲25)及び弁論の全趣旨によれば、@平成10年1月1日に締結された基本契約によれば、被告タオル美術館は、原告会社に対し、小売金額の2.75%の使用料及びミニマムロイヤリティの額(ただし、上記2.75%の使用料がミニマムロイヤリティの額を超える場合には当該ミニマムロイヤリティの額を控除したものをいう。以下同じ。)を集計して報告し、当該合計額が3000万円のマスターライセンス年間使用料を超えた場合には、上記使用料及びミニマムロイヤリティの合計額を支払うものとするとされていること、Aその後、平成10年12月5日に締結された覚書において、被告タオル美術館は、原告会社に対し、被告タオル美術館とサブライセンシーが契約した使用料がミニマムロイヤリティを超えてオーバーロイヤリティが発生した場合には、その金額の2分の1の額を支払うものとする旨改めて合意し、基本契約に係る上記合意を変更したこと、B被告タオル美術館は、サブライセンス契約に基づき、被告一広から、被告商品の小売金額に対し3%の割合で算出した金額から当該契約年度に関するミニマムロイヤリティ(契約年度ごとに500万円)を差引計算後の残代金の支払を受けていたこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告タオル美術館は、被告一広から、被告商品の小売金額に対し3%の割合で算出した金額(ミニマムロイヤリティの額を超える場合には当該額を除くもの)の支払を受けていたことからすれば、被告らの侵害態様その他本件に現れた諸事情に照らし、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、類型番号1、3及び23の1の販売額の合計額に3%を乗じた額と認めるのが相当である。 そうすると、弁論の全趣旨によれば、別紙侵害類型分類一覧表の金額欄記載のとおり、類型番号1の販売額は6664万9900円、同3の販売額は48万8988円、同23の1の販売額は4351万6000円であり、その合計額は1億1065万4888円であると認めるのが相当であるから、損害額は、上記合計額に3%を乗じた額である331万9647円と算定するのが相当である。そして、本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁護士費用相当損害額としては、331万9647円の1割である33万1965円の限度で認めるのが相当である。 (2)原告会社の損害額 ア 被告商品1に係る損害額 原告らは、被告タオル美術館が被告一広から受領したオーバーロイヤリティ額が、被告タオル美術館の管理義務違反と相当因果関係のある損害である旨主張するものの、類型番号1、3及び23の1に対応するオーバーロイヤリティの額は明らかではないことからすると、被告商品1に係る管理義務違反によって原告会社が被った損害額は、前記認定に係る諸事情に鑑み、上記(1)イの損害額と同額である331万9647円と認めるのが相当である。 イ 被告商品2に係る損害額 被告商品2に係る報告義務違反は、被告らにおいて報告義務違反を認める部分を除き、理由がないことは、前記6において説示したとおりである。 そして、弁論の全趣旨によれば、前記(1)イ記載のミニマムロイヤリティはいずれの年においても達成していることが認められるほか、証拠(乙33、乙74、乙78、乙79)及び弁論の全趣旨を踏まえると、被告商品2に係る報告義務違反及び管理義務違反によって原告会社が被った損害金の合計額は、被告らにおいて自認する別紙損害の内訳記載のとおり、同対象欄イ(大連未承認リスト)、オ(29類番)、ク(42類番)、ケ(45類番)、シ(74類番)、その他(ロイヤリティ再集計誤差分)に掲げる未払額の合計4274万1223円の限度で認めるのが相当である。 したがって、被告商品2に係る損害額は、合計4274万1223円と認めるのが相当である。 8 弁済の抗弁の成否 前記前提事実及び証拠(甲17)によれば、被告らは、平成30年4月27日、原告会社に対し、連帯して、原告Aのブランドに関する違法コピー商品、未承諾商品、ロイヤリティ未報告商品等の製造販売に関する件(違法コピー問題)の損害賠償金の一部として、平成30年4月27日に3億円を支払っており、原告ら及び被告らは、上記3億円が違法コピー問題に係る損害金の一部であることを相互に確認している。 そうすると、前記認定に係る原告らの損害金の合計額は、その遅延損害金を参酌しても明らかに3億円を下回るものであるから、前記認容に係る原告らの損害賠償請求権は、3億円の上記支払によって既に全部消滅したものと認めるのが相当である。 したがって、被告らの弁済の抗弁は、取締役の責任の有無、消滅時効の抗弁の成否その他の争点を判断するまでもなく理由があるから、原告らの本訴請求は、いずれも理由がない。 9 その他 その他に、原告らの準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、新たに付与された創作的表現部分に限り一定期間を保護するという著作権法の趣旨目的、当事者双方が締結した基本契約等の内容、基幹システム(UNIX)の仕組み、調停委員の意見書等、その他前記において説示したところに鑑みると、原告らの主張は、前記判断を左右するに至らない。したがって、原告らの主張は、前記判断に抵触する部分については、いずれも採用することができない。 10 争点8(不作為義務違反及び協議義務違反の有無) (1)不作為義務違反(中間合意3条1項違反)について 被告らは、原告らは被告らとの間で中間合意をし、同3条1項に基づき、被告らが基本契約解除後から継続的販売していた在庫商品全てに対し、ライセンサーとして権利行使をしてはならない不作為義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、売上げのうち75%がAM商品の違法コピーである旨主張して、3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、上記不作為義務に違反した旨主張する。 しかしながら、中間合意3条1項は、原告らが被告らに対し在庫販売を許可する対象につき、平成30年12月末日までの間、被告らが製造した中間合意成立時点の被告商品のうち、「承認済み商品」に限ると規定している。 そうすると、原告らは、中間合意の規定によれば、承認済み商品に限り在庫商品の販売を許諾したものと解するのが相当であるから、被告らが基本契約解除後から継続的販売していた在庫商品全ての販売を許諾したという被告らの主張は、前提を欠く。そして、証拠(乙50)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、中間合意締結後の平成30年6月14日の打合せ等において、許諾期間外の商品や改変商品は「承認済み商品」に該当しないという趣旨で、AM商品に係る売上げのうち75%が違法コピーである旨主張したのであるから、その主張の当否は格別、中間合意において上記の趣旨で「承認済み商品」と明記された以上、違法コピー問題の解決に向けて上記主張をすること自体が、中間合意3条1項に反するということはできない。 したがって、被告らの主張は、採用することができない。 (2)協議義務違反(中間合意7条違反) 被告らは、原告らは被告らとの間で中間合意をし、同7条に基づき、違法コピー問題の解決に向けて、在庫の販売期間の延長等に関し、被告らと協議すべき義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、在庫の販売期間の延長等に関し一切協議を行わず、かえって3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、更に被告らに100億円を超える多額の損害金を請求するなどして、在庫の販売期間の延長に関する協議義務に違反した旨主張する。 しかしながら、証拠(乙107、108)及び弁論の全趣旨によれば、違法コピー問題の解決に向けて、原告らは、中間合意締結後、被告らとの間で協議を継続し、平成30年11月7日に被告らが申し立てた調停は令和元年7月4日に不成立となったものの、その調停期日にも出席等しているのであって、違法コピー問題に関する見解の相違は数多く認められたものの、本件訴訟を含め、被告らとの間で誠実に対応し協議を重ねていたことが認められる。 そうすると、違法コピー問題の解決に当たって、協議事項が多岐にわたり、仮に在庫の販売期間の延長に関する協議に至らなかったとしても、上記の協議経過に鑑みると、原告らが中間合意7条に違反したものとは明らかに認めることはできない。 したがって、被告らの主張は、採用することができない。 (3)その他 その他に、被告らの準備書面及び証拠を改めて検討しても、被告らの主張は、中間合意に係る規定の内容に鑑みると、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。 第5 結論 よって、原告らの本訴請求及び被告らの反訴請求は、いずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 尾池悠子 裁判官 古賀千尋は差支えのため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 中島基至 (別紙)遅延損害金一覧表 内金1090万3814円に対する平成11年8月1日から 内金539万8544円に対する平成12年2月1日から 内金1552万8340円に対する平成12年8月1日から 内金1063万3146円に対する平成13年2月1日から 内金1544万1298円に対する平成13年8月1日から 内金739万9599円に対する平成14年2月1日から 内金1534万7976円に対する平成14年8月1日から 内金1505万3545円に対する平成15年2月1日から 内金1892万8673円に対する平成15年8月1日から 内金1562万4500円に対する平成16年2月1日から 内金1789万2662円に対する平成16年8月1日から 内金767万7514円に対する平成17年2月1日から 内金2145万8275円に対する平成17年8月1日から 内金508万4766円に対する平成18年2月1日から 内金1988万8101円に対する平成18年8月1日から 内金342万3801円に対する平成19年2月1日から 内金2639万4093円に対する平成19年8月1日から 内金496万8064円に対する平成20年2月1日から 内金3239万9912円に対する平成20年8月1日から 内金461万0579円に対する平成21年2月1日から 内金3201万7463円に対する平成21年8月1日から 内金142万1248円に対する平成22年2月1日から 内金2992万6684円に対する平成22年8月1日から 内金413万8862円に対する平成23年2月1日から 内金2963万4322円に対する平成23年8月1日から 内金198万8106円に対する平成24年2月1日から 内金3478万5101円に対する平成24年8月1日から 内金590万4289円に対する平成25年2月1日から 内金3615万1269円に対する平成25年8月1日から 内金741万5465円に対する平成26年2月1日から 内金4102万9755円に対する平成26年8月1日から 内金1032万7929円に対する平成27年2月1日から 内金3794万7190円に対する平成27年8月1日から 内金1121万8299円に対する平成28年2月1日から 内金2907万6262円に対する平成28年8月1日から 内金757万0067円に対する平成29年2月1日から 内金2869万1391円に対する平成29年8月1日から 内金1億円に対する、被告タオル美術館及び被告Cについては令和元年11月28日から(ただし、令和元年11月29日から支払済みまで年2割5分の割合による金員の限度で被告Bと連帯して)、被告Bについては令和元年11月29日から 内金10億円に対する令和4年11月2日から 別紙原告著作物目録の2枚目以降、別紙被告商品目録の2枚目以降及びその余の別紙は省略。 (別紙)原告著作物目録 (別紙)被告商品目録 |
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