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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AT
【年月日】令和6年3月25日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70348号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和6年3月7日)

判決
原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 梶原圭
同 大重智洋


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1〜4記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件各動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録1〜4記載の各発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。以下同じ。)
(1)当事者等
ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売、インターネットを利用した情報の収集及び提供等を目的とする株式会社であり、本件各動画の著作権を有する(甲2、18)。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、本件発信者情報を保有している。
(2)「BitTorrent」の仕組み等
 「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆるP2P形式のネットワークである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際には、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。
 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降はピースのアップロードのみを行うこととなる。(以上につき、甲4〜6)
(3)原告による本件各動画のビットトレント上のアップロード調査
 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件各動画に係るファイルのアップロードの有無につき調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「●(ギリシア文字。ミュー)torrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードしているユーザにおいて、別紙発信者情報目録1〜4記載の各日時(以下、これらを併せて「本件日時」という。)に同記載の各IPアドレス(以下、これらを併せて「本件IPアドレス」といい、本件日時、本件IPアドレス等により特定される氏名不詳者による通信を「本件通信」という。)が使用されていることを報告した(甲1、2、4〜6、8)。
2 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
(2)「特定電気通信」該当性(争点2)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
 本件調査会社は、調査対象となる本件各動画をインデックスサイトで検索して、トレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動して、本件各動画に係るファイルのダウンロードを行った。本件クライアントソフトは、ビットトレントを使用しているピアのIPアドレス等の情報を表示する機能を有するところ、別紙発信者情報目録1〜4記載の各日時に上記ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアが接続した各IPアドレスは、別紙発信者情報目録1〜4記載のとおりであった。このことは、ダウンロード中の時点である上記日時における本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(以下「本件実行画面」という。)に、「ダウンロード中」との文字やIPアドレスが表示されていることからうかがわれる。また、上記によりダウンロードされた動画は、本件各動画と同一内容であった。
 そうすると、本件通信を行った氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、ビットトレントを用いて自ら又は他のユーザと共同して、別紙発信者情報目録1〜4記載の各日時に、本件調査会社に対して本件各動画に係るファイル(ピース)を自動公衆送信したものといえる。
 したがって、原告の本件各動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 本件のように、著作物の一部分のみによる著作権(公衆送信権)侵害が問題となる場合には、少なくとも、当該部分に創作的な表現が含まれており、独立した著作物性が認められること、及び公衆送信の対象となった一部分から侵害対象とされる著作物の本質的特徴を感得できることが必要である。
 本件では、ビットトレントの仕様上、本件調査会社を含む各ユーザ間のデータ授受は、動画ファイル全体を一つの単位としてではなく、ピースファイル単位でされるものである。そうすると、少なくとも、当該ピースファイルがそれぞれ再生可能でなければ上記各要件を充足しないところ、本件調査会社によりダウンロードされた各ピースの再生可能性は明らかでない。また、本件でダウンロードされた各ピースに創作的な表現が含まれており、独立した著作物性が認められることや、各ピースから本件各動画の本質的特徴を感得できるものであることは、何ら明らかではない。
 したがって、本件通信が原告の公衆送信権を侵害することが明らかとはいえない。
(2)争点2(「特定電気通信」該当性)について
(原告の主張)
 本件通信は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信であるから、「特定電気通信」(法2条1号)に該当する。
(被告の主張)
 本件調査会社が本件各動画に係るファイルをダウンロードしたとされる通信(本件通信)は、本件調査会社と各ユーザとの間で行われた一対一の通信と評価できる。このため、本件通信は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信とはいえず、「特定電気通信」に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1)前提事実、証拠(甲1、2、4〜6、8、9、11、12、14、15、17、25、26、34、36)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件クライアントソフトは、ビットトレントの制作会社により開発され、維持されており、ビットトレントのプロトコル定義で設定されたガイドラインを遵守し、これに準拠している。本件クライアントソフトは、ビットトレントを利用しやすくするために、トレントファイルを読み込み、ピースをダウンロードすると共に、ダウンロードに対応するアップロードをするピアのIPアドレス等の情報を表示する機能を有する。
イ 本件調査会社は、調査対象となる本件各動画の品番を確認し、これをインデックスサイトの検索フォームに入力して検索し、本件各動画に係るトレントファイルをダウンロードした。その上で、本件クライアントソフトを起動して上記トレントファイルを読み込み、本件各動画に係るピースを有するピアからピースのダウンロードを開始した。その際、本件クライアントソフトの実行画面には、ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアのIPアドレスが表示された。ダウンロードされたピースに係る映像は全てのピース(完全な状態のファイル)がダウンロードされる前においても再生できるところ、本件調査会社は、そのダウンロード中において、ダウンロードしたピースに係る映像が再生できることを確認した。その後、本件調査会社は、ダウンロード進行中の時点である別紙発信者情報目録1〜4記載の各日時に、本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(甲1。本件実行画面)を撮影し、上記各IPアドレスを保全した。
 上記アップロードを行ったピアの各IPアドレスは別紙発信者情報目録1〜4記載のとおりであった。また、こうしてダウンロードされた完全な状態のファイルと本件各動画とは、同一の内容であった。
(2)検討
 本件調査会社による調査及びこれに使用した本件クライアントソフトそれ自体の信頼性については、その点に疑義を抱くべき具体的な事情が見当たらないことなどに鑑みると、十分に信頼し得るものといってよい。
 そうすると、前記前提事実及び認定事実によれば、別紙発信者情報目録1〜4記載の各日時に同目録記載の各IPアドレスを割り当てられた本件発信者は、ビットトレントを通じ、本件調査会社の求めるところにより、本件各動画に係るファイル(ピース)をアップロードしたということができる。したがって、本件発信者は、本件各動画に係るファイルの全部又は一部を公衆からの求めに応じ自動公衆送信したものと認められる。
 また、弁論の全趣旨によれば、原告はこれを許諾していないものとみられると共に、その他の違法性阻却事由の存在もうかがわれない。
 したがって、本件発信者の上記行為により、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといってよい。
(3)被告の主張について
 被告は、本件通信により送信されたピースについて、本件各動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの的確な主張立証はなく、自動公衆送信権が侵害されたとはいえない旨を主張する。
 しかし、前記前提事実及び認定事実によれば、本件発信者は、本件通信及びこの前後において継続的に行った本件各動画に係るファイル(ピース)をアップロードする通信により、自ら又は他のユーザと共同して、本件調査会社に対し、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る映像を再生可能なファイルを送信したものといえる。
 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点2(「特定電気通信」該当性)について
 「特定電気通信」とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいうところ(法2条1号)、同条の文理に加え、著作権侵害等の加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図る同条の趣旨に鑑みると、最終的に不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為に必要不可欠な電気通信の送信はこれに該当すると解するのが相当である。
 本件通信は、それ自体は本件発信者と本件調査会社との一対一対応の通信であるとしても、不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為にとって必要不可欠な電気通信の送信といえる。したがって、これをもって「特定電気通信」に該当するというべきである。これに反する被告の主張は採用できない。
3 その他の要件について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対して、本件各動画に係る著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求等をする準備をしていると認められることから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があるといえる。
4 まとめ
 以上より、原告は、法5条1項に基づき、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 吉野弘子


別紙 発信者情報目録1
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 (表省略)

別紙 発信者情報目録2
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別紙 発信者情報目録3
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別紙 発信者情報目録4
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 (表省略)

(別紙侵害著作物目録省略)
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