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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件X
【年月日】令和6年3月22日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70274号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和6年3月8日)

判決
原告 株式会社ホットエンターテイメント
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社訴訟承継人 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有すると主張する原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の複製物を公衆送信したことで、原告の著作権を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、被告が提供する電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。)
(1)当事者について
 原告は、DVDソフト等の製作等を業とする株式会社である(甲18、弁論の全趣旨)。
 エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社(以下「レゾナント」という。)は、インターネット接続サービスを提供する株式会社である。レゾナントは、令和5年7月1日、被告と合併して消滅し、被告がレゾナントの権利義務を承継した(弁論の全趣旨)。
(2)発信者情報の保有について(争いがない)
 別紙発信者情報目録記載のIPアドレス及び発信元ポート番号を用いて同目録記載の日時に行われた通信(以下「本件通信」という。)は、レゾナントの電気通信設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
(3)ビットトレントの概要等について(甲4から6、9、11)
 ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファイルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。以下同じ。)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うものである。ファイルをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッカー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウンロードさせることになる。
 なお、ユーザーは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
(4)原告による調査(甲1、4、5、9、弁論の全趣旨)
 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、ビットトレントを管理する会社が開発した「μTorrent」というクライアントソフト(以下「本件ソフトウェア」という。)を起動して、本件ソフトウェアを用いて当該トレントファイルからダウンロードすることで、本件動画の複製物であるデータのダウンロードを開始し、当該ダウンロード中、本件ソフトウェアにより、調査を行っている端末の画面上にビットトレントに接続して本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしているピア(以下「本件発信者」という。)がしたとされる通信に際して割り当てられたIPアドレス及びその日時を表示させ、その画面を画像として記録し、さらに、実際に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較し、ダウンロードしたデータが本件動画のデータと同一のものであることを確認する方法により調査を行った(以下、この調査を「本件調査」という。)。本件調査の結果、調査を行っている端末の画面には、本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしていた際の本件発信者がしたとされる本件通信の日時及びその際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスが表示された(以下「本件調査結果」という。)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)原告が本件動画の著作権者であるか(争点1)
(原告の主張)
 本件動画は映画の著作物であるところ、原告の従業員らが、原告の発意に基づき、監督、編集等を担当して作成されたものであり、本件著作物の全体的な製作に関する決定は、原告の代表者や従業員により行われているから、著作権法29条1項により、原告に著作権が帰属する。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
(2)本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の通信であるといえるか(争点2)
(原告の主張)
 μTorrentでは、データの取得元のIPアドレスを表示させる仕組みを有しているところ、本件ソフトウェアはビットトレントを管理する会社が提供したものであり、ビットトレントを通じて取得した情報を正確に利用者に提供している。また、機械のメカニズムとして取得した内容が不正確である場合や曖昧である場合、ソフトウェア等は止まる。
 そして、本件調査の際のキャプチャー画像は、上部が本件調査会社の端末の状況を、下部が本件発信者の端末の状況をそれぞれ示しているが、上部が「ダウンロード中」の表示をしている場合、本件調査会社は本件発信者から現にファイルのダウンロードをしていることを示す。また、本件調査会社は、ダウンロードしたファイルのデータが本件動画のデータと同一であることを確認している。
 したがって、本件調査結果は信用でき、その本件調査結果によれば、本件調査会社は、本件発信者が違法にアップロードした本件動画の複製ファイルを取得していることは明らかであり、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の通信であるといえる。
(被告の主張)
 本件ソフトウェアは、一般社団法人テレコムサービス協会が認定する監視ソフトウェアではなく、ピアツーピアネットワークの監視を目的としたシステムによるものでもない。そして、原告が提出したキャプチャー画像は、本件ソフトウェアのプログラムの実行における動作の過程で表示されるIPアドレスの正確性やこれが割り当てられている通信の意味を立証するまでのものではなく、本件通信の存在やその意味については何ら立証されていない。
 加えて、本件キャプチャー画像の内容をみても「下り速度」の表示がないもの、ファイルの送信がないことを示す「d」のフラグの表示があるもの等、本件発信者からのアップロードが進行中ではなかったことをうかがわせるものも存在する。
 また、ビットトレントネットワークを利用した通信はトラッカーサーバーを介してネットワークの形成やファイルの送受信をする過程で様々な通信をしており、原告が適当な時刻にキャプチャーした画面で表示されたIPアドレスを摘示してその組合せにより主張する本件通信が、本件動画をダウンロードした際の通信であるということはできない。
 したがって、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の通信であるとはいえない。
(3)本件通信によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと評価できるか(争点3)
(原告の主張)
 本件調査結果によれば、本件調査会社が現に本件発信者から本件動画ファイルのデータをダウンロードしているのであるから、自動公衆送信の態様により公衆送信権侵害をしていることは明らかである。
 なお、本件調査会社は、ダウンロードしたデータについて本件動画の内容を確認し、記録している。
(被告の主張)
 本件通信により本件動画のファイルのピースが送信されたとしても、自動公衆送信権の侵害が認められるためには、当該ピースにより本件動画の表現の本質的特徴が感得できる必要があるが、本件通信によって送信されたピースについて、本件動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの立証はなく、仮に、本件通信が本件動画のファイルを構成するピースを送信したものであるとしても、自動公衆送信権侵害は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
 本件動画は、いずれも映画の著作物(著作権法10条1項7号)に当たる(弁論の全趣旨)ところ、証拠(甲35)によれば、本件動画は、原告代表者又は原告の従業員がプロデューサーとして企画し、制作させた物であって、本件動画の監督や出演者等に対する出演料について原告が負担していて、原告が業務として製作したものであることが明らかであり、本件動画の製作者は原告である。そして、本件動画の監督や出演者等は本件動画の製作に参加していて、本件動画の製作への参加を約束していたことが推認することができるから、本件動画の著作権者は原告であると認められる(著作権法29条1項)。
 この点を争う被告の主張は採用できない。
2 争点2について
(1)本件調査会社が本件ソフトウェアを使用して本件調査をした際に本件ソフトウェアの状況をキャプチャーされた画像(甲1)によれば、本件調査の際には本件ソフトウェア上の本件調査会社の端末の状況が「ダウンロード中」であることを示す表示がされているところ、証拠(甲9)によれば、当該表示は、本件調査会社がファイルをダウンロードしていることを示す表示であると認められ、実際に本件動画の複製ファイルのデータがダウンロードされている(甲7、8)。
 そして、本件調査会社がした本件調査と類似する調査においては、調査対象となる動画データの約21.3パーセントをダウンロードするのに約50分(甲14)かかったが、その間、対象となる動画に関してピアに割り当てられているものとして表示されたIPアドレスは一度も変化しなかった。前記第2の2(4)のとおりの本件調査の内容からすると、本件調査の際も同様であったと推認することができる。
 加えて、証拠(甲1)によれば、本件調査会社が前記キャプチャー画像を記録したのは、本件調査会社の端末が本件動画を継続的にダウンロードしている時であり、また、上記端末の画面には、その時点で本件調査会社の端末に上記ダウンロードに係る送信をしていた者に割り当てられていたIPアドレスが表示されていたと認められる。
 前記第2の2(4)の事実にこれらの事情を併せ考えれば、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製物のファイルをダウンロードした際の通信であると認められる。
(2)被告は、本件ソフトウェアが一般社団法人テレコムサービス協会の認定する監視ソフトウェアではなく、ピアツーピアネットワークの監視を目的としたシステムでないことなどを指摘する。しかし、前記(1)に述べた点に照らせば、これらの事情から直ちに本件ソフトウェアのIPアドレスの表示等の正確性に疑義が生じるとはいえない。
 また、被告は、本件調査の中で記録された前記のキャプチャー画像の内容に「下り速度」の表示がないこと、ファイルの送信がないことを示す「d」のフラグの表示があることを指摘する。しかし、証拠(甲14、24、25)によれば、本件調査会社は、本件調査と同様の調査において、本件調査におけるのと同様の表示状態であったにもかかわらず対象の動画をダウンロードできていることが認められ、これらは本件調査においても同様と認められるから、この点に関する被告の主張は前記認定を左右しない。
 加えて、被告は、ビットトレントネットワークを利用した通信はトラッカーサーバーを介してネットワークの形成やファイルの送受信をする過程でデータをダウンロードする際様々な通信をすることから、本件通信が本件動画のデータをダウンロードしている際の通信であるかどうか不明である旨主張するが、前記(1)で述べたところに照らせば採用できない。
 したがって、被告の主張は採用できない。
3 争点3について
 証拠(甲8)によれば、本件動画の複製物がダウンロードされていることが認められ、その複製物からは、本件動画の表現の本質的特徴を感得することができる。
4 以上によれば、本件発信者は、本件通信において原告が著作権を有する本件動画の複製物を公衆送信した。著作権法の権利制限事由の存在など著作権侵害の成立を阻却する事由を基礎づける事実も認められず、本件発信者は本件通信により原告の権利を侵害したことが明らかである。
 弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そのためには、被告から本件通信の発信者情報の開示を受ける必要があるといえるから、原告には、プロバイダ責任制限法5条1項2号の「正当な理由がある」といえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


(別紙動画目録省略)

(別紙)発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス

(以下省略)
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