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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AO 【年月日】令和6年3月22日 東京地裁 令和5年(ワ)第70263号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年1月31日) 判決 原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー・ミュージックレーベルズ」という。) 原告 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下「原告ソニー・ミュージックエンタテインメント」という。) 原告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ(以下「原告バンダイナムコミュージックライブ」という。) 原告 キングレコード株式会社(以下「原告キングレコード」という。) 上記4名訴訟代理人弁護士 林幸平 同 笠島祐輝 同 前田哲男 同 福田祐実 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 金子和弘 主文 1 被告は、原告ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。 2 被告は、原告ソニー・ミュージックエンタテインメントに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。 3 被告は、原告バンダイナムコミュージックライブに対し、別紙発信者情報目録記載3の各情報を開示せよ。 4 被告は、原告キングレコードに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開示せよ。 5 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、レコード製作会社である原告らが、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利用するためのソフトウェアであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告らがレコード製作者の権利を有する各レコード(以下「本件各レコード」という。)を複製して作成した楽曲ファイル(以下「本件各楽曲ファイル」という。)を、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態とすることによって、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償等を請求するため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載1ないし4の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 原告らは、レコードを製作の上、これを複製して音楽CD等として発売している株式会社である。 被告は、一般利用者を対象とするインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社である。 (2)原告らによる本件各レコードの製作等 ア 原告ソニー・ミュージックレーベルズは、実演家Aが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年11月16日、「甲」との名称の商業用音楽CD(商品番号:(番号は省略))を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード1」という。)。 イ 原告ソニー・ミュージックエンタテインメントは、実演家Bが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年11月9日、「乙」との名称の商業用音楽CD(商品番号:(番号は省略))を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード2」という。)。 ウ 原告バンダイナムコミュージックライブは、実演家Cが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年3月4日、「丙」との名称の商業用音楽CD(商品番号:(番号は省略))を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード3」という。)。 エ 原告キングレコードは、実演家Dが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年7月20日、「丁」との名称の商業用音楽CD(商品番号:(番号は省略))を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード4」という。)。 (3)本件各レコードに係る原告らの送信可能化権 原告ソニー・ミュージックレーベルズは、本件レコード1について、原告ソニー・ミュージックエンタテインメントは、本件レコード2について、原告バンダイナムコミュージックライブは、本件レコード3について、原告キングレコードは、本件レコード4について、それぞれレコード製作者としての送信可能化権(著作権法96条の2)を有する。 (4)ビットトレントの仕組み(甲26、27、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利用するためのソフトウェアである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、インデックスサイトと呼ばれるインターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、他のピアのIPアドレス等の情報のリストを取得する。 上記の手順によってピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、これに対し当該他のピアがこれに応答することを確認した上(以下、この当該他のピアとの通信を「ハンドシェイクの通信」という。)、当該他のピアが上記特定のファイルを構成するピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (5)株式会社Flow(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲2、6、10、14、26ないし32、弁論の全趣旨)本件調査会社は、「P2PFINDER」という名称のシステム(以下「本件システム」という。)を利用して、別紙発信者情報目録記載1ないし4の日時及びIPアドレスを以下の方法により特定した。 ア トラッカーに記録されている対象ファイルを保有しているピアのIPアドレスの情報一覧を自動的に取得する。 イ 前記アのIPアドレスが割り当てられているピアと順次ハンドシェイクの通信を行い、対象ファイル全体を保有しているかどうかを確認する。 ウ 対象ファイル全体を保有していると判断できたピアからのみ、対象ファイルのピースをダウンロードする。別紙発信者情報目録記載1ないし4の日時は上記のダウンロードを行った日時である(以下、本件調査会社が本件システムを利用して本件各楽曲ファイルのピースをダウンロードした際の通信のことを「本件通信」という。)。 (6)本件各発信者情報の保有 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点 (1)原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1) (2)本件各氏名不詳者らが「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)に該当するか(争点2) (3)原告が本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について (原告らの主張) (1)ビットトレントの仕組みによれば、本件各氏名不詳者は、本件通信が行われるまでに、トレントファイルをインデックスサイトから入手し、それをクライアントソフトウェアに取り込み、ビットトレントネットワークに参加している不特定多数のピアからピースを取得することによって、自らの端末に本件各楽曲ファイル(このファイルには、本件各レコードに録音された楽曲と同一の楽曲が記録されている。)をダウンロードしたものといえ、この行為は、著作権法2条1項9号の5イ又はロに該当する行為といえる。 そして、本件各氏名不詳者が、上記のダウンロードから本件通信が行われるまでの間、クライアントソフトウェア等を起動させたままにしていたのか(著作権法2条1項9号の5イに該当する場合)、それとも、上記のダウンロード後にいったんクライアントソフトウェア等を停止させ、再度起動させたのか(同ロに該当する場合)は、明らかではないが、いずれにしても、本件各氏名不詳者は、本件通信が行われた時点までに、著作権法2条1項9号の5イ又はロに該当する行為によって、本件各楽曲ファイルを自動公衆送信し得るようにしていたものといえる。 (2)また、本件通信自体を捉えたとしても、本件通信は、本件調査会社が本件システムを利用して本件各楽曲ファイルをダウンロードした際の通信であり、少なくともこの時点で、本件各氏名不詳者は、本件各楽曲ファイルを記録した自らの端末をインターネットに接続したものといえるから、本件通信に係る本件各氏名不詳者の行為は著作権法2条1項9号の5ロに該当する。 さらに、本件通信は、本件各氏名不詳者が本件各楽曲ファイルを保有していない本件調査会社の端末に同ファイルのピースを記録するものともいえるから、本件通信に係る本件各氏名不詳者の行為は著作権法2条1項9号の5イに該当する。 (3)したがって、いずれの解釈をとるとしても、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。 (被告の主張) (1)原告らは、本件通信より前に、著作権法2条1項9号の5イ又はロに該当する行為があったことを理由に、原告らの送信可能化権が侵害されたと主張する。 しかし、著作権法2条1項9号の5は、同号イ又はロによる行為のみを送信可能化と定義しているのであり、これらの行為がいったん完了すれば、送信可能化行為は終了し、その状態が更に継続すると解することはできない。 (2)また、原告らは、本件通信自体に係る本件各氏名不詳者の行為が著作権法2条1項9号の5イ又はロに該当するとも主張するが、この要件を満たすことについては、何ら立証がされていない。 さらに、本件通信は、本件各氏名不詳者と本件調査会社との間で行われた閉ざされた通信であり、「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信」ではないから、本件では、送信可能化の前提となる「公衆送信」(著作権法2条1項7号の2)も存在しない。 (3)したがって、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権が侵害されたことは明らかではない。 2 争点2(本件各氏名不詳者が「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)に該当するか)について (原告らの主張) 本件各氏名不詳者は、不特定のビットトレントネットワークの利用者に対して本件各楽曲ファイルのピースを送信することを可能にしたものであり、「不特定の者に送信される」「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体…に情報を記録、又は当該特定電気通信設備の送信装置…に情報を入力した者」といえる。 したがって、本件各氏名不詳者は、プロバイダ責任制限法2条4号の「発信者」に該当する。 (被告の主張) プロバイダ責任制限法2条4号は、「不特定の者に送信」される情報を記録した者を「発信者」と定義しているところ、本件調査会社は、本件システムを利用して本件各氏名不詳者からピースをダウンロードしているだけであり、本件調査会社がダウンロードしたピースを不特定の者に送信することは全く想定されていなかった。 そうすると、仮に本件各氏名不詳者が本件調査会社の端末に情報を記録したことを権利侵害として捉える場合、本件各氏名不詳者は、「不特定の者に送信される」情報を記録したとはいえないから、プロバイダ責任制限法2条4号の「発信者」に該当しない。 3 争点3(原告が本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について (原告らの主張) (1)原告らは、本件各レコードに係る送信可能化権が侵害されたことを理由として、本件各氏名不詳者に対して損害賠償請求及び差止請求を行うことを予定しており、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (2)被告らは、本件各発信者情報のうち電話番号の開示を受けるべき正当な理由がないと主張する。 しかし、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則2条3号において発信者の電話番号が発信者の特定に資する情報として定められているのは、特定電気通信役務提供者が保有する発信者の氏名又は住所が虚偽であった場合や同人が転居していた場合等、上記の情報だけでは発信者を十分に特定することができないことが想定されるからである。 したがって、原告らには電話番号の開示を受けるべき正当な理由があり、被告の主張は理由がない。 (被告の主張) 損害賠償請求及び差止請求を行うために必要となる情報としては、氏名及び住所だけで必要かつ十分である。コンテンツプロバイダのように、氏名又は住所を保有していない場合は、電話番号が必要となるが、被告のようなアクセスプロバイダが氏名及び住所を保有している場合は、電話番号の開示を受けなくても発信者の特定を行うことができるから、原告らには電話番号の開示を受けるべき正当な理由は認められない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について (1)前提事実(4)のとおり、ビットトレントネットワークにおいては、特定のファイルに対応するトレントファイルを端末のクライアントソフトウェアに読み込ませることで、当該トレントファイルを共有するピアによって形成されるビットトレントネットワークに参加し、特定のファイルを構成するピースを他のピアからダウンロードしたり、他のピアにアップロードしたりすることができるようになる。 そして、あるピアがこのようなダウンロード及びアップロードを行うためには、他のピアがあるピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握している必要があるから、そのダウンロード及びアップロードに先立ち、あるピアがトラッカーに対して自身のIPアドレス及びポート番号の情報をあらかじめ通知しているものと考えられる。すなわち、ビットトレントネットワークに参加しているピアは、特定のファイルを構成するピースを他のピアからダウンロードしさえすれば、改めてトラッカーに自身のIPアドレス及びポート番号の情報を通知するなど特段の手順を経ることなく、自身のピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握しているピアに対し、自身がダウンロードしたピースを他のピアにアップロードすることができる。 このようなビットトレントの仕組みに照らせば、共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアは、他のピアから当該ピースの送信を受けることによって、別の他のピアからの要求があればいつでも当該ピースを送信し得る状態になるといえる。 そうすると、ビットトレントネットワークを介して、@共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアが、当該ピースを保有する他のピアから当該ピースをダウンロードすること、又は、A当該ファイルを構成するピースを保有するピアが、当該ファイルを構成するピースを何ら保有していない他のピアに対して当該ピースをアップロードすることは、著作権法2条1項9号の5イ所定の「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録…する」行為により「自動公衆送信し得るようにすること」に当たると解するのが相当である。 (2)前提事実(5)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、別紙発信者情報目録記載1ないし4の日時において、同IPアドレスから、本件各楽曲ファイルのピースを、ビットトレントネットワークを介してダウンロードしたことが認められ、上記のダウンロードに係る通信である本件通信は、本件調査会社からの視点で見れば、「@共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピア(本件調査会社の端末)が、当該ピースを保有する他のピア(本件各氏名不詳者の端末)から当該ピースをダウンロードすること」、本件各氏名不詳者からの視点で見れば、「A当該ファイルを構成するピースを保有するピア(本件各氏名不詳者の端末)が、当該ファイルを構成するピースを何ら保有していない他のピア(本件調査会社の端末)に対して当該ピースをアップロードすること」にそれぞれ該当するものと評価できる。 そうすると、本件通信は、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録…する」行為により「自動公衆送信し得るようにすること」に該当するといえる。 そして、証拠(甲3、7、11、15、18ないし25)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントネットワーク上に存在する本件各楽曲ファイルは、それを再生することにより、本件各レコードに録音されている楽曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであると認められる。 したがって、本件通信は本件各レコードに係る原告らの送信可能化権を侵害するものと認めるのが相当である。 (3)本件においては、本件各氏名不詳者の行為について、違法性を阻却すべき事情はうかがわれないから、違法性阻却事由は存在しないと認めるのが相当である。 (4)以上によれば、本件通信によって本件各レコードに係る原告らの送信可能化権(著作権法96条の2)が侵害されたことが明らかであり、本件各発信者情報は、当該各権利侵害に係る発信者情報に該当すると認められる。 2 争点2(本件各氏名不詳者が「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)に該当するか)について 前記1(2)で説示したとおり、本件各氏名不詳者は、本件通信により、本件各楽曲ファイルのピースを、ビットトレントネットワークを介して本件調査会社の端末に対してアップロードしたことが認められ、このアップロードは、プロバイダ責任制限法2条4号に定められた「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体…に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置…に情報を入力」する行為といえる。 そして、前記1(1)で説示したとおり、共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピア(本件調査会社の端末)は、他のピア(本件各氏名不詳者の端末)から当該ピースの送信を受けることによって、別の他のピアからの要求があればいつでも当該ピースを送信し得る状態になったといえるから、実際に本件調査会社の端末から第三者への情報の送信が行われたか否かにかかわらず、上記の記録又は入力がされた記録媒体又は送信装置は、プロバイダ責任制限法2条4号に定められた「不特定の者に送信されるもの」であるといえる。 したがって、本件各氏名不詳者は、「不特定の者に送信される」「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体…に情報を記録、又は当該特定電気通信設備の送信装置…に情報を入力した者」といえるから、プロバイダ責任制限法2条4号の「発信者」に該当するものと認められる。 3 争点3(原告が本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について (1)証拠(甲3、7、11、15)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件各氏名不詳者に対し、本件各レコードについての送信可能化権が侵害されたことを理由として、本件各氏名不詳者に対して損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があることが認められる。 したがって、本件においては、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。 (2)これに対し、被告は、原告らは被告の保有する氏名及び住所の情報によって発信者を特定することができるから、電話番号の開示を受けるべき正当な理由があるとは認められないと主張する。 しかし、被告の保有する氏名又は住所の情報が誤っていた、又は住所変更等によって住所宛では発信者への連絡がつかないなどの場合においては、氏名又は住所の情報に加えて、電話番号を利用する必要性が認められることからすれば、被告が本件各氏名不詳者に係る氏名又は住所の情報を有していたとしても、それだけで電話番号の開示を受けるべき正当な理由が否定されることはないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 4 結論 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 (別紙)発信者情報目録 1 令和4年(2022年)11月23日5時27分27秒ころに「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(又は名称)、住所 2 令和4年(2022年)11月25日14時31分35秒ころに「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(又は名称)、住所、電話番号3令和4年(2022年)11月23日7時6分59秒ころに「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(又は名称)、住所 4 令和4年(2022年)11月21日23時11分15秒ころに「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(又は名称)、住所、電話番号 以上 |
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