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【事件名】“関ケ原検定事業”事件(2)
【年月日】令和6年3月18日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10092号 著作権侵害(不法行為)による請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和4年(ワ)第70145号)
 (口頭弁論終結日 令和6年2月7日)

判決
控訴人 X
被控訴人 Y1
被控訴人 Y2
被控訴人 Y3
上記3名訴訟代理人弁護士 端元博保
同 伊藤公郎
同 池田智洋


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における追加請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で改めて付するもののほかは、原判決に従う。また、原判決の引用部分の「別紙」は全て「原判決別紙」と読み替えるものとする。
第1 控訴の趣旨
1 原判決(不法行為に基づく損害賠償請求及び本判決別紙名誉回復等の措置記載2の請求をそれぞれ棄却した部分を除く。)を取り消す。
2 被控訴人らは、原判決別紙原告著作物目録記載のデザインを複製し、頒布してはならない。
3 被控訴人らは、原判決別紙原告著作物目録記載のデザインを使用した全てのコピー物品を廃棄せよ。
4 被控訴人らは、原判決別紙商標権目録記載の商標や呼称を使用した商品の販売に関する情報の提供、書類の複製、文書または電磁テープのファイリング、コンピュータデータベースへの情報編集、セミナー・検定事業の企画、書籍の制作、興行の企画・運営または開催、教育研修のための施設の提供、検定試験の企画・運営、検定試験の実施を行うことを禁ずる。
5 被控訴人らは、本判決別紙名誉回復等の措置記載1の行為をせよ(控訴人は当審において、本項の請求を追加した。)。
6 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
7 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、本件各著作物及び本件各商標の権利者であると主張する控訴人(原審原告。以下「原告」という。)が、被控訴人ら(原審被告ら。以下「被告ら」といい、被控訴人Y1を「被告Y1」、被控訴人Y2を「被告Y2」、被控訴人Y3を「被告Y3」という。)が原告の許可を得ることなく本件各著作物及び本件各商標を使用したことが著作権侵害及び商標権侵害の不法行為に当たると主張して、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料を含む。)として、347万4000円及びこれに対する不法行為の日の後である令和5年3月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、本件各著作物を使用した物品等の複製及び頒布の禁止並びに廃棄、本件各商標の使用の差止めを求め、更に、著作権法115条に基づく名誉回復措置として、被告らがインターネットのホームページ上において原告が本件各著作物の著作権(以下「本件各著作権」という。)を有する旨公表することを求める事案である。
 原判決は、原告の請求をいずれも棄却し、原告が控訴した。なお、控訴の趣旨によれば、原告の不法行為に基づく損害賠償請求及び本判決別紙名誉回復等の措置記載2の請求をそれぞれ棄却した部分は、不服申立の範囲に含まれていないから、当審における審理の対象とはならない。
 また、原告は、本件訴えのうち、著作権法115条に基づく名誉回復等の措置を求める部分につき、控訴審において控訴の趣旨5項のとおりに交換的に変更することを求めたが、被告らがこれに異議を述べたことから、控訴の趣旨5項に係る訴えが追加されたものとして扱う。
2 当事者の主張
 以下のとおり原判決を補正し、後記3において当審における原告の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実」中の「第3」(不法行為に基づく損害賠償請求に係る部分を除く。原判決2頁8行目から26行目まで、3頁17行目から4頁1行目まで、同頁4行目から18行目まで、同頁20行目から5頁13行目まで)に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)2頁14行目の「関ケ原検定を実施するにあたり」の次に「、原告の許可を得ることなく」を加える。
(2)2頁25行目の「被告らは」の次に「、原告の許可を得ることなく、」を加える。
(3)3頁18行目の「請求の趣旨1項から3項記載」を「控訴の趣旨2項から4項までに記載」と、19行目の「請求の趣旨4項」を「控訴の趣旨5項」と、22行目の「本件著作物」を「本件各著作物」と、23行目の「請求の趣旨1項、2項」を「控訴の趣旨2項及び3項」と、24・25行目の「請求の趣旨3項」を「控訴の趣旨4項」と、26行目から4頁1行目の「請求の趣旨4項」を「控訴の趣旨5項」と、それぞれ改める。
(4)4頁14行目の「関ケ原検定の運営に当たり」を「関ケ原町歴史民俗学習館の実施する関ケ原検定の運営に当たり」と、15行目の「本件著作物」を「本件各著作物」と、18行目の「本件商標」を「本件各商標」と、それぞれ改める。
(5)4頁20行目の「否認ないし争う。」の次に「請求の相手方は関ケ原町とすべきである。また、」を加え、24行目を削る。
(6)4頁25行目の「被告の主張」を「被告らの主張」と、26行目の「被告Y1(以下「被告Y1」という。)」を「被告Y1」と、5頁1・2行目の「被告Y2(以下「被告Y2」という。)」を「被告Y2」と、3・4行目の「被告Y3(以下「被告Y3」という。)」を「被告Y3」と、10行目の「本件著作物」を「本件各著作物」と、12行目の「被告の主張に対する認否」を「被告らの主張に対する認否」と、それぞれ改める。
3 当審における原告の補充主張
 被告らの行為が公権力の行使に当たるか否かについては、検定事業の命令書、計画書その他の文書を確認し、更に、関ケ原町の見解を確認した上で、認定すべきである。
 また、被告らの行為は、公務員職権濫用(刑法193条以下)に当たる可能性があり、職権を濫用して不法行為をしたのであれば、公権力の行使に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も原告の請求(不法行為に基づく損害賠償請求及び本判決別紙名誉回復等の措置記載2の請求を除く。)はいずれも理由がないものと判断する。理由は次のとおりである。
(1)差止め等の請求について
 弁論の全趣旨によれば、本件の「関ケ原検定」は、関ケ原町が実施するものであったことが認められる。したがって、関ケ原検定に関連して作成等された物品(原告のいう「コピー物品」)が現に関ケ原町に存在するとしても、社会通念上、これらの物品を支配下に置いていると認められるのは関ケ原町であることが推認され、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、仮に、被告らが同物品の購入や保管等に関与していたとしても、被告らは関ケ原町の公務員として職務上関与したにすぎないことが推認されるから、被告らは占有補助者になることはあっても、独立して同物品を処分する権限があるとは認められない。
 また、被告らそれぞれが、個人として、関ケ原検定を主催して実施するなどというおそれがあることを認めるに足りる主張立証はないから、被告らが、本件各著作物及び本件各商標を使用するおそれがあるとは認められない。
 したがって、原告の被告らを相手方とする差止及び廃棄請求には理由がない。
(2)著作権法115条に基づく名誉回復等の措置について
 原告は著作権法115条に基づく名誉回復等の措置として、当審において控訴の趣旨第5項の請求を追加したが、同措置の前提となる著作者人格権侵害に関する主張をしていない。したがって、原告の請求する名誉回復等の措置が相当なものであるか否かを検討するまでもなく、被告らに対する著作権法115条に基づく請求には理由がない。
(3)原告は、被告らの行為が公権力の行使に当たるかという点につき縷々主張するが、同主張は損害賠償請求の前提となる事実に係るものであって、当審の審理の対象である前記の差止め等の請求及び著作権法115条に基づく名誉回復等の措置に関する判断を左右するものではない。
 なお、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」への該当性の認定に当たり、原告が主張するような検定事業の命令書、計画書その他の文書によることを要するものとは解されない。また、原告は、被告らの行為が公務員職権濫用に当たる場合には私的行為であって公権力の行使に当たらないとも主張するが、仮に公務員に職権濫用その他の職務に関する違法行為があったとしても、それは、国家賠償法の適用により被害者を保護すべき理由にはなっても、当該違法行為について、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて行われたものであることを否定する理由にはならないというべきであるから、同主張は失当である。
2 結論
 以上の次第で、原告の差止め等に係る請求を棄却した原判決(不法行為に基づく損害賠償請求及び本判決別紙名誉回復等の措置記載2の請求に係る部分を除く。)は相当であるから本件控訴を棄却し、原告の当審における著作権法115条に基づく名誉回復等の措置を求める追加請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 清水響
 裁判官 浅井憲
 裁判官 勝又来未子


(別紙)名誉回復等の措置
1 著作権法115条の名誉回復等の措置として、次の措置をとること。
 (1) 被控訴人らの行為が違法行為であることを認めること。
 (2) 上記行為が公権力(関ケ原町)の職務であったことを明らかにすること。
 (3) 控訴人に対し、署名・捺印した文書により、謝罪すること。
2 被控訴人らは、被控訴人らが侵害したインターネットのホームページ上で、原判決別紙原告著作物目録記載の各著作物の著作権を控訴人が所有することを公表せよ。
 以上
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