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【事件名】エキサイトへの発信者情報開示請求事件I
【年月日】令和6年3月14日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70356号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和6年1月23日)

判決
原告 株式会社ホットエンターテイメント
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エキサイト株式会社
同訴訟代理人弁護士 藤井康弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファイル共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を自動公衆送信したことによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、映像等のデジタルコンテンツの企画、制作等を業とする会社である。(甲18、弁論の全趣旨)
イ 被告は、一般利用者に向けてインターネット接続サービスを提供している会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。(甲3、弁論の全趣旨)
(2)本件動画に係る著作権の帰属
 原告は、本件動画の著作権者である。(甲2、18、弁論の全趣旨)
(3)BitTorrentの仕組み(甲4ないし6、9、弁論の全趣旨)
 BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワークであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。
ア BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、まず、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードする。
 そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentクライアントソフトに読み込ませることにより、トラッカーサイトに接続し、当該ファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルをダウンロードする。なお、未だダウンロード中であり、完全な状態のファイルを復元できていないユーザーは、「リーチャー」と呼ばれる。
イ ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、ピア(データをやり取りするコンピュータをいう。以下同じ。)としてトラッカーサイトに登録されるため、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(分割されたファイル〔以下「ピース」という。〕を含む。)を提供しなければならない。そのため、ダウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる。すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、当該ファイルについて同時にアップロード可能な状態に置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態になっている。
ウ ユーザーは、ピースの取得を続け、完全な状態のファイルを復元すると、「シーダー」と呼ばれ、シーダーになると、アップロードのみを行うようになる。
(4)原告による著作権侵害調査の概要(甲1、4ないし6、9、弁論の全趣旨)
ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画に係る著作権侵害についての調査(以下「本件調査」という。)を依頼した。
イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けた発信者(本件発信者)が本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウンロード及びアップロードを行っていたことを報告した。
(5)被告による本件発信者情報の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
第3 争点及びこれに対する当事者の主張
 本件の争点は、権利侵害の明白性(調査の信用性)であり、この点に関する当事者の主張は、以下のとおりである。
(原告の主張)
1 BitTorrentのクライアントソフトウェアがインストールされた端末が、インターネットに接続されて他の利用者からファイルを受信している間は、同時に公衆たる他の利用者からの求めに応じて自動的にファイルが送信される。そのため、BitTorrentを利用して他の利用者からファイルを受信することで、必然的に自動公衆送信が生じることになる。
 そもそもBitTorrentは、特定のファイルをピースに細分化し、これをBitTorrentネットワーク上の利用者間で相互に共有及び授受することを通じ、分割された全てのファイル(ピース)をダウンロードし、完全なファイルに復元して、当該ファイルを取得することを可能にする仕組みである。そして、本件調査会社は、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentを介してBitTorrentを利用して、本件発信者から本件ファイルを取得し、当該ファイルが本件動画と同一であることの確認を行っている。
 そうすると、本件発信者が、BitTorrentを利用して本件動画のファイルの一部(本件ファイル)を他のBitTorrentの利用者と送受信することにより、BitTorrentの利用者である本件発信者による自動公衆送信が生じ、本件動画に係る公衆送信権(著作権法23条)の侵害が成立することは明白である。
2 被告は、本件発信者が保有していた動画と、本件動画の同一性が不明であるなどと主張する。しかしながら、本件調査会社は、機械的に動画をダウンロードして調査を行って同一性を確認しており、恣意が入り込む余地はないから、同一性は認められる。
(被告の主張)
1 原告は、甲7が原告の著作物(本件動画)であり、甲8が本件発信者の保有していた動画データであると主張するが、そもそも甲7及び8が何のファイルであるか明らかではなく、甲7及び8の動画の同一性ないし類似性については、不知である。
2 本件調査で用いられたシステムは、認定システムとして認められていないから、時刻やIPアドレスが正確であるか不明である。
 また、甲1の1において「下り速度」と「上り速度」が表示されていないから、本件発信者から本件調査会社にデータが送信されているとは認められない。現に、「ダウンロード中」との表示がありながら、「下り速度」も「上り速度」も表示されていないものについて、1か月以上ダウンロード割合が全く変化していない例が存在する(乙4)。
 さらに、保有するファイルの割合が小さい方から大きい方へのファイルの送信は起こり得ないと考えられるところ、甲1の1においては、本件発信者のダウンロード割合の方が小さいから、本件発信者から本件調査会社にデータの送信はされていないといえる。
 また、甲1の1において、複数のIPアドレスが表示されているから、本件調査会社がダウンロードしたファイル(本件ファイル)が、本件発信者ではなく、他のIPアドレスからダウンロードしたものである可能性があり、本件発信者によりアップロードされたファイルであることの立証ができていない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実、証拠(甲1、4ないし9、11)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査につき、次の事実が認められる。
(1) ●(ギリシア文字。ミュー)Torrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つであり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロード及びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特定した上で、当該IPアドレスと共に、当該ユーザーが当該ファイルをアップロードする際の上り速度及びダウンロードする際の下り速度のほか、ダウンロード量及びアップロード量等を画面上に表示するという機能を有している。
(2)本件調査会社は、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentを起動し、本件動画に係るトレントファイルを●(ギリシア文字。ミュー)Torrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通じて、本件ファイルのダウンロードを行った。
 そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentの上記機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTorrentを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザーの存否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けたユーザーが、本件ファイルに係るピースをダウンロードすると同時にアップロードしていることを確認した。
(3)本件調査会社は、本件ファイルの動画が、本件動画と一致することを確認した。
2 権利侵害の明白性
(1)前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び前記認定事実によれば、本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードして、当該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrentを通じて自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時において、本件調査会社の端末に、本件ファイルのピースを実際にダウンロードさせたことが認められる。
 これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時において本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したと認めるのが相当である。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
 したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。
(2)これに対し、被告は、本件ファイルが本件動画と同一であるのか不明である旨主張する。しかしながら、証拠(甲5、7ないし9、19)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者がアップロードし、本件調査会社がダウンロードした動画は、本件動画と同一であるものと認めるのが相当である。
 また、被告は、本件調査のIPアドレス及びタイプスタンプが正確であるか不明である旨主張する。しかしながら、前記認定事実、証拠(甲1、5、9、12)及び弁論の全趣旨によれば、BitTorrentのクライアントソフトの一つである(●ギリシア文字。ミュー)Torrentは、BitTorrentを利用しているピアのIPアドレスや時刻を機械的に表示するものであり、本件全証拠によっても、当該表示に誤りがあるような事情はうかがわれない。これらの事情を踏まえると、IPアドレス及びタイムスタンプは正確であると認めるのが相当である。
 次に、被告は、「ダウンロード中」との表示がありながら、「下り速度」も「上り速度」も表示されていないものについて、1か月以上ダウンロード割合が全く変化していない例が存在する旨主張する。しかしながら、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、ダウンロードが実際に進行しているにもかかわらず、その間に、「上り速度」や「下り速度」の表示がされないことが認められることからすると、上記において説示したところに照らしても、被告の上記主張は、上記判断を左右するものとはいえない。
 さらに、被告は、保有するファイルの割合が小さい方から大きい方へのファイルの送信は起こり得ない旨主張する。しかしながら、前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み並びに証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば、BitTorrentは、ファイルの保有割合にかかわらず、他のピアからの要求があれば、他のピアが必要なピースを提供するものと認めるのが相当であるから、被告の主張は、前提を欠くものといえる。
 また、被告は、甲1の1において、複数のIPアドレスが表示されているから、本件ファイルが、本件発信者ではなく、他のIPアドレスからダウンロードしたものである可能性があると主張する。しかしながら、証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentにおいては、画面上、複数のIPアドレスが表示されている場合であっても、当該複数のIPアドレスのそれぞれからファイルを分割してダウンロードが行われることが認められる。
 その他に、被告の準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、被告の主張は、上記において説示したところを踏まえると、いずれも前記判断を左右するに至らない。
 したがって、被告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
(3)以上によれば、本件発信者が本件ファイルを自動公衆送信したことにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは、明らかであるといえる。
3 正当な理由
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定していることが認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。
4 まとめ
 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。
第5 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 小田誉太郎
 裁判官 尾池悠子


別紙 発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
日時 令和4年(2022年)8月1日7時09分23秒
IPアドレス (省略)
ポート番号 (省略)
別紙 著作物目録
品番 HEZ−346 甲1−1
甲2−1
作品名 (省略)
 以上
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