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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件AK
【年月日】令和6年2月21日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70014号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年11月29日)

判決
原告 有限会社プレステージ
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
同訴訟復代理人弁護士 新英樹
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 山本一生


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有すると主張する原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ソフトであるBitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して当該動画のデータの複製物が記録された端末をビットトレントのネットワークに接続するなどして送信可能化状態にしたことで、原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、上記の侵害に係る通信を被告の管理する電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(書証は特記しない限り枝番を全て含む。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。)
(1)当事者
 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売等を目的とする特例有限会社である(弁論の全趣旨)。
 被告は、電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社であり、インターネット接続サービスを提供しているアクセスプロバイダである(争いがない事実)。
(2)本件の動画について(甲11、18)
 別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)は、監督を務めるAが、職務上、原告の業務命令を受けて監督し、作成した動画である。
(3)被告による発信者情報の保有(争いがない)
 別紙発信端末目録記載のIPアドレスを割り当てられた端末から同目録記載の日時頃に行われたとされる各通信(以下「本件各通信」といい、かかる端末から本件各通信をした者をそれぞれ「本件各発信者」という。)は、その通信が行われたとすれば被告が管理する特定電気通信の用に供される電気通信設備を経由して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
(4)ビットトレントの概要等(甲2から4まで、10、弁論の全趣旨)
 ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有プロトコル及びそのためのアプリケーションソフトウェアであり、その利用者間でファイルを共有できる。
 ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユーザは、そのコンピュータ端末(以下、このユーザのコンピュータ端末を単に「ピア」ということがある。)を介してインターネットに接続してトラッカーサイトと呼ばれるウェブサイトに接続し、ダウンロードしたいファイル(以下「対象ファイル」という。)の在りかなどの情報が記載されたトレントファイルと呼ばれるファイル(以下「トレントファイル」という。)をピアにダウンロードして読み込ませる。そうすると、ピアはトレントファイルに記載されているトラッカーサーバと呼ばれるファイルの提供者を管理するサーバに接続され、対象ファイルの提供者のリストを要求する。要求を受けたトラッカーサーバは、トラッカーサーバにアクセスしている対象ファイルのピースを所持するピアのIPアドレスが記載されたリスト(以下「ピアリスト」という。)をピアに返信する。ピアリストを受けとったピアは、対象ファイルのピースを所持する他のユーザのピアに接続し、その後、そのピアから対象ファイルのピースのダウンロードを開始する。
 ビットトレントを使って対象ファイルが配布される場合、そのファイルは小さいデータの単位(ピース)に分割され、分割されたデータはビットトレントのネットワークにつながっているピアに分散して所持されており、ピアがダウンロードする際には、分散したデータを多くのピアから自らのピアにダウンロードして、元のファイルのとおりに一つのファイルを完成させる。
 完全なファイルを保有するユーザであるシーダーは、ビットトレントのネットワーク上でアップロード可能な状態にあることがトラッカーサーバにおいて公開され、全てのユーザはダウンロードを完了すると、自動的にシーダーとなる。シーダーは、完全なファイルのダウンロードが完了する前のユーザであるリーチャーの求めに対して、当該ファイルの一部をアップロードする。リーチャーは、ファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持している一部のファイルを、他のリーチャーからのダウンロードの求めに対してアップロードする。すなわち、リーチャーは、自身がダウンロードするのと同時に、他のリーチャーに対してデータをアップロードすることとなる。
(5)ビットトレントネットワークを利用してファイルをダウンロードする際の通信に関する説明ついて(ママ)(甲15)
 株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)の代表者の陳述書によれば、ビットトレントネットワークを利用して対象ファイルをダウンロードする場合、以下の通信等のやり取りを経るとされている。
 すなわち、各ピアは、トラッカーサーバに対して、ピアリストを要求する通信をし、トラッカーサーバからピアリストのデータを受信する。
 ピアリストのデータを受信したピアは、ピアリストに基づいて、相手方ピアとの間で、互いに、ビットトレントのネットワークに参加している相手もピアであることを確認する「HANDSHAKE」と呼ばれる通信をし、相手方のピアへ接続完了を意味する「ACK」と呼ばれる通信をした上で、当該ピアと相手方のピアとの間で互いが対象ファイルのどの部分を所持しているか確認する「BITFIELD」と呼ばれる通信をし、当該ピアが相手方ピアの保有するファイルに興味を持っていることを通知する「INTERSTED」と呼ばれる通信をし、これに対して、相手方ピアが、当該ファイルは当該ピアによりダウンロードする(相手方ピアによりアップロードする)ことが可能であることを通知する「UNCHOKE」の通信をすることとなる。
 これらの通信をした上で、当該ピアがダウンロードを要求する「REQUEST」と呼ばれる通信をし、相手方ピアがアップロードする通信をすることで、対象ファイルがダウンロードされることとなる。
(6)原告による調査の内容(甲3から6、10、13)
 原告は、本件調査会社に対し、本件調査会社が開発したビットトレントを利用した著作権侵害に該当する行為をした者の端末に割り当てられたIPアドレス及び送信元ポート番号を調査する目的のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)を使用して、本件動画の著作権侵害の監視を依頼した。
 本件調査会社は、本件ソフトウェアを使用して、インターネットを介して、原告から指定された本件動画のコンテンツの品番を含むファイルをトラッカーサイトで検索し、本件動画のファイルのハッシュ値(ファイル(データ)を特定の関数で計算して得られる値であり、ファイルからハッシュ値は一意に定まるが、同じハッシュ値になるようにファイルを改ざんすることが困難であることから、ファイルの同一性等の確認に用いられる。)を取得し、トラッカーサーバに、本件動画のファイルをアップロードできるピアリストを取得した。そして、本件調査会社と当該ピアリストに記載されたピアとの間で、順次、「HANDSHAKE」の通信、「ACK」の通信、「BITFIELD」の通信、「INTERSTED」の通信がされ、その後に「UNCHOKE」の通信を行ったとされたピアについて、本件調査会社は、これをデータベースに登録することとした。
 以上のような調査の結果、本件各通信は、本件動画のデータを保有しているピアからの「UNCHOKE」の通信であるとされた通信であって、本件調査会社のデータベースに登録されたものである(以下、この手法によって、別紙発信端末目録の「発信時刻」欄記載の各日時に同目録の「IPアドレス」欄記載の各IPアドレス及び「ポート番号」欄記載の各送信元ポート番号が割り当てられた端末から、「UNCHOKE」の通信として、本件各通信がされたとする調査の結果を「本件調査結果」という。)。
2 主な争点
(1)本件各通信が、本件各発信者から本件調査会社に対する本件動画に関する「UNCHOKE」の通信であるといえるか(争点1)
(2)プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件各通信が、本件各発信者から本件調査会社に対する本件動画に関する「UNCHOKE」の通信であるといえるか)について
(原告の主張)
 別紙発信端末目録の「発信時刻」欄記載の各日時、同目録の「IPアドレス」欄記載の各IPアドレス及び「ポート番号」欄記載の各送信元ポート番号は、本件調査結果のとおり、本件動画のファイルの保有者に関するピアリストに載っていたピアからの「UNCHOKE」の通信をした端末に割り当てられていたIPアドレス及び送信元ポート番号と、その通信の日時であり、これらが正確であることは、本件ソフトウェアの同一性確認試験によっても確認されている。
 被告は、本件ソフトウェアを使用して本件調査結果と同様の結果を得られたとして提起された発信者情報開示請求訴訟で請求を棄却した判決(以下、これらの訴訟の判決を総称して「別件判決」という。)をもとに、本件ソフトウェアの信用性を否定するが、被告は、本件においては、別件判決で指摘されたような事実が本件で生じているとは主張していない。
 また、別件判決では、意見照会の結果において発信行為を否定する回答が相当多く、当該契約者が相当に説得的な回答をしていることを理由とするものがあるが、本件動画のデータを違法にダウンロードしている者の虚偽供述の動機は強い。現に、ネット掲示板には「トレント関連開示請求相談スレ」との名称の専用のスレッドが立てられ、意見照会等に対し、虚偽供述を具体的に記載して対応することが話し合われており、本件の意見照会に対する回答においても当該スレッドで紹介されている回答と同じ回答をしている契約者も存在する。
 加えて、別件訴訟に関する判決の中には、通信自体が存在しないとする判決もあるが、それは、@ISPのログ記録の欠落や不正確さ、Aセッション情報の更新遅延、BIPアドレスのリース・サブリース等の原因が考えられ、本件ソフトウェアの信用性には影響しない。また、技術仕様上割り当てていない送信元ポート番号が示されていたことを指摘するものもある。しかし、これは、本件調査会社が本件ソフトウェアを使用して調査を行う際、本件ソフトウェアのIPアドレス等が記載されたピアリストを受け取った他のピアが本件ソフトウェアに対してダウンロードのリクエストを行うことがあるが、この場合、ビットトレントの仕様上、接続リクエストの際には、送信元ポート番号が明らかでないため、本件ソフトウェアのデータベース上では、「0」又は「1」として記録されるだけであり、対象データをアップロードしているピアについては送信元ポート番号が正確に記録されており、この点は本件ソフトウェアの信用性に影響しない。
 したがって、被告の主張の事情は本件調査結果の信用性に影響を及ぼさず、本件調査結果は信用できる。
(被告の主張)
 原告は同一性確認試験によって本件ソフトウェアが検知するIPアドレス等が正確であると主張するが、当該同一性確認試験はあくまで試験用ファイルについてトレントモニタリングシステムが検知したIPアドレスとクライアント環境のIPアドレスが一致したことを示すにすぎず、本件各発信者が本件動画のデータの複製物を送信したことを裏付けるものではない。
 また、別件判決の中には、意見照会の結果発信行為を否定する契約者が存在することや実際の様々な動作環境において本来顕出すべきでない通信が検出されたり、存在しない通信が記録されたりする可能性を排除できないことから権利侵害通信でない通信まで検出される可能性が相当程度うかがわれるとして棄却した判決や、本件ソフトウェアの調査結果には通信自体が存在しないものや技術仕様上契約者に割り当てていない送信元ポート番号が示されたものが相当数含まれ、その合理的な理由が説明されていないとして棄却した判決が存在する。本件においても、同じ本件ソフトウェアが使用されているため、検出結果の正確性に大きな疑義が生じるといえる。
 実際に、本件で被告が実施した本件各発信者への意見照会に対する回答の中には、自らが発信者でないとするものがあり、その理由や回答者の状況等の内容は具体的で説得的である。
 これらの事情によれば、本件調査結果は信用できない。
(2)争点2(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか)について
(原告の主張)
ア 上記1(4)のようなビットトレントの仕組みにおいては、トラッカーサーバは、著作権法2条1項9号の5イの「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置」に当たり、本件各発信者が、トラッカーサーバに対し、本件動画のファイル情報やIPアドレス等を通知し、これをトラッカーサーバに記録させたことは、同イの「情報を記録」したといえ、これにより、送信者は対象ファイルを受信者の求めに応じて「自動公衆送信し得るように」なる。そうすると、トラッカーサーバに対象ファイル情報やIPアドレス等を通知することにより、送信可能化侵害状態になったといえる。
イ また、ビットトレントにおいて、ファイルを送信しようとするものが当該ファイルを自身の端末の共有フォルダに蔵置して、クライアントソフトを起動してトラッカーサーバに接続すると、送信者の端末はトラッカーサーバに端末を接続させている受信者からの求めに応じ、自動的にファイルを送信し得る状態になる。そうだとすれば、ファイルを共有フォルダに蔵置したままトラッカーサーバに接続して上記状態に至った送信者の端末は、トラッカーサーバと一体となって、著作権法2条1項9号の5ロの「情報が記録され」た「自動公衆送信装置」に当たるということができ、また、その時点で、同ロの「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」がされ、送信可能化侵害状態になったといえる。したがって、本件各発信者も、同様に、本件動画のデータをダウンロードした後、継続してアップロード状態に置くことで、本件動画の送信可能化侵害状態を行い続けているといえる。
ウ そして、本件各通信は、本件各発信者の端末に保有している本件動画のファイルがアップロード可能であることを通知する「UNCHOKE」の通信であり、本件各発信者は、「UNCHOKE」の通信時点において、送信可能化により原告の公衆送信権を侵害しているから、プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」であるといえる。
エ なお、本件動画の構成の最小単位である1ピースあれば動画として再生可能であるところ、本件ソフトウェアはファイルの保持率が0%であるときは反応しないから、本件各発信者は再生可能な1ピース以上を保持していたことは明らかである。また、本件は、ビットトレント利用者間でピースを融通し合い共同で公衆送信権侵害を行う共同不法行為類型である以上、本件動画のデータの複製物の一部のみでもアップロードした時点で本件動画のデータ全体について送信可能化による公衆送信権侵害の共同不法行為が成立する。したがって、本件動画のデータの複製物の一部と本件動画のデータ全体の同一性や本件動画のデータの複製物の一部が再生可能か否か等は問題にならない。
(被告の主張)
ア 原告の主張を前提としても、ビットトレントはいわゆるピアツーピア通信であり中央管理的なサーバを必要としないから、トラッカーサーバから本件動画のピースが公衆に送信されるわけではなく、原告の主張は矛盾する。また、「UNCHOKE」の通信はあくまでピアの応答を確認するものにすぎず、本件動画の複製物のデータをアップロード又はダウンロードする通信ではないから、「UNCHOKE」の通信が「情報を記録し」た通信であるとはいえない。したがって、原告が主張する通信は著作権法2条1項9号の5イに当たらない。
イ また、トラッカーサーバと送信者のパソコンは物理的に別であり、「自動公衆送信装置」に該当しないことは明らかであるし、原告の主張によれば、「UNCHOKE」の通信は、あくまでピアの応答を確認するものにすぎず、侵害情報に係るトラッカーへの最初の通知に係る通信ではないから、「UNCHOKE」の通信が「自動公衆送信装置」について「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」した通信であるとはいえない。したがって、原告が主張する通信は著作権法2条1項9号の5ロに当たらない。
ウ 加えて、「UNCHOKE」の通信がされた時点で、本件各発信者が保持していた本件動画のデータの複製物の保有率は明らかでなく、保持していたピースのみで動画として再生できたかどうか不明であるし、仮に再生できたとしても、そのピースが、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる程度のものを含んでいるかどうかも明らかでなく、公衆送信権侵害の前提を欠く。なお、原告は、ビットトレント利用者間でピースを融通し合い共同で送信可能化による公衆送信権侵害を行う共同不法行為類型である以上、本件動画のデータの複製物の一部のみでもアップロードした時点で本件動画のデータ全体に送信可能化による公衆送信権侵害が成立する旨主張する。しかし、原告は、どのピアとどのピアが共同して、いつどのピアに対して本件動画のピースを送信したのか特定していないし、データの保有率がどの程度以上のピアが、ダウンロードを希望するピアに対して本件動画のデータの複製物のピースを送信するのか不明であり、共同不法行為の立証はできていない。
エ したがって、プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」であるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点2(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか)について
 本件の事案に鑑み、争点2から判断する。
(1)本件で、原告は、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき発信者情報開示請求を行うところ、同項により発信者情報開示請求権が認められるためには、同項1号の要件を満たすこと、すなわち、「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害された」ことが明らかであることが必要である。そして、同号の「侵害情報」は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報をいう(プロバイダ責任制限法2条5号)。
 本件において、原告は、本件発信者が、「UNCHOKE」の通信(前記第2の1(5))時点において、送信可能化により原告の公衆送信権を侵害している旨主張している。そして、原告は、本件動画についての公衆送信権を被侵害権利であるとしており、原告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を特定発信者情報以外の発信者情報として開示の請求をしていると解されるから、「UNCHOKE」の通信による情報の流通によって原告の公衆送信権が侵害され、同通信が侵害情報の送信であると主張して、本件各通信の送信に係る者の氏名その他の情報の開示を請求していると解される。そうすると、本件において、プロバイダ責任制限法5条1項1号の要件を満たすためには、「UNCHOKE」の通信による情報の流通によって本件動画の送信可能化による公衆送信権が侵害されたことが明らかといえる必要があることとなる。
(2)著作権法2条1項9号の5は、送信可能化の定義について、「次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。」旨規定し、イとして「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。」と規定し、ロとして「その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。」と規定している。このような著作権法の文言や、著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨、目的は、公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で、現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにあり(最高裁平成21年(受)第653号同23年1月18日第三小法廷判決・民集65巻1号121頁参照)、自動公衆送信前の準備段階の行為に着目してその行為を規制したものであることなどに照らせば、「送信可能化」に当たるのは、同号のイ又はロに列挙されている行為であるとするのが相当であると解される。そして、それらの行為により対象の著作物が自動公衆送信し得るようにされた場合、上記に述べたとおりの「送信可能化」の意義から、それらの行為によって自動公衆送信し得るようにされた著作物については、別途、同号のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」に該当する行為がされたといえると解される。
 本件各通信は、前記第2の1(6)のとおりの手法による調査の結果、「UNCHOKE」の通信であるとされた通信である。前記第2の1(5)の認定事実のとおり、本件調査会社の説明によれば、本件各発信者の端末から「UNCHOKE」の通信が行われるのは、「ACK」の通信及び「BITFIELD」の通信の後であるとされる。そして、本件調査会社の説明によれば、「ACK」の通信は、ビットトレントのネットワークに参加している相手もピアであることを確認する「HANDSHAKE」の通信の後の、接続完了を意味する通信であるとされ、これは、インターネットを介してビットトレントネットワークへの接続を完了していることを知らせる通信であると解される。また、「BITFIELD」の通信は、当該ピアと相手方のピアとの間で互いが対象ファイルのどの部分を所持しているか確認する通信であるとされ、「UNCHOKE」の通信は、ピアが相手方ピアの保有するファイルに興味を持っていることを通知する「INTERSTED」の通信に対し、アップロードすることが可能であることを通知する通信であるとされる。
 以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおいては、「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のファイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアがインターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるなどして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロード)し得る状態になっていたこととなる。そして、既に述べたとおり、ある行為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」に該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCHOKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。なお、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、それ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害関連通信」(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定されているとは認められず、また、「UNCHOKE」の通信時点において、本件調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信)されているともいえない。
(3)原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づきその開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容によると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害されたと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事情の主張、立証はない。
 よって、本件各通信に係る情報の流通によって、原告の「権利が侵害されたことが明らか」であるとはいえない。
2 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の発信者情報開示請求権は、いずれも認められない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


(別紙)発信者情報目録
 別紙発信端末目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
 @氏名又は名称
 A住所
 B電子メールアドレス

(別紙)動画目録
 記載省略

(別紙)発信端末目録
 記載省略
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