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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件T
【年月日】令和6年2月21日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70196号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年11月24日)

判決
原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社訴訟承継人株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有すると主張する原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBitTorrentを使用して本件動画の複製物を公衆送信したことで、原告の著作権を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、上記侵害通信を訴訟承継前の被告であるエヌ・ティ・ティレゾナント株式会社(以下「承継前被告」という。)の提供するプロバイダを経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。)
(1)当事者について
 原告は、ビデオソフト及びDVDソフトの制作及び販売等を業とする株式会社である(甲18、弁論の全趣旨)。
 承継前被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社である(争いがない事実)。なお、被告は、令和5年7月1日、承継前被告を吸収合併した。
(2)発信者情報の保有について(争いがない)
 別紙発信者情報目録記載のIPアドレス及び発信元ポート番号を用いて同目録記載の日時に行われた通信(以下「本件通信」という。)は、承継前被告の電気通信設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
(3)BitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)の概要等について(甲4から6、9、11)
 ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファイルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。以下同じ。)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うものである。ファイルをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッカー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウンロードさせることになる。
 なお、ユーザーは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
(4)原告による調査(甲1、4、5、9、25、弁論の全趣旨)
 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、ビットトレントを管理する会社が開発した「μTorrent」というクライアントソフト(以下「本件ソフトウェア」という。)を起動して、本件ソフトウェアを用いて当該トレントファイルからダウンロードすることで、本件動画の複製物であるデータのダウンロードを開始し、当該ダウンロード中、本件ソフトウェアにより、調査を行っている端末の画面上にビットトレントに接続して本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしているピア(以下「本件発信者」という。)がしたとされる通信に際して割り当てられたIPアドレス及びその日時を表示させ、その画面を画像として記録し、さらに、実際に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較し、ダウンロードしたデータが本件動画のデータと同一のものであることを確認する方法により調査を行った(以下、この調査を「本件調査」という。)。本件調査の結果、調査を行っている端末の画面には、本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしていた際の本件発信者がしたとされる本件通信の日時及びその際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスが表示された。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)原告が本件動画の著作権者であるか
(原告の主張)
 本件動画のパッケージには、原告の旧商号名並びに映画倫理等の観点から第三者認証機関の認証マーク及び著作者が自分の著作物を販売するために第三者認証機関に申請して当該著作物へ記載する許可などを当該著作物のために取得する番号が記載されており、本件動画の公衆への提供に際し、著作権者を示すものとして周知されているものが通常の方法により表示されており、原告は著作権法14条により本件動画の著作者であることが推定される。
 また、本件動画は、原告がその制作を発意し、それに基づき原告の業務に従事する者らが企画し、全体的な制作に関する決定を行ったもので、本件動画の撮影や演出等、製作にかかる一切の作業は、原告の業務に従事する者により、原告の職務として行われたものであるから、原告は著作権法15条により本件動画の著作者である。
 さらに、本件動画は映画の著作物であるところ、原告の代表者が制作の全体を統括するほか、原告の従業員らが、原告の発意に基づき、それぞれ、監督、演出、撮影、美術等を担当して作成されたものであり、本件著作物の全体的な製作に関する決定は、原告の代表者や従業員により行われているから、著作権法29条1項により、原告に著作権が帰属する。
(被告の主張)
 本件動画のパッケージには、単に申立人の商号の記載が表示されているにとどまり、「著作」など一般人に著作者として認識させ得る形で表示したものとはいえないし、仮に原告が本件動画発売前の倫理審査を受けたとしても、その審査を受ける者が著作権者であると当然に推認されるものではない。
 また、原告代表者又は原告の従業員がプロデューサーとして本件動画を企画した旨の事実を立証するのは原告代表者の陳述書だけである上、その内容を踏まえても、原告代表者が、自己の創作意図を本件動画の中に実現するために、本件動画を企画し、制作を指揮し、かつ、本件動画の完成について最終決定をなし、本件動画の製作過程を通じて常に精神的寄与をする立場にあったかは明らかでないし、別に監督が存在することが推認されることを併せ考えれば、原告代表者が、本件動画の全体的形成に創作的に寄与した者であり、本件動画の製作者であること、及び、原告が本件動画の製作に発意と責任を有していたことは立証されておらず、著作権法15条により原告が本件動画の著作者であるとはいえず、また、著作権法29条1項により原告に帰属するともいえない。
(2)本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の通信であるといえるか。
(原告の主張)
 ビットトレントとは、データの取得元のIPアドレスを表示させる仕組みを有しているところ、本件ソフトウェアはビットトレントを管理する会社が提供したものであり、ビットトレントを通じて取得した情報を正確に利用者に提供している。また、機械のメカニズムとして取得した内容が不正確である場合や曖昧である場合、ソフトウェア等は止まる。
 そして、本件調査の際のキャプチャー画像は、上部が本件調査会社の端末の状況を、下部が本件発信者の端末の状況を示しているが、上部が「ダウンロード中」の表示をしている場合、本件調査会社は本件発信者から現にファイルのダウンロードしていることを示す。また、本件調査会社は、ダウンロードしたファイルのデータが本件動画のデータと同一であることを確認している。
 したがって、本件調査結果は信用でき、その本件調査結果によれば、本件調査会社は、本件発信者が違法にアップロードした本件動画の複製ファイルを取得していることは明らかであり、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の通信であるといえる。
(被告の主張)
 本件ソフトウェアは、一般社団法人テレコムサービス協会が認定する監視ソフトウェアではなく、ピアツーピアネットワークの監視を目的としたシステムによるものでもない。そのうえ、本件ソフトウェアはソースコードを非公開とする無料で使用できるフリーソフトウェアにすぎず、原告の主張はそのシステムの解析をしたものでもない。そして、原告が提出したキャプチャー画像は、本件ソフトウェアのプログラムの実行における動作の過程で表示されるIPアドレスの正確性やこれが割り当てられている通信の意味を立証するまでのものではく、本件通信の存在やその意味については何ら立証されていない。
 加えて、本件キャプチャー画像の内容をみても「下り速度」の表示がなく、その状況を示す「フラグ」の表示も不完全である。
 また、ビットトレントネットワークを利用した通信はトラッカーサーバーを介してネットワークの形成やファイルの送受信をする過程で様々な通信をしており、原告が適当な時刻にキャプチャーした画面で表示されたIPアドレスを摘示してその組合せにより主張する本件通信が、本件動画をダウンロードした際の通信であるということはできない。
 したがって、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の通信であるとはいえない。
(3)本件通信によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと評価できるか。
(原告の主張)
 本件調査結果によれば、本件調査会社が現に本件発信者から本件動画ファイルのデータをダウンロードしているのであるから、自動公衆送信の態様により公衆送信権侵害をしていることは明らかである。
 なお、本件調査会社は、ダウンロードしたデータについて本件動画の内容を確認し、記録している。
(被告の主張)
 本件通信により本件動画のファイルのピースが送信されたとしても、自動公衆送信権の侵害が認められるためには、当該ピースにより本件動画の表現の本質的特徴が感得できる必要があるが、本件通信によって送信されたピースについて、本件動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの立証はなく、仮に、本件通信が本件動画のファイルを構成するピースを送信したものであるとしても、自動公衆送信権侵害は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
 本件動画は、映画の著作物(著作権法10条1項7号)に当たるところ、証拠(甲18)によれば、本件動画は、原告代表者又はその従業員が、プロデューサーとして企画し、制作させた物であって、本件動画の監督や出演者等に対する出演料について原告が負担していて、原告が業務として製作したものであることが明らかであり、本件動画の製作者は原告である。そして、本件動画の監督や出演者等は本件動画の製作に参加していて、本件動画の製作への参加を約束していたことが推認することができるから、本件動画の著作権者は原告であると認められる(著作権法29条1項)。
 この点を争う被告の主張は採用できない。
2 争点2について
(1)本件調査会社が本件ソフトウェアを使用して本件調査をした際に本件ソフトウェアの状況をキャプチャーされた画像(甲1)によれば、本件ソフトウェア上の本件調査会社の端末の状況が「ダウンロード中」であることを示す表示になっているところ、証拠(甲9)によれば、当該表示は、本件調査会社がファイルをダウンロードしていることを示す表示であると認められ、実際に本件動画の複製ファイルのデータがダウンロードされている(甲7、8)。
 そして、本件調査会社がした本件調査と類似する調査においては、調査対象となる動画データの約21.3パーセントをダウンロードするのに約50分(甲14)、約2パーセントをダウンロードするのに約10分(甲19)かかったが、その間、対象となる動画に関してピアに割り当てられているものとして表示されたIPアドレスは一度も変化しなかった。前記第2の2(4)のとおりの本件調査の内容からすると、本件調査の際も同様であったと推認することができる。
 加えて、証拠(甲1)によれば、本件調査会社が前記キャプチャー画像を記録したのは、本件調査会社の端末が本件動画を継続的にダウンロードしている時であり、また、上記端末の画面には、その時点で本件調査会社の端末に上記ダウンロードに係る送信をしていた者に割り当てられていたIPアドレスが表示されていたと認められる。
 前記第2の2(4)の事実にこれらの事情を併せ考えれば、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製物のファイルをダウンロードした際の通信であると認められる。
(2)被告は、本件ソフトウェアが一般社団法人テレコムサービス協会の認定する監視ソフトウェアではなく、ピアツーピアネットワークの監視を目的としたシステムでないこと、本件ソフトウェアのソースコードの解析がされていないことなどを指摘する。しかし、前記(1)に述べた点に照らせば、これらの事情から直ちに本件ソフトウェアのIPアドレスの表示等の正確性に疑義が生じるとはいえない。
 また、被告は、本件調査の中で記録された前記のキャプチャー画像の内容に「下り速度」の表示がないことや、その状況を示す「フラグ」の表示も不完全であることなどを指摘する。しかし、証拠(甲14、21)によれば、本件調査会社は、本件調査と同様の調査において、これらの表示に関わらず対象の動画をダウンロードできていることが認められ、これらは本件調査においても同様と認められるから、この点に関する被告の主張は前記認定を左右しない。
 加えて、被告は、ビットトレントネットワークを利用した通信はトラッカーサーバーを介してネットワークの形成やファイルの送受信をする過程でデータをダウンロードする際様々な通信をすることから、本件通信が動画のデータをダウンロードしている際の通信であるかどうか不明である旨主張するが、前記(1)で述べたところに照らせば採用できない。
 したがって、被告の主張は採用できない。
3 争点3について
 証拠(甲8)によれば、本件動画の複製物がダウンロードされていることが認められ、その複製物からは、本件動画の表現の本質的特徴を感得することができる。
4 弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そのためには、原告に本件通信の発信者情報の開示をする必要があるといえるから、原告には、プロバイダ責任制限法5条1項2号の「正当な理由がある」といえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


(別紙)発信者情報目録
(省略)

(別紙)動画目録
(省略)
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