判例全文 | ||
【事件名】アクセルへの発信者情報開示請求事件 【年月日】令和6年2月15日 東京地裁 令和5年(ワ)第70430号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年12月14日) 判決 原告 インフォメディア株式会社 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 株式会社アクセル 同訴訟代理人弁護士 名古屋聡介 同 土谷一貴 同 奥村祥樹 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、別紙侵害著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下、同目録記載のIPアドレス等により特定される発信者を「本件発信者」という。また、本件発信者に係る発信者情報を「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは枝番号を含む。以下同じ。) (1)当事者等 ア 原告は、雑誌・コミックの発行及び販売業務、CD・DVD・ゲームソフトの販売を事業内容とする株式会社である(乙1)。 イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、本件発信者情報を保有している。 (2)本件動画の著作物性 本件動画は、原告の従業員らが企画、監督、演出、撮影等を担当して制作し、その思想又は感情を創作的に表現したものであり、かつ、その映像に係るデータをDVD等の媒体に固定したものである(甲2、18)。 したがって、本件動画は、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されているものといえるから、映画の著作物に当たると認められる(著作権法2条3項)。 これに対し、被告は、本件動画がいわゆるアダルト動画であることから、刑法175条所定の「わいせつ」な電磁的記録に当たり、著作物として保護されない旨を主張する。しかし、本件動画が一般社団法人日本映像制作・販売倫理機構の審査を受けた映像作品として一般に販売されていること(甲2、18の2)に鑑みると、その内容がアダルト動画であるからといって直ちに刑法175条所定の「わいせつ」な電磁的記録に当たるとはいえず、被告の主張は前提を欠く。他に本件動画の著作物性を否定すべき事情もない。この点に関する被告の主張は採用できない。 (3)本件動画の著作権の帰属 原告は、その発意に基づき、従業員らに対し、本件動画を職務上作成させた上で、本件動画の商品パッケージに原告を著作者として表示していることから(甲2、18)、自己の著作の名義の下に本件動画を公表したといえる。 したがって、原告は、本件動画の著作権を有すると認められる(著作権法15条)。これに反する被告の主張は採用できない。 (4)「BitTorrent」の仕組み等 「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆるP2P形式のネットワークである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際には、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、これを自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降はピースのアップロードのみを行うこととなる。 ビットトレントネットワークには匿名性はないため、ユーザがトラッカーにアクセスすると、そのIPアドレスはトラッカーの管理者に把握される。(以上につき、甲4〜6) (5)原告による本件動画のビットトレント上のアップロード調査 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件動画に係るファイルのアップロードの有無につき調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「●ギリシア文字。ミューtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本件動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードしているユーザにおいて、別紙発信者情報目録記載の日時に同記載のIPアドレスが使用されていることを報告した(甲1、2、4〜9)。 2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張) 本件調査会社は、本件調査において、ビットトレントの開発会社の管理に係る本件クライアントソフトを使用した。本件クライアントソフトは、ダウンロードするファイルを検索し、ビットトレントを使用しているピアの情報を表示する機能を有しているため、本件クライアントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIPアドレスを解明することが可能となる。 本件調査会社は、調査対象となる本件動画のファイルをインターネット上で検索してトレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動し、上記トレントファイルから本件クライアントソフト上で対象となるデータのダウンロードを開始した。これにより、本件動画のピースを保有するピア(本件発信者)が接続しているIPアドレス、接続日時等が特定された。 このような本件調査の結果により、本件発信者は、ビットトレントのクライアントソフトがインストールされたパソコンにおいて、当該ソフトによりビットトレントを通じて自己が取得した本件動画のファイルを、他のユーザの求めに応じて自動的に送信状態に設定することができるフォルダに記録し、このパソコンを、上記クライアントソフトにより、ビットトレントのネットワークに接続して、本件動画を送信可能化したといえる。 したがって、本件発信者の行為により原告の本件動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 (被告の主張) 否認ないし争う。 原告の調査によれば、本件調査当時に本件発信者が保有していた本件動画のピースは、全体の37.7%にすぎず、その内訳は明らかでない。 したがって、本件調査当時に本件発信者が保有していたピースが本件動画の創作性のある部分の複製に当たるものであったかは不明であり、本件発信者が原告の公衆送信権を侵害したことが明らかとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について (1)証拠(甲1〜9、12、14、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査の内容は、以下のとおりであることが認められる。 ア 本件調査会社は、原告が著作権を有する本件動画の作品番号やタイトルを聴取し、ウェブサイトにおいて本件動画に係るトレントファイルを検索し、本件動画に係るトレントファイルが存在することを確認した。 イ 本件調査会社は、端末にダウンロードした上記トレントファイルに基づき、本件クライアントソフト上で本件動画に係るピースを有するピアから当該ピースをダウンロードすると共に、当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、スクリーンショットして保存した。また、この際、ダウンロードされたファイルに係る動画と本件動画とを見比べて、前者が後者を複製したものであることを確認した。 ウ 本件調査の際の本件動画に係るスクリーンショット(甲1)には、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の日時と、本件動画(本件動画の品番は上記スクリーンショットの上欄の「名前」欄に表示されている。)のダウンロード先のピアのIPアドレスとして本件発信者に係るIPアドレスが表示されている。 (2)ビットトレントは、本件クライアントソフトのようなクライアントソフトがダウンロードされた端末(ピア)間において一つのファイルを断片化したピースのダウンロードが始まると、完全に当該ピースのダウンロードがされる前からダウンロードした分のピースのアップロードも始まり、一つのファイルのピース全てのダウンロードが終了したピアは、アップロードのみを行うことになるという仕組みを有する。 本件では、本件調査会社が本件クライアントソフトを利用して本件動画のファイルに係るピースを有するピアから当該ピースのダウンロードを開始したところ、本件クライアントソフトにより、当該ピアについて、スクリーンショット画面の下欄のIPアドレスを割り当てられたユーザであるとの表示がされた。このことから、本件動画に係るピースは、上記IPアドレスが割り当てられたユーザ(本件発信者)によりアップロードされたものと認められる。 そうすると、本件動画に係るファイル(ピース)は、本件発信者により、公衆からの求めに応じて送信可能な状態に置かれたということができる。すなわち、本件発信者は、本件動画に係るデータを送信可能化したものであり、これにより、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)。 (3)被告の主張について 被告は、本件調査当時に本件発信者が保有していた本件動画のピースは全体の37.7%にすぎず、その内訳は明らかでないから、当該ピースが本件動画の創作性のある部分の複製に当たるものであったかは不明であり、本件発信者が原告の公衆送信権を侵害したことが明らかとはいえない旨を主張する。 確かに、本件調査における本件クライアントソフトのスクリーンショット画像には、その下欄の「%」欄に「37.7%」という表示がされている(甲1)。 しかし、そもそも、同欄の表示は、当該IPアドレスに係るピアからのダウンロードの進捗状況を表示したものであり(甲9)、当該ピアが保有するピースの動画全体に占める割合を表示するものではない。このため、被告の主張はそもそも前提を欠くものである。 この点を措くとしても、上記スクリーンショットの撮影時点で既に、当該ピアからファイルの37.7%がダウンロードされていることに加え、前記(1)イのとおり、本件調査では、当該ピアからダウンロードされたファイルに係る動画と本件動画とを比較して前者が後者を複製したものであることを確認していることからすれば、当該ピアが保有するピースは、上記スクリーンショットの撮影時点において、本件動画の創作性のある部分の複製に当たるものであったと認めるのが相当である。 以上より、この点に関する被告の主張は採用できない。 2 その他の要件について 前提事実及び上記認定を踏まえれば、被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、原告の著作権侵害に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であり、かつ、本件発信者情報を保有していることが認められる。 また、上記1のとおり、本件動画は本件発信者により送信可能化されたことが認められることから、原告には、本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使をするため、本件発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があると認められる。 3 小括 以上より、原告は、被告に対し、本件発信者に係る本件発信者情報の開示請求権を有する。 第4 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 吉野弘子 別紙 発信者情報目録 以下の日時に以下の IPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
(別紙侵害著作物目録省略) |
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