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【事件名】賃貸物件の写真無断使用事件 【年月日】令和6年2月7日 東京地裁 令和4年(ワ)第9461号 削除請求等請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年11月29日) 判決 原告 株式会社アルプス建設 同訴訟代理人弁護士 薩川智結 被告 株式会社GHエステート(以下「被告会社」という。) 被告 X(以下「被告X」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 笠原基広 同 野村信之 主文 1 被告らは、原告に対し、7万1000円並びにこれに対する被告会社については令和4年6月4日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員及び被告Xについては同月8日から支払済みまで同割合による金員(ただし、7万1000円及びこれに対する令和4年6月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による限度で連帯して)を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを25分し、その24を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、原告に対し、連帯して216万円及びこれに対する被告会社については令和4年6月4日から、被告Xについては同月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員(ただし、7万1000円及びこれに対する令和4年6月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による限度で連帯して)を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告らが共同して別紙写真目録記載の各写真(以下、同目録の「番号」欄の番号の順に「本件写真1」、「本件写真2」などといい、これらを併せて「本件各写真」という。)を、被告会社の管理する賃貸物件(以下「被告物件」という。)に係るウェブサイトに掲載した行為が、原告の本件各写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害すると主張して、被告らに対し、民法709条及び719条1項に基づき、216万円(著作権法114条3項により算定される損害額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社については令和4年6月4日、被告Xについては同月8日)から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払(ただし、各被告への請求範囲が重なる部分に限り連帯支払)を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 ア 原告は、不動産の売買・賃貸の仲介業等を営む株式会社であり、原告代表者は、株式会社アルプスエージェント(以下「アルプスエージェント」という。)の代表取締役も務めている。 イ 被告会社は、宅地建物取引業等を営む株式会社である。被告会社代表者は、原告の元従業員であり、平成30年1月31日に原告を退職し、令和3年3月23日に被告会社を設立した。 ウ 被告Xは、原告の元従業員であり、令和3年9月30日に原告を退職した直後に被告会社に就職した。 (2)原告は、令和4年3月10日頃、被告らに対し、被告物件に係るウェブサイトにおいて、原告の保有する写真が無断で使用されているとして、使用されている写真の削除等を求める旨の通知をした(甲8ないし10)。 そして、原告は、令和4年3月13日付けで、被告会社に対し、上記通知で求めた写真の削除等が行われていないとして、被告会社との取引を停止する旨の通告をした(甲14)。 3 争点 (1)本件各写真の著作物性(争点1) (2)本件各写真に係る著作権の帰属(争点2) (3)被告らによる著作権侵害行為の有無(争点3) (4)権利濫用の成否(争点4) (5)損害の発生及び額(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件各写真の著作物性)について (原告の主張) 本件各写真は、賃貸物件を紹介する目的で撮影された写真(以下「物件写真」という。)であり、賃貸物件に消費者が興味を持つように、明るさや撮影角度を調整したり、広い範囲を写真に収めることができる広角モードやパノラマモードを利用して写真に奥行きや迫力を与えるように工夫したりするなどして撮影されたものである。 実際、「suumo」などの賃貸物件に係る情報サイトにおいては、各社ごとに異なる写真を掲載する仕組みになっており、このような仕組みは、写真の撮影方法によって個性が表現される余地があることを前提としたものである。 したがって、本件各写真は著作権法上保護される著作物に当たる。 (被告らの主張) 本件各写真は、不動産の状況を忠実に再現することを目的とした物件写真であり、被写体の選択、構図の設定、被写体と光線との関係等の表現上の要素は非常に限られたものとなり、撮影者の独自性は表れない。そうすると、本件各写真は誰が撮影したとしても同じように撮影されるものであって、そのような写真に著作物性を認めることは、文化の発展を図ることを目的とする著作権法の趣旨に反するものである。 したがって、本件各写真は著作権法上保護される著作物に当たらない。 2 争点2(本件各写真に係る著作権の帰属)について (原告の主張) (1)本件各写真の撮影日時及び撮影担当者について 本件各写真の撮影日及び撮影時間は、別紙写真目録の「撮影・加工日」欄及び「撮影・加工時間」欄にそれぞれ記載のとおりであり、本件各写真の撮影担当者は、同「撮影担当者」欄記載のとおりである。ただし、「撮影・加工日」(以下「撮影日」という。)が2015年(平成27年)1月1日(本件写真53ないし65、70、72、75)、同年3月2日(本件写真35、36、40、41、44ないし47)とされている写真については、機器の設定が行われていなかったため、不正確な撮影日が記載されている可能性が高い。 別紙写真目録の「撮影担当者」欄に記載されている「B」、「C」及び「D」は、いずれも原告の従業員であり、原告からの指示に基づいて写真を撮影し、原告が管理するサーバーに写真のデータを保存した。 なお、別紙写真目録の「撮影担当者」欄に「不明」と記載されている写真は、原告の従業員が、従業員名を表示せずに原告が管理するサーバーに保存したため、撮影者を確認できないものであるが、それらのうち、例えば、「ディアコート六ッ川」、「ピュアハイム本田」及び「日興パレス伊勢佐木町北」に係る写真については、被告らが掲載した物件写真以外にも、原告はファイル名の数字が連番となる前後の写真も保有しているから、これらの写真も原告の従業員が原告の指示に基づき撮影した写真である。 (2)本件各写真に係る著作権が著作権法15条1項により原告に帰属することについて 本件各写真は、いずれも原告が、賃貸物件の募集業務を遂行するために、原告の従業員に命じて撮影させ、同従業員が原告にデータを提供したものであるから、原告の発意に基づきその従業員が職務上作成したものである。 また、本件各写真は、原告が管理するウェブサイトに掲載して利用するために撮影されたものであり、原告が自己の著作の名義の下に公表するものである。そして、原告には、契約、勤務規則その他に著作権に関する別段の定めはない。 したがって、著作権法15条1項により、本件各写真の著作者は原告となるから、その著作権は原告に帰属する。 (被告らの主張) 不動産業界においては、物件写真を融通する慣行が存在し、本件各写真のデータも他社から融通された写真のデータである可能性がある。 また、撮影者について、そもそも原告の主張によっても撮影者が不明とされている写真が存在している上、原告が本件各写真の一部を撮影したと主張する「B」、「C」及び「D」の3名は、平成27年時点では原告に入社しておらず、そうすると、少なくとも撮影日が平成27年とされている写真は、原告の従業員ではない人物が撮影した可能性が高い。 さらに、原告の従業員には、アルプスエージェントと兼務していた者が多数おり、物件写真の撮影が原告の職務として行われたのか、それともアルプスエージェントの職務として行われたのかは、不明であるから、本件各写真が原告の職務上作成されたか否かも明らかではない。 したがって、本件各写真について、著作権法15条1項の要件を満たすとはいえず、その著作権が原告に帰属しているとは認められない。 3 争点3(被告らによる著作権侵害行為の有無)について (原告の主張) 被告会社は、原告の許諾を得ることなく、別紙侵害目録の「番号」欄記載の各写真(なお、同目録の「番号」欄記載の1ないし108の番号は、本件各写真の1ないし108の番号にそれぞれ対応する。)を、同目録の「掲載箇所」欄記載の被告物件に係るウェブサイトに掲載した。被告らによる別紙侵害目録記載の各写真の掲載期間は以下のとおりである。 本件写真1ないし29 令和4年3月22日から同年5月13日まで 本件写真30ないし88 令和4年3月23日から同年5月13日まで 本件写真89ないし91 令和4年3月10日から同年3月12日まで 本件写真92ないし98 令和4年4月12日から同年5月13日まで 本件写真99ないし108 令和4年4月14日から同年5月13日まで また、被告Xは、令和3年9月30日に原告を退職し、その直後に被告会社に転職しているところ、本件各写真の撮影日は、最新のものが令和2年6月26日であり、被告Xのほかに上記の撮影日の直後に原告を退職し、被告会社に転職した人物は存在しないことからすれば、被告Xは、本件各写真のデータを原告から持ち出し、被告会社は、そのデータを利用したものと考えられる。 したがって、被告らの行為は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであって、共同不法行為に該当する。 (被告らの主張) 否認ないし争う。なお、被告会社で管理していた物件写真のデータは、データの入替え等により既に削除されているため、被告らにおいて、当該データを利用した写真の掲載期間等を特定することはできない。 4 争点4(権利濫用の成否)について (被告らの主張) 原告代表者は、本件訴訟提起後の令和4年6月21日に、被告会社に対する誹謗中傷を行っており、本件訴訟は、原告代表者の私怨によって行われたものといえるから、原告の著作権侵害に基づく損害賠償請求は、権利の濫用に当たり許されない。 (原告の主張) 本件訴訟は、著作権侵害に基づく損害の回復を求めるために提起されたものであり、原告代表者の私怨等に基づくものではないから、原告の請求が権利濫用に該当する余地はない。 5 争点5(損害の発生及び額)について (原告の主張) 原告は、被告らの著作権侵害行為によって、本件各写真に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被った(著作権法114条3項)。 その額については、株式会社NHKエンタープライズ(以下「NHKエンタープライズ」という。)、株式会社毎日新聞社の運営する毎日フォトバンク(以下「毎日フォトバンク」という。)や株式会社アマナイメージズ(以下「アマナイメージズ」という。)の写真使用料の定め(甲19ないし21)からすれば、本件各写真1枚当たり2万円の合計216万円(2万円×108枚)とすべきである。 仮に上記の方法によって損害額が算出できないとしても、本件各写真に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を算出するに当たっては、物件写真の撮影代行サービスの利用料を参考にすべきである。 (被告らの主張) 原告は、NHKエンタープライズ等における写真の利用料を基準に損害額を算定しているが、これらの写真はプロが高価な機材を用い、撮影対象の選択をはじめ、撮影機会、画角、シャッター速度、露出等様々な点でプロとしての創意工夫を施して撮影したものであるのに対し、本件各写真は、プロが撮影したものではなく、スマートフォンやコンパクトデジタルカメラで簡易に撮影したスナップ写真にすぎないから、上記の利用料の定めは、本件各写真に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の参考にはならない。 また、原告は、物件写真の撮影代行サービスの利用料を参考にすべきと主張するが、この利用料は、保有をしていない物件写真のデータを取得するための対価であり、写真の使用料とは一致しないし、原告が主張する事例は、一眼レフカメラを使用した例であり、本件各写真の撮影方法とは大きく異なる。 そして、仮に本件各写真に著作物性を認めたとしても、物件写真における、表現の選択の幅は狭く、その創作性の程度は極めて小さいこと、本件各写真は、一眼レフカメラではなく、スマートフォンなどを使用して素人が撮影したものにすぎず、そのような写真であれば撮影代行サービスを利用しても1枚当たり100円前後で入手できることなどからすれば、本件における損害額は、物件写真1枚当たり100円を超えない程度の金額にすべきである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件各写真の著作物性)について 証拠(甲5、11、15、27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、賃貸物件の外観・内観及び周辺環境等を撮影したものであること、本件各写真の撮影は、賃貸物件の内容を分かりやすく需要者に伝えるため、明るさや撮影角度等を調整して行われたものであること、本件各写真の中には、対象を広く写真に収めるため、パノラマ写真を撮影できるカメラを利用して撮影されたものも含まれていることが認められる。 このような本件各写真の内容や撮影方法に照らすと、本件各写真は、被写体の構図、カメラアングル、照明、撮影方法等を工夫して撮影されたものであり、撮影者の個性が表現されたものといえる。 したがって、本件各写真は、いずれも思想又は感情を創作的に表現したものと認められ、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、これに反する被告らの主張は採用できない。 2 争点2(本件各写真に係る著作権の帰属)について (1)証拠(甲27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真のうち撮影担当者が特定されている各写真(本件写真2ないし13、30ないし81、93ないし97、104、105)については、原告の従業員であった人物が、原告の管理する賃貸物件の紹介に利用するために、原告の指示に基づき撮影した写真であることが認められるから、これらの写真は、「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」であるといえる。 そして、著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは、実際に公表されたもののみならず、創作の時点において、法人等の名義で公表されることが予定されていたものを含むと解されるところ、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、原告の管理する賃貸物件を紹介するウェブサイトに掲載することが予定されていたものと認められるから、この要件を満たす。また、本件全証拠によっても、原告とその従業員との間の契約、勤務規則その他において著作権に関する別段の定めがあるとは認められない。 (2)したがって、本件各写真のうち本件写真2ないし13、30ないし81、93ないし97、104及び105の合計71枚は、原告の職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作者は原告であり、その著作権は原告に帰属する(以下、原告に著作権が帰属すると認められるこれらの写真を総称して、「本件侵害対象写真」という。)。 (3)原告の主張について これに対し、原告は、撮影担当者が不明とされている各写真(本件写真1、14ないし29、82ないし92、98ないし103、106ないし108)についても、上記の各写真が原告の管理するパソコンのサーバーに保管されていたことや、原告が上記の各写真とファイル名が連番となる前後の写真を保有していることを根拠として、これらの写真がいずれも原告の従業員によって撮影された写真であると主張する。 しかし、本件全証拠によっても、上記の各写真が原告の管理するパソコンのサーバーに保管されることとなった具体的経緯は明らかではないから、仮に原告の主張する事実が存在したとしても、そのような事実のみによって、上記の各写真が原告の従業員が原告の指示に基づき撮影したものであると認めることはできないというべきである。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 (4)被告らの主張について 他方、被告らは、@不動産業界においては、物件写真を融通する慣行が存在し、本件各写真のデータも他社が撮影した写真のデータである可能性があること、A本件各写真には、撮影日が平成27年とされる写真も存在しているが、この写真を撮影したとされる「B」、「C」及び「D」の3名は、同年時点では原告に入社しておらず、そうすると、撮影日が同年とされている写真は原告の従業員ではない人物が撮影した可能性が高いこと、B原告の従業員には、アルプスエージェントと兼務していた者が多数存在しており、本件各写真の撮影が、原告の職務として行われたのか、それともアルプスエージェントの職務として行われたのかは、不明であることから、職務著作は成立しないと主張する。 しかし、上記@については、抽象的な可能性を指摘するものにすぎず、本件全証拠によっても、本件侵害対象写真に原告の従業員以外の人物が撮影した写真や他社が著作権を有する写真が含まれていたとは認めることはできない。 上記Aについて、証拠(甲27、乙6、7、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真のうち、撮影場所を「VALESIAYOKOHAMASOUTHCITY」、「ウィンベルソロ南太田第2」又は「G・Aヒルズ戸部」とする写真の一部(本件写真35、36、40、41、44ないし47、53ないし65、70、72、75)の撮影日が、平成27年となっていること、原告が本件侵害対象写真の撮影担当者と主張する「B」、「C」及び「D」の3名が平成27年時点で原告に在籍していなかった可能性があることが認められる。もっとも、上記の撮影日については、撮影者が機器の設定等を行うことなく写真の撮影をしたため、不正確な日時が記載されてしまった可能性もあるところ(甲27、原告代表者)、証拠(甲5、15、27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、上記の各撮影場所の物件について別の機器を利用して同時に撮影されたものと認められる他の写真(本件写真30ないし34、37ないし39、42、43、48ないし52、66ないし69、71、73、74、76ないし81)の撮影日は、平成31年若しくは令和元年又は令和2年とされていることが認められる。そうすると、一部の写真の撮影日が平成27年とされていることをもって、それらの写真が原告の従業員ではない人物によって撮影されたということはできない。 上記Bについて、前提事実(1)アのとおり、原告代表者がアルプスエージェントの代表取締役も務めていることに加え、証拠(甲27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告とアルプスエージェントは実質的に同一の会社であり、アルプスエージェントは、原告の事業を行う際の名称等として利用されていたと認められることに照らせば、本件侵害対象写真の撮影に関する業務は、原告の発意に基づき行われたものと認めるのが相当である。 したがって、被告らの主張はいずれも前記(2)の判断を左右するものではないというべきである。 (5)小括 以上のとおり、本件各写真のうち本件写真2ないし13、30ないし81、93ないし97、104及び105の合計71枚(本件侵害対象写真)については、職務著作として、その著作権が原告に帰属すると認められる一方で、その余の写真(本件写真1、14ないし29、82ないし92、98ないし103、106ないし108)については、原告の従業員による職務著作と認めることはできない。 3 争点3(被告らによる著作権侵害行為の有無)について 証拠(甲5ないし7、15ないし17、27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、原告の許諾を得ることなく、別紙侵害目録の「掲載箇所」欄記載の被告物件に係るウェブサイト上において、本件侵害対象写真を有形的に再生して掲載し、以下の期間、インターネットを通じて上記のウェブサイトにアクセスした不特定又は多数の者が本件侵害対象写真を閲覧できる状態に置いたことが認められる。 本件写真2ないし13 令和4年3月22日から同年5月13日まで 本件写真30ないし81 令和4年3月23日から同年5月13日まで 本件写真93ないし97 令和4年4月12日から同年5月13日まで 本件写真104、105 令和4年4月14日から同年5月13日まで したがって、被告らの行為は、共同して、故意又は過失により、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものとして、共同不法行為に該当する。 4 争点4(権利濫用の成否)について 仮に原告代表者が被告らの指摘するような投稿を行っていたとしても、別途被告会社に対する不法行為が成立し得るか否かは別として、原告が被告らに対して著作権侵害に基づく損害賠償請求を行うことが直ちに権利の濫用として許されないものと解することはできない。 5 争点5(損害の発生及び額)について (1)証拠(甲27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、通常、管理会社等を通さずに物件写真を取得する際には、自社の従業員などが現地を訪問し、賃貸物件の外観や内観等の撮影した上で、必要に応じて写真の加工等を行っていることが認められるところ、被告会社は、本件侵害対象写真を使用することによって、上記の作業に係る支出等を免れたものといえる。 そして、証拠(甲23の3、25、26、乙3、5)及び弁論の全趣旨によれば、物件写真の撮影代行サービスの料金については、@広角一眼レフカメラ撮影の外観・内観セット(単発発注)については、3600円から4500円、360度パノラマ撮影(単発発注)については、3200円から4000円(写真の加工等には別途オプション料金が必要)とするもの、A内観(画像15枚程度)2750円、外観・共用部セット3300円、高品質撮影5500円、交通費2000円程度とするもの、B外観・エントランス・看板7枚以上で2750円〜5500円、外観・共用部・室内全て7枚以上で1万3200円(いずれも一眼レフカメラ、広角カメラで撮影。1回の撮影枚数は30枚以上。)、シータによる撮影(8枚以上)は1件4400円(写真の加工等には別途オプション料金が必要で、徒歩15分以上の撮影の場合は1650円が加算される。)とするもの、Cマンション一眼レフカメラ広角レンズ撮影について、外観のみ(10枚程度)3500円、内観のみ(20枚程度)4000円、外観・内観(30枚まで)4500円、オプションとして360度パノラマ撮影について、1枚500円、5枚まで1000円〜2000円(ただし、駅から徒歩16分以上の場合は1000円が加算される。)とするもの、D外観のみ(5枚から10枚程度)1200円から1800円、外観・内観セットについて10枚から15枚程度の場合は2200円から2500円、30枚程度の場合は2500円から2800円とするものなどがあることが認められ、このような料金の定めからすれば、物件写真の撮影代行サービスを利用する場合、写真1枚当たりに換算すると数百円程度の費用が必要となるほか、交通費や写真の加工等のためのオプション料金が別途発生し得ることが認められる。 上記の事情に加え、本件侵害対象写真の掲載期間は最大で2か月弱であってさほど長くないこと(前記3)、他方で、著作権侵害があった場合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は通常の使用料に比べて高額となることといった事情を併せ考慮すると、本件侵害対象写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、写真1枚当たり1000円の合計7万1000円と認めるのが相当である。 (2)これに対し、原告は、NHKエンタープライズ(甲19)、毎日フォトバンク(甲20)やアマナイメージズ(甲21)の写真使用料の定めからすれば、本件侵害対象写真の使用料相当額は1枚当たり2万円とすべきであると主張する。 しかし、NHKエンタープライズや毎日フォトバンクの提供する写真は、報道等のために撮影された写真であり、また、アマナイメージズの提供する写真はウェブ広告や動画配信広告等に用いられるものであって、その撮影対象や撮影方法は、賃貸物件の紹介を目的とした物件写真とは大きく異なるものといえるから、上記各社の写真使用料の定めを本件で参考にすることは相当ではない。 したがって、原告の上記主張は採用できない。 6 結論 以上によれば、被告らは、原告に対し、7万1000円並びにこれに対する被告会社については令和4年6月4日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員及び被告Xについては同月8日から支払済みまで同割合による金員(ただし、7万1000円及びこれに対する令和4年6月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による限度で連帯して)の支払義務を負うことになる。 よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 バヒスバラン薫 裁判官 木村洋一 (別紙写真目録 省略) (別紙侵害目録 省略) |
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