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【事件名】ハイホーへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】令和6年1月31日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70486号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年12月15日)

判決
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
原告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ
上記両名訴訟代理人弁護士 林幸平
同 笠島祐輝
同 尋木浩司
同 前田哲男
同 福田祐実
被告 株式会社ハイホー
同訴訟代理人弁護士 名古屋聡介
同 土谷一貴
同 松岡絵律子


主文
1 被告は、原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告株式会社バンダイナムコミュージックライブに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は,原告らが、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して、原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー」という。)がレコード製作者の権利を有する別紙CD目録記載1の音楽CD(以下「本件レコード1」という。)及び原告株式会社バンダイナムコミュージックライブ(以下「原告バンダイ」という。)がレコード製作者の権利を有する別紙CD目録記載2の音楽CD(以下「本件レコード2」という。)を送信可能化したことによって原告らの本件レコード1、2に係る送信可能化権を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、被告の提供する電気通信設備を経由して前記各レコードを送信可能化し、原告らの損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)ア 原告らはレコード会社であり、多数のレコードを製作して発売している株式会社である。(弁論の全趣旨)
イ 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社である。(争いなし)
(2)別紙発信者情報目録記載のIPアドレスを用いて同目録記載の時刻に行われた通信(以下「本件通信」という。)は、被告の電気通信設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。(争いなし)
(3)ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファイルをダウンロードするためのビットトレントのクライアントソフトを自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。以下同じ。)を保有している他のユーザーの端末のIPアドレスを取得して通信を行い、それらの端末と接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行う。ファイルをダウンロードした端末は、自動的にピアとして「トラッカー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウンロードさせることになる。なお、ピアは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、互換ソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。(甲10、12)
(4)原告らは、株式会社Flow(以下「本件調査会社」という。)に対して、ビットトレントネットワークを介した別紙CD目録記載の各レコードの流通の監視を依頼し、本件調査会社は、P2PFINDER(以下「本件システム」という。本件システムは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会がP2P型ファイル交換ソフトを利用した権利侵害に際してその特定方法等の信頼性が認められると認定したシステムである。)を用いてこれを行い(以下「本件調査」という。)、その結果、本件システムを用いて別紙発信者情報目録記載1の時刻に同記載1のIPアドレスを用いたピア(以下「本件ピア1」という。)から音楽ファイルの複製物に係るピースをダウンロードし、別紙発信者情報目録記載2の時刻に同記載2のIPアドレスを用いたピア(以下「本件ピア2」という。)から音楽ファイルの複製物に係るピースをダウンロードした。(甲2、3、6、7、9、12、弁論の全趣旨)
3 主な争点に対する当事者の主張
(1)原告らが、本件レコード1、2に音を固定したか(争点1)
(原告らの主張)
 原告ソニーが本件レコード1に、原告バンダイが本件レコード2に音を固定した。
(被告の主張)
 否認する。
(2)本件ピア1、2により送信可能化された音楽ファイルが本件レコード1、2のものであったか(争点2)
(原告らの主張)
 本件調査の結果、本件調査会社は、本件システムを用いて、本件ピア1から本件レコード1の音楽ファイルのピースをダウンロードし、本件ピア2から本件レコード2の音楽ファイルのピースをダウンロードした。本件システムでは、対象ピアが対象ファイルの一部ではなく全部保有しているときのみピースをダウンロードし、時刻、IPアドレスを記録する仕様になっており、本件ピア1、2は、ぞれぞれ、本件レコード1、2を送信可能化した。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
(3)原告らに電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける正当な理由があるか(争点3)
(原告らの主張)
 被告は、本件ピア1、2に係る契約者の氏名及び住所を保有しているが、これらが虚偽である場合や、契約者が転居している場合等、これらの情報が正確でない場合が想定され得るため、本件ピア1、2に係る電話番号及び電子メールアドレスについても開示の必要性がある。
(被告の主張)
 原告らに対し、被告が保有する本件ピア1、2に係る契約者の氏名及び住所が開示されれば原告らの損害賠償請求には支障がないから、原告らには本件ピア1、2に係る契約者の電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける必要性はない。
第3 当裁判所の判断
1 原告らが、本件レコード1、2に音を固定したか(争点1)について
 原告ソニーが本件レコード1を製作した旨の記載のある陳述書(甲3)、本件レコード1には、●(○の中にP)マークの後に原告ソニーの社名のアルファベット表記があること(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード1の音は原告ソニーによって最初に固定され、原告ソニーは本件レコード1の送信可能化権を有していることが認められる。
 原告バンダイが本件レコード2を製作した旨の記載のある陳述書(甲7)、本件レコード2には、●(○の中にP)マークの後に原告バンダイの社名のアルファベット表記があること(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード2の音は原告バンダイによって最初に固定され、原告バンダイが本件レコード2の送信可能化権を有していることが認められる。
2 本件ピア1、2により送信可能化された音楽ファイルが本件レコード1、2のものであったか(争点2)
 甲10、11号証によれば、本件システムでは、対象ファイルの全てを保有しているピアについてのみピースのダウンロード及び時刻、IPアドレスの記録がされる仕様になっていることが認められる。
 本件調査の過程では、本件ピア1について、当該ピアから別紙発信者情報目録記載の時刻に同目録記載のIPアドレスからダウンロードしたピースに係る完全な音楽ファイル(全ピースが含まれている。)もダウンロードされ(甲12。ただし、全て本件ピア1からダウンロードされたものであるとは限らない。)、そのダウンロードされた音楽ファイル(甲15)と本件レコード1(甲13)は、同一内容であって、それらが別の音源によることをうかがわせる事情もない。よって本件ピア1によって送信可能化されたのは、本件レコード1であったと認められる。
 同様に、本件調査の過程では、本件ピア2についても、当該ピアからダウンロードしたピースに係る完全な音楽ファイルもダウンロードされ(甲12)、そのダウンロードされた音楽ファイル(甲16)と本件レコード2(甲14)は同一内容であって、それらが別の音源によることをうかがわせる事情もない。よって本件ピア2によって送信可能化されたのは、本件レコード2であったと認められる。
 被告は、本件調査の過程でダウンロードしたのがファイルの一部のピースにすぎない場合には、送信可能化されたのが当該レコードで固定化された音のうち、創作的部分であるか分からないなどと主張して原告らの請求を争うが、レコードに固定された音が送信可能化されることによってレコード製作者の送信可能化権が侵害されるから、被告の主張は理由がない。
3 原告らに電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける正当な理由があるか(争点3)について
 被告が本件ピア1、2に係る契約者の氏名又は名称及び住所を保有していることは争いがないものの、被告が保有しているこれらの情報が必ずしも当該契約者に係る現在の正確な情報であるとは限らないことからすると、原告らには、当該契約者に係る電話番号及び電子メールアドレスの開示を受ける正当な理由があると認められる。
4 以上によれば、本件ピア1に係る契約者は原告ソニーが送信可能化権を有する本件レコード1について、本件ピア2に係る契約者は原告バンダイが送信可能化権を有する本件レコード2について、本件調査会社の端末に送信して記録することにより別紙発信者情報目録記載の時刻に同目録記載のIPアドレスを用いて不特定多数の者を対象に自動公衆送信し得るようにしたものであり、原告らの送信可能化権を侵害したといえ、これらは被告の電気通信設備を利用してされたものであり、別紙発信者情報目録記載の各情報のいずれについても開示の必要があるといえるから、原告らの請求はいずれも理由がある。
 被告は、ビットトレントネットワークにおいてピア間で行われる通信は1対1の特定者間の通信であるから、プロバイダ責任制限法所定の特定電気通信に当たらないなどと主張するが、ピア間の通信は最終的には1対1で行われるものの、ビットトレントネットワーク自体には不特定の者が参加することができ、各ピアは当該不特定の者とデータの送受信をすることからすると、本件通信はプロバイダ責任制限法所定の特定電気通信であり、被告の主張には理由がない。
第4 結論
 よって、原告らの請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


(別紙)発信者情報目録
1 記載省略
2 記載省略

別紙 CD目録
1 記載省略
2 記載省略
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