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【事件名】スクールカウンセラーへの名誉棄損事件(2)
【年月日】令和6年1月30日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10075号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第12774号)
 (口頭弁論終結日 令和5年11月6日)

判決
控訴人 乙
被控訴人 甲


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従う。原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、被控訴人(一審原告)が、(1)控訴人(一審被告)、一審相被告A及び一審相被告Bに対し、一審被告らが、共同して平成26年3月24日から令和2年6月20日までの期間に、インターネット上のブログ、ツイッター(現在の名称は「X(エックス)」。)その他のウェブサイトに被控訴人の名誉を毀損し、又は名誉感情を侵害する内容の投稿をしたとして、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して損害賠償金1億1338万円の一部である566万9000円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日である令和2年10月26日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金(以下の被控訴人の求める遅延損害金の始期及び利率は同じ。)の支払を求め、また、(2)控訴人に対し、@控訴人が、ブログ、ツイッター等に被控訴人のプライバシー権を侵害する内容の投稿をした等として、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金343万7280円の一部である57万2880円及び遅延損害金の支払、A控訴人が、ブログ、ツイッター等に被控訴人の著作物である原判決別紙画像目録記載の画像(本件原画像)を、被控訴人の名誉声望を侵害する形で掲載し、被控訴人の本件原画像についての著作者人格権を侵害したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金390万円の一部である65万円及び遅延損害金の支払、B著作権法112条1項に基づき、本件原画像の自動公衆送信及び送信可能化の差止めをそれぞれ求める事案である。
 原判決は、控訴人に対し、上記(1)の請求について349万円(うち318万円の限度で一審相被告Aと、250万円の限度で一審相被告Bと各連帯支払)及び遅延損害金の支払を求める限度で認容してその余を棄却し、上記(2)の各請求のうち、@については合計30万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容してその余を棄却し、Aについては50万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容してその余を棄却し、Bについては認容した。
 これに対し、控訴人が控訴人敗訴部分を不服として本件控訴をした。なお、一審相被告A及び一審相被告Bとの関係では、被控訴人及び同相被告らのいずれも控訴をしなかったため、原判決のうち、被控訴人とこれらの一審相被告らとの間の部分は確定した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2及び3並びに第3に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
(1)原判決9頁16行目、19行目、10頁2行目、5行目及び10行目の各「信用棄損/侮辱表現等」とあるのをいずれも「信用毀損/侮辱表現等」と改める。
(2)原判決29頁26行目(2か所)、30頁1行目、3行目及び4行目の各「C」とあるのをいずれも「C′」と改める。
 なお、控訴人は、控訴理由書において、原判決は証拠に基づかず事実を認定した違法があるとして、原判決が前提事実として認定した事実のうち、控訴人が、原判決別紙一覧表各記載の投稿(「投稿者」欄に「被告乙」と記載されているものに限る。)をした旨の認定を論難するようにも解される。
 そこで検討すると、被控訴人は、原審において、控訴人等による投稿の事実を証する証拠として甲3〜5の証拠を提出した。このうち、甲4の1は、被控訴人がこれらの投稿の本文を書き写して作成した一覧表であり、これを基礎に原判決別紙一覧表が作成された。甲4の2は、投稿の本文のみを書き写した甲4の1には掲載しきれない写真・画像を掲載し、甲4の1に記載された凡例と共に投稿の内容を表すものである。甲5は、インターネット上に実際に掲載された投稿の一部を直接印刷したものである。被控訴人は、控訴人等による認否をみて、必要に応じて証拠を追加する旨を述べていたところ、控訴人は、原判決別紙一覧表に対し、その一部のみを調査するとした上、被控訴人による誤記であることが明白であるものに対して記事タイトルが一部異なるとか、内容に関連がないから調査の必要がないなどとして、結局、自らが当該投稿を行ったかについての主張をほとんど明確にしなかった。なお、控訴人が「記事そのものが存在しない」と主張した投稿につき、被控訴人は、そのスクリーンショットの一部を甲44として提出した。
 以上の経緯に照らすと、原判決が、他の前提事実、甲4、44及び弁論の全趣旨により、控訴人が原判決別紙一覧表各記載の投稿(「投稿者」欄に「被告乙」と記載されているものに限る。)をしたことを「証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実」として認定したことは正当である。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、被控訴人の請求は、控訴人に対して429万円(うち318万円の限度で一審相被告Aと、250万円の限度で一審相被告Bと各連帯支払)及び遅延損害金の支払を求め、また本件原画像の自動公衆送信及び送信可能化の差止めを求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次の1のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」第4の1〜12(ただし、原判決第4の11(1)エの部分を除く。)に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
1 原判決の訂正
(1)原判決57頁10行目の「行っているという」を「行っているとの表現を含んでいるものとはいえず」と改める。
(2)原判決63頁15行目冒頭から20行目末尾までを次のとおり改める。
 「また、控訴人は、本件原画像の撮影者はC′であり、C′と被控訴人の位置関係に照らせば被控訴人が本件原画像を撮影することは不可能であるから、被控訴人が本件動画の中にC′が撮影した本件原画像を挿入したなどと主張する。しかし、控訴人は、上記動画を当初被控訴人が撮影していたこと自体は争っていないところ、当該動画の1秒ごとの静止画像(甲52の1)をみても、本件原画像に対応する部分のみ撮影者が変わった形跡は認められない。」
(3)原判決64頁3行目冒頭から14行目末尾までを次のとおり改める。
 「前記6(1)のとおり、本件原画像は、被控訴人が、東日本大震災による被災地である南相馬市の伊勢大御神上大神宮を訪れた際に、同所に設置された線量計において、被控訴人が持参したポケット線量計の値より低い値が表示されていることを端的に映像にするため、これらの線量計を上下に配置して撮影した動画から作成した写真である。
 しかるところ、前提事実(3)オ、キ及びサ並びに下記の原判決別紙一覧表の「本件記事等番号」欄の「名誉・信用毀損/侮辱表現等」によると、控訴人は、「PTSD解離性悪行の数々…■−頭隠して尻尾隠さず被災地に行って体調不良中」、「ストレスがかかると正しい判断ができなくなり奇天烈な行動をするのがPTSD解離人格です。■」、「キレてデタラメ行動をし自爆するのがPTSD解離人格です。■」、「■重大なのは暴走するこころの汚染です。」、「PTSD解離ネットストーカーによる悪意拡散の除染中■」等の文言に織り交ぜて、本件複製画像を掲載した記事を繰り返し投稿していること(【B0001】、【B0004】ないし【B0008】、【B0016】ないし【B0018】、【B0047】、【B0048】、【B0051】、【B0053】、【B0054】、【B0056】、【B0057】、【B0062】及び【B0064】。「■」は本件複製画像が挿入されている箇所を示す。)が認められる。
 これらの投稿は、本来PTSDやストーカー行為とは何ら関係のない被災地における線量計の数値の差異を写した本件原画像を、上記文言と織り交ぜて繰り返し利用することにより、あたかも、見る者をして、本件原画像がPTSD解離にり患している又はストーカー行為をしている者ないしはそれらの行為と何らかの関連性を有する奇異なものであるかのように認識させ得るものであるといえ、本件原画像の著作者である被控訴人の社会的な評価の低下をもたらすものであると認められる。」
(4)原判決65頁2行目の「主張立証をしていないから」を「主張立証をしておらず、これを認めるに足りる証拠も存在しないから」と改める。
(5)原判決65頁23行目の「敢えて、」を「控訴人の主張によっても被控訴人の自宅アパートの隣室の写真であるところ、あえて」と改める。
(6)原判決70頁22行目冒頭から71頁1行目末尾までを次のとおり改める。
 「以上によると、控訴人は、被控訴人に対し、合計349万円(ただし、うち318万円の限度で一審相被告Aと連帯、うち250万円の限度で一審相被告Bと連帯)の損害賠償義務を負うことになる。」
(7)原判決71頁12行目冒頭から19行目末尾までを次のとおり改める。
 「前記7のとおり、控訴人は、「PTSD解離性悪行の数々…■頭隠して尻尾隠さず被災地に行って体調不良中」、「ストレスがかかると正しい判断ができなくなり奇天烈な行動をするのがPTSD解離人格です。■」、「キレてデタラメ行動をし自爆するのがPTSD解離人格です。■」、「■重大なのは暴走するこころの汚染です。」、「PTSD解離ネットストーカーによる悪意拡散の除染中■」等の文言に織り交ぜて、本件複製画像を掲載した記事を繰り返し投稿し、これらは被控訴人の本件原画像に係る著作者人格権の侵害とみなされるところ、本件複製画像と併せて投稿された記事の内容からうかがわれる被控訴人の名誉声望に与える影響の程度は小さくないことに加え、前提事実(3)のとおり、控訴人が、被控訴人による本件原画像の削除等の求めを意に介することなく、かえって新たに本件複製画像を投稿していたこと等も考慮し、被控訴人が被った精神的苦痛を金銭に評価すると、被控訴人の損害額は、50万円と認めるのが相当である。」
(8)原判決71頁21行目冒頭から72頁1行目末尾までを次のとおり改める。
 「以上によると、本件訴訟において被控訴人が控訴人に対して請求できる損害合計額は429万円(ただし、うち318万円の限度で一審相被告Aと連帯、うち250万円の限度で一審相被告Bと連帯)及びこれに対する不法行為の後の日である令和2年10月26日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金となる(なお、ブログ、ツイッター等への各投稿による控訴人と一審相被告A又は一審相被告Bとの共同不法行為は、いずれも一連のものとして相当の期間にわたって行われてきたが、そのうち令和2年4月以降分については同年6月までの3か月弱の期間で、その回数も一連の各投稿中における割合としては少ないものであったとの事情に照らすと、前記でそれぞれ認定した損害額は令和2年3月末日時点で既に発生しており、また、同年4月以降の投稿による不法行為が認められる場合においても同額と認定されるものと認めることができる。)。」
2 文書提出命令(当裁判所令和5年(ウ)第10094号)の却下
 控訴人が、当審において、本件原画像の撮影者が被控訴人ではないことを証明すべき事実として申し立てた文書提出命令の申立てについては、対象文書(画像)の証拠調べの必要性がないので却下する。
3 結論
 その他、控訴人は、控訴理由書等においてるる主張するが、いずれも上記結論を左右するものとは認められない。
 そうすると、被控訴人の控訴人に対する請求を一部認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 遠山敦士
 裁判官 天野研司
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