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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AN 【年月日】令和6年1月18日 東京地裁 令和5年(ワ)第70080号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年10月27日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 田中圭祐 同 吉永雅洋 同 遠藤大介 同 蓮池純 同 神田竜輔 同 神●(たつさき)建宏 同 鈴木勇輝 同訴訟復代理人弁護士 村松誠也 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 金子和弘 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)によって、インターネット上の無料掲示板サービス「5ちゃんねる」に別紙投稿記事目録1及び2記載の各投稿(以下、「本件投稿1」及び「本件投稿2」といい、併せて「本件各投稿」という。)がされたことにより、原告のプライバシー、名誉感情、著作権(複製権又は翻案権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたと主張して、電気通信事業を営む被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。) (1)当事者 ア 原告は、「B」という名称を使用して、インターネット上で配信活動を行っており、また、架空のキャラクターのアバターを使用して、従前は「C」の名称で、現在は「D」の名称で、VTuberとしても活動を行っている。(甲5、6、弁論の全趣旨) イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社であって、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。 (2)本件発信者による投稿 本件発信者は、インターネット上の無料掲示板サービス5ちゃんねるに、被告の特定電気通信設備を経由して、本件各投稿を行った。(甲1、弁論の全趣旨) (3)本件画像の著作権者 原告は、別紙著作物目録掲載の各画像(以下、併せて「本件画像」という。)を撮影した者であり、本件画像の著作権を有している。(甲5、弁論の全趣旨) (4)被告による本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。(弁論の全趣旨) 3 争点 (1)プライバシー侵害の成否(争点1) (2)名誉感情侵害の成否(争点2) (3)著作権に係る「権利の侵害」該当性(争点3) (4)氏名表示権侵害の成否(争点4) (5)開示を受けるべき正当な理由の有無(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(プライバシー侵害の成否)について (原告の主張) (1)原告は、「B」という名称を使用して配信活動を行っているところ、本件投稿1が掲載されたスレッドは、「B」である原告に対する意見や感想を述べるスレッドである。そうすると、本件投稿1の「33歳で」との記載は、原告の年齢を示したものと推知できる。そして、当該原告の実年齢は、私生活上の事実であり、原告がVTuberとして使用しているアバターのイメージが毀損され得ることからすれば、一般に公開されることを欲しない事柄であるし、一般の人々に未だ知られていない事柄である。 そして、原告は、一般市民であって、公人その他の公的な地位にある者ではないし、原告の年齢に関する情報を公開する必要性はおよそ観念できないから、原告に対する人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものであることは明らかである。 したがって、本件投稿1が、原告のプライバシーを侵害することは明白である。 (2)これに対し、被告は、年齢を公表して芸能活動を行っている者も多いから、年齢は公開を欲しない事柄であるとはいえないし、「B」の年齢は検索サイトで検索すれば表示されるから、非公知性もない旨主張する。 しかしながら、芸能活動の内容によっては、芸能人であっても、年齢を公開したくない者もいるところ、原告にとっては、年齢の公開により固定的なイメージがつき、配信活動にマイナスになる事態を避けるために、年齢は公開を欲しない事柄である。また、検索サイトで検索すると原告の年齢が表示されるとしても、当該情報は、原告が自ら公開したものではなく、飽くまで噂にすぎないから、原告の年齢は、未だに非公知であるといえる。 したがって、被告の主張は、理由がない。 (被告の主張) 年齢を公表して芸能活動を行っている者も多いから、年齢は公開を欲しない事柄であるとはいえない。また、検索サイトにおいて、「B年齢」で検索すると、年齢のみならず、生年月日まで表示されることからすると、非公知性もない。 そして、上記のとおり、原告の年齢のみならず生年月日まで公表されている事情のほか、本件投稿1は、30歳を過ぎた者が、配信において「ナイフ舐める」、「ぶっ殺してやりたい」との穏当ではない発言をすべきでない旨の注意をするために投稿したにすぎない事情を踏まえると、年齢を表示する利益は、これを表示されない利益に劣るとはいえない。 2 争点2(名誉感情侵害の成否)について (原告の主張) 本件投稿1は、「ナイフ舐める」、「ぶっ殺してやりたい」という原告が配信時に行った発言に対し、「普通にキモい」、「自分の年齢考えて!」と述べるものであるところ、当該原告の発言は、TVドラマの内容を描写したものにすぎないにもかかわらず、本件投稿1は、原告の年齢を踏まえて、原告の発言が「気持ち悪い」と誹謗中傷するものであるから、受忍限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものであることが明白である。 これに対し、被告は、発言が穏当でないことを注意したにすぎない旨主張するものの、「普通にキモいよ」というのは嫌悪の感情を示すものであり、注意喚起の投稿として適切とはいえない。また、そもそも原告は、TVドラマの内容を描写して発言したにすぎないのに、本件投稿1は、原告が自身の考えを発言したかのように記載しており、原告に対する注意のための投稿であるとはいえない。 (被告の主張) 本件投稿1は、原告が、配信において「ナイフ舐める」、「ぶっ殺してやりたい」と発言したことに対し、30歳を過ぎた者として、そのような発言をすることは穏当ではない旨の注意をするために投稿したものにすぎず、原告を貶める意図は全くないものであり、原告の人格的価値を中傷するものではない。 したがって、配信者である原告に対するこの程度の表現が、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為に当たることが明らかであるとはいえない。 3 争点3(著作権に係る「権利の侵害」該当性)について (原告の主張) (1)本件画像の著作物性について 本件画像は、原告が自らを撮影したものであるが、このような「自撮り」を行うには、撮影の角度や向きなどの工夫を施すことが不可欠である。また、本件画像は、顔を写さないようにしつつも、原告が十分に映り込むような工夫がされており、原告の個性が現れた著作物に当たる。 (2)本件投稿2による著作権侵害の幇助行為の成否について ア 本件投稿2を投稿する行為は、本件画像のサーバーへのアップロードを必然的に伴うものであるから、当該サーバーに本件動画を有形的に再製しているため、原告の複製権又は翻案権を侵害し、公衆送信権も侵害する。 イ 被告は、本件投稿2は、画像アップロードサイトである「imgur」にアップロードされた写真のURLを張り付けただけであり、5ちゃんねるの掲示板に写真そのものをアップロードしたものではないから、公衆送信権を侵害するものではない旨主張する。 しかしながら、インラインリンクは、ユーザー(閲覧者)の行為を介することなく、ユーザーの端末に侵害情報が送信されてしまうという性質を有しているから、インラインリンク設定行為は、不特定多数の者がアクセスして閲覧することを容易にするものといえる。したがって、リンク先のウェブページに掲載された画像が対象著作物に係る複製権及び公衆送信権を侵害するものである場合には、当該ウェブページへのインラインリンク設定行為は、リンク先のウェブページに係る発信者の公衆送信権侵害を幇助しているといえ、対象著作物に係る著作権(公衆送信権)を侵害する行為であるといえる。 そうすると、本件投稿2のインラインリンク先にアップロードされた画像(以下「本件元画像」という。)は、本件画像に係る原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害するものであることは明らかであるところ、本件発信者は、本件投稿2のインラインリンクの投稿によって、本件画像を表示させ、不特定多数の者が本件元画像にアクセスして閲覧することを容易にさせたのであるから、本件投稿2は、本件元画像による公衆送信権侵害を幇助したものといえ、原告の著作権を侵害したことは明らかである。 (3)プロバイダ制限責任法5条1項にいう「権利の侵害」について プロバイダ制限責任法5条1項にいう「権利の侵害」は、権利又は法的利益の侵害の危険性が発生する行為を含むと解すべきであり、権利又は法的利益の侵害を容易にする又は促進する幇助行為も含まれるというべきである。 仮に、上記にいう「権利の侵害」に幇助行為が含まれないとすれば、幇助行為者は共同不法行為責任を負うにもかかわらず、その責任を追及する手段が絶たれることになるため、その帰結は不当である。 (被告の主張) (1)本件画像の著作物性について 本件画像は、単に胸元が写っているだけの没個性的なものであり、被写体の配置、ポーズ、調光、撮影の流れに特段の創作性は認められず、レンズの選択等の撮影技法を駆使した成果も特にないから、創作的価値は乏しく、原告の個性が現れているとはいい難い。 したがって、本件画像に著作物性があるとはいえない。 (2)本件投稿2による著作権侵害の幇助行為の成否について 本件投稿2は、画像アップロードサイトであるimgurにアップロードされた写真のURLを張り付けただけであり、5ちゃんねるの掲示板に写真そのものをアップロードしたものではないから、公衆送信権を侵害したものとはいえない。 そして、本件投稿2におけるimgurのURLをクリックすれば、本件元画像を見ることができるとしても、本件投稿2を閲覧するユーザーは、当URLをクリックしない限り本件元画像を見ることはない上、別のサイトに移動する旨の警告文が出るにもかかわらず、これを必ずクリックするといえる事情もうかがえない。そうすると、imgurのURLをクリックすれば本件元画像を見ることができるとしても、本件発信者が本件元画像を複製又は公衆送信したということはできない。 これらの事情を踏まえると、インラインリンクの設定行為が、本件元画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するということもできない。 (3)プロバイダ制限責任法5条1項にいう「権利の侵害」について 発信者の表現の自由という憲法上保障された民主主義の根幹となる重要な権利を尊重しつつ、被侵害者の権利保護を図るというプロバイダ責任制限法の趣旨目的からすれば、侵害情報の「発信者」の定義の範囲を逸脱して、幇助の場合でも「発信者」に当たると解することは許容されない。すなわち、インラインリンク設定行為を行ったにすぎない本件発信者は、既にimgurで公衆送信されていた本件元画像を利用しているにすぎず、侵害情報の「送信」の主体は、imgurのサーバーに本件元画像をアップロードした者と見るべきであって、インラインリンク設定行為を行った本件発信者を公衆送信権侵害の主体と見ることはできない。 したがって、インラインリンク設定行為を行ったにすぎない本件発信者は、「権利の侵害」をするものとはいえない。 4 争点4(氏名表示権侵害の成否)について (原告の主張) 著作権法19条は、著作者としての名誉、社会的評価等を得るためには氏名表示が不可欠であるという趣旨をいうものであることに照らせば、氏名表示が付されていない著作物についても、公開に際して氏名表示をする予定でいたのにこれがされなかった場合には、氏名表示権の侵害になるというべきである。 本件画像についてみると、原告が訴外E氏の配信に出演した際に撮影したものであり、当該配信においてのみ使用するものであったし、原告も当該配信に出演をしていたから、本件画像には氏名表示がされる予定であったことは明らかである。そうすると、本件画像は、氏名表示が付されていない著作物ではあるが、公開に際して氏名表示をする予定でいたのにこれがされなかったものであるといえ、これに氏名を表示せず公開することは、原告の氏名表示権を侵害する。 (被告の主張) 著作者名を表示したか否かは、外見上客観的に判断されるものであり、著作権者の主観によって判断されるものではない。本件画像についてみると、著作者名が表示されておらず、imgurに投稿された画像(本件元画像)も、著作者の氏名が表示されていないままであるから、氏名表示権を侵害する余地はない。 5 争点5(開示を受けるべき正当な理由の有無)について (原告の主張) 原告は、本件発信者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使する予定であるが、本件発信者に関する情報を把握していない。そのため、原告が上記権利を行使するためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があり、原告には開示を受けるべき正当な理由が認められる。 (被告の主張) 被告が保有する本件発信者の氏名及び住所の情報のみによって本件発信者を特定することが可能であるから、本件発信者を特定するための情報として電話番号及び電子メールアドレスは不要であり、電話番号及び電子メールアドレスについては、「開示を受けるべき正当な理由」があるとはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(プライバシー侵害の成否)について (1)前記前提事実、証拠(甲1の1、甲5ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、原告に関連する掲示板(「C・B・D」という原告の配信活動における名称や、VTuberとしての名称がタイトルとなっている掲示板をいう。)において、本件発信者が、原告に対し、「33歳」という原告の年齢を考えると、「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」という発言をやめた方がいい旨投稿したものであることが認められる。 そうすると、5ちゃんねる利用者一般の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、本件投稿1は、原告が33歳であるという事実を摘示した上、その年齢を考えると、原告が「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」と発言するのをやめた方がいい旨の意見を述べたものと認められる。 他方、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者が原告の年齢を既に知っていたように、原告の通称である「B」と「年齢」という各用語を組み合わせてインターネット上の検索を行うと、原告の年齢のみならず生年月日等までも多数表示され、原告の年齢は、インターネット上で広く周知されていることが認められる。これらの事情を踏まえると、原告の主張立証によっても、原告の年齢に関する情報が、一般の人々に未だ知られていない事柄であると認めるに足りない。 したがって、原告の年齢がプライバシーに当たる情報ということはできず、本件投稿1が原告のプライバシーを侵害するものとはいえない。 (2)念のため、原告の年齢がプライバシーに当たる情報であるという原告の主張を前提として検討するに、プライバシー侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に、プライバシーを侵害するものとして、不法行為が成立するものと解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁、最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁各参照)。 これを本件についてみると、本件投稿1は、原告の33歳という年齢を考えると、原告が「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」と発言するのをやめた方がいい旨の意見を述べるものであるから、本件発信者がこのような意見を述べるに当たり、原告の年齢を具体的に摘示する必要があるものと認められる。他方、上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告の年齢は既に広くインターネット上で周知されているほか、原告は、トーク力や声、企画、人柄等により、多くのファンを既に獲得していることがうかがわれ、本件全証拠を精査しても、原告の年齢が本件投稿1により開示されることにより、原告の配信活動に具体的な支障が生ずることを認めるに足りる的確な証拠はない。 これらの事情の下においては、原告の年齢を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量すれば、前者が後者に優越するものと認めることはできない。 したがって、本件投稿1は、原告のプライバシーを侵害するものとして不法行為法上違法であることが明らかであるということはできない。 2 争点2(名誉感情侵害の成否)について (1)ある者の名誉感情を損なう行為は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるといえる場合に、上記の者の人格的利益を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。 これを本件についてみると、前記前提事実、証拠(甲1の1、甲5、8、15、16、乙2)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、原告に関連する掲示板において、本件発信者が、原告が33歳であるという事実を摘示した上、その年齢を考えると、原告が「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」と発言するのをやめた方がいい旨の意見を述べるとともに、「普通にキモいよ」や「自分の年齢考えて!」という意見を述べたものであることが認められる。 上記認定事実によれば、「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」という原告の発言は、それ自体不穏当なものであることは明らかであるから、当該発言に対するものに限れば、当該発言を戒めるものとして、「普通にキモいよ」や「自分の年齢考えて!」という意見を述べることが、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが明らかであるということはできない。 したがって、本件投稿1は、原告の名誉感情を侵害するものとして不法行為法上違法となることが明らかであるものと認めることはできない。 (2)これに対し、原告は、「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」という原告の発言がTVドラマの内容を描写したものにすぎず、原告の思想や信条について発言したものではない旨主張する。しかしながら、原告自身も、上記発言がなされたのは1年以上前であり、具体的にどのような発言をしたのか記憶にはない旨述べるなど、その主張自体曖昧なものにとどまり、上記主張を裏付ける具体的な立証もない。 したがって、原告の主張は、その裏付けを欠くものであり、採用することができない。 3 争点3(著作権に係る「権利の侵害」該当性)について (1)本件画像の著作物性について 証拠(甲5、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、原告が、訴外E氏の企画に合わせて、企画コンセプトや衣装を考え、当該コンセプト等に沿った写真となるように、カメラの画素数やその配置、被写体の角度等を工夫したことにより、被写体の構図等によって、顔を写さなくても衣装等が映えるものとなっていることが認められる。 したがって、本件画像は、上記の工夫において表現上の創作性を認めるのが相当であり、本件画像は、著作物に該当するものといえる。 これに対し、被告は、本件画像が没個性的なものである旨主張するものの、本件画像は、顔を写さなくても衣装等が映えるように、被写体の構図等が工夫されていることは、上記において説示したとおりである。したがって、被告の主張は、採用することができない。 (2)著作権に係る「権利の侵害」該当性について ア 認定事実 証拠(甲1の2、甲17ないし22)及び弁論の全趣旨によれば、@本件元画像は、原告が著作権を有する本件画像を複製したものであること、A本件投稿2は、本件元画像がアップロードされているimgurのURL(以下「本件URL」という。)を投稿したものであるところ、本件URLの投稿により、いわゆるインラインリンクが本件元画像との間で自動的に設定され、本件元画像の解像度を下げた粗い画像(いわゆるサムネイルといわれるもの)が、本件URLと共に自動的に表示されること、B本件投稿2の本件URLをクリックすると、「別のサイトにジャンプしようとしています。宜しければ上記のリンクをクリックしてください」と記載された画面が表示され、そこに表示された本件URLと同じURLを再度クリックすると、本件元画像が表示されること、以上の事実が認められる。 イ 「権利の侵害」の意義 プロバイダ責任制限法5条1項は、情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、当該情報の区分により定められた同項各号の該当性に応じて、その開示を請求することができる旨規定している。 そうすると、発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との調整を図るために、同項が開示の対象を、情報の流通による権利侵害に係る発信者情報に限定した趣旨目的に鑑みると、同項にいう権利の侵害とは、侵害行為のうち、情報の流通によって権利の侵害を直接的にもたらしているものと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1412号令和2年7月21日第三小法廷判決・民集74巻4号1407頁参照)。 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件投稿2によって本件URLを送信したことにより、本件元画像の解像度を下げた粗い画像が表示されたのに対し、本件元画像については、本件投稿2を閲覧したユーザーが、本件URLをクリックした上で、更に別のサイトに移動する旨併記された本件URLと同じURLをクリックしない限り、これを目にすることはない。また、前記認定事実によれば、本件元画像の内容が、原告の顔を写さずにその衣装等を写すものにすぎず、そのサムネイルが本件投稿2において既に表示されていることが認められる。 上記各認定事実を踏まえると、通常は、本件投稿2を閲覧したユーザーが、本件URLをあえてクリックした上で、別のサイトに移動する旨告知されているのに更にURLをクリックするといえるような事情まで認めることはできない。 これらの事情の下においては、本件発信者による本件URLの送信は、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと認めることはできない。 したがって、本件投稿2は、上記にいう「権利の侵害」が明らかであるものと認めることはできない。 ウ 原告の主張について 原告は、本件投稿2の投稿によって、インラインリンクが設定され、不特定多数の者が本件元画像にアクセスして閲覧することを容易にさせたのであるから、本件投稿2は、本件元画像による公衆送信権侵害を幇助したものといえる旨主張する。 しかしながら、プロバイダ責任制限法5条1項にいう「権利の侵害」とは、情報の流通単独で権利侵害が生じた場合に限定されるとまで解するのは相当ではないものの、同項が「情報の流通によって」という規定を設けた趣旨目的に鑑みると、多種多様の態様が含まれる幇助行為についても、発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との調整を図るために、上記規定において一定の限定を付したものと解するのが相当である。このような観点から、上記にいう「権利の侵害」とは、情報の流通によって権利の侵害を直接的にもたらしている行為であると解すべきことは、上記において説示したとおりであり、本件元画像の内容等に照らしても、本件投稿2を閲覧したユーザーが、本件URLをあえてクリックした上で、別のサイトに移動する旨告知されているのに更にURLをクリックするといえるような事情を認めることはできないことも、上記において認定したとおりである。 そうすると、本件発信者による本件URLの送信は、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと認めることはできないというべきである。 したがって、原告の主張は、上記にいう「権利の侵害」の意義を正解しないものに帰し、採用することができない。 4 争点4(氏名表示権侵害の成否)について (1)著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する(著作権法19条1項)。 そうすると、著作物を利用する者は、著作者が著作者名を表示しない場合には、著作者名を表示しなくても、著作者の氏名表示権を侵害しないものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、本件全証拠によっても、本件画像の提供等に際し原告の氏名が表示されていた事実を認める証拠がないことからすると、本件画像を利用する者は、原告の氏名を表示しなかったとしても、原告の氏名表示権を侵害しないものといえる。 そうすると、仮に原告が本件画像を提供等したという前提に立ったとしても、本件画像を利用する者が、原告の氏名を表示しないことについて、原告の氏名表示権侵害を構成する余地はない。 (2)これに対して、原告は、本件画像に原告の氏名を表示する予定であったことは明らかであるから、本件画像に原告の氏名を表示せず公開することは、原告の氏名表示権侵害に当たる旨主張する。 しかしながら、本件画像の提供等に際し原告の氏名が表示されていた事実を認めるに足りないことは、上記において説示したとおりである。のみならず、前記認定事実によれば、本件画像は、あえて原告の顔を写さずに撮影されたものであり、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、VTuberの活動において、原告の写真等を一切公表していないことが認められる。そうすると、本件画像にあえて原告の氏名を表示する予定であったという原告の主張は、人物識別情報の公開を避けていた事情に照らし、それ自体信用性が低いものと認められる。さらに、仮に本件画像に原告の氏名を表示する予定であったという原告の主張を前提としたとしても、原告の主張によれば、著作物の利用者にとっては全く認識し得ない事情によって氏名表示権侵害の成否が左右されることになり、著作物の公正な利用を図るという著作権法の趣旨目的に照らし、相当であるとはいえない。仮に、原告の主観的な予定を考慮したとしても、本件全証拠によっても、原告が撮影者であることを主張する利益を害するおそれを認めるに足りず、著作権法19条3項によれば、原告の氏名は省略することができるものといえるから、前記判断を左右するに至らない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 第5 結論 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 小田誉太郎 裁判官 古賀千尋 (別紙)発信者情報目録 1 別紙投稿記事目録1記載の投稿時に同目録記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載のURLに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する次の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス 2 別紙投稿記事目録2記載の投稿時に同目録記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載のURLに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する次の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電話番号 C電子メールアドレス 以上 (別紙) 投稿記事目録1
(別紙)著作物目録 (省略) |
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