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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AM
【年月日】令和5年12月25日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70433号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年10月20日)

判決
原告 A
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、被告の電気通信設備を用いてウェブサイトに投稿された別紙侵害情報目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)によって、別紙写真画像目録記載の各画像(以下「本件各画像」といい、同目録記載の番号の順に「本件画像1」ないし「本件画像15」という。)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件投稿を行った氏名不詳者(以下「本件氏名不詳者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、夜景等の撮影を行う写真家であり、「夜景INFO」と題するウェブサイト(以下「原告サイト」という。)を運営する者である(甲3、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業等を営み、インターネット接続サービス等を提供する株式会社である。
(2)本件各画像の著作物性及び著作権者
 原告は、著作物である本件各画像の著作権者である(甲3、4、弁論の全趣旨)。
(3)本件氏名不詳者による画像の掲載
 本件氏名不詳者は、株式会社サイバーエージェントが提供するインターネット上のブログサービスである「Ameba」を利用して、「ペコちゃん」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を開設し、令和5年2月26日、本件各画像の掲載を含む本件投稿をした(甲1、2)。
(4)本件各発信者情報の保有
 被告は本件各発信者情報を保有している(甲7)。
3 争点
 原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か
第3 争点に関する当事者の主張
(原告の主張)
 本件氏名不詳者が本件投稿をしたことによって、本件各画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害されたことは明らかである。
 これに対し、被告は、本件投稿における本件各画像の掲載が適法な引用(著作権法32条1項)に該当すると主張する。
 しかし、本件投稿では、全国の工場の夜景を紹介するために本件各画像を引用しているが、工場の夜景を紹介する際に必ずしも画像を引用する必要はなく、仮に画像の掲載が必要なのであれば、投稿者自らが撮影するか、又は他のサイトへの転載が認められている画像を利用すれば足りるのであるから、本件投稿において、本件各画像を掲載する必要性や必然性は認められない。
 また、本件各画像に記載されたクレジットは、原告自身が氏名表示権の行使のために記載したものであり、本件氏名不詳者が主体的に行った記載ではない。
 そして、本件投稿に掲載された本件画像1には、その出典を示す「詳細URL」が記載されておらず、写真の内容に関する記述も存在しない。
 さらに、本件投稿に記載されている夜景を紹介する文章は簡易なものにすぎず、本件投稿のほとんどは、本件各画像を含む画像で占められている。そうすると、本件投稿においては、本件各画像等の画像が主、その他の文章が従という関係になっており、主従関係の要件も満たさない。
 したがって、本件投稿における本件各画像の掲載は適法な引用に該当しない。
(被告の主張)
 本件サイトは、個人的なブログであり、商用目的や収益性は認められないところ、本件各画像は本件投稿で一度引用されただけであり、また、画像を引用した目的は、「美しい工場夜景の事例」として紹介することにすぎない。
 さらに、本件各画像の右下部分には、原告の氏名等を含むクレジットが記載されており、かつ、本件投稿においては、「詳細URL」として本件各画像が掲載されている原告サイトのURLが付記されている。
 したがって、本件投稿における本件各画像の掲載は適法な引用に該当する。
 また、本件各画像は既に削除されており、原告には実質的な損害が発生していないから、本件投稿は違法性を欠くものであるといえる。
 以上によれば、本件において、原告の権利が侵害されたことが明らかとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について
(1)前提事実(3)によれば、本件氏名不詳者は、株式会社サイバーエージェントが提供するインターネット上のブログサービスを利用して、本件サイトに本件各画像の掲載を含む本件投稿をしたことが認められる。このような行為は、本件各画像を有形的に再製するとともに、インターネットを通じて本件投稿にアクセスした不特定又は多数の者に、本件各画像を閲覧できる状態に置くものといえる。
 したがって、本件投稿は原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであると認められる。
(2)被告は、本件投稿において本件各画像を引用した目的は、「美しい工場夜景の事例」として紹介するものであって、適法な引用に該当するから、原告の権利が侵害されたことが明らかとはいえないと主張する。
 しかし、証拠(甲1)によれば、本件投稿は、近年、工場の夜景を鑑賞することが全国的なブームになっていることを踏まえ、比較的アクセスしやすい全国の工場の夜景を紹介するものであるところ、@本件画像1は、本件投稿の冒頭の説明に付記される形で掲載されており、A本件画像2ないし15は、個別の工場の夜景を紹介するために掲載され、Bその掲載部分の前後には、本件氏名不詳者による夜景の説明・感想が数行で記載されているほか、夜景の所在地、近隣の駅及び画像の引用元である原告サイトのURLが付記されていることが認められる。
 このように、本件投稿においては、工場の夜景観賞というブームや個別の夜景の内容を分かりやすく紹介する目的で、本件各画像を掲載しているものと考えられるが、このような目的のために他人の著作物である本件各画像を利用する必要性は乏しい。
 また、本件投稿(甲1)において、本件各画像は相当な大きさで掲載されていることが認められる一方で、これらの画像に付記されている本件氏名不詳者の説明・感想は簡易なものである上、夜景の所在地、近隣の駅及び原告サイトのURLといった記載は、紹介されている夜景や本件各画像に関する形式的な情報を記載したものにすぎない。そうすると、本件投稿において、上記の文章自体は、本件各画像に付従するものにすぎず、その果たす役割は小さいといわざるを得ないから、本件各画像を相当な大きさで掲載することは、「美しい工場夜景の事例」を紹介する文章の内容を分かりやすくするといった目的の範囲内での利用とは認め難い。
 以上の事情からすれば、本件投稿における本件各画像の掲載は、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」とはいえない。
 したがって、本件投稿における本件各画像の掲載が著作権法32条1項に定められた適法な引用に該当するとは認められず、被告の上記主張は採用できない。
(3)被告は、現在、本件投稿から本件各画像が削除されていることから、原告には実質的な損害が発生しておらず、本件投稿には違法性阻却事由が存在しないとはいえないと主張する。
 しかし、本件全証拠によっても、本件各画像の掲載が中止された時期は不明であり、現時点において本件各画像が掲載されていないことのみをもって、原告に実質的な損害が生じていないということはできないから、上記被告の主張も採用できない。
(4)以上によれば、本件投稿により本件各画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。そして、原告は、本件氏名不詳者に対し、本件各画像に係る著作権侵害を理由として損害賠償請求をする予定であると認められるから(弁論の全趣旨)、原告には本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由もあるといえ、被告は本件各発信者情報を開示すべき義務を負う。
2 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 バヒスバラン薫
 裁判官 木村洋一


(別紙)発信者情報目録
 別紙写真画像目録記載の各画像をブラウザに表示する、別紙侵害情報目録の画像URL及び画像欄記載の各画像の投稿に用いられた、同目録のIPアドレス欄記載のIPアドレスを、同目録の投稿日時欄記載の投稿日時頃に使用して情報を送信した者に関する情報であって、次に掲げるもの。
 1. 氏名又は名称
 2. 住所
 3. 電話番号
 以上

(別紙写真画像目録省略)

(別紙侵害情報目録省略)
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