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【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件N
【年月日】令和5年12月22日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70370号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年10月23日)

判決
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー・ミュージックレーベルズ」という。)
原告 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下「原告ソニー・ミュージックエンタテインメント」という。)
原告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ(以下「原告バンダイナムコミュージックライブ」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 笠島祐輝
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋知洋
同 村田久尭


主文
1 被告は、原告ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
3 被告は、原告ソニー・ミュージックエンタテインメントに対し、別紙発信者情報目録記載3の各情報を開示せよ。
4 被告は、原告バンダイナムコミュージックライブに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開示せよ。
5 被告は、原告バンダイナムコミュージックライブに対し、別紙発信者情報目録記載5の各情報を開示せよ。
6 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、レコード製作会社である原告らが、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrentを利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告らがレコード製作者の権利を有する各レコード(以下「本件各レコード」という。)について、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態とすることによって、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償等を請求するため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載1ないし5の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
 原告らは、レコードを製作の上、これを複製して音楽CD等として発売している株式会社である。
 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社である。
(2)原告らによる本件各レコードの製作等
ア 原告ソニー・ミュージックレーベルズは、実演家藍井エイルが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和3年8月4日、「アトック(期間生産限定盤)」との名称の商業用音楽CD(商品番号:VVCL−1901/2)を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード1」という。甲3)。
イ 原告ソニー・ミュージックレーベルズは、実演家LiSAが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年11月16日、「LANDER」との名称の商業用音楽CD(商品番号:VVCL−2120/1、VVCL−2122/4、VVCL−2125/7、VVCL−2128)を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード2」という。甲7)。
ウ 原告ソニー・ミュージックエンタテインメントは、実演家YOASOBIが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年11月9日、「祝福」との名称の商業用音楽CD(商品番号:XSCL−65/6)を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード3」という。甲11)。
エ 原告バンダイナムコミュージックライブは、実演家MiaREGINAが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和2年4月22日、「Igotit!」との名称の商業用音楽CD(商品番号:LACM−14993)を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード4」という。甲15)。
オ 原告バンダイナムコミュージックライブは、実演家V.A.が歌唱する楽曲を録音したレコードを製作の上、令和4年9月28日、「ゲーム『ウマ娘プリティーダービー』WINNINGLIVE08」との名称の商業用音楽CD(商品番号:LACA−25014)を日本全国で発売した(以下、この音楽CDに対応する楽曲のレコードを「本件レコード5」という。甲19)。
(3)本件各レコードに係る原告らの送信可能化権
 原告ソニー・ミュージックレーベルズは、本件レコード1及び2について、原告ソニー・ミュージックエンタテインメントは、本件レコード3について、原告バンダイナムコミュージックライブは、本件レコード4及び5について、それぞれレコード製作者としての送信可能化権(著作権法96条の2)を有する(甲3、7、11、15、19)。
(4)本件各発信者情報の保有
 被告は、本件各発信者情報を保有している。
3 争点
(1)原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1)
(2)本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか(争点2)
(3)本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)及び争点2(本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか)について
(原告らの主張)
ア 本件各氏名不詳者は、別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用して、同各インターネットプロトコルアドレス(以下「IPアドレス」ということがある。)の割当てを受けてインターネットに接続し、ビットトレントネットワークを介して、本件各レコードを複製して作成したファイルを、不特定多数の他の利用者からの求めに応じ自動的に送信し得る状態にした(なお、別紙発信者情報目録記載1の日時頃に同IPアドレスの割当てを受けた者が送信可能化したレコードは本件レコード1、別紙発信者情報目録記載2の日時頃に同IPアドレスの割当てを受けた者が送信可能化したレコードは本件レコード2であり、他の項番についても同様である。以下同じ。)。
 上記の各送信可能化行為について、著作隣接権の権利制限事由(著作権法102条。同条1項が準用する同法30条以下を含む。)は存在しないから、本件各氏名不詳者によって、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権「が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
イ 被告は、利用者に対する意見照会において、身に覚えがない、ファイルを所持していない等の回答がされたことを指摘して、別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時及び各IPアドレスの特定に疑義があると主張する。
 しかし、上記の特定を行った調査は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が定める認定システムを用いたものであり、その信頼性を疑わせるような事情はない。また、意見照会に対する回答が虚偽である可能性が否定できないし、各利用者が家族や同居者に聞き取り等を十分に行っていない可能性もある。
 したがって、別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時及び各IPアドレスの特定に誤りはない。
ウ 以上によれば、本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たる。
(被告の主張)
 被告が別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時及び各IPアドレスにより特定される利用者に対し、発信者情報開示に係る意見照会を行ったところ、原告らが主張する権利侵害行為について、身に覚えがないとか、権利侵害に係るファイルを所持していないなどとの回答がされた。
 これらの回答を踏まえると、原告らの権利を侵害した本件各氏名不詳者は、別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時及び各IPアドレスにより特定される利用者とは別の者である可能性が否定できない。
(2)争点3(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
(原告らの主張)
 原告らは、本件各レコードについての送信可能化権が侵害されたことを理由として、本件各氏名不詳者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるから、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
(被告の主張)
 不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告らの「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)及び争点2(本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか)について
(1)証拠(甲2、3、6、7、10、11、14、15、18、19)及び弁論の全趣旨によれば、本件各氏名不詳者は、別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用して、同各IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ビットトレントネットワークを介して、本件各レコードを複製して作成したファイルを、不特定多数の他の利用者からの求めに応じ自動的に送信し得る状態にしたことが認められる。
 そして、本件全証拠によっても、上記各行為について、原告らによる許諾、著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は認められない。
(2)被告は、別紙発信者情報目録記載1ないし5の各日時及び各IPアドレスにより特定される利用者に対して意見照会をしたところ、身に覚えがないなどとの回答があった旨を指摘するが、その回答が真実であることを裏付ける客観的な証拠はない。
 このほか、本件全証拠によっても、原告らによる調査結果が信頼性を欠くものであることを示す具体的な事情を認めることはできない。
 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(3)以上によれば、本件各氏名不詳者の前記各行為に係る情報の流通によって本件各レコードに係る原告らの送信可能化権(著作権法96条の2)が侵害されたことが明らかであり、本件各発信者情報は、当該各権利侵害に係る発信者情報に該当すると認められる。
2 争点3(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
 証拠(甲3、7、11、15、19)によれば、原告らは、本件各氏名不詳者に対し、本件各レコードについての送信可能化権が侵害されたことを理由として、本件各氏名不詳者に対して損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。
 したがって、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 間明宏充
 裁判官 木村洋一


(別紙)発信者情報目録
1 令和4年(2022年)11月23日13時52分32秒ころに「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所、電話番号及び電子メールアドレス
2 令和4年(2022年)11月18日23時39分54秒ころに「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所
3 令和4年(2022年)11月18日11時10分23秒ころに「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所、電話番号及び電子メールアドレス
4 令和4年(2022年)11月18日4時15分54秒ころに「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所、電話番号及び電子メールアドレス
5 令和4年(2022年)12月2日7時48分56秒ころに「(省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所、電話番号及び電子メールアドレス
 以上
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