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【事件名】オプテージへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】令和5年12月19日
 大阪地裁 令和4年(ワ)第10816号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和5年10月24日)

判決
原告 株式会社バソキア
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 株式会社オプテージ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 嶋野修司
同 増田拓也


主文
1 被告は、原告に対し、別紙「発信者情報目録」記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告との契約者である氏名不詳者ら(以下「本件契約者ら」という。)がいわゆるファイル交換共有システムであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用して、原告が著作権を有する別紙「著作物目録」記載の各動画(以下「本件各著作物」という。)の複製物である電子データを本件契約者らの管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とする、又は、前記データの自動公衆送信を行ったことにより、本件各著作物に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件契約者らに対する損害賠償請求等のため、被告が保有する別紙「発信者情報目録」記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求める正当な理由があると主張して、電気通信事業を営む被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠〔特に明示する場合を除き各枝番号を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
 原告は、動画の販売、提供等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
 被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、一般利用者に向けてインターネット接続サービスを提供しているプロバイダである。
(2)本件各著作物
 本件各著作物は、別紙「著作物目録」記載の各発売日に、DVDとしてそれぞれ販売された(甲2の2、2の3)。
(3)ビットトレントの仕組み(甲4、5、7、11)
 ビットトレントは、いわゆるP2P方式の通信システム(プロトコル)及びそのネットワークであり、その概要や利用の手順は、次のとおりである。
ア ビットトレントを通じて特定のファイル(以下「目的ファイル」という。)をダウンロードしようとするユーザーは、ファイルをダウンロードするための「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスし、目的ファイルの所在等の情報が記録された「トレントファイル」をダウンロードする。
イ ユーザーは、当該トレントファイルをクライアントソフトに読み込ませることにより、「トラッカー」と呼ばれるサーバと接続し、目的ファイルの全部又は一部を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザー(以下、データをやりとりする相手となるユーザーの端末を「ピア」という。)と接続した上で、ピアが保有する、目的ファイルが分割されたもの(以下「ピース」という。)をダウンロードする。
ウ ユーザーは、ダウンロードした目的ファイル(ピース)について、自動的にピアとしてトラッカーに登録される仕組みになっており、目的ファイルについて他のユーザーからの要求があれば、目的ファイル(ピース)を提供しなければならないことから、ユーザーは、目的ファイルをダウンロードすると同時にアップロードが可能な状態に置かれることになる。
エ ユーザーは、ビットトレントのネットワーク上のピアと接続してピースを取得し、完全な状態の目的ファイルを復元する。
(4)原告による調査の概要(甲1の2、1の3、4、11)
 原告は、本件訴えの提起に先立って、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントを利用した著作権侵害行為についての調査(以下「本件調査」という。)を依頼した。
 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙「発信者情報目録」記載の日時頃、同記載の各IPアドレスの割当てを受けた本件契約者らが本件各著作物を複製したファイル(甲17。以下「本件各動画」という。)のダウンロード及びアップロードを行っていたことを報告した。
(5)被告による本件各発信者情報の保有
 被告は本件各発信者情報を保有している。
3 争点
(1)特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(原告の主張)
(1)原告が本件各著作物の著作権を有するか
ア 原告は、株式会社Horizon(以下「訴外会社」という。)に対し、本件各著作物について、第三者認証機関であるIPPA(特定非営利活動法人知的財産振興協会)に対する審査業務を委託したことから、本件各著作物には訴外会社のIPPAの番号及び同認証マークが表示されることになった。通常、同番号として表示される者が著作権者である可能性が高いところ、本件では、これに当たる訴外会社が、原告が著作権者であると述べている。
 したがって、原告は、本件各著作物の著作権者であり、その著作権を有する。
イ 著作権法15条に関する主張
 本件各著作物は、原告がその作成を発意し、それに基づき原告の業務に従事する者らが企画し、全体的な製作に関する決定を行ったものである。また、本件各著作物の撮影や演出等、製作にかかる一切の作業は、原告の業務に従事する者により、原告の職務として行われた。
 したがって、著作権法15条により、本件各著作物の著作者は原告であり、原告が本件各著作物の著作権者である。
ウ 著作権法29条に関する主張
 本件各著作物は、デジタル撮影された連続撮影した多数の静止画像を、パソコンなどのアプリケーションを利用して急速に順次投影し、目の残像現象を利用して動きのある画像として見せるものであり、これらに必要なデータはすべて電子ファイルとして固定されているから、本件各著作物は、映画の著作物に該当する。
 本件各著作物は、原告代表者が製作の全体を統括するほか、原告の従業員らが、原告の発意に基づき、それぞれ、監督、演出、撮影、美術等を担当して作成されたものである。また、本件各著作物の全体的な製作に関する決定は、原告代表者や従業員により行われているから、本件各著作物の著作者は、本件各著作物の製作に参加することを、原告と約束した者で構成されているといえる。
 したがって、著作権法29条により、映画製作者である原告が、本件各著作物の著作権者である。
(2)権利侵害の明白性
ア 本件調査に信用性があること
 本件調査会社は、ビットトレントの開発会社が管理をしているソフトウェア「μTorrent」(以下「本件ソフト」という。)を使用して、後記(ア)〜(オ)の調査方法により機械的に調査を行っていることから、恣意が介在する可能性はなく、信用性がある。
(ア)映像メーカーから著作権侵害の調査を行うことについて許諾を受けた対象作品の品番やその他の情報を確認する。
(イ)対象作品をインデックスサイトで検索し、パソコンにトレントファイルをダウンロードする。
(ウ)本件ソフトを起動し、トレントファイルから、対象作品を複製したファイルのダウンロードを開始する。
(エ)パソコンの画面上で同ダウンロードに係る通信先のユーザーのIPアドレスを確認する。この際、当該ファイルを開いて、(ア)の対象作品(正規品)との見比べを行う。
(オ)取得したIPアドレスからプロバイダを特定する。
イ 本件契約者らにより本件各著作物が送信可能化されたこと
(ア)ビットトレントの仕組みによれば、ビットトレントのクライアントソフトウェアがインストールされている端末がインターネットに接続され、当該端末が他の利用者からファイルの送信を受けている間、当該端末は、公衆である他の利用者からの求めに応じて自動的に他の利用者の端末へファイルのデータを送信しているから、自動公衆送信装置として機能し、当該端末の記録媒体は公衆送信用記録媒体となる。したがって、他のユーザーからファイルの送信を受ける行為は、自動公衆送信装置への情報の入力に当たるとともに、公衆送信用記録媒体への情報の記録(著作権法2条1項9号の5イ)に当たる。
 また、ビットトレントのクライアントソフトウェアがインストールされた端末であって、当該端末の記憶領域内のファイルについて他のユーザーの求めに応じて自動的に当該ファイルを送信する状態に設定可能な記憶領域に、本件各動画の全部又は一部が記録されているものは、公衆送信用記録媒体に情報が記録されている自動公衆送信装置に当たるから、当該クライアントソフトウェアを操作して、ビットトレントのネットワークに接続した上で、本件各動画を他のユーザーの求めに応じて自動的に送信し得るように設定する行為、又は、本件各動画を他のユーザーの求めに応じて自動的に送信し得るように設定した上で、ビットトレントのネットワークに接続する行為は、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(著作権法2条1項9号の5ロ)を行うことに当たる。
(イ)本件ソフトの実行画面の下部には、調査会社の端末が情報を取得している通信先の端末に関する情報が表示されるところ、ここに表記がある以上、同端末が目的ファイルの送信可能化権を侵害していることになるが、本件調査会社は、実際に動画が再生できることを確認していることから、同端末が目的ファイルを保有している割合が低い場合であっても送信可能化権侵害があることに変わりはない。
ウ 本件契約者らにより本件各著作物が自動公衆送信されたこと
(ア)ビットトレントの仕組みによれば、ビットトレントのクライアントソフトウェアがインストールされた端末がインターネットに接続され、他のユーザーからファイルを受信している間は、同時に公衆たる他のユーザーからの求めに応じて自動的にファイルが送信されることから、ビットトレントを利用して他のユーザーからファイルを受信することで、必然的に自動公衆送信が生じることになる。
 原告は、本件調査会社を通じて、本件ソフトの実行画面に表示された本件契約者らが管理する端末から、本件各動画を受信していることから、本件契約者らが、本件各著作物を自動公衆送信したことは明らかである。
(イ)本件ソフトの実行画面の上部には、調査会社の端末に関する情報が表示されるところ、「ダウンロード中」と表記されている場合は、実際に目的ファイルの自動公衆送信が始まったことを意味し、その割合は著作権侵害の有無とは無関係である。
エ 本件契約者らによる本件各著作物の送信可能化及び自動公衆送信に係る通信は特定電気通信に当たり、被告は開示関係役務提供者に当たること特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(法2条1号)とされているところ、著作権法は、送信可能化及び自動公衆送信をいずれも「公衆送信」として評価しているから、同「送信」には送信可能化や自動公衆送信に係る通信も含まれる。
 また、本件調査会社による本件調査において、本件契約者らからみて不特定の者(公衆)である本件調査会社の求めに応じて、本件契約者らが自動的になした電気通信の送信が特定されており、原告の本件各著作物に関する公衆送信権が侵害されていることは明らかである。
 したがって、前記イ及びウの本件契約者らによる本件各著作物の送信可能化及び自動公衆送信に係る通信は、特定電気通信に当たり、当該権利侵害との関係において、被告は開示関係役務提供者に当たる。
オ 違法性阻却事由の不存在
 本件契約者らが本件各著作物を送信可能化及び自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情はない。
カ 以上によれば、別紙「発信者情報目録」記載の日時頃、同記載のIPアドレスの割当てを受けた本件契約者らが、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかである。
(被告の主張)
(1)原告が本件各著作物の著作権を有するか
ア 訴外会社名義の陳述書に信用性はなく、原告は、原告が本件各著作物の著作者であることを立証できていない。
イ 著作権法15条に関する主張については、本件各著作物には、原告の変名等が著作者名として表示されておらず、同条の適用はない。
ウ 著作権法29条に関する主張については、本件各著作物の著作者が原告とは別の者であることを自認するものであるが、原告は、当該著作者が原告に対し製作への参加を約束したことの立証ができていない。
(2)権利侵害の明白性がないこと
ア 本件調査に信用性がないこと
 いわゆるP2P型ファイル交換システムにおける権利侵害情報の送信に使用されたIPアドレス等の特定方法については、確認試験により複数回IPアドレス等の特定の結果を確認するなどして正確性が確認されること、その他当該システムによる特定方法の信頼性に疑いを差し挟むような事実がないこと等をもって、その信頼性が認められる必要がある。
 本件調査は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により認定されていない調査方法であり、技術的正確性を有するか否かが明らかでないから、信用性が認められない。
イ 送信可能化権侵害が認められないこと
 権利侵害の明白性要件との関係では、原告の開示請求に係る侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが必要となる。原告は、本件契約者らが他のユーザーから本件各動画を受信する行為が著作権法2条1項9号の5イの行為に当たると主張するが、かかる主張は主張自体失当であるし、著作権法上の公衆送信は、受信行為を含まないから、原告の主張はこの意味においても失当である。
 また、本件契約者らが問題となる通信時刻に保有していたファイルのピースは、全体の0.2%又は26.4%とされており、このピースが具体的にいかなるデータであったかも明らかでなく、原告が主張する著作物の創作性のある具体的部分の複製に該当するものであるとは認められない。
ウ 自動公衆送信による公衆送信権侵害が認められないこと
 本件各動画の一部を本件契約者らの端末から本件調査会社の端末に送信する各通信は、両端末間の1対1の通信であるから公衆送信とは認められず、自動的になされているかが明らかでないから、自動公衆送信による公衆送信権の侵害には当たらない。
 また、本件で問題となる通信時刻における各通信の状況は「ダウンロード中0.0%」であり、実際には本件各動画のピースが公衆送信されていない可能性が高く、また、本件各著作物の創作性のある部分が再生できたとも認められない。
エ 原告が主張する各通信は特定電気通信に当たらず、被告は開示関係役務提供者に当たらないこと
 前記ウのとおり、本件各動画の一部を本件契約者らの端末から本件調査会社の端末に送信する各通信は、両端末間の1対1の通信であるから、特定電気通信に当たらず、被告は開示関係役務提供者に当たらない。
オ 違法性阻却事由が存在しないとは認められないこと
 原告が開示を求める本件各発信者情報に係る通信は、原告が依頼をした本件調査会社と本件契約者らとの通信であり、原告の同意があると解されるから、違法性阻却事由が存在する。
2 本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2)
(原告の主張)
 原告は、本件契約者らに対し、著作権侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等の準備をしている。そのためには、本件契約者らに係る本件各発信者情報が必要であって、その開示を求める正当な理由がある。
(被告の主張)
 原告は、本件調査会社の端末と本件契約者らの端末との間の通信による権利侵害を主張しているところ、この通信自体により、原告に損害は生じていない。また、この通信以外により、本件契約者らが、原告にどのような損害を与えたかについて主張立証がされていない。
 一方で、開示請求を認めることにより制約される本件契約者らの利益(通信の秘密、匿名表現の自由、プライバシー等)は極めて重大である。
 以上の事情を総合的に考慮すれば、原告が本件各発信者情報を入手することの合理的な必要性が認められず、正当な理由はない。
第4 当裁判所の判断
1 特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(1)原告が本件各著作物の著作権を有するか
 証拠(甲16、18〜20)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、訴外会社に対し本件各著作物について、IPPAに対する審査業務を委託し、訴外会社は、同委託を受けて、本件各著作物に係る審査手続を代行した結果、訴外会社が本件各著作物に係る著作権者としてIPPAから認定を受けたものの、訴外会社の代表者は、本件各著作物の製作を行ったのは原告である旨を陳述していることが認められる。
 そして、同代表者作成に係る訴外会社名義の陳述書(甲20)の内容に疑念を持つべき事情は見当たらない。これらの事実に照らすと、原告は本件各著作物の創作をした者と認められ、その著作権を有するものと認められる。
(2)権利侵害の明白性
ア 本件調査の信用性について
(ア)証拠(甲1の2、1の3、5、9、11、16、17、26、27)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、インデックスサイト上で、本件各著作物の検索を行って、トレントファイルを入手し、ビットトレントクライアントソフトウェアである「μTorrent」(本件ソフト)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応するファイルのダウンロードを開始し、その際、本件ソフトの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報をスクリーンショットにより保存した上で、ダウンロードした前記トレントファイルに対応する本件各動画を再生し、表示される映像が本件各著作物と同一であることを確認し、前記スクリーンショットにより保存した本件ソフトの実行画面の表示に基づき、別紙「発信者情報目録」記載の各日時頃、同記載の各IPアドレスの割当てを受けた本件契約者らが本件各動画のダウンロード及びアップロードを行っていたことを特定したことが認められる。
 かかる本件調査の調査方法に、特段、不合理な点は見当たらないから、本件調査の信用性は認められる。
(イ)これに対し、被告は、本件調査は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により認定されていない調査方法であり、技術的正確性を有するか否かが明らかでない旨を主張するが、かかる被告の主張は、本件調査が信用性を欠くことを抽象的に指摘するにとどまるものであって、採用できない。
イ 特定電気通信による公衆送信権侵害について
(ア)前記アのとおり、本件調査の結果によれば、本件調査会社は、本件ソフトを使用して、本件各動画のダウンロードを開始し、その際、本件ソフトの実行画面に表示されたIPアドレス等の情報をスクリーンショットにより保存した上で、ダウンロードした本件各動画を再生し、表示される映像が本件各著作物と同一であることを確認し、前記スクリーンショットにより保存した本件ソフトの実行画面の表示に基づき、別紙「発信者情報目録」記載の各日時頃、同記載の各IPアドレスの割当てを受けた本件契約者らが本件各動画のダウンロード及びアップロードを行っていたことを特定した。そうすると、前記スクリーンショットによって保存された本件ソフトの実行画面の表示は、本件契約者らが管理する端末から本件調査会社が管理する端末に本件各動画が送信されている状態を表示するものであるといえる。また、ビットトレントのユーザーは、ダウンロードした目的ファイル(ピース)について、自動的にピアとしてトラッカーに登録され、他のユーザーからの要求に応じて目的ファイル(ピース)を提供するよう動作することとなるというビットトレントの仕組み及び本件調査の方法に照らすと、本件各動画を取得しようとするビットトレントのユーザーは、誰でも本件契約者らが管理する端末から本件各動画を取得する可能性があるから、当該ユーザー(本件調査を行った本件調査会社を含む。)は少なくとも不特定の者であるといえる。「公衆」(著作権法2条5項)とは、不特定の者又は特定多数の者をいうと解されるから、別紙「発信者情報目録」記載の各日時頃、同記載の各IPアドレスの割当てを受けた端末は、「公衆」からの求めに応じ、本件各動画を自動的に送信していたと認められる。
 そして、前記各日時頃、前記各TPアドレスが割り当てられた端末から、本件調査会社が管理する端末に対してされた、本件各動画の自動公衆送信は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信であって、当該電気通信の送信は特定電気通信に当たるものと認められる。
 以上から、特定電気通信である前記自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたといえるし、かかる侵害との関係で、被告は特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)に該当する。
 なお、被告は、本件には令和3年法律第27号による改正前の法が適用される旨を主張するが、改正法に関しては、改正附則2条が発信者からの意見聴取に関する経過措置を定めているほか、経過規定を置いていないことに照らすと、施行日(令和4年10月1日)後は改正後の法が適用されると解するのが相当である。
(イ)これに対し、被告は、本件で問題となる通信時刻における各通信の状況は「ダウンロード中0.0%」であり、実際には本件各動画のピースが公衆送信されていない可能性が高い旨を主張する。
 しかし、証拠(甲22、26、28、29)及び弁論の全趣旨によれば、本件ソフトの実行画面に表示される、本件調査会社が管理する端末のダウンロード状況を示す表記が「ダウンロード中」であればダウンロードは開始されており、その割合が「0%」であってもダウンロードしたファイルを再生することは可能であることが認められる。これに加え、前記ア(ア)の認定事実のとおり、本件調査会社は、本件調査において、本件各動画を再生し、本件各著作物との同一性を現に確認していることから、本件ソフトの実行画面において、本件調査会社が管理する端末のダウンロード状況を示す表記が「0%」であることは、前記認定を左右しない。
 また、被告は、前記通信時刻において本件契約者らが保有していたファイルのピースは全体の0.2%又は26.4%にすぎず、本件各著作物の創作性のある部分の複製に該当しない旨も指摘する。
 しかし、上記の事情に加え、証拠(甲27ないし29)及び弁論の全趣旨によれば、データの保有率が全体の0.4%でも、映像に乱れはあるものの正規品の本質的特徴部分を直接感得できる程度に再生できたり、全体の2%でも、完全な状態で再生可能な場合があることが認められるから、本件契約者らのデータの保有率が0.2%又は26.4%であったとしても、本件各著作物の創作性のある部分の再生は可能な状態であったと認めるべきである。
 したがって、被告の前記主張はいずれも採用することができない。
ウ 違法性阻却事由について
 被告は、原告が開示を求める本件各発信者情報に係る通信は、原告が依頼をした本件調査会社と本件契約者らとの通信であり、原告の同意があると解されるから、違法性阻却事由が存在する旨を主張する。
 しかし、原告が本件調査会社に本件調査を依頼したことが、本件契約者らの著作権侵害行為に対して同意をすることにはならない。その他、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情はない。
 したがって、被告の前記主張は採用することができない。
エ 以上から、本件契約者らが本件各著作物を自動公衆送信したことにより、特定電気通信による情報の流通によって、本件各著作物に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。
2 本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2)
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件契約者らに対し、本件各著作物に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であることが認められ、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。
 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
3 結論 
 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 武宮英子
 裁判官 阿波野右起
 裁判官 峯健一郎


(別紙)発信者情報目録
 以下の時間に以下のIPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
1 日時 令和4年(2022年)7月9日1時49分08秒
  IPアドレス (省略)
2 日時 令和4年(2022年)7月9日21時01分33秒
  IPアドレス (省略)
 以上

(別紙著作物目録省略)
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