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【事件名】中部テレコミュニケーションへの発信者情報開示請求事件B 【年月日】令和5年12月11日 東京地裁 令和5年(ワ)第70312号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年10月23日) 判決 原告 グラフィティジャパン株式会社 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 中部テレコミュニケーション株式会社 同訴訟代理人弁護士 星川勇二 同 星川信行 同 渡部英人 同 佐野雄一 同 工藤慶太 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、著作権を有する別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)に係るファイルが氏名不詳の発信者(以下「本件発信者」という。)によりファイル共有ネットワークである「ビットトレント」(以下「ビットトレント」という。)によりアップロードされ、本件著作物に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ)。) (1)当事者 原告は、アダルトビデオの制作等を行う株式会社である。 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者。法2条3号)である。 (2)ビットトレントの仕組み ビットトレントとは、いわゆるP2P形式のファイル共有ネットワークである。 ユーザーは、ビットトレントを使用しファイルをダウンロードするにあたっては、その使用端末にビットトレントに対応したクライアントソフトをインストールした上で、インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載されたトレントファイルを取得する。トレントファイルには、目的のファイル本体のデータは含まれず、分割されたファイル(ピース)全てのハッシュと共に、ピースを完全な状態のファイルに再構築するための情報や、トラッカーと呼ばれる管理サーバのアドレスが記録されている。トラッカーとは、ファイル提供者のIPアドレス等の情報を管理するサーバであり、シーダー(完全な状態のファイルを持つコンピュータ)やリーチャー(ファイルをダウンロード中のコンピュータ)を相互に接続し、データの流れを制御する管理サーバであり、ファイルの配布を実際に行う機能を有する。 ユーザーは、トレントファイルを使用端末内のクライアントソフトで読み込むことによりトラッカーと通信を行い、目的のファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを開始する。ユーザーは、分割されたファイル(ピース)を複数のピア(当該ネットワークに接続中のコンピュータ)から取得する。クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。 また、ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、自動的にピアとしてトラッカーに登録される仕組みとなっており、自らがダウンロードしたファイル(ピース)に関しては、他のピアからの要求があれば提供しなければならず、ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態に置かれる。リーチャーは、ファイルをダウンロード中のコンピュータであるが、完全な状態のファイルを保有してシーダーとなる前から、ダウンロードした分のアップロードを行う。シーダーとなったコンピュータは、ファイルのアップロードのみを行うこととなる。 (以上につき、甲4〜6、9) (3)調査会社による調査 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおいて、本件著作物に係るファイルの著作権侵害行為の調査を委託した。本件調査会社は、クライアントソフトを使用して調査を行い、原告に対し、本件著作物に係るファイル(ピース)がアップロードされたこと、このアップロードの通信に別紙発信者情報目録の「IPアドレス」欄記載のIPアドレスが使用されていることなどの調査結果を報告した。同IPアドレスは、被告のインターネット接続サービスで割り当てられたものであった。 (以上につき、甲1、3〜5、9)。 (4)本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。 2 争点 (1)本件著作物に係る原告の著作権の有無(争点1) (2)権利侵害の明白性(争点2) 3 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(本件著作物に係る原告の著作権の有無) 〔原告の主張〕 本件著作物のパッケージ等には、原告名が記載されており、また、第三者認証機関の審査番号として原告固有の番号も記載されている。このことから、原告は本件著作物の著作者と推定される。 また、本件著作物は、原告の発意に基づき原告の業務に従事する者が職務上作成したものである。 さらに、本件著作物は、映画の著作物に当たるところ、原告代表者が製作の全体を統括するほか、原告従業員らが、原告の発意に基づき、その監督、演出、撮影、美術等を担当して作成したものであり、かつ、全体的な製作に関する決定は原告代表者及び従業員により行われている。このため、本件著作物の著作者は、全て、本件著作物の製作に参加することを原告と約束した者で構成されているといえる。 したがって、原告は、本件著作物の著作者であり、その著作権を有する。 〔被告の主張〕 不知ないし争う。著作者の推定(著作権法14条)が法人に適用されるものか疑義があるところ、仮に適用があるとしても、本件著作物のパッケージに原告の商号は記載されていない上、本件著作物がいかに公衆への提供又は提示されているかといったことは不明である。また、原告の業務に従事する者が本件著作物を職務上作成したことなどを裏付ける客観的な証拠は提出されていない。 (2)争点2(権利侵害の明白性) 〔原告の主張〕 本件調査会社は、調査対象となる本件著作物をインデックスサイトで検索して、トレントファイルをダウンロードし、クライアントソフトである「μtorrent」(以下「本件クライアントソフト」という。)を起動して、実際に本件著作物に係るファイルのダウンロードを行った。ダウンロードされた動画は本件著作物と同一内容であった。また、本件クライアントソフトは、ビットトレントを使用しているピアのIPアドレス等の情報を表示する機能を有するところ、上記ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアが接続したIPアドレスは、別紙発信者情報目録記載のとおりであった。さらに、同目録記載の日時は、コンピュータのタイムサーバーから定期的に取得した時刻を自動的に表示するアプリによって特定されたものであり、正確である。 そうすると、本件発信者は、ビットトレントを用いて、本件著作物に係るファイルをダウンロードして、公衆からの求めに応じて自動的にアップロード可能な状態に置くと共に、別紙発信者情報目録記載の日時に、本件調査会社に対して現にファイルを自動公衆送信したものといえる。したがって、原告の本件著作物に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 〔被告の主張〕 不知ないし争う。IPアドレスは変動している可能性があり、仮に固定されたIPアドレスであるとしても、検出されたIPアドレスの正確性を検証する試験は行われていないことから、別紙発信者情報目録記載のIPアドレスの正確性等は不明である。また、本件クライアントソフトの実行画面とされる画面のスクリーンショットには、「クライアント」として、「qBittorrent」と記載されていることから、本件クライアントソフトを利用した調査結果ではないと思われる。同画面上の日時の表記は後付けのようにも思われ、日時の正確性についても不明である。このように、本件調査会社による調査の信用性は不明といわざるを得ない。 また、原告の主張する「自動公衆送信」が「特定電気通信」(法2条1号)といえるかについて疑問が残る上、仮に当たるとしても、本件発信者は、ビットトレントの仕組みを理解していない可能性が高いことに鑑みると、権利侵害に関する故意又は過失があったとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件著作物に係る原告の著作権の有無) 前提事実のほか、証拠(甲2、18、20)及び弁論の全趣旨によれば、原告はアダルトビデオの制作等を行う株式会社であること、本件著作物のパッケージには、「制作・受審GRAPHITYJAPAN」との記載及び第三者認証機関である一般社団法人日本映像制作・販売倫理機構の審査番号として「M313817」との記載があること、同番号は同機構の会員である原告の固有番号であることがそれぞれ認められる。また、「GRAPHITYJAPAN」との記載は、原告の商号のうち「グラフィティジャパン」の部分の英語表記と理解される。 これらの事情に鑑みると、本件著作物は、原告の発意に基づき、原告代表者及び従業員によって、その職務上作成されたものであり、かつ、原告が自己の著作の名義の下に公表したものといえる。 したがって、原告は、本件著作物の著作者であり、その著作権を有するものと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 2 争点2(権利侵害の明白性) (1)前提事実、証拠(甲1、3〜9、11、12、19、26)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件クライアントソフトは、ビットトレントの開発会社により開発され、維持されており、ビットトレントのプロトコル定義で設定されたガイドラインを遵守し、これに準拠している。本件クライアントソフトは、ビットトレントを利用しやすくするために、トレントファイルを読み込み、ピースをダウンロードすると共に、ダウンロードに対応するアップロードをするピアのIPアドレス等の情報を表示する機能を有している。 イ 本件調査会社は、調査対象となる本件著作物の品番を確認し、これをインデックスサイトの検索フォームに入力して検索し、本件著作物に係るトレントファイルをダウンロードした。その上で、本件クライアントソフトを起動して上記トレントファイルを読み込み、本件著作物に係るピースを有するピアからピースのダウンロードを開始した。その際、本件クライアントソフトには、ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアのIPアドレスが表示された。そのIPアドレス及びダウンロードの日時は、別紙発信者情報目録記載のとおりである。ダウンロードの日時は調査に使用されたコンピュータの時刻に依拠しているところ、同時刻はインターネットを通じて定期的にタイムサーバーと同期されていた。また、ダウンロード完了後に本件調査会社がダウンロードされた動画と本件著作物の各内容を確認したところ、両者は同一の内容であった。 (2)検討 ア 本件調査会社による調査及びこれに使用した本件クライアントソフトそれ自体の信頼性については、その点に疑義を抱くべき具体的な事情が見当たらないことなどに鑑みると、十分に信頼し得るものといってよい。 そうすると、前提事実及び上記認定事実によれば、別紙発信者情報目録記載のIPアドレスを割り当てられた本件発信者は、ビットトレントを通じ、本件著作物に係るファイル(ピース)のダウンロードを開始したことにより、ファイルが完全にダウンロードされる前にあっても、他のピアからの要求に応じてダウンロードしたファイル(ピース)をアップロードできる状態に置き、かつ、同目録記載の日時に、実際に本件調査会社の求めるところによりファイルをアップロードしたということができる。したがって、本件発信者は、本件著作物に係るファイルの全部又は一部を、公衆からの求めに応じ自動公衆送信し得るようにすると共に、現に自動公衆送信したものと認められる。 イ また、弁論の全趣旨によれば、原告はこれを許諾していないものとみられると共に、その他の違法性阻却事由の存在もうかがわれない。 ウ したがって、本件発信者の上記行為、すなわち、「特定電気通信」(法2条1号)による情報(法5条1項柱書)ないし侵害情報の流通(同項1号)により、本件著作物に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといってよい。 エ 被告は、IPアドレスは変動している可能性があることなどを縷々指摘して、本件調査会社による調査の信用性には疑問があるなどと主張する。しかし、本件調査会社の調査手法の検証結果(甲12)によれば、本件クライアントソフトを用いて検出されたIPアドレスは正確なものといえる。また、調査の結果検出された同目録記載のIPアドレスにつき、IPアドレスの変動等の事情により不正確であることをうかがわせる的確な証拠は見当たらず、被告の指摘する事情は調査の信用性に合理的な疑いを抱かせるものではない。 本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(甲1)に「クライアント」として「qBittorrent」と表示されている点については、同表示がされているのは本件調査会社の端末が接続しているピアに関する情報が表示されている箇所であることに鑑みると、同表示は本件発信者が用いたクライアントソフトを示すものとみられるのであって、本件調査会社が本件クライアントソフトを使用していないことを示すものではない。日時の点についても、前記認定事実及び証拠(甲1、26)によれば、同画面上の日時は時刻表示ソフトウェアによって表示されたものであり、その正確性に疑義を抱くべき具体的な事情は見当たらない。 さらに、本件発信者が本件著作物に係るファイルの全部又は一部を現に自動公衆送信した行為は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であって、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」ではないから、「特定電気通信」(法2条1号)に該当する。また、法は、権利侵害の明白性要件(法5条1項1号)について、「権利が侵害されたことが明らかであるとき」と定めていることから、故意又は過失の有無は同要件の充足性を左右するものではない。 その他被告が縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。 3 その他の要件について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対して、本件著作物に係る著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求等をする準備をしていると認められることから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があるといえる。 4 まとめ 以上より、原告は、法5条1項に基づき、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。 第4結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 久野雄平 (別紙)発信者情報目録 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
(別紙著作物目録省略) |
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