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【事件名】朝日ネットへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】令和5年12月7日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70372号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年10月23日)

判決
原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 株式会社朝日ネット
同訴訟代理人弁護士 福本悟


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
 略語は略語一覧表のとおり。
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、本件発信者らがファイル交換ソフトウェア「BitTorrent」を利用したネットワークシステムを使用し、本件各動画を送信可能化した上で自動公衆送信したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(自動公衆送信権(主位的主張)、送信可能化権(予備的主張))を侵害したことは明らかであるなどと主張して、被告に対し、法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、顕著な事実、掲記の各証拠(書証の番号は特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、動画の制作等を行う株式会社である。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者。法2条3号)であって、本件発信者情報を保有している。
(2)本件各動画の著作権者
 原告は、その発意に基づき、原告における職務の履行として、原告の業務に従事する者に対し、本件各動画の企画、制作等を行わせ、また、本件各動画のパッケージに原告の旧商号を表示して、自己の著作の名義の下に本件各動画を公表した。(甲2の1、2の2、18)
 したがって、原告は、本件各動画の著作者としてその著作権を有する。
(3)BitTorrentの仕組み等
 BitTorrentとは、いわゆるP2P形式のネットワークであり、その概要や使用の手順は、次のとおりである。(甲4〜6、9)
ア BitTorrentにより特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。
イ BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、まず、その使用端末にBitTorrentに対応したクライアントソフト(以下、対応クライアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これをBitTorrentに読み込ませる。これにより、BitTorrentは、当該トレントファイルに記録されたトラッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求する。トラッカーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に応じ、自身にアクセスしているファイル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユーザーに接続し、それぞれから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピースのダウンロードが終了すると、自動的に元の1つの完全なファイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは「シーダー」と呼ばれる。他方、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了して完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザーは自動的にシーダーとなる。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置かれる仕組みとなっている。
(4)本件調査
ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrentを使用した本件各動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。
イ 本件調査は、BitTorrentの開発・管理運営を行う会社が管理・運営する本件クライアントソフトを使用して行われた。
 本件クライアントソフトは、ダウンロードをするトレントファイルを検索し、BitTorrentを使用しているピアの情報を表示する機能を有しており、本件クライアントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIPアドレスを解明することが可能である。
 本件調査の概要は、以下のとおりである。
 すなわち、本件調査会社担当者は、インデックスサイトにおいて本件各動画に係るファイルを検索して、トレントファイルをダウンロードし、端末にダウンロードした当該トレントファイルをもとに、本件クライアントソフト上で本件各動画に係るピースをダウンロードした。本件調査会社は、当該ダウンロード中に当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、スクリーンショットして保存した。
 本件調査会社担当者は、本件発信者のIPアドレスを確認し、ダウンロードしたファイルの動画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認した。
ウ 本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時に本件各動画に係るファイルがアップロードされていること、このアップロードの通信に本件IPアドレスが使用されていることなどを報告した。(以上につき、甲1の1、1の2、5、7の1、7の2、8の1、8の2、9、23)
2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
(1)主位的主張
 本件調査会社は、本件調査によって、本件発信者から、本件各動画のピースをダウンロードし、これを保有する本件発信者が接続しているIPアドレス、接続日時等を特定した。また、本件調査会社担当者は、ダウンロードしたファイルの動画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認した。
 したがって、本件発信者は、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件各動画のピースを送信したといえる。このような行為は、原告の本件各動画に係る自動公衆送信権侵害に当たる。
(2)予備的主張
 本件発信者らによる自動公衆送信が否定されるのであれば、送信可能化権が侵害されている状態であるといえる。
 すなわち、BitTorrentの仕組みによれば、本件発信者らは、BitTorrentを利用する他のユーザー(ピア)からその余のファイル(ピース)をダウンロードすることによって完全なファイルを取得すると共に、本件各動画のピースをアップロード可能な状態に置き、本件発信者以外のユーザーが本件各動画の完全なファイルをダウンロードすることを可能とさせている。そうすると、本件発信者は、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時に、本件各動画のピースのダウンロードが可能であるという情報を発信し続けていたことから、本件各動画を送信可能化した(著作権法2条1項9号の5ロ)といえる。
 このような行為は、原告の本件各動画に係る送信可能化権侵害に当たる。
(3)被告の主張について
ア BitTorrentの仕組みによれば、ダウンロードしたファイルをほぼ同時にアップロードすることになるから、保有率が100%未満のピアからもファイルをダウンロードすることが可能である。
イ 本件調査会社は、本件調査において、現に本件発信者らから本件侵害動画をダウンロードしており、トラッカーサーバに誤って登録された可能性や本件IPアドレスによるインターネット通信がされていなかった可能性をいう被告の指摘は当たらない。
ウ 本件発信者らは虚偽の事実を回答した可能性もあり、これをもって著作権侵害が否定されることにはならない。
エ フラグの表示は、シーダー又はリーチャーである本件発信者らの状況を示すに過ぎず、本件調査会社が本件発信者らからダウンロードしている状況とは関係がない。
オ 本件調査会社は、本件調査においてダウンロードしたファイルが再生できることを確認している。
(被告の主張)
 不知ないし争う。
(1)本件調査には次の問題点があり、その信用性に疑義がある。
ア BitTorrentの仕組みによれば、対象となるファイルの保有率が100%未満であるなど、一定の条件を満たさない場合には、他のユーザーに対して当該ファイルのピースをアップロードできない可能性がある。
イ 本件調査において使用されたトラッカーサーバは、ユーザーがファイルを持っていなくとも、要求した時点で当該ユーザーをピアとして登録するようにも思われる。
ウ IPアドレスが割り当てられているということは、インターネットとモデムを接続する状態、すなわち、通信し得る状態にあったことを意味するに過ぎず、IPアドレスが存在するからといって、これを割り当てられていた者が実際にインターネット通信を行っていたかどうかはわからない。
(2)被告が本件発信者らに対して意見聴取(法6条1項)を行ったところ、ビットトレントファイルは保持していない、指摘の時刻には端末を使用していない状態であったなどとして発信者情報開示に同意しない旨の回答があった。これらの者との関係では、本件各動画に係る著作権侵害は認められない。
(3)本件IPアドレスによる通信は、フラグが「UH」、「UX」の状態であり、本件各動画のダウンロードの通信自体ではない可能性がある。
(4)本件調査における本件各動画のダウンロードはいずれも途中段階であり、本件発信者らのピースがダウンロードも開始又は完了したのか、本件発信者らからダウンロードした本件各動画に係るピースは再生可能であるのか、本件各動画の本質的部分であり同一のものといえるのかといった点につき疑義がある。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1)BitTorrent及び本件クライアントソフトの仕組み並びに本件調査の方法ないし内容(前提事実(3)、(4))を踏まえると、本件発信者らは、その端末にBitTorrentをインストールし、本件各動画のファイルに係るピースをダウンロードすると共に当該ピースを不特定の者からの求めに応じてBitTorrentのネットワークを介して自動的に送信し得るようにし、被告から本件IPアドレスの割当を受けてインターネットに接続された状態の下、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時において、本件調査会社の求めに応じ、自動的に本件各動画のファイルのピースをアップロードしたものと認められる。
 そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件IPアドレスが割り当てられた本件発信者らにより、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたものということができる。すなわち、本件発信者は本件各動画に係るデータを自動公衆送信したものであり、これにより、本件各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)。
(2)被告は、本件調査の信用性に疑義がある旨や本件侵害動画が本件各動画との同一性を欠く旨などを主張する。
 しかし、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の日時に本件IPアドレスを割り当てられた本件発信者らが本件侵害動画をアップロードしていたことは上記認定のとおりであって、これを覆すに足りる具体的な事情を示す証拠はない。
 また、被告の意見聴取に対し、回答者の一部が本件各動画に係るファイルを保有していないなどと回答したからといって、必ずしもその者による権利侵害が否定されるものではない。
 さらに、本件クライアントソフトは特定のファイルを保有しアップロード可能な状態においた発信者のIPアドレスが表示される仕組みとなっていること、本件調査会社担当者は、本件調査に際し、本件発信者らのIPアドレスを確認するのみならず、ダウンロードしたファイルの動画(本件侵害動画)と本件各動画とを見比べてその同一性を実際に確認していること(前提事実(4)イ)から、上記スクリーンショットを行った時点のピアの状態に係るフラグとして「UH」及び「UX」(「U」:現在アップロード中(インタレストかつチョークされていない)、「H」:ピアがDHTを介して取得された、「X」:ピアがピアエクスチェンジ(PEX)を通じて取得したピアリストに含まれている、または、IPv6ピアがそのIPv4アドレスを教えてくれた。)(甲15)との表示が存するとしても、そのことから直ちに、本件発信者らが本件各動画に係るファイルをアップロードしていなかったとはいえない。
 なお、証拠(甲7の1、7の2、8の1、8の2)によれば、本件侵害動画と本件各動画とは、ファイルのサイズが異なり、完全に同一内容のものではないことがうかがわれる。もっとも、上記のとおり、本件調査会社担当者は、本件調査に際し、本件発信者のIPアドレスを確認すると共に、ダウンロードしたファイルの動画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認している。また、上記各証拠によれば、本件侵害動画と本件各動画には、複数の同一シーンが含まれていることが認められる。このため、本件侵害動画は少なくとも本件各動画の一部であり、前者は後者を複製したものであることがうかがわれる。また、ダウンロード中であって保有率が相当少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件侵害動画が再生できることが確認されている(前提事実(4)イ、甲25)。他方、本件侵害動画と本件各動画との内容の実質的同一性が失われていることをうかがわせる具体的な事情や、本件発信者らからダウンロードしたピースが再生できないことを疑わせるに足りる具体的な事情はない。
 その他本件クライアントソフトや本件調査の信用性を疑わせるに足りる具体的な事情を示す的確な証拠は見当たらないことに鑑みると、本件調査は信用するに足りるものといってよい。
 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 その他の要件について
 上記のとおり、本件発信者らによる本件各動画に係る原告の公衆送信権侵害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定していることが認められるから、本件発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)が認められる。
 以上より、原告は、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 久野雄平
 裁判官 吉野弘子


(別紙)発信者情報目録
 以下の日時に以下の IP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
1 日時 (省略)
IPアドレス (省略)
ポート番号 (省略)
2 日時 (省略)
IPアドレス (省略)
ポート番号 (省略)
3 欠番

(別紙侵害著作物目録 省略)

(別紙)略語一覧表
本件発信者ら 本件侵害動画をアップロードした氏名 不詳者ら
本件各動画 別紙侵害著作物目録記載の各動画の総称
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
本件発信者情報 別紙発信者情報目録記載の発信者情報
本件調査会社 本件調査を実施した調査会社
本件調査 本件調査会社により実施された BitTorrentを利用した本件各動画の著作権侵害に係る調査
本件クライアントソフト 「μtorrent」と称するクライアントソフ ト
本件 IP アドレス 別紙発信者情報目録の「IP アドレス」 欄記載の各IP アドレス
本件侵害動画 本件調査会社が本件発信者らからダウンロードした本件各動画に係る動画ファイル
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日本ユニ著作権センター
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