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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件O 【年月日】令和5年12月4日 東京地裁 令和5年(ワ)第70216号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年10月2日) 判決 原告 株式会社グルーヴ・ラボ 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 株式会社NTTドコモ 同訴訟代理人弁護士 横山経通 同 桑原秀明 同 堺有光子 同 馬場嵩士 同 梛良拡 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下、同目録の番号順に、「本件動画1」などといい、これらを併せて「本件各動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件各動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。以下同じ。) (1)当事者等 ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売、インターネットを利用した情報の収集及び提供等を目的とする株式会社である。 イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、本件発信者情報を保有している。 (2)本件各動画の著作権者 ア 原告は、その発意に基づき、原告における職務の履行として、原告の業務に従事する者に対し、本件動画20を除く本件各動画の企画、制作等を行わせ、また、本件各動画のパッケージに制作当時の原告の商号を表示し、自己の著作の名義の下に本件各動画を公表した。(甲2の1〜2の5、2の22、2の25、2の30、18の1、20) したがって、本件動画20を除く本件各動画につき、原告は、著作者としてその著作権を有する(著作権法15条1項、17条1項)。 イ 本件動画20については、原告代表者が、第三者に撮影させた動画につき、同人の許可を得て編集等を行い、その制作を担当した。このため、原告代表者は、本件動画20の全体的形成に創作的に寄与した者として、その著作者に当たるといってよい(著作権法16条)。 また、本件動画20の著作者である原告代表者は、その製作者である原告に対し、本件動画20の製作に参加することを約束していることから、原告は、本件動画20の著作権を有する(著作権法29条1項)。 (以上につき、甲2の20、18の2、20) (3)「BitTorrent」の仕組み等 「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆるP2P形式のネットワークである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際には、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降はピースのアップロードのみを行うこととなる。 (以上につき、甲4〜6) (4)原告による本件各動画のビットトレント上のアップロード調査 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件各動画に係るファイルのアップロードの有無につき調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「μtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードしているユーザにおいて、別紙発信者情報目録記載の各日時(以下、これらを併せて「本件日時」という。)に同記載の各IPアドレス(以下、これらを併せて「本件IPアドレス」という。)が使用されていることを報告した(甲1、2、4〜6、9)。 2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張) (1)権利侵害の明白性 本件調査会社は、本件調査に際し、ビットトレントの開発会社によって管理されている本件クライアントソフトを使用した。本件クライアントソフトは、ダウンロードするファイルを検索し、ビットトレントを使用しているピアの情報を表示する機能を有している。そのため、本件クライアントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIPアドレスを解明することが可能となる。 本件調査会社は、調査対象となる本件各動画のファイルをインターネット上で検索してトレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動し、上記トレントファイルから本件クライアントソフト上で対象となるデータのダウンロードを開始した。これにより、本件各動画のピースを保有するピア(以下「本件各発信者」という。)が接続しているIPアドレス、接続日時等が特定された。 このような本件調査の結果により、本件各発信者は、ビットトレントを通じて自己が取得した本件各動画のファイルの一部(ピース)をアップロード可能な状態に置くことにより、これとビットトレントを利用する他のユーザ(ピア)がアップロード可能な状態に置いたその余のファイル(ピース)とをダウンロードすることによって本件各発信者以外のユーザが本件各動画の完全なファイルをダウンロードすることを可能とさせており、本件各動画を自動公衆送信したといえる。 したがって、本件各発信者の行為により原告の本件各動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 (2)本件IPアドレス等の特定の正確性について 本件ソフトウェアは、ビットトレントを管理する会社が管理するソフトウェアであり、かつ、ビットトレントを簡易に使用させるためのものであるから、その信用性は高い。本件調査会社は、これを機械的に利用してIPアドレスを特定しており、その特定にあたって恣意性が介在する余地はない。 また、本件調査の際のスクリーンショットの右上に表示されている時刻は、秒単位で時刻を表示するアプリ(以下「本件アプリ」という。)を利用して、PC端末から定期的に取得した時刻を自動的に表示したものである。したがって、本件調査において表示された時刻は正確なものである。 (被告の主張) 否認ないし争う。 ビットトレントを介して該当作品をダウンロード又はアップロードしている者のIPアドレス及びファイルの名称を本件クライアントソフトにより検知する具体的な方法等に関する客観的証拠はない。 また、本件調査会社が撮影したとするスクリーンショットには日付等が写っているものの、その日付等の正確性を担保する証拠も提出されていない。 したがって、本件IPアドレスを本件日時に被告から割り当てられていた各契約者が、本件各動画に係る原告の公衆送信権を侵害したかについては疑義がある。 第3 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について (1)証拠(甲1〜9、19)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査の内容は、以下のとおりであることが認められる。 ア 本件調査会社は、原告が著作権を有する本件各動画の作品番号やタイトルを聴取し、ウェブサイトにおいて本件各動画に係るトレントファイルを検索し、本件各動画に係るトレントファイルが存在することを確認した。 イ 本件調査会社は、端末にダウンロードした上記トレントファイルに基づき、本件クライアントソフト上で本件各動画に係るピースを有するピアから当該ピースをダウンロードすると共に、当該ダウンロード中に当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、スクリーンショットして保存した。また、この際、ダウンロードされたファイルに係る動画と本件各動画とを見比べて、前者が後者を複製したものであることを確認した。 また、本件調査会社は、IPアドレスを確認した時刻を正確に記録するため、本件クライアントソフトを起動しているPCから定期的に取得した時刻を自動的に表示するアプリ(本件アプリ)を利用し、これによりPCの画面上に表示された時刻をスクリーンショットしている。 ウ 本件調査の際の本件各動画に係るスクリーンショット(甲1)には、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時と、本件調査会社の使用する端末が本件各動画(本件各動画の品番は上記スクリーンショットの上欄の「名前」欄に表示されている。)のファイル(ピース)をダウンロード中であること、及びそのダウンロード先のピアのIPアドレスとして本件IPアドレスが表示されている。 (2)ビットトレントは、本件クライアントソフトのようなクライアントソフトがダウンロードされた端末(ピア)間において一つのファイルを断片化したピースのダウンロードが始まると、完全に当該ピースのダウンロードがされる前からダウンロードした分のピースのアップロードも始まり、一つのファイルのピース全てのダウンロードが終了したピアは、アップロードのみを行うことになるという仕組みを有する。 本件では、本件調査会社が本件クライアントソフトを利用して本件各動画のファイルに係るピースを有するピアから当該ピースのダウンロードを開始したところ、本件クライアントソフトにより、当該ピアについて、本件IPアドレスを割り当てられたユーザであるとの表示がされた。このことから、本件各動画に係るピースは、本件IPアドレスが割り当てられたユーザ(本件各発信者)によりアップロードされたものと認められる。 そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件各発信者により、公衆からの求めに応じて送信可能な状態に置かれたということができる。すなわち、本件各発信者は、本件各動画に係るデータを送信可能化したものであり、これにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)。 これに対し、被告は、本件調査における本件IPアドレスや日時等の特定の正確性につき疑義がある旨を主張する。しかし、上記事情に鑑みると、その疑義は具体的なものとはいえないから、この点に関する被告の主張は採用できない。 2 その他の要件について 前記前提事実及び上記認定を踏まえれば、被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、原告の著作権侵害に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であると認められ、また、本件発信者情報を保有している。 また、上記1のとおり、本件各動画は本件各発信者により送信可能化されたことが認められることから、原告には、本件各発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使をするため、本件各発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があると認められる。 3 小括 以上より、原告は、被告に対し、本件各発信者に係る本件発信者情報の開示請求権を有する。 第4 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 吉野弘子 (侵害著作物目録省略) 別紙 発信者情報目録 以下のIPアドレスを、以下の日時に被告から割り当てられていた契約者に関する情報であって、次に掲げるもの 1 氏名又は名称 2 住所 3 電話番号 (以下省略) |
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