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【事件名】発信者情報開示命令の異議申立事件(2)
【年月日】令和5年11月30日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10077号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議控訴事件
 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70032号)
 (口頭弁論終結日 令和5年10月5日)

判決
控訴人 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 加藤瑛子
同 渡邉峻
同 北山智也
同 宮本雄太
同 横山経通
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 神田知宏


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従う。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 当事者間の東京地方裁判所令和4年(発チ)第10032号発信者情報開示命令申立事件について同裁判所が令和5年1月4日にした決定を取り消す。
3 前項記載の事件における被控訴人の申立てを却下する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)は、控訴人(原審原告。以下「原告」という。)を相手方として、法5条2項に基づく申立てをした。東京地方裁判所は、同申立てに係る事件(令和4年(発チ)第10032号発信者情報開示命令申立事件。以下「本件命令申立事件」という。)において、原告に対し本判決別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を命じる旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。本件は、本件決定に対し、原告が異議の訴えを提起した事案である。
 原判決は、本件決定を認可したので、原告が控訴した。
2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張
 当審における当事者の主張を踏まえ、以下のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2の1から3まで(原判決2頁11行目から5頁8行目まで)に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)2頁19行目の「別紙投稿記事目録の投稿日時欄記載の日時において」を「令和4年8月31日午後10時3分」と、21行目の「同目録」を「本判決別紙投稿記事目録」と、24行目の「被告は、」から25行目の「開示を受けた。」までを、「被告は、東京地方裁判所に対し、本件サイトの管理者を相手方として、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプのうち、同月25日以降のもの全てについての開示を求める仮処分命令申立てをし、同年10月26日、これについて仮の開示を命ずる仮処分決定を得た(乙3)。本件サイトの管理者は、その後、被告に対し、上記仮処分決定により開示を命じられた情報を開示した(乙4の1・2)。」と、それぞれ改める。
(2)3頁9行目の「基本事件」を「本件命令申立事件」と、同行目の「原決定」を「本件決定」と、18・19行目の「本件投稿は、被告の許諾なく、本件サイトに本件写真をアップロードした。」を「氏名不詳者は、被告の許諾なく、本件サイトに本件写真を含む本件投稿をした。」と、それぞれ改める。
(3)3頁22行目から24行目までを次のとおり改める。
 「本件写真は、被告とされる者を撮影したものであるが、ありふれたものであって創作性がなく、著作物性を有するものではない。
 また、本件写真の著作権が被告にある事実は立証されていない。
 したがって、本件投稿は、被告の有する本件写真に係る公衆送信権を侵害するものということはできず、権利侵害が明白であるとはいえない。」
(4)4頁1行目から12行目までを次のとおり改める。
 「「侵害関連通信」について定める規則5条の「侵害情報の送信と相当の関連性を有する」の解釈につき、侵害情報の送信と最も時間的に近接して行われたものに拘泥する必要はない。
 侵害関連通信には、「特定電気通信役務提供者が発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信のうち」との限定が付されているから(総務省総合通信基盤局消費者行政第二課「プロバイダ責任制限法逐条解説」2023年3月・167頁、乙8)、たとえば、サイト管理者が「最も時間的に近接する」通信に係る発信者情報(IPアドレス)を保有していないときには、保有していない発信者情報が開示請求の対象とならないだけでなく、当該通信は、侵害関連通信からも除外される。本件では、原告は、最も時間的に近接する通信(本件直後ログイン時通信)では発信者を特定できなかったのであるから、原告は本件直後ログイン時通信について発信者情報を保有していないというほかなく、同通信は、「特定電気通信役務提供者が発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信」に該当せず、侵害関連通信に当たらない。
 また、最も時間的に近接する通信から発信者を特定することが困難であることが明らかであり、特定発信者情報の開示請求権を創設した趣旨に照らし、「侵害関連通信」の範囲を当該通信のみに限定することが適切ではないと考えられる場合には、最も時間的に近接する通信以外の通信も、「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」になり得る。原告は、本件直後ログイン時通信について、同時刻に複数の記録があり契約者を特定できないというのであるから、その発信者を特定することが困難であることは明らかである。
 したがって、本件においては、本件直前ログイン時通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有する」「侵害関連通信」であり、その発信者情報の開示が認められるべきである。」
(5)原判決4頁23行目の末尾に改行して次のとおり加える。
 「この点については、法を所管する総務省総合通信基盤局による逐条解説(以下「逐条解説」という。)において、「「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当する通信は、原則として、本条各号に掲げる通信ごとにそれぞれ1つとなることが想定され…(省略)…特定電気通信役務提供者が発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信のうち、本条各号に該当する通信それぞれについて侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当すると考えられる」と明確に説明されており(「第3版プロバイダ責任制限法」、甲2)、この記載に裁判例(知財高裁令和4年11月29日判決・甲3、東京地裁令和5年5月29日判決・甲4等)における判断内容を踏まえると、「侵害関連通信」に該当するログイン時の通信は、侵害情報の送信ごとにそれぞれ1つとなるのであり、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信のみが、侵害情報の送信と「相当の関連性を有するもの」に該当する。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被告は、法5条2項に基づき、原告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有するから、本件発信者情報の開示を命じた本件決定は相当であると判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点1(権利侵害の明白性)について
 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第3の1(原判決5頁11行目から24行目まで)に記載するとおりであるから、これを引用する。
 (原判決の補正)
(1)5頁11行目から13行目までを次のとおり改める。
 「証拠(乙2の1、乙6、9の1、乙11の1・2)及び弁論の全趣旨によると、被告が、令和2年秋頃、自らのiPhone8を用いて、自らを被写体として写真を撮影した後、背景をぼかすなどの加工をして本件写真を作成したこと、被告が、本件投稿の投稿者に対し、本件写真の利用を許諾したことはないことが認められる。」
(2)5頁20行目の「本件投稿は、」を「氏名不詳者は、本件投稿をすることにより、」と改める。
3 争点2(本件直前ログイン時通信の「侵害関連通信」該当性)について
(1)法5条2項は、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内にあるログイン時の通信等の「侵害関連通信」に係る発信者情報の開示を認めており、規則5条は、「侵害関連通信」について、法5条3項に規定する侵害情報の送信と「相当の関連性」を有するものとする旨規定する。これは、被害者の権利回復を実現するためには、侵害者の発信者情報を得る必要性がある一方で、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に関わる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これが一旦開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、「侵害関連通信」に該当するものの範囲を侵害情報の送信と相当の関連性があるものに限定したものと解される。
 しかるところ、侵害情報の送信に最も近接した時間に行われたログイン時の通信に係る発信者情報は、侵害情報の発信者を特定するための必要な範囲にあり、かつ、通常、侵害情報の送信と相当の関連性を有する蓋然性が高いものということができるものの、法及び規則の各文言上、法5条2項所定の「侵害関連通信」がこれに限られていると解することはできない。すなわち、規則5条柱書の「相当の関連性」の有無については、当該ログインと、侵害情報の送信との間の関連性が推認される程度を検討した上で、被害者の権利回復の必要性と発信者が被る不利益を総合考慮して判断するほかはない。
(2)本件についてみると、本件投稿がされた令和4年8月31日午後10時3分と最も時間的に近接する本件アカウントへのログイン時の通信は、同年9月1日午前0時13分にされた本件直後ログイン時通信であって、同年8月31日午前8時2分にされた本件直前ログイン時通信ではない。しかし、本件直後ログイン時通信については、同時刻に複数の記録があることから契約者(発信者)を特定することはできないことが認められる(乙1、弁論の全趣旨)。
 このような場合において、侵害情報の通信に最も近接したログイン時の通信ではないことのみを理由として、侵害情報の通信に次に近接したログイン時の通信である本件直前ログイン時通信に「相当の関連性」があることを一律に否定し、本件直前ログイン時通信に係る情報を一切開示することができないと解すると、被害者の被害回復を達成することはできないことになる。
 そもそも、本件において、本件直後ログイン時通信は侵害情報の送信よりも後にされたものであるから、侵害情報の送信は、当該ログインによる本件サイトの利用時にされたものではないことが明らかであるのに対し、本件直前ログイン時通信については、当該ログインの後、同じ日に侵害情報の送信がされているから、侵害情報の送信は、当該ログインによる本件サイトの利用時にされたものである可能性が十分にある。そうすると、本件直前ログイン時通信は、侵害情報の送信と関連性を有する蓋然性が、本件直後ログイン時通信よりもむしろ高いと考えられるのであるから、被害回復のため、これを開示することにしたとしても、発信者に対し規則5条において想定されている以上の不利益を与えることになるとは認められない。
 なお、原告は、逐条解説を引用し、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信のみが「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当すると解すべきである旨主張する。しかし、規則5条各号は、いずれも「侵害情報の発信者」が行った送信をもって、侵害関連通信としている。本件直後ログイン時通信は、その発信者を特定することができないのであるから、「侵害情報の発信者」が行った送信であるとは認められず、侵害情報の送信と相当の関連性があるとも認めることはできないはずである。すなわち、本件において、侵害情報の発信者が行った送信として侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信は、本件直前ログイン時通信であると認められるから、本件直前ログイン時通信をもって本件における侵害関連通信であると認めることは、原告の引用する逐条解説の考え方と矛盾するものではない。
 したがって、本件において、本件直前ログイン時通信が「侵害関連通信」に当たると認めるのが相当である。
4 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 原判決の「事実及び理由」の第3の3(原判決6頁14行目から17行目まで)に記載するとおりであるから、これを引用する。ただし、6頁16行目の「原告」を「被告」と改める。
5 結論
 以上の次第で、本件決定を認可した原判決は相当であって、本件控訴には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 清水響
 裁判官 浅井憲
 裁判官 勝又来未子


(別紙)発信者情報目録
 別紙投稿記事目録記載のIPアドレスを同目録記載の接続日時(JST)に使用し、同目録記載の接続先IPアドレスのいずれかに接続した契約者に関する以下の情報
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス

(別紙投稿記事目録省略)
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