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【事件名】エキサイトへの発信者情報開示請求事件F
【年月日】令和5年11月29日
 東京地裁 令和4年(ワ)第20086号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年9月26日)

判決
原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エキサイト株式会社
同訴訟代理人弁護士 藤井康弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は,原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して原告が著作権を有する別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の複製物を公衆送信し、又は動画の複製物が記録された端末をビットトレントのネットワークに接続して送信可能化にしたことで、原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、上記侵害通信又は上記侵害に関連する通信を被告の提供するプロバイダを経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者について
 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作および販売等を業とする株式会社である。(甲8)
 被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社であり(弁論の全趣旨)、プロバイダ責任制限法2条3項の特定電気通信役務提供者に当たる。
(2)発信者情報の保有について
 別紙発信者情報目録記載のIPアドレスを用いて同目録記載の時刻に行われた通信(以下「本件通信」という。)は、被告の電気通信設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。(争いなし)
(3)ビットトレントの概要等について(甲4〜7、弁論の全趣旨)
 ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファイルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。以下同じ。)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うものである。ファイルをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッカー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウンロードさせることになる。
 なお、ユーザーは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
(4)原告による調査(甲1の2、4、5、9、10)
 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、「μTorrent」というクライアントソフト(以下「本件ソフト」という。)を用いて調査した(以下、この調査を「本件調査」という。)。本件調査の際、本件ソフト上には、本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしていたとされるピア(以下「本件発信者」という。)がしたとされる通信の日時及びその際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスが表示された(以下、この結果を「本件調査結果」という。)。
3 争点に対する当事者の主張
(1)原告が本件動画の著作権者であるか(争点1)
(原告の主張)
 本件動画は映画の著作物に当たる。本件動画の販売用パッケージには、第三者認証機関によって原告に対して割り当てられた会員番号等が明記されており、これは著作物の公衆への提供等の際に実名に代えて用いられるものとして通常の方法により表示されている者に当たるから、原告が著作権者として推定される(著作権法14条)。
 また、本件動画は、原告の発意に基づいて原告の代表者又は従業員が企画し、製作しているから、代表者又は従業員が著作物の全体的形成に創作的に寄与したから、原告が著作権者となる。さらに、本件では、原告が本件動画の製作に関する最終決定を行い、かつ、その責任を負うこととされ、著作者であるスタッフは原告との契約で製作に参加し、報酬を得ており、映画製作者である原告に対し、著作物の製作に参加することを約束しているから、原告が著作権を有する。
(被告の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
(2)本件調査結果の信用性(争点2)
(原告の主張)
 本件調査の過程で、本件発信者が本件動画のピースを送信し、本件調査会社がこれをダウンロードしたことが明らかになった。
 本件調査で用いられた本件ソフトは、BitTorrentを管理する会社がBitTorrentを一般の利用者が使用しやすくするために管理しているソフトウェアであり、その動作が正確であることが信用できる。仮に本件ソフトに不具合があれば、誤った表示がされるのではなく、その動作が停止するものであるところ、本件調査ではIPアドレスが表示されているから、侵害行為を行っている発信者の情報が正確に表示されているといえる。本件ソフトを用いて同様の調査をすることで判明した多数の発信者が侵害を認めていることも調査方法の正確性を裏付ける。
(被告の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
 本件調査の過程で本件ソフトが、原告が主張するとおりに動作したことについて争う。
 また、本件調査では、調査会社が通信を確認した時点で、通信速度を表す「上り速度」、「下り速度」の表示がないこと、ダウンロードの割合が調査会社側でも、本件発信者側でも7.3%であることから、同時点では調査会社側へのデータの送信がされていないことが推認できる。
(3)本件発信者情報が、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき開示対象となる発信者情報に当たるか(争点3)
(原告の主張)
 本件発信者は、別紙発信者情報目録記載の日時に同目録記載のIPアドレスを用いて原告が著作権を有する本件動画を自動公衆送信して原告の公衆送信権を侵害した。
 また、本件発信者は、クライアントソフトがインストールされたコンピュータの記憶領域に本件動画に係るファイルのデータを記録し、BitTorrentに接続した他のピアの求めに応じて自動的にこれを送信し得るように設定したことによって、本件動画に係るデータについての送信可能化をして原告の公衆送信権を侵害した。プロバイダ責任制限法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは問題となっている情報を現実に発信した際に把握される発信者情報に限定されない。本件調査の対象者は自動公衆送信の送信可能化をし、著作権法上の公衆送信権を侵害したことは明らかであるから、送信可能化したことに基づく公衆送信権侵害についても、本件発信者情報はプロバイダ責任制限法5条1項の開示対象になる。本件発信者と本件調査会社との間にはIPアドレスと違法ファイルのダウンロードが可能であるという情報の通信があるので、発信者情報の範囲に関する検討を行う実益はない。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。プロバイダ責任制限法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは、権利を侵害する情報を現に送信する通信である必要がある。
第3 当裁判所の判断
1 原告が本件動画の著作権者であるか(争点1)について
 甲2の2、8、17及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、映画の著作物に当たり、原告による企画の下、本件動画の製作に参加することを約束した監督、女優、男優、外注先その他の関係者の報酬についても原告が負担して製作されたものであることが認められる。そうすると、本件動画は、本件動画の映画製作者(著作権法2条1項10号)に当たる原告に対し、著作者である監督その他の映画の製作に係る関係者が映画製作に参加することを約束して製作されたものであるということができるから、原告は、同法29条により本件動画の著作権を有する。
2 本件調査結果の信用性(争点2)について
(1)証拠(甲1の2、4、5、9、10)によれば、本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、ビットトレントの開発チームによって維持されている本件ソフトを起動して、本件ソフトを用いて当該トレントファイルからダウンロードすることで、本件動画の複製物のダウンロードを開始し、当該ダウンロード中、本件ソフトにより、画面上にビットトレントに接続して本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしている本件発信者がした通信に際して割り当てられたIPアドレス及びその日時を表示させ、その画面を画像として記録し、さらに、実際に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較し、ダウンロードしたデータが本件動画のデータと同一のものであることを確認する方法により、本件調査を行ったと認められる。このような本件調査の方法は、その調査結果の信用性に特段の疑問を生じさせるものではなく、また、証拠(甲6)によれば、本件ソフトはビットトレントの開発チームによって維持されているソフトであって、ビットトレントのユーザーが使用することが想定されているクライアントソフトであり、誤った動作をすることがあることを疑わせる事情はなく、その信用性に疑問を生じさせる事実も認められない。
 そうすると、本件調査結果は信用でき、本件発信者は、本件動画のデータを調査会社の端末に送信したことが認められる。
(2)被告は、本件調査結果において、本件発信者が本件ソフト上に表示された「上り速度」欄又は「下り速度」欄に表示がないピアであること等を理由に、本件発信者が本件動画のデータを発信したことは立証されていない旨主張する。しかし、本件調査で本件発信者からの発信を確認した時には「ダウンロード中」との表示がされていて本件動画データの送受信が進行していることを示す表示がされていること、また、証拠(甲20〜22)によれば、本件ソフト上に表示されたピアについて「上り速度」欄又は「下り速度」欄に表示がない場合であっても、本件調査会社がファイルのデータのダウンロードができていることからすれば、被告の上記指摘は前記の認定を覆すには足りない。
3 本件発信者情報が、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき開示対象となる発信者情報に当たるか(争点3)について
 本件発信者は別信者情報目録記載の時刻に同IPアドレスを用いて行われた通信で、原告が著作権を有する本件動画を自動公衆送信したと認められ、また、本件において権利制限事由その他の侵害を否定する事情があるとは認められない。したがって、原告は、「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害された」ことが明らかである。
 弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そのためには、本件通信の発信者情報の開示が必要であるといえるから、原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


別紙 発信者情報目録
 以下の時間に以下のIPアドレスを使用していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
 (記載省略)

別紙 動画目録
 (記載省略)
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