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【事件名】ゲームソフトの業務委託契約事件(2)
【年月日】令和5年11月28日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10073号 著作権等侵害による損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第13311号)
 (口頭弁論終結日 令和5年9月19日)

判決
控訴人 X
被控訴人 株式会社トーセ
同訴訟代理人弁護士 川上良
被控訴人 株式会社バンダイナムコエンターテインメント
同訴訟代理人弁護士 山下英樹


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1)主位的請求
ア 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して1500万円並びにうち926万2500円に対する平成24年11月29日から及びうち573万7500円に対する平成26年4月17日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人株式会社トーセは、控訴人に対し、90万円及びこれに対する令和2年11月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
ウ 被控訴人株式会社トーセは、控訴人に対し、9万円及びこれに対する令和2年11月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2)予備的請求
ア 被控訴人株式会社トーセは、控訴人に対し、750万円及びこれに対する令和2年11月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人株式会社バンダイナムコエンターテインメントは、控訴人に対し、750万円及びこれに対する令和2年11月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
ウ 前記(1)イと同旨
エ 前記(1)ウと同旨
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1(1)被控訴人株式会社トーセ(原審被告。以下「被告トーセ」という。)は、本判決別紙1(ゲームソフト目録)記載1のゲームソフト(以下「本件ソフト」という。)、同別紙記載2のゲームソフト(以下「本件派生ソフト1」という。)及び同別紙記載3のゲームソフト(以下「本件派生ソフト2」といい、本件派生ソフト1と併せて「本件各派生ソフト」といい、本件ソフト及び本件各派生ソフトを併せて「本件ソフト等」という。)の開発又は製作等をした者、被控訴人株式会社バンダイナムコエンターテインメント(原審被告。以下「被告バンダイナムコ」という。)は、本件ソフト等を販売するなどした者、控訴人(原審原告。以下「原告」という。)は、本件ソフトの開発又は製作に関与し、原判決別紙著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を製作したと主張する者である。
(2)本件における原告の請求は、次のとおりである。
ア 被告らによる本件各動画に係る著作権の侵害を理由とする不法行為又は不当利得に基づく請求(控訴の趣旨2(1)ア、同(2)アイ)
(ア)主位的請求(不法行為)
 原告は、被告らは共同して本件ソフト等(本件各動画を使用して開発又は製作がされたもの)を販売し、本件各動画に係る原告の著作権(頒布権)を侵害したと主張し民法709条及び同法719条1項前段に基づいて、被告らに対し、損害賠償金2778万7500円の内金1500万円並びにうち926万2500円に対する不法行為の日(本件ソフトの販売開始日)である平成24年11月29日から及びうち573万7500円に対する不法行為の日(本件派生ソフト1の販売開始日)である平成26年4月17日からいずれも支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。
(イ)予備的請求(不当利得)
 原告は、被告らはそれぞれ本件ソフト等の無断販売により利益を得たところ、これは不当利得に当たると主張し、民法703条に基づいて、被告らに対し、それぞれ不当利得金1389万3750円の内金750万円及びこれに対する履行の請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。
イ 被告トーセによる仕様書等の無断利用を理由とする不当利得に基づく請求(控訴の趣旨2(1)イ、同(2)ウ)
 原告は、被告トーセは原告が作成した成果物(戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等。以下「本件成果物」という。)を無断で利用して利益を得たところ、これは不当利得に当たると主張し、民法703条に基づいて、被告トーセに対し、不当利得金1881万円の内金90万円及びこれに対する履行の請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。
ウ 被告トーセによる本件ソフトに係る著作者人格権の侵害を理由とする不法行為に基づく請求(控訴の趣旨2(1)ウ、同(2)エ)
 原告は、被告トーセは原告の氏名を表示せずに本件ソフトの公衆への提供又は提示をし、本件ソフトに係る原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し、民法709条に基づいて、被告トーセに対し、損害賠償金250万円の内金9万円及びこれに対する不法行為の日の後である令和2年11月28日から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(3)原審は、原告の請求を全部棄却したところ、原告は、これを不服として本件控訴をした。
2 前提事実
(原判決の引用)
 前提事実は、後記(原判決の補正)のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の2(4頁1行目から7頁2行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)4頁17行目の「甲3」の次に「、乙9」を加え、23行目の「1.」を「@.」と改める。
(2)6頁6行目末尾に改行して以下のとおり加える。
 「ク 第13条(契約期間)
 「本契約は、本契約締結と同時に効力を発し、その後1年間有効とする。ただし、契約期間満了の2か月前までに、甲・乙いずれか一方の当事者から別段の意思表示のない場合には、さらに1年間延長されるものとし、その後も同様とする。」」
(3)6頁10行目の「関与するようになり」を「関与し」と改める。
(4)7頁2行目末尾に改行して以下のとおり加える。
 「(9)履行の請求
 原告は、令和2年11月27日、被告らに対し、本件各動画の無断使用に係る不当利得返還債務(2778万7500円)の履行を請求するとともに、被告トーセに対し、本件成果物の無断利用に係る不当利得返還債務(1882万円)の履行を請求した。」
(5)29頁3・4行目の「スーパーロボット大戦OG ムーン・デュラーズ」を「スーパーロボット大戦OG ムーン・デュエラーズ」と改める。
3 争点
 (本件各動画に係る著作権の侵害又は不当利得に関する請求(主位的請求及び予備的請求)関係)
(1)本件各動画の著作物性(争点1)
(2)本件各動画に係る原告の著作者性(争点2)
(3)本件業務委託契約に基づく本件各動画に係る著作権の移転(争点3)
(4)本件各動画の無断使用に係る損害又は利得の額(争点4)
(本件成果物の無断利用に関する請求関係)
(5)本件成果物の無断利用に係る不当利得の成否(争点5)
(6)本件成果物の無断利用に係る利得の額(争点6)
(本件ソフトに係る著作者人格権の侵害に関する請求関係)
(7)本件ソフトに係る原告の著作者性(争点7)
(8)被告トーセによる本件ソフトの公衆への提供又は提示(争点8)
(9)著作者人格権の不行使の合意(争点9)
(10)氏名表示の省略(争点10)
(11)著作者人格権の侵害に係る損害の額(争点11)
4 争点についての当事者の主張
(1)当審が判断の対象とした争点について
ア 争点3(本件業務委託契約に基づく本件各動画に係る著作権の移転)について
 後記(原判決の補正)のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(3)(原判決10頁21行目から14頁22行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(ア)11頁12・13行目の「被告トーセとの業務委託契約として」を「本件業務委託契約に基づいて」と改める。
(イ)11頁20行目の「その範囲」を「原告との間で、本件業務委託契約に基づく業務の範囲」と改める。
イ 争点5(本件成果物の無断利用に係る不当利得の成否)について
 原判決21頁5行目の「そして」から9行目末尾までを「したがって、被告トーセは、原告に対し、本件成果物の無断利用によって受けた利益に相当する額の不当利得返還義務を負う。」と改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(9)(原判決20頁5行目から21頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ウ 争点9(著作者人格権の不行使の合意)について
 後記(原判決の補正)のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(7)(原判決18頁12行目から26行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(ア)18頁12行目の「被告ら」を「被告トーセ」と改める。
(イ)18頁17行目の「前記4(3)」を「前記争点3」と改める。
(ウ)18頁18行目、19行目及び26行目の各「本件各動画」をいずれも「本件ソフト」と改める。
(2)当審が判断の対象としなかった争点について
 争点3、5及び9以外の争点についての当事者の主張は、本判決別紙2のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
 なお、事案に鑑み、争点3及び9、争点5の順に判断する。
2 争点3及び9(本件業務委託契約に基づく本件各動画に係る著作権の移転、著作者人格権の不行使の合意)について
(1)前提事実(4)のとおり、原告と被告トーセは、平成21年6月1日、本件業務委託契約を締結したところ、その第7条第1項には、「成果物及びその関連資料等の著作権は、第5条に規定する成果物の引渡完了をもって原告から被告トーセに移転する」旨の約定があり、第7条第3項には、「原告は、成果物の著作者人格権を被告トーセ及び被告トーセが指定する第三者に対する関係で放棄する」旨の約定があり、第1条第1項には、「被告トーセは、コンピューターソフトの開発業務(以下「本件業務」という。)を原告に委託する」旨の約定があり、第5条第1項には、「原告は、被告トーセからその都度個別に発行される発注書に定める納期に本件業務の成果物を被告トーセが指定する場所に納入する」旨の約定がある。
 まず、本件業務委託契約第7条第1項及び第3項にいう「成果物」の納入に関し、本件業務委託契約第5条は、当該成果物は同条第1項又は第3項の規定に従って被告トーセに納入されるべきものと定めている。このような成果物は、その完成の程度にかかわらず、これに係る著作権又は著作者人格権が生じる可能性がある。第7条の規定は、これらの著作権又は著作者人格権を対象とする趣旨の規定と解されるのであり、同条の文言上も、成果物の程度について限定は付されていないし、被告トーセに納入されるべき本件業務の成果物のうちから一定範囲の物を除外すべき合理的理由も見当たらない。したがって、本件業務委託契約第7条の規定によりその著作権を移転し、又は著作者人格権を行使させない対象となる「成果物」には、原告による本件業務の遂行の結果製作され、被告トーセに納入されるべき物全てが、その完成の程度いかんにかかわらず含まれると解するのが相当である。
 次に、弁論の全趣旨によると、被告トーセは、ゲームソフトの開発に関する成果物の納入場所につき、これを被告トーセが管理するデータ共有サーバと指定していたが、被告トーセにおいては、パソコン(被告トーセが業務受託者に貸与したもの)に成果物を格納したままの状態で当該パソコンを返却することをもって、当該成果物の納入とするとの扱いがされていたものと認められるから、本件業務委託契約第7条第1項にいう「第5条に規定する成果物の引渡」とは、被告トーセが管理する共有サーバに成果物をアップロードすること又は被告トーセから貸与を受けていたパソコンに成果物を格納したままの状態で当該パソコンを被告トーセに返却することのいずれかを指すものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると、本件各動画及び本件ソフトが、被告トーセから委託を受けたコンピューターソフトの開発業務を原告が遂行した結果製作された物であることは、当事者間に争いがないから、本件各動画及び本件ソフトは、その完成の程度いかんにかかわらず、本件業務委託契約第7条第1項及び第3項にいう「成果物」に該当する。
 また、原告は、「原告は、本件業務委託契約の終了の際、原告が作業をして製作したデータ等を原告が使用していたパソコンに格納した上、当該パソコンを被告トーセに返却し、また、当該データ等を開発スタッフの作業用のデータ共有サーバに保管した」旨主張する。原告が当該「原告が作業をして製作したデータ等」から特に本件各動画(未完成のものも含む。)を除いて引き渡したとの事情はうかがわれない。そうすると、原告は、本件各動画について、遅くとも本件業務委託契約の終了時(平成22年12月末頃)には、「第5条に規定する成果物の引渡」をしたものと認めるのが相当である。
 以上によると、仮に、争点1及び争点2で原告が主張するとおり本件各動画が著作物に該当し、原告がその著作者であったとしても、その著作権は、本件業務委託契約第7条第1項の約定により、遅くとも平成22年12月末頃、原告から被告トーセに移転したことになる。また、仮に、争点7で原告が主張するとおり原告が本件ソフトの著作者であるとしても、原告は、同条第3項の約定により、被告トーセとの間で、本件ソフトに係る著作者人格権を行使しない旨の合意をしたものと認められる。
(3)原告の主張について
ア 原告は、本件各動画及び本件ソフトは原告が本件業務委託契約の対象外である本件追加業務を遂行した結果製作されたものであるから、本件業務委託契約第7条第1項及び第3項の適用はないと主張する。
 しかしながら、弁論の全趣旨によると、本件各動画は、コンピューターソフトである本件ソフトの開発又は製作の過程で製作されたものと認められるから、少なくとも形式的には、本件業務委託契約第1条第1項に定める「コンピューターソフトの開発業務」の遂行の結果製作された成果物に該当する。他方、原告が主張する合意(本件業務委託契約とは別に本件追加業務に係る業務委託契約を締結する旨の原告と被告トーセとの間の合意)があったことや、被告トーセが原告に対し、本件業務委託契約の対象外の業務を委託し、原告が当該業務を遂行した結果本件各動画が製作されたことを認めるに足りる証拠はない。そもそも、本件業務委託契約の各約定、特に、「原告は、被告トーセからその都度個別に発行される発注書の仕様、日程等に従って本件業務を行わなければならない」旨の約定(第2条)、「原告は、被告トーセからその都度個別に発行される発注書に定める納期に本件業務の成果物を被告トーセが指定する場所に納入する」旨の約定(第5条第1項)並びに「被告トーセは、原告に対し、発注書に定める作業委託料を支払う」旨の約定(第8条第1項)及び「前項の委託料は、毎月末日までに納入された成果物を被告トーセの規準で集計し、評価し、翌月末日までに原告が指定する銀行預金口座に振込送金する方法により支払うものとする」旨の約定(第8条第2項)に照らすと、本件業務委託契約は、コンピューターソフトの開発業務に係る原告と被告トーセとの間の包括的な基本契約としての性質を有しているものと解するのが相当である(なお、前提事実(5)のとおり、原告は、被告トーセから委託を受けて本件各動画を製作したところ、被告トーセから原告に対する具体的な業務の委託は、「注文書」と題する書面の交付によってされていたものである。)。これらの点に照らすと、本件各動画及び本件ソフトは、原告が本件業務委託契約の対象たる業務を遂行した結果製作されたものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 したがって、原告の主張は、前提を欠くものであるから、採用することができない。
イ 原告は、@原告は、被告トーセから成果物の引渡場所がどこであるか聞かされていない、A原告は、データを特定の場所に移す行為やデータを特定の者に引渡す行為をしていない、B原告は、本件業務委託契約の終了の際、業務の引継ぎをしなかったし、その際、被告トーセから本件各動画の引渡しを求められなかった、C原告は、本件業務委託契約第7条第1項にいう「成果物」の意義が曖昧であったことなどから、被告トーセに対して何を納入すればよいのか分からなかった、D本件各動画は、本件業務委託契約の終了時には未完成であったところ、原告が未完成の成果物を被告トーセに引き渡すことはあり得ず、被告トーセも未完成の成果物の引渡しを求めなかったとして、原告は本件各動画を被告トーセに引き渡していないと主張する。
 しかしながら、前記(2)のとおり、原告は、「原告は、本件業務委託契約の終了の際、原告が作業をして製作したデータ等を原告が使用していたパソコンに格納した上、当該パソコンを被告トーセに返却し、また、当該データ等を開発スタッフの作業用のデータ共有サーバに保管した」旨の主張をしているのであるから、Aの事情は認められない。また、仮に、@、B及びCの事情並びにDのうち本件各動画が本件業務委託契約の終了時に未完成であったとの事情があったとしても、これらの事情は、原告が被告トーセに対し本件業務委託契約第5条の規定に従って被告トーセに対し本件各動画を含む成果物を納入したとの前記認定を覆すに足りない(なお、未完成の成果物も本件業務委託契約第7条第1項にいう「成果物」に含まれることは、前記(1)において説示したとおりである。)。さらに、Dのうち未完成の成果物の引渡しがあり得ないとの事情を認めるに足りる証拠はない。
 そもそも、原告は、本件訴訟において、被告トーセが本件各動画を使用し本件ソフト等を完成させた旨主張しており、他方で、被告トーセが本件各動画を窃取するなどしてこれを不正に入手したなどの主張をしていないのであるから、原告が被告トーセに対し本件各動画の引渡しをしていない旨の原告の主張は、自己矛盾の主張であるといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
3 本件各動画に係る著作権の侵害又は不当利得に関する請求及び本件ソフトに係る著作者人格権の侵害に関する請求についての結論
(1)前記2で判示したところによれば、原告は、遅くとも平成23年1月以降、本件各動画に係る著作権を有していなかったことになる。したがって、平成24年11月29日以降の本件各動画に係る著作権(頒布権)の侵害を理由とする損害賠償請求及び平成23年1月以降の本件各動画に係る被告らの利得等を理由とする不当利得返還請求は、争点1、2及び4について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
 なお、原告は、仮に原告が本件各動画に係る著作権を有していなかったとしても、被告らは原告が提供した労務を法律上の原因なく利用して利益を受けたとも主張するが、前記のとおり、本件各動画が本件業務委託契約に従って原告から被告トーセに納入されたものであると認められる以上、被告らにおいて原告が提供した労務を法律上の原因なく利用したということはできないから、同主張は採用することができない。
(2)前記2で判示したところによれば、仮に、争点7で原告が主張するとおり原告が本件ソフトの著作者であったとしても、原告は、被告トーセに対し、本件ソフトに係る著作者人格権(氏名表示権)を行使することはできない。したがって、本件ソフトに係る著作者人格権の侵害を理由とする損害賠償請求は、争点7、8、10及び11について判断するまでもなく、理由がない。
4 争点5(本件成果物の無断利用に係る不当利得の成否)について
 仮に、原告が本件ソフトの開発業務又は製作業務に関与する過程で本件ソフトにおける戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等の本件成果物を作成し、これらを被告トーセに引き渡し、被告トーセにおいてこれらを利用したとしても、前記2で判示したところによれば、本件成果物はいずれも本件業務委託契約に基づく業務の一環として原告から被告トーセに対し提供されたものであることが推認されるというべきである。すなわち、被告トーセによる当該利用が法律上の原因なくされたものであるとはにわかに認めることはできず、これを認めるに足りる的確な証拠はない(なお、本件業務委託契約第7条第1項には、「成果物の所有権は、第5条に規定する成果物の引渡完了をもって原告から被告トーセに移転する」旨の約定がある。)。
5 本件成果物の無断利用に関する請求についての結論
 前記4で判示したところによれば、本件成果物の無断利用に関する不当利得返還請求は、争点6について判断するまでもなく、理由がない。
6 結論
 よって、当裁判所の判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 清水響
 裁判官 浅井憲
 裁判官 勝又来未子


(別紙1)ゲームソフト目録
1 名称を「第2次スーパーロボット大戦OG」とするゲームソフト
2 名称を「スーパーロボット大戦OGダークプリズン」とするゲームソフト(前記1のゲームソフトの派生作品)
3 名称を「スーパーロボット大戦OGムーン・デュエラーズ」とするゲームソフト(前記1のゲームソフトの派生作品)
 以上

(別紙2)争点3、5及び9以外の争点についての当事者の主張
1 争点1(本件各動画の著作物性)について
 原判決8頁15行目の「原告各動画」を「本件各動画」と改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(1)(原判決7頁20行目から8頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点2(本件各動画に係る原告の著作者性)について
 後記(原判決の補正)のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(2)(原判決8頁23行目から10頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)9頁12行目の「本件各動画の著作権が原告に帰属する」を「本件各動画の著作者が原告である」と改める。
(2)10頁15行目の「本件ソフト及び戦闘アニメーション」を「本件ソフトの一部を構成する本件各動画」と改める。
(3)10頁16行目の「事実」から18行目末尾までを「事実はないから、原告は、本件各動画に係る著作者ではない。」と改める。
3 争点4(本件各動画の無断使用に係る損害又は利得の額)について
 後記(原判決の補正)のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(8)(原判決19頁3行目から20頁2行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)19頁4行目を削る。
(2)19頁18行目から20頁2行目までを以下のとおり改める。
「(被告らの主張)
原告の主張は争う。」
4 争点6(本件成果物の無断利用に係る利得の額)について
(原告の主張)
 本件成果物に係る利用料は、少なくとも1881万円であるから、被告トーセは、本件成果物の無断利用により、少なくとも同額の利益を得たものである。
 よって、被告トーセは、原告に対し、1881万円の不当利得返還義務を負うところ、原告は、被告トーセに対し、その一部である90万円の支払を求めるものである。
(被告トーセの主張)
 原告の主張は争う。
5 争点7(本件ソフトに係る原告の著作者性)について
(原告の主張)
 本件ソフトは、本件各動画を含み、また、本件各動画は、本件ソフトの不可欠の要素となっているから、原告は、本件ソフトの著作者の一人である。
(被告トーセの主張)
 原告の主張は争う。
6 争点8(被告トーセによる本件ソフトの公衆への提供又は提示)について
 原判決の「事実及び理由」の第2の4(6)(原判決17頁7行目から18頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
7 争点10(氏名表示の省略)について
(被告トーセの主張)
 以下の事情に照らすと、本件ソフトのスタッフクレジットに原告の氏名を表示しないことは、著作権法19条3項により許されるというべきである。
(1)本件ソフトのような開発規模の大きいゲームソフトの場合、その製作には非常に多数のスタッフが関与することになるところ、その全員をスタッフクレジットに表示すると、媒体の容量、ゲームの余韻等の点から問題があることもあり、どの程度の範囲の者をスタッフクレジットに表示するかについては、製作者である販売元の判断に委ねるのがゲームソフト業界の慣行である。発売元であるメーカーのスタッフはおおむね表示されるが、開発会社であるデベロッパーのスタッフは主な者のみが表示され、フリーランスの者や業務委託先のスタッフは表示されないこともあり、孫請けのスタッフはほとんど表示されないというのが実情である。したがって、本件ソフトについて、業務受託者である原告の氏名をスタッフクレジットに表示しないことは、ゲームソフト業界の公正な慣行に反しない。
(2)ゲームソフトの製作に長年にわたって関与してきた原告は、前記(1)の慣行を熟知していたから、原告の氏名を本件ソフトのスタッフクレジットに表示しないとしても、原告の意図に反してその利益を害するおそれはない。
(原告の主張)
 被告トーセの主張は争う。
8 争点11(著作者人格権の侵害に係る損害の額)について
(原告の主張)
 被告トーセによる著作者人格権の侵害により原告が被った損害は、250万円を下らない。原告は、被告トーセに対し、その一部である9万円の支払を求めるものである。
(被告トーセの主張)
 原告の主張は争う。
 以上
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日本ユニ著作権センター
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