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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件P
【年月日】令和5年10月31日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70200号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年8月31日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 鈴木勇輝
被告 エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社訴訟承継人 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件氏名不詳者」という。)がツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに投稿した別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)によって、映画の著作物である別紙著作物目録記載の動画(以下「本件原動画」という。)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び原告のプライバシー権が侵害されたことが明らかであり、本件氏名不詳者に対する損害賠償請求権等の行使のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条2項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、「B」との変名を用いて、インターネット上で動画の投稿及び配信活動をしている者である(甲8)。
 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。なお、被告は、本件訴訟係属中の令和5年7月1日、承継前被告であるエヌ・ティ・ティレゾナント株式会社を吸収合併し、その権利義務を承継した(弁論の全趣旨)。
(2)原告による動画の配信
 原告は、令和4年9月24日、原告が開設するファンクラブサイト「C」において、原告自身の姿態を自ら撮影した本件原動画の生配信(以下「本件配信」という。)を行った(甲8)。原告は、本件配信の際、本件原動画を撮影すると同時に録画していた(弁論の全趣旨)。
(3)本件原動画の著作物性及び著作権者
 原告は、著作物である本件原動画の著作権者である(甲8、甲12ないし14、弁論の全趣旨)。
(4)本件氏名不詳者による動画の投稿
 本件氏名不詳者は、別紙投稿記事目録の投稿日時欄記載の日時に、同ユーザー名欄記載のアカウント(以下「本件アカウント」という。)を利用して、ツイッター上に、本件原動画の一部を抜粋して作成した動画である同目録記載の添付動画欄の動画(以下「本件投稿動画」という。)の掲載を含む本件投稿をした(甲2)。
(5)本件アカウントへのログイン
 本件アカウントには、別紙ログイン情報目録のログイン日時欄記載の日時に、承継前被告エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社(当時はエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社)の用いる電気通信設備を経由して、同IPアドレス欄記載のIPアドレスを送信元とするログイン(以下「本件ログイン」という。)がされた(甲5、6、弁論の全趣旨)。
(6)本件各発信者情報の保有
 被告は本件各発信者情報を保有している。
3 争点
(1)原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
(1)著作権侵害について
ア 本件氏名不詳者が、本件投稿により、本件原動画の一部を抜粋して作成した本件投稿動画をツイッターに投稿したことは、著作物である本件原動画を有形的に再製するものであるから、本件原動画に係る原告の複製権(著作権法21条)を侵害する。
 また、本件投稿は、公衆によって直接受信されることを目的として、無線又は有線電気通信の送信を行うもののうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものであるから、自動公衆送信に該当し(同法2条1項7号の2、同項9号の4)、本件原動画に係る原告の公衆送信権(同法23条1項)を侵害する。
イ 原告は、本件氏名不詳者に対し、本件原動画の利用を許諾していない。また、本件投稿は、報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」での利用ではないから、当該投稿について引用による利用(同法32条1項)の規定は適用されない。
 このほか、本件投稿に関し、著作権侵害に係る違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
ウ したがって、本件投稿によって、本件原動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
(2)プライバシー権侵害について
ア 本件投稿動画には、「Twitter:D」との表示がされているところ、「D」は、原告がツイッターに開設したアカウントのユーザー名であるから、本件投稿が原告に関する投稿であることは明らかである。
イ プライバシー権侵害は、公表された事実が、@私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること(私事性)、A一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること(秘匿性)及びB一般の人々に未だ知られていない事柄であること(非公知性)という要件を充足する場合に成立すると解される。
 本件投稿動画には、原告の乳頭が映っているところ、当該部位は、一般的に他人に見せるような部位ではなく、特に他人に見られたくない部位である。このため、本件において、@私事性及びA秘匿性の要件は、優に認められる。
 また、原告は、過激な動画の配信を行っているものの、自身の乳頭や陰部が映らないよう撮影する角度や衣装等を工夫しており、これまでも自身の乳頭を公開したことはない。原告は、本件配信に当たり、絆創膏を貼って乳頭を隠していたこと、定期的に絆創膏のズレを気にしている様子が映っていることからも、原告が本件配信において自身の乳頭の公開を予定していなかったことは明白である。このため、本件において、B非公知性の要件を満たすことは明らかである。
ウ 投稿内容がプライバシー権を侵害するものであっても、これを公表されない法的利益に比して、公表することによって得られる公共の利益が優越する場合には、違法性が阻却される余地がある。
 しかし、本件投稿は、原告が乳頭を隠すために貼っていた絆創膏が本件配信中に偶然剥がれ、乳頭が映り込んでしまったという事象を、いたずらに拡散する目的でされているものであるから、公共性及び公益性をいずれも有しない。
 このほか、本件投稿に関し、プライバシー権侵害に係る違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
エ したがって、本件投稿によって、原告のプライバシー権が侵害されたことは明らかである。
(3)権利侵害の主張の関係
 本件投稿についての著作権侵害及びプライバシー権侵害の主張は、選択的主張である。
(被告の主張)
(1)別紙ログイン情報目録記載の情報により特定される契約者は本件投稿を行っていないこと
 被告は、別紙ログイン情報目録記載の情報により特定される契約者(以下「本件契約者」という。)に対して意見照会をしたところ、本件契約者は、不正アクセスを受けたことなどを根拠として、本件投稿を行っていないと回答した。
 このような回答からすれば、本件契約者が本件投稿を行ったとはいえない。
(2)著作権侵害について
 争う。
(3)プライバシー権侵害について
 争う。本件原動画の人物が原告であるかは明らかではなく、また、仮に同人物が原告であったとしても、本件原動画は原告自身によって配信されたものであるから、非公知性の要件を満たさない。
2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(原告の主張)
(1)原告は、本件氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。
 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(2)被告は、本件原動画がわいせつ性を帯びていることなどから、本件原動画の著作権が侵害されたことによる損害は観念できないと主張する。
 しかし、本件原動画には、原告の性器は映っておらず、違法な動画ではないから、著作権によって保護されるべきものであることは明らかである。
 したがって、被告の主張は理由がない。
(被告の主張)
 本件原動画はわいせつ性を帯びたものであり、原告は、視聴者に対して性的刺激を与える動画を配信して利益を得ていることがうかがわれるところ、このような動画を配信することは違法である可能性があり、そのため、本件原動画の著作権が侵害されたことによる損害は観念できない。
 したがって、本件において、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由は認められない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)本件原動画に係る原告の著作権(公衆送信権)侵害の有無
ア 前提事実(3)及び証拠(甲2、12)によれば、本件氏名不詳者は、本件原動画の一部を抜粋して作成した本件投稿動画をツイッターに投稿したこと、本件投稿動画から本件原動画の表現の本質的特徴を直接感得できることがそれぞれ認められる。
 そして、ツイッターに係るサービスに本件投稿動画の掲載を含む本件投稿をすることは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に本件原動画に係る情報を記録することによって、公衆からの求めに応じて自動的に本件原動画の送信を可能にする行為であると評価できる(著作権法2条1項9号の5、同項9号の4)。
イ これに対し、被告は、本件契約者が、被告からの意見照会に対して、不正アクセスを受けたことなどを根拠として、本件投稿を行っていないと回答したことから、本件契約者は本件投稿を行っていないと主張する。
 しかし、上記の回答が真実であることを裏付ける的確な証拠はない。さらに、本件契約者が意見照会の回答(乙1)において述べている不正アクセスとは、「ニコニコ動画」という動画共有サイトの月額料金に関するものであり、この不正アクセスと本件投稿との関連性は明らかにされていない。
 したがって、被告の上記主張は採用できない。
(2)違法性阻却事由の不存在
 本件全証拠によっても、本件氏名不詳者の行為について、違法性阻却事由が存在することはうかがわれないから、不存在であると認めるのが相当である。
(3)小括
 したがって、本件投稿により、本件原動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条2項1号)。
 そして、本件ログインに係る送信は、プロバイダ責任制限法5条2項柱書所定の「侵害関連通信」に当たるから、本件各発信者情報は、プロバイダ責任制限法5条2項柱書所定の「当該侵害関連通信に係る発信者情報」に当たると認められる。
2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(1)弁論の全趣旨によれば、原告は、本件氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であることが認められる。
 したがって、原告には被告が保有する本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる(プロバイダ責任制限法5条2項2号)。
(2)これに対し、被告は、本件原動画はわいせつ性を帯びており、そのような動画を配信することは違法である可能性あるから、本件原動画の著作権が侵害されたことによる損害は観念できず、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由は存在しないと主張する。
 しかし、証拠(甲12)によれば、本件原動画は視聴者に性的な刺激を与えることなどを目的として撮影されたものであることが認められるが、同動画の内容を踏まえても、原告の著作権侵害に基づく損害賠償請求を否定するほどの内容であるとは認められない。
 したがって、被告の主張は採用できない。
3 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 間明宏充
 裁判官 木村洋一


(別紙)発信者情報目録
 別紙ログイン情報目録IPアドレス欄記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録接続先IPアドレス欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を、別紙ログイン情報目録ログイン日時欄記載の日時頃に割り当てられた契約者に関する情報であって、次に掲げる情報。
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電話番号
 4 メールアドレス
 以上

(別紙)ログイン情報目録
ログイン日時 ログイン日時(日本時間) IPアドレス
2022/09/26 11:14:05 2022/09/26 20:14:05 省略
 以上

(別紙投稿記事目録 省略)
(別紙著作物目録 省略)
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