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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AI 【年月日】令和5年10月27日 東京地裁 令和5年(ワ)第70029号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年8月30日) 判決 原告 有限会社プレステージ 同訴訟復代理人弁護士 堀田耕平 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 金子和弘 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を複製して作成した動画ファイル(以下「本件複製ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態としたことによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売等を目的とする特例有限会社である(弁論の全趣旨)。 イ 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供しているアクセスプロバイダである。 (2)本件動画の著作物性及び著作権者 原告は、著作物である本件動画の著作権者である(甲7、10)。 (3)ビットトレントの仕組み(甲2、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利用するためのソフトウェアである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、他のピアのIPアドレス等の情報のリストを取得する。 上記の手順によってピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、これに対し当該他のピアがこれに応答することを確認した上(以下、この当該他のピアとの通信を「ハンドシェイクの通信」という。)、当該他のピアが上記特定のファイルを構成するピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (4)株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲4、弁論の全趣旨) 本件調査会社は、別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び発信日時を以下の方法により特定した。 ア 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の品番を含むファイルのハッシュ値を探索し、当該ハッシュ値を監視対象とした。 イ 前記アの監視に用いられたソフトウェア(以下「本件監視ソフトウェア」という。)が、トラッカーに接続し、監視対象である当該ハッシュ値を有する特定のファイル(本件複製ファイル)を共有しているピアの情報の提供を求めたところ、トラッカーから別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番号を含むリストが返信された。 また、本件監視ソフトウェアは、トラッカーから上記のピアの情報に係るリストが返信された後、実際に各ピアとの間でハンドシェイクの通信を行い、各ピアが応答することを確認した。別紙動画目録記載の発信日時は、ハンドシェイクの通信により各ピアから応答確認があった日時である。 3 争点 (1)原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1) (2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか(争点2) (3)原告が本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点3) (4)被告が本件各発信者情報を保有しているか(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について (原告の主張) (1)著作権法2条1項9号の5イの行為による送信可能化について 送信可能化行為は、著作権法2条1項9号の5で定義されているところ、トラッカーサーバーは、同号イの「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置」に当たる。 また、ビットトレントにおいてファイルを送信しようとする者(以下「送信者」ということがある。)が、トラッカーサーバーに対し自身が所持するファイル情報、自身の端末のIPアドレス等を通知し、これがトラッカーサーバーに記録されることは、同号イの「情報を記録」したことに当たる。 これにより、送信者は、当該ファイルを、受信者の求めに応じて、「自動公衆送信し得るように」なる。 したがって、ファイルの送信者は、トラッカーサーバーにファイル情報、IPアドレス等を通知することにより、送信可能化を行ったといえる。 (2)著作権法2条1項9号の5ロの行為による送信可能化について 送信者が、自身の所持するファイルを自身の端末の共有フォルダに蔵置し、クライアントソフトを起動してトラッカーサーバーに接続すると、送信者の端末は、トラッカーサーバーに端末を接続させている受信者からの求めに応じ、自動的にファイルを送信し得る状態となる。 そうすると、ファイルを共有フォルダに蔵置したままトラッカーサーバーに接続した送信者の端末は、トラッカーサーバーと一体となって、著作権法2条1項9号の5ロの「情報が記録され」た「自動公衆送信装置」に当たるということができ、トラッカーサーバーに接続した時点で、同号ロの「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」がされ、これにより、送信者が送信可能化を行ったといえる。 (3)以上によれば、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。 (被告の主張) 本件動画を送信可能化したといえるためには、本件各氏名不詳者が本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得することができる程度に本件複製ファイルを保持している必要があるところ、本件監視ソフトウェアは、本件各氏名不詳者のファイル保持率を記録しておらず、また、本件監視ソフトウェアが実際に本件各氏名不詳者から本件複製ファイルのダウンロードをしているわけでもない。 そうすると、本件各氏名不詳者が、別紙動画目録の発信日時欄記載の時刻に、本件複製ファイルの全部又は一部を保持していたかは明らかではなく、同ファイルの全部又は一部を削除していた、又は送信できない状態にしていた可能性も否定できない。 したがって、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかではない。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか)について (原告の主張) 本件調査会社は、本件監視ソフトウェアがトラッカーサーバーからファイル情報、IPアドレス等が記載されたリストを取得した後、当該リストに載っていた本件各氏名不詳者の端末に接続して、ハンドシェイクの通信を行っている。 他方、本件各氏名不詳者は、ビットトレントネットワークを介し、その管理に係る端末を、受信者である本件監視ソフトウェアからのリクエストに応じて、自動的に本件複製ファイルを送信することができる状態にしていたことから、送信可能化の状態を継続していたといえる。そして、送信可能化による公衆送信権侵害は、ある一時点における権利侵害行為によって終了するのではなく、権利侵害状態が継続するものである。 したがって、本件各氏名不詳者の端末による本件調査会社の端末とのハンドシェイクの通信は、送信可能化によって原告の公衆送信権を侵害し、その状態が継続していることを通知するものと評価できるから、本件各氏名不詳者の端末によるハンドシェイクの通信に係る発信者情報は、プロバイダ責任制限法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。 (被告の主張) プロバイダ責任制限法5条1項の開示請求が認められるためには、「特定電気通信による情報の流通によって」自己の権利を侵害された必要があり、このことからすれば、開示請求の対象となる通信とは、「侵害情報」(同法2条5号)の流通を現実に発生させるものに限られる。 しかし、ハンドシェイクの通信は単なる応答確認にすぎず、ピースの送信を行うものではなく、侵害情報の流通を現実に発生させる通信ではない。 また、プロバイダ責任制限法5条1項の「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(同法2条1号)であるところ、ハンドシェイクの通信は、ピースの送信を行うものではないから、「電気通信の…送信」とはいえない。 そして、ハンドシェイクの通信は、対象となるファイルを構成するピースを保有しているピアと当該ファイルのダウンロードを希望しているピアとの間の二者間の通信であるから、「不特定の者によって受信されることを目的」とする通信でもない。 したがって、ハンドシェイクの通信に係る発信者情報は、プロバイダ責任制限法5条1項が開示の対象とする「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。 3 争点3(原告が本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について (原告の主張) 原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告の主張) 争う。 4 争点4(被告が本件各発信者情報を保有しているか)について (原告の主張) 被告は別紙動画目録の発信日時欄記載の日時において、本件各氏名不詳者に対して、インターネット接続サービスを提供していた。 したがって、被告は本件各発信者情報を保有している。 (被告の主張) 不知。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について 著作権法上、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、「送信可能化」(同項9号の5)に該当するには、上記著作物について、「自動公衆送信し得るようにすること」が必要である。そして、著作物について自動公衆送信し得るようにしたといえるためには、自動公衆送信の対象となる情報が、著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを含んでいる必要があると解される。 本件において、証拠(甲7ないし9)によれば、ビットトレントネットワーク上に存在する本件複製ファイルは、それを再生することにより、原告が著作権を有する著作物である本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであると認められる。 そして、証拠(甲4、5)によれば、本件各氏名不詳者が、ビットトレントネットワークを介して、少なくとも本件複製ファイルの一部をダウンロードしたことが認められる。 しかし、本件全証拠によっても、本件各氏名不詳者が、それぞれ、別紙動画目録の発信日時欄記載の日時に行われたハンドシェイクの通信の時点までに、本件複製ファイルを構成する全ピースのうちどの程度の容量のピースをダウンロードし、これを保持していたのか、また、同時点までに全ピアによってダウンロードされていた本件複製ファイルのピースを併せると、どの程度の容量のピースを構成することになるかは、いずれも不明であるから、本件各氏名不詳者が、それぞれ又は他のピアと共同して、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる情報を自動公衆送信し得るようにしたと認めるに足りない。 したがって、本件各氏名不詳者により本件複製ファイルが「送信可能化」され、本件動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことは明らかであるとはいえない。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか)について 仮に、本件各氏名不詳者が、本件複製ファイルのうち、再生することによって本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる容量のピースを保持していたとしても、本件各発信者情報は、以下の理由により、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとはいえない。 (1)ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化に該当する行為について ア 著作権法2条1項9号の5は、イ又はロ所定の行為により自動公衆送信し得るようにすることを「送信可能化」と定義していることから、「送信可能化」されたといえるためには、同項9号の5イ又はロに該当する行為がされることが必要であるところ、ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化については、次の二つの場合が考えられる。 (ア)あるピアが、ビットトレントネットワークによって取得した特定のファイルを、当該ビットトレントネットワークに参加している他のピアとの間で共有しようとする場合 前提事実(3)イのとおり、ビットトレントネットワークにおいては、特定のファイルに対応するトレントファイルを端末のクライアントソフトウェアに読み込ませることで、当該トレントファイルを共有するピアによって形成されるビットトレントネットワークに参加し、特定のファイルを構成するピースを他のピアからダウンロードしたり、他のピアにアップロードしたりすることができるようになる。 そして、あるピアがこのようなダウンロード及びアップロードを行うためには、他のピアがあるピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握している必要があるから、そのダウンロード及びアップロードに先立ち、あるピアがトラッカーに対して自身のIPアドレス及びポート番号の情報をあらかじめ通知しているものと考えられる。すなわち、ビットトレントネットワークに参加しているピアは、特定のファイルを構成するピースを他のピアからダウンロードしさえすれば、改めてトラッカーに自身のIPアドレス及びポート番号の情報を通知するなど特段の手順を経ることなく、自身のピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握しているピアに対し、自身がダウンロードしたピースを他のピアにアップロードすることができる。 このようなビットトレントの仕組みに照らせば、共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアは、他のピアから当該ピースの送信を受けることによって、別の他のピアからの要求があればいつでも当該ピースを送信し得る状態になったといえる。 そうすると、@共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアが、当該ピースを保有する他のピアから当該ピースをダウンロードすること、又は、A当該ファイルを構成するピースを保有するピアが、当該ファイルを構成するピースを何ら保有していない他のピアに対して当該ピースをアップロードすることをもって、著作権法2条1項9号の5イ所定の「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録…すること」に当たると解するのが相当である(以下「類型1」という。)。 (イ)ビットトレントネットワーク以外の手段によって取得した特定のファイルをビットトレントネットワークにおいて共有しようとする場合 前提事実(3)イのとおり、ビットトレントネットワークにおいては、トレントファイルを共有するピアで形成されるビットトレントネットワーク内でのみ当該トレントファイルに対応する特定のファイルが共有され、他のピアからのピースの送信要求は、トラッカーから提供されるピアのIPアドレス等の情報のリストに基づいてされるところ、当該情報は、各ピアが定期的にトラッカーに通知した自身のIPアドレス等の情報が基礎となっている。 このようなビットトレントの仕組みに照らせば、ピアは、トラッカーに対して自身の情報を提供するための最初の通知の送信をしたことによって、他のピアからの要求があればいつでもファイルを構成するピースを送信し得る状態になったといえる。 そうすると、当該トラッカーに対する最初の通知の送信をもって、著作権法2条1項9号の5ロ所定の「その公衆送信用記録媒体に情報が記録され…ている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続…を行うこと」に当たると解するのが相当である(以下「類型2」という。)。 イ これを本件についてみると、別紙動画目録の各項番記載の情報により特定されるピアが類型1又は2のいずれの態様によって本件複製ファイルを自動的に送信し得る状態となったのかを認めるに足りる証拠はない。 しかも、前記アで検討したとおり、ビットトレントの仕組みに照らせば、別紙動画目録の各項番記載の情報により特定されるピアが類型1及び2以外の態様によって本件複製ファイルを自動的に送信し得る状態になったとは考え難く、これを裏付ける証拠もない。 したがって、本件各氏名不詳者が、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる容量のピースを保持していたことを前提にした場合、本件動画については、別紙動画目録記載の情報により特定されるピアによって、類型1又は2のいずれかの態様すなわち著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定のいずれかの行為により、自動公衆送信し得るようにされたものと認めるのが相当である。 (2)ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化に該当する通信について 前記(1)において説示したとおり、ビットトレントを利用したファイル共有においては、当該ファイルを自動的に送信し得る状態にするための態様として、著作権法2条1項9号の5イ所定の行為に対応する類型1及び同号ロ所定の行為に対応する類型2を想定することができる。 しかし、前提事実(3)イのとおり、ハンドシェイクの通信は、ビットトレントネットワークを形成しているピアが、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認する通信であって、共有される特定のファイルを構成するピースをダウンロード又はアップロードする通信(類型1)ではないし、トラッカーに対する通知の送信(類型2)でもない。 そして、本件において、類型1及び2以外の態様によって、ビットトレントネットワークを形成しているピア同士の間で行われるハンドシェイクの通信が著作物を「送信可能化」する行為に該当し得ることについては、主張及び立証がされていない。 したがって、上記ハンドシェイクの通信が著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の行為に該当するとは認められない。 なお、上記ハンドシェイクの通信に先立って同項9号の5イ又はロ所定の行為がされた可能性があるとしても、同行為によりいったん「送信可能化」がされてしまえば、自動公衆送信し得る状態が完全に実現される以上、「送信可能化」に該当する行為が継続されることはなく、また、上記ハンドシェイクの通信によって再度送信可能化がされることもないというべきである。 したがって、この観点からも、上記ハンドシェイクの通信が本件動画を送信可能化する通信であると認めることはできない。 以上によれば、上記ハンドシェイクの通信に係る本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとは認められないというべきである。 3 結論 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信日時頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス 以上 (別紙著作物目録省略) (別紙動画目録省略) |
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