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【事件名】投稿画像の改変事件
【年月日】令和5年10月26日
 大阪地裁 令和5年(ワ)第4054号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年9月1日)

判決
原告 P1
被告 P2
同訴訟代理人弁護士 服部啓一郎
同 深澤諭史


主文
1 被告は、原告に対し、20万円及びこれに対する令和3年10月10日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和3年10月10日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告の後記本件投稿が原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害し、原告の名誉を毀損する又は原告の業務を妨害する不法行為(民法709条)であるとして、損害賠償金として合計330万円及びこれに対する不法行為の日(令和3年10月10日)から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。〕により容易に認定できる事実)
(1)原告による本件作品の製作
 原告は、後記本件投稿に先立ち、令和3年9月22日、別紙作品目録記載の写真3点(以下、総称して「本件作品」といい、個別には上から順に「本件作品1」などという。)を製作した。(甲7)
(2)被告による本件投稿
 被告は、令和3年10月10日、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる短文のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク。名称は当時のものであり、本判決はこれによる。)において、別紙投稿記事目録記載の記事を投稿した(以下「本件投稿」という。)。
 本件投稿は、画像部分(@本件作品の被写体である人物(以下「本件モデル」という。)がツイッター上に本件作品の画像を投稿したもののスクリーンショット(以下「本件スクリーンショット」、A本件作品1、B同3に手書き風の白線等を付した画像をタイル状に並列したもの。以下、総称して「被告投稿画像」という。)及び文(【代/行】「彼岸花をとても潰してる...!」)で構成されている。(甲1)
(3)原告による行為者の特定
 原告は、本件投稿に関し、裁判所に対する発信者情報開示請求の各手続(東京地方裁判所令和3年第22189号仮処分命令申立事件、東京地方裁判所令和4年第9828号発信者情報開示請求事件、知的財産高等裁判所令和4年第10092号同控訴事件。以下、総称して「本件各開示手続」という。)、回線契約者からの情報提供を経て、本件投稿の主体が被告であると特定した。(甲2ないし5)
(4)被告は、本件作品について、原告が著作権を有すること(本件作品が創作性を有し、著作権の対象となること。)を争わない。また、本件投稿が複製権及び公衆送信権の侵害に外形的に当たることも争わない。
(5)本件作品及び本件投稿における氏名表示等
 本件作品には、蝶のイラストを「(省略)」の英文字で囲んだウォーターマーク(以下「本件ウォーターマーク」という。)が付されている。
 被告投稿画像においては、原告の実名の表示はなく、本件ウォーターマークが切り取られ、又は、縮小され判読困難となっている。
2 争点
(1)本件投稿において、原告の氏名表示がされているか(争点1・請求原因)
(2)本件投稿(被告投稿画像の掲載)の氏名表示に関し、原告の承諾があったといえるか(争点2・氏名表示権侵害の抗弁)
(3)被告投稿画像中、本件作品1、同3に白線等を付したことが、本件作品の「やむを得ない」改変かどうか(争点3・同一性保持権侵害の抗弁)
(4)本件投稿(被告投稿画像の掲載)が著作権法32条1項の「引用」に当たるか(争点4・複製権、公衆送信権侵害の抗弁)
(5)本件投稿が著作権法41条の「時事の事件の報道のための利用」に当たるか(争点5・複製権、公衆送信権侵害の抗弁)
(6)本件投稿が、原告の名誉を毀損し、又は業務を妨害するものかどうか(争点6・請求原因)
(7)本件投稿が、原告の名誉を毀損する場合、違法性が阻却されるか(争点7・名誉毀損の抗弁)
(8)原告の被った損害(争点8・請求原因)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件投稿において、原告の氏名表示がされているか)について
【原告の主張】
 正式な原告のウォーターマーク(著作者名表記)は「(省略)」(本件ウォーターマーク)であるが、被告は、被告投稿画像に本件ウォーターマークを表示しておらず、著作者である原告の氏名表示をしていない。
 本件スクリーンショットには原告のツイッターアカウント名「(省略)」)の前半部分「(省略)」の表示があるのは、本件モデルが原告から許諾を受けてツイッターに本件作品を投稿した際に原告の上記ツイッターアカウント名をタグ付けし、タグ付けされた表記の一部を含めて被告がスクリーンショットした結果であり、これをもって、原告の氏名が表示されたとはいえない。
【被告の主張】
 被告投稿画像には、原告が写真家として用いる名称「(省略)」が表示されているから、本件投稿において、原告の氏名は表示されている。
2 争点2(本件投稿(被告投稿画像の掲載)の氏名表示に関し、原告の承諾があったといえるか)について
【被告の主張】
 被告が本件投稿に利用したスクリーンショットの元となる投稿(本件モデルの投稿)には原告の氏名は表示されていなかった。そうすると、原告は、原告の氏名を表示しない形式で本件モデルが投稿することに承諾していたといえるから、同様の形式でされた本件投稿が、本件作品に係る原告の氏名表示権を侵害することはない。
【原告の主張】
 被告の主張を否認し争う。
 原告が、被告に対し、氏名表示に関する何らかの承諾をすることはない。
3 争点3(被告投稿画像中、本件作品1、同3に白線等を付したことが、本件作品の「やむを得ない」改変かどうか)について
【被告の主張】
 被告投稿画像に用いられた本件作品1、同3の一部には、わずかに白い線が引かれているが、本件モデルが彼岸花を潰しているとの批評等にあたって、対象部分を明確にするために必要最小限度の範囲で引いた線である。上記線引きは、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないもの(著作権法20条2項4号参照)である。
【原告の主張】
 被告の主張を否認し争う。
 被告投稿画像における改変は、原告の主観的な意図に反する形で行われた改変であり、やむを得ないものとはいえない。
4 争点4(本件投稿(被告投稿画像の掲載)が著作権法32条1項の「引用」に当たるか)について
【被告の主張】
 被告投稿画像は、本件作品のオリジナルデータではなく本件モデルの投稿を転載したものである。なお、原告は、自ら無料でインターネット上に本件作品を公開していた。
 また、本件投稿の目的は、本件モデルが彼岸花を潰していることを「報道」又は「批評」することにあり、このようなSNS上の論評・批評は表現の自由として保護されるべきであり、当該目的のために本件作品全体を掲載する手法をとることは、必要かつ相当であった。
 加えて、本件投稿においては、投稿日時や「作者」等が明らかとなっており、原告が意図した形式で本件作品が掲載されているといえる。
 以上によれば、被告投稿画像は、本件投稿の他の部分と明瞭に区別することができ、論評のために必要な範囲で引用されたものであるといえるから、本件投稿は、著作権法32条1項の「引用」に当たる。
【原告の主張】
 被告の主張を否認し争う。
 本件モデルは、原告から許可を受けた上で令和3年9月26日に本件作品をツイッター上に投稿し、同年10月10日に削除した。被告は、本件モデルによる上記投稿によって掲載された本件作品をスクリーンショットしてツイッターに投稿したが、上記モデルによる投稿削除後も、ツイッター上への被告投稿画像の掲載を継続しており、「引用」の要件を欠くというべきである。
 また、本件投稿全体をみると、本件作品を複製した被告投稿画像が量的質的に投稿の主たる部分を構成しており、「公正な慣行に合致する」引用であるとはいえず、「報道…その他引用の目的上正当な範囲で行われ」たものともいえない。
5 争点5(本件投稿が著作権法41条の「時事の事件の報道のための利用」に当たるか)について
【被告の主張】
 本件投稿は、本件モデルが公園内の彼岸花を踏み潰すかのような態様で撮影された本件作品を原告がSNSで公表したとの事実を公衆に伝達するものである。公園内の彼岸花は貴重な鑑賞物であるから、上記撮影及び公表の事実は、一般公衆において大きな関心を集めるものといえるから、「時事の事件」に該当する。
 また、著作権法41条は「報道」の主体を限定していないから、被告による本件投稿は「時事の事件」に関する「報道」に当たる。
 そして、本件投稿による写真の掲載は、必要かつ正当な範囲で上記報道に伴って利用したものであることからすれば、本件投稿は、著作権法41条の「時事の事件の報道のための利用」に当たる。
【原告の主張】
 被告の主張を否認し争う。
 本件投稿は、「時事の事件」を報道するものではない。仮に、「時事の事件」の報道であったとしても、被告は、事前に取材等をするなどして事実確認をすることなくツイッターに投稿しているのであり、「報道の目的上正当な範囲内において」本件作品を利用したとはいえない。
6 争点6(本件投稿が、原告の名誉を毀損し、又は業務を妨害するものかどうか)について
【原告の主張】
(1)原告の名誉を毀損するものであること
 本件投稿は、インターネット上で運営されるツイッターにおいて、本件作品を原告に無断で転載した上、本件モデルが彼岸花を踏んで潰しているとの内容を摘示したものであり、「事実の摘示」に該当する。
 このように、本件投稿は、公然と事実を摘示したものであり、その摘示内容からすれば、原告の社会的評価を低下させる内容であることは明らかである。なお、実際に、本件投稿を閲覧した者の中には、上記摘示内容を真実であると誤信して、原告の撮影手法等を批判する内容の投稿(リツイート)をした者も存在する。
 以上のとおり、本件投稿によって、原告の名誉は毀損された。
(2)原告の業務を妨害するものであること
 原告は、フリーランスの写真家(個人事業主)であり、@本件作品をフォトグラファーの展示及び写真集に採用することやASNSを利用したマーケティングにおける宣伝活動の一環とすること、Bフォトコンテストの入賞作品として発表する予定をしていた。しかし、本件投稿により、@については、ロケーションを改めた再撮影を余儀なくされ、Aについては、本件作品を上記マーケティングにおける宣伝活動に使用できなくなり、Bについては、写真を差し替えて発表せざるを得なくなった。
 このように、原告は、本件投稿により、その業務を妨害された。
【被告の主張】
 否認し、争う。
 被告が本件投稿において投稿したのは、「彼岸花をとても潰している」との一文と被告投稿画像のみであり、彼岸花を潰すことが違法であることや無許可撮影であったことを指摘するような内容は投稿していない。また、彼岸花を潰していたのは本件モデルである。
 したがって、本件投稿は、原告の社会的評価が低下するものではなく、原告の名誉を毀損するものではない。
7 争点7(本件投稿が、原告の名誉を毀損する場合、違法性が阻却されるか)について
【被告の主張】
 仮に、本件投稿により原告の社会的評価が低下したとしても、原告は、入賞歴やフォロワー数3000名以上の認知度を有するカメラマンであり、本件作品の撮影時の態様や方法は社会の正当な関心事である上、本件投稿の目的は報道・批評であって公益目的であり、本件モデルが彼岸花を潰しているのは真実である。
 また、本件モデルが彼岸花を潰していなかったとしても、一般人において、本件モデルの投稿写真をもってそのように判断することは困難であるから、被告が彼岸花を潰していると信じたことには相当な根拠がある。
 よって、本件投稿が原告の名誉を毀損するものであったとしても、違法性が阻却される。
 【原告の主張】
 被告の主張を否認ないし争う。
 原告は有名人ではなく、本件作品の撮影態様が社会の正当な関心事であるとはいえない。また、被告は、事実確認や取材を行っておらず、本件投稿の目的が公益目的であるとはいえない。
8 争点8(原告の被った損害)について
【原告の主張】
(1)慰謝料
 被告の本件投稿により原告は精神的苦痛を被っており、これを慰謝するに足りる金員は300万円を下らない。
(2)発信者情報開示手続費用
 原告は、前記前提事実の仮処分申立て及び発信者情報開示請求(本件各開示手続)をするにあたり、調査費用として30万円を支出した。これは、本件投稿と相当因果関係のある損害である。
【被告の主張】
 いずれも否認ないし争う。
第4 判断
1 争点1(本件投稿において、原告の氏名表示がされているか)について
 前記前提事実(第2の1(5))のとおり、被告投稿画像には、原告の実名の表示はなく、また、原告の著作者名として本件作品に付されていた本件ウォーターマークが切り取られている(本件作品2)、又は、縮小表示されて判読不明となっている(本件作品1及び本件作品3)。
 また、本件スクリーンショットには、画像以外の部分に原告のツイッターアカウント名の一部である「(省略)」との表示があるが(甲1)、氏名表示権とは「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利」(著作権法19条1項)をいい、「変名」とはその著作者が著作者名として用いる名称で実名以外のものと解されるところ、上記「(省略)」の表示は原告のツイッターアカウント名の一部であって原告が著作者名 として用いたものではなく、この表示をもって原告の氏名表示がされたとはいえない。
 以上によれば、本件投稿において、原告の氏名表示がされていると認めることはできない。
2 争点2(本件投稿(被告投稿画像の掲載)の氏名表示に関し、原告の承諾があったといえるか)について
 本件記録上、本件モデルの投稿において原告の氏名表示がされていなかった事実を認めるに足りる証拠はない上、原告の本件モデルに対する氏名表示に関する承諾は、原告の被告に対する承諾とは関係がない。
 よって、被告の主張は失当である。
3 争点3(被告投稿画像中、本件作品1、同3に白線等を付したことが、本件作品の「やむを得ない」改変かどうか)について
 本件作品は写真であり、本件作品の批評対象を明確にする方法として本件作品に白線等を付す以外に別途文字で説明するなどの方法も容易に考えられる上、付された白線も少なくないことから、被告が白線等を付した行為を著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると認めることはできない。
 よって、被告の主張を採用することはできない。
4 争点4(本件投稿(被告投稿画像の掲載)が著作権法32条1項の「引用」に当たるか)について
 他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要である(著作権法32条1項後段)。
  前記前提事実(第2の1(2))及び証拠(甲1)によれば、本件投稿は本件作品を転載した被告投稿画像(具体的には、本件作品が掲載されたスクリーンショット並びに本件作品1及び本件作品3の各転載画像)及び本件作品に対する被告の感想ないし批評を記載した文「【代/行】彼岸花をとても潰してる...!」から構成されていることが認められるところ、本件投稿は、本件作品に対する被告の感想ないし批評を述べる目的で本件作品を引用したこと自体は否定できないが、本件投稿の大部分は被告投稿画像が占め、上記文は極めて短い文である。そうすると、本件投稿の閲覧者において、本件投稿を見れば本件作品の全体を把握できるようになるものといえ、上記目的との関係において、本件投稿における本件作品の引用の方法ないし態様が社会通念上合理的な範囲内のものであるということはできない。
 よって、被告の主張を採用することはできない。
5 争点5(本件投稿が著作権法41条の「時事の事件の報道のための利用」に当たるか)について
 「時事の事件」(著作権法41条)とは、現時又は近時に起こった社会的な意義のある事件・出来事であると解されるところ、本件作品は写真家である原告が公園内において彼岸花を背景に本件モデルを撮影したというものであって、その際、公園内の植生に影響があったかどうかといったことについても、同条の「時事の事件」には該当しない。また、本件投稿は、上記4のとおり、被告の一方的な感想ないし批評であるから、同条の「報道」に該当するということもできない。
 よって、被告の主張を採用することはできない。
6 争点6(本件投稿が、原告の名誉を毀損し、又は業務を妨害するものかどうか)について
(1)名誉毀損について
 本件投稿は、被告投稿画像とこれを批評する「彼岸花をとても潰してる」との文を内容とするものであるから、本件モデルが彼岸花を踏んでいるとの事実を摘示するものといえる。そして、本件投稿は、不特定多数の者が閲覧でき、閲覧者は、本件作品の撮影者が彼岸花を踏む態様の撮影手法を採用する者であると認識するのが自然である(現に、本件投稿をリツイートするなどして複数の閲覧者が原告の撮影手法を批判する内容を投稿した(甲19、28)。)。
 以上によれば、本件投稿は、本件作品の撮影者である原告の社会的評価を客観的に低下させる行為と認められる。
(2)業務妨害について
 証拠(甲9ないし11、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、写真家として活動する個人事業主であること、ツイッター上に自らの撮影写真を掲載していた事実、本件作品を展示及び写真集に採用することや宣伝活動の一環とし、コンテストの入賞作品として発表する予定であった事実、本件投稿後にこれらの予定をいずれも断念した事実、がそれぞれ認められる。しかしながら、本件投稿の内容は、上記のとおり、原告の氏名を表示することなく被告投稿画像と共に短文の感想ないし批評を掲載したものであるから、本件投稿をもって直ちに原告が上記予定をいずれも断念せざるを得なくなる状況に至ったと評価することはできない。
 よって、本件投稿が原告主張の業務の妨害と客観的な関係があるとまではいえないが、少なくとも主観的には影響を受けており、このこと自体は無理からぬところであって、後述のとおり、損害額を検討するに当たり原告主張の事情も考慮すべきものと解される。
7 争点7(本件投稿が、原告の名誉を毀損する場合、違法性が阻却されるか)について
 被告は、本件投稿により原告の社会的評価が低下したとしても、原告の本件作品の撮影時の態様や方法は社会の正当な関心事であること、本件投稿の目的は公益目的であること、真実を摘示したことなどから、本件投稿について違法性が阻却されると主張する。
 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事項に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときであっても、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。
 証拠(甲11)によれば、原告がツイッターにおいてフォロワー3424名を有し、コンテストの入賞歴を有する写真家であった事実は認められるが、この事実をもって原告による撮影行為が「公共の利害に関する事項」に該当するとはいえない。また、被告による本件投稿の目的は、本件作品の感想又は批評の被告なりの表明にあり、「その目的が専ら公益を図ることにあった」ともいえない。また、真実を摘示したことについての的確な立証もない。
 よって、被告の上記主張を採用することはできず、本件投稿について違法性が阻却されると認めることはできない。
8 争点8(原告の被った損害)について
(1)慰謝料
 本件投稿は、上記のとおり、不特定多数の者が閲覧可能なツイッターにおける投稿であり、その内容は本件作品を正当な目的を欠いて公衆送信しつつ、撮影手法に対する批判的な感想ないし批評及び本件作品を改変するものであり、改変の程度も小さいものとはいえない。また、本件投稿は、約6か月にわたり存在し(甲6、18)、他の閲覧者による本件作品等に対する批判的な投稿などの契機となっており、生じた結果も軽視できない。実際、原告は、本件作品を写真展や写真集への採用や宣伝活動への利用等を予定していたが、本件投稿後、これらを断念して再撮影等を行うこととなった(弁論の全趣旨)。これらの事情に加え、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件投稿により原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の各侵害、並びに、名誉毀損により受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は20万円と認めるのが相当である。
(2)発信者情報開示手続費用
 原告は、本件各開示手続の調査費用として30万円を要したと主張するが、本件記録上、これを認めるに足りる証拠はない。
(3)したがって、本件投稿により原告の被った損害は慰謝料20万円となる。
第5 結論
 以上によれば、原告の請求は主文第1項の限度で理由があり、その余は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松阿彌隆
 裁判官 島田美喜子
 裁判官 峯健一郎


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別紙投稿記事目録省略
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