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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AK
【年月日】令和5年10月24日
 東京地裁 令和4年(ワ)第18912号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年8月23日)

判決
原告 株式会社ホットエンターテイメント
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下、同目録11記載の動画を「本件動画1」、同目録16記載の動画を「本件動画2」といい、これらを併せて、「本件各動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件各動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件各動画に係る原告の著作権(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下、同目録11記載のIPアドレス等により特定される発信者を「本件発信者1」、同目録16記載のIPアドレス等により特定される発信者を「本件発信者2」といい、これらを併せて、「本件各発信者」という。また、本件各発信者に係る発信者情報を併せて、「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)当事者等
ア 原告は、映像の企画、製作、販売等を目的とする株式会社であり、また、本件各動画の著作権を有する(甲2、10、11)。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、また、本件発信者情報を保有している。
(2)「BitTorrent」の仕組み等
 「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆるP2P形式のネットワークである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際には、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。
 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、これを自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降は、ピースのアップロードのみを行うこととなる。
 ビットトレントネットワークには匿名性はないため、ユーザがトラッカーにアクセスすると、そのIPアドレスはトラッカーの管理者に把握される。(以上につき、甲4、5、7)
(3)原告による本件各動画のビットトレント上のアップロード調査
 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件各動画に係るファイルのアップロードの有無につき調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「μtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードしているユーザにおいて、別紙発信者情報目録記載の各日時に同記載の各IPアドレスが使用されていることを報告した(甲1の9、1の13、2の11、2の16、4〜6、8の2、8の4、9の2、9の4)。
2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
(1)権利侵害の明白性
 本件調査会社は、本件調査において、ビットトレントの開発会社の管理に係る本件クライアントソフトを使用した。本件クライアントソフトは、ダウンロードするファイルを検索し、ビットトレントを使用しているピアの情報を表示する機能を有しているため、本件クライアントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIPアドレスを解明することが可能となる。
 本件調査会社は、調査対象となる本件各動画のファイルをインターネット上で検索してトレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動し、上記トレントファイルから本件クライアントソフト上で対象となるデータのダウンロードを開始した。これにより、本件各動画のピースを保有するピア(本件各発信者)が接続しているIPアドレス、接続日時等が特定された。
 このような本件調査の結果により、本件各発信者は、ビットトレントのクライアントソフトがインストールされたパソコンにおいて、当該ソフトによりビットトレントを通じて自己が取得した本件各動画のファイルを、他のユーザの求めに応じて自動的に送信状態に設定することができるフォルダに記録し、このパソコンを、上記クライアントソフトにより、ビットトレントのネットワークに接続して、本件各動画を送信可能化したといえる。
 したがって、本件各発信者の行為により原告の本件各動画に係る著作権(送信可能化権)が侵害されたことは明らかである。
(2)本件クライアントソフトの技術的信用性について
 本件クライアントソフトは、ビットトレントを開発した企業が管理する、ビットトレントを利用し易くするためのソフトウェアであり、いわば開発会社が自ら開発したソフトウェアを利用し易いように作ったソフトウェアである。また、そもそも、ビットトレントはIPアドレスを匿名にしていないことに特徴があるソフトウェアであるから、本件クライアントソフトにより確認されたIPアドレスの正確性に問題はない。
 侵害対象物と本件各動画の同一性については、原告は、本件調査において、本件クライアントソフトによりビットトレントを利用して、本件各発信者がアップロードしたファイルを取得しており、疑念はない。
 したがって、本件クライアントソフトが本件認定要件(後記)による認定を受けたソフトウェアではないとしても、本件調査には十分な信用性がある。
(3)本件クライアントソフトの画面の表示について
 本件調査の様子をスクリーンショットした画像からは、画面上に表示されたピアが当該表示時刻において対象となるファイルをダウンロード中であることを読み取ることができないとの指摘については、本件クライアントソフトの仕組み上、画面の下側の欄に表示されるのは本件調査会社が取得を希望するトレントファイルを取得可能な者である。この欄にIPアドレスが表示される以上、当該IPアドレスが表示された者はネットワークに接続しており、かつ、ビットトレントを利用してビットトレントの利用者からファイルをダウンロードできる状態になっている。この欄に表示されるフラグは、あくまで本件調査会社がファイルを取得しようとしているピアの状況を示すものであり、本件調査会社がファイルをダウンロードできているか否かとは必ずしも関係しない。また、ダウンロードが行われている場合でも本件クライアントソフトの画面上では「上り速度」、「下り速度」が表示されないことはあるから、これらの表示がないことはファイルをダウンロードできていないことを意味するものではない。
 本件クライアントソフトの下側の欄に複数のピアが表示される点については、そもそも、ビットトレントは、従来の通信と異なり、ファイルの共有者・アップロード者の負荷を分散させることによりダウンロード速度を早くすることに特徴があり、複数のピアが表示されるのは、複数のピアから並列的に情報を取得していることを意味しているに過ぎない。
(被告の主張)
(1)否認ないし争う。
(2)本件クライアントソフトの技術的信用性の欠如
 P2P型ファイル交換ソフトによる権利侵害情報検出システムが技術的に信用できるか否かに関する合理的な基準としては、「P2P型ファイル交換ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」(乙1)記載の要件(以下「本件認定要件」)という。があるのみであり、他に適切な基準は存在しない。したがって、権利侵害情報の検出方法が技術的に信用できることを認定するには、本件認定要件によるべきである。
 しかるに、本件クライアントソフトは、ネットワークから利用者が指定するファイルをダウンロードする機能や、ダウンロード時に発信元ノード(ユーザのPC等)のIPアドレス、ポート番号、ファイルハッシュ値、ファイルサイズ、ダウンロード完了時刻等(以下「メタデータ」という。)を自動的にデータベースに記録する機能を備えておらず、また、メタデータが正確に記録されることにつき十分な確認試験が行われていることや、調査時点で発信元ノードがファイルを送信可能状態にしている場合のみ当該ファイルをダウンロードするシステムであることといった本件認定要件を備えていない。
 したがって、本件クライアントソフトによる調査は、P2P型ファイル交換ソフトによる権利侵害情報の検出方法として技術的に信用できるものではない。
(3)本件クライアントソフトの画面の表示について
ア 本件クライアントソフトの下側の欄にIPアドレスが表示されているからといって、直ちにファイルを公衆送信ないし送信可能化しているということにはならない。すなわち,当該「IP」が、いかなる「フラグ」の状況で、ファイルを何「%」保有していて、「上り速度」によってアップロードしていることが画面上で読み取れなければ、当該「IP」がファイルを公衆送信ないし送信可能化していることにはならない。
イ 本件発信者1のIPアドレスのフラグは、「IHXP」、すなわち、ピアが着信接続しているだけの状態であり(「I」)、現在アップロード中(U)の状態であるとは表示しておらず、また、当該IPがアップロードしていることを示す「上り速度」も表示されていない。さらに、ピアがDHTネットワークを介して取得され(「H」)、ピアエクスチェンジを通じて取得したピアリストに含まれていて(「X」)、ピアがuTorrentuTPプロトコルを使用していること(「P」)が表示されているが、これは、表示された当該時刻においてピアがアップロード中であることを示しているわけではない。また、上の段の「HEZ−050」において、本件調査会社がダウンロード中であることを示す「下り速度」も表示されていない。
ウ 本件発信者2のIPアドレスのフラグは、「HXE」、すなわち、ピアがDHTネットワークを介して取得され(「H」)、ピアエクスチェンジを通じて取得したピアリストに含まれていて(「X」)、ピアがプロトコル暗号化を使用している(「E」)という状態であることを表示しているだけであり、現在アップロード中(U)の状態であるとは表示していない。また、当該IPがアップロードしていることを示す「上り速度」も表示されていない。
 さらに、上の段の「EQ−465」において、本件調査会社がダウンロード中であることを示す「下り速度」も表示されていない。仮に、本件調査会社がダウンロード中であると仮定しても、下の段には3つのIPが存在しており、いずれのIPからダウンロードしているかは不明である。
エ したがって、本件調査時に表示された時刻に本件調査会社が本件各発信者からファイルをダウンロード中であるとはいえず、本件各発信者がファイルをアップロードしているとはいえない以上、本件各発信者が本件各動画を送信可能化していたとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1)証拠(甲1の9、1の13、2の11、2の16、3の11、3の16、4〜6、8、9、13〜15、17、19、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査の内容は、以下のとおりであることが認められる。
ア 本件調査会社は、原告が著作権を有する本件各動画の作品番号やタイトルを聴取し、ウェブサイトにおいて本件各動画に係るトレントファイルを検索し、本件各動画に係るトレントファイルが存在することを確認した。
イ 本件調査会社は、本件クライアントソフトを起動して端末にダウンロードしたトレントファイルに基づき、本件クライアントソフト上で本件各動画に係るピースを有するピアから当該ピースをダウンロードすると共に、当該ダウンロード中に当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、スクリーンショットして保存した。また、この際、ダウンロードされたファイルに係る動画と本件各動画とを見比べて、前者が後者を複製したものであることを確認した。
ウ 本件調査の際の本件動画1に係るスクリーンショット(甲1の9)には,別紙発信者情報目録11記載の「日時」欄記載の日時と、本件調査会社の使用する端末が本件動画1(品番:HEZ−050)のファイル(ピース)をダウンロード中であること及びそのダウンロード先のピアのIPアドレスとして、本件発信者1に係るIPアドレスが表示されている。
 また、本件動画2に係るスクリーンショット(甲1の13)には、別紙発信者情報目録16記載の「日時」欄記載の日時と、本件調査会社の使用する端末が本件動画2(品番:EQ−465)のファイル(ピース)をダウンロード中であること及びそのダウンロード先のピアのIPアドレスとして、本件発信者2に係るIPアドレス(以下、本件発信者1に係るIPアドレスと併せて,「本件各IPアドレス」という。)が表示されている。
(2)ビットトレントは、本件クライアントソフトのようなクライアントソフトがダウンロードされた端末(ピア)間において一つのファイルを断片化したピースのダウンロードが始まると、完全に当該ピースのダウンロードがされる前からダウンロードした分のピースのアップロードも始まり、一つのファイルのピース全てのダウンロードが終了したピアは、アップロードのみを行うことになるという仕組みを有する。
 本件では、本件調査会社が本件クライアントソフトを利用して本件各動画のファイルに係るピースを有するピアから当該ピースのダウンロードを開始したところ、本件クライアントソフトにより、当該ピアについて、本件各IPアドレスを割り当てられたユーザであるとの表示がされた。このことから、本件各動画に係るピースは、本件各IPアドレスが割り当てられたユーザ(本件各発信者)によりアップロードされたものと認められる。
 そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件各発信者により、公衆からの求めに応じて送信可能な状態に置かれたということができる。すなわち、本件各発信者は、本件各動画に係るデータを送信可能化したものであり、これにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)。
(3)被告の主張について
ア 被告は、本件クライアントソフトは本件認定要件を備えるものでないことなどから、本件調査には技術的信用性が認められない旨や、本件調査の様子をスクリーンショットした画面の表示内容からは当該IPアドレスを割り当てられた本件各発信者が対象となるファイルを送信可能化していたとはいえない旨を主張する。
イ しかし、本件クライアントソフトは、ユーザがビットトレントを利用し易くするために開発され、BitTorrent,Inc.の開発者チームにより維持・管理されているクライアントソフトであること(甲17)に加え、ビットトレントネットワークには匿名性がなく、トラッカーサーバにアクセスした者のIPアドレスはトラッカーの管理者に把握されるという特徴があること(前記前提事実(2))に鑑みると、本件調査会社が本件クライアントソフトを利用してファイルをダウンロードする際に表示されたピアのIPアドレスは、当該ファイルを保有しアップロード可能な状態に置いた発信者のIPアドレスを正確に表示しているものといえる。
 また、本件調査会社は、本件クライアントソフトを起動して端末にダウンロードしたトレントファイルに基づき、本件クライアントソフト上で本件各動画に係るピースを有するピアから当該ピースをダウンロードした上、当該ダウンロード中に当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、表示日時と共にスクリーンショットして保存したこと(前記1(1)イ)から、これらの情報は正確に記録されたものというべきであり、自動的に記録されていなかったことから直ちにその正確性に疑義を生じさせるものではない。
 さらに、本件クライアントソフトは、その仕様上、下段の欄には、特定のファイルを保有しアップロード可能な状態に置いた発信者のIPアドレスが表示される仕組みのものである(上記イ)。このことに加え、本件調査の様子をスクリーンショットした画面の上段の欄には当該ファイルを「ダウンロード中」との表示がある(甲1の9、1の13)。また、被告の指摘を踏まえて本件調査会社において作成された検証動画(甲19)において、本件クライアントソフトの画面上では、ファイルのダウンロードがされている場合でも「上り速度」、「下り速度」が表示されないことがあることが確認されている。さらに、本件調査会社は、実際に、ファイルのダウンロード中にピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、これをスクリーンショットすると共に、ダウンロードされたファイルに係る動画と本件各動画とを見比べて、前者が後者を複製したものであることを確認している(前記(1)イ)。これらの事情を踏まえると、上記スクリーンショットを行った時点のピアの状態の表示として、アップロード中であることを示す表示(「U」)がなく、また、上り速度や下り速度の表示がなかったとしても、そのことから直ちに、本件各発信者が本件各動画に係るデータをアップロードしていなかったとまではいえない。
 その他被告が縷々指摘する事情を踏まえても、本件調査の際の画面表示の内容をもって調査結果の信用性に疑義があるとまではいえない。
ウ 以上より、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 その他の要件について
 前記前提事実及び上記認定を踏まえれば、被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、原告の著作権侵害に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であり、かつ、本件発信者情報を保有していることが認められる。
 また、上記1のとおり、本件各動画は本件各発信者により送信可能化されたことが認められることから、原告には、本件各発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使をするため、本件各発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があると認められる。
3 小括
 以上より、原告は、被告に対し、本件各発信者に係る本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 吉野弘子


(別紙侵害著作物目録省略)

別紙 発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
 (以下省略)
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/