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【事件名】エディオンへの発信者情報開示請求事件
【年月日】令和5年10月19日
 大阪地裁 令和5年(ワ)第3263号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年9月11日)

判決
原告 株式会社MBM代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 株式会社エディオン代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 梶谷祐介
同 脇怜花
同 佳波千夏


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がファイル共有プロトコルであるBitTorrentを利用したネットワーク(以下、総称して「ビットトレント」という。)を介して、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるなどとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示請求をする事案である。
2 前提事実(争いのない事実及び証拠(枝番号があるものは、特に明示する場合を除き各枝番号を含む。以下同じ。)により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は、本件動画についての著作権を有する株式会社である(甲2、18、弁論の全趣旨)
イ 被告は、一般利用者に向けてインターネット接続サービスを提供している株式会社であり、法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する(弁論の全趣旨)。
(2)ビットトレントの仕組み(甲4ないし6、9、弁論の全趣旨)
 ビットトレントは、いわゆるP2P方式のファイル共有プロトコル及びそのネットワークであり、その概要や利用の手順は、次のとおりである。
ア ビットトレントを通じて特定のファイル(以下「目的ファイル」という。)をダウンロードしようとするユーザーは、ファイルをダウンロードするための「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスし、目的ファイルの所在等の情報が記録された「トレントファイル」をダウンロードする。
イ ユーザーは、当該トレントファイルをクライアントソフトに読み込ませることにより、「トラッカー」と呼ばれるサーバと接続し、目的ファイルの全部又は一部を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザー(以下、データをやりとりする相手となるユーザーを「ピア」という。)と接続した上で、ピアが保有する、目的ファイルが分割されたもの(以下「ピース」という。)をダウンロードする。
ウ ユーザーは、ダウンロードした目的ファイル(ピース)について、自動的にピアとしてトラッカーに登録される仕組みになっており、目的ファイルについて他のユーザーからの要求があれば、目的ファイル(ピース)を提供しなければならないことから、ユーザーは、目的ファイルをダウンロードすると同時に不特定多数の者に対するアップロードが可能な状態に置かれることになる。
エ ユーザーは、複数のピアと接続してピースを取得し、完全な状態の目的ファイルを復元する。
(3)原告による調査(甲1、弁論の全趣旨)
 原告は、本件訴えの提起に先立って、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画に係る著作権侵害についての調査(以下「本件調査」という。)を依頼した。
 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の日時頃、同記載のIPアドレスの割当てを受けた本件発信者が本件動画を複製したファイル(甲8。以下「本件ファイル」という。)のダウンロード及びアップロードを行っていたことを報告した。
(4)被告による本件発信者情報の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
 本件の争点は、本件動画に係る原告の著作権が侵害されたことが明らかであるといえるかである。
第3 争点に関する当事者の主張
【原告の主張】
1(1)本件調査会社は、ビットトレントの開発会社が管理をしているソフトウェア「μTorrent」(以下「本件ソフト」という。)を使用して、ビットトレントを利用した著作権侵害の有無を調査している。
 本件ソフトを使用した通常の調査方法は次のとおりである。
ア 映像メーカーから著作権侵害の調査を行うことについて許諾を受けた対象作品の品番やその他の情報を確認する。
イ 対象作品をインデックスサイトで検索し、パソコンにトレントファイルをダウンロードする。
ウ 本件ソフトを起動し、トレントファイルから、対象作品を複製したファイルのダウンロードを開始する。
エ パソコンの画面上で同ダウンロードに係る通信先のユーザーのIPアドレスを確認する。この際、当該ファイルを開いて、アの対象作品(正規品)との見比べを行う。
オ 取得したIPアドレスからプロバイダを特定する。
(2)本件調査会社は、前記通常の調査方法に従って、本件ソフトを使用して機械的に調査を行った結果、本件発信者が本件ファイルをダウンロード及びアップロードしていることを把握し、本件動画と本件ファイルとの同一性を確認した上で、本件発信者が割当てを受けたIPアドレスを取得している。
 したがって、本件調査に恣意が介在する可能性はなく、本件ファイルはビットトレントを利用して取得されたものであるといえる。
2 以上から、本件発信者は、ビットトレントを利用して本件ファイルを他のビットトレントのユーザーとの間で送受信することにより、本件動画を送信可能化し、自動公衆送信させたと評価できるから、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるといえる。
【被告の主張】
1 本件調査会社が本件ソフトを使用して把握した違法にアップロードされたファイルと本件ファイルが同一であり、本件ファイルがビットトレントを介して取得されたものであるかが明らかでない。
 また、ビットトレントにおいて、ファイルを送信する側は、自らがファイルをアップロードしていることを認識していないことが多く、本件発信者においてもこのことを認識していたかが明らかでない。したがって、本件発信者に故意又は過失があるとはいえない。
2 以上から、原告の著作権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(原告の著作権が侵害されたことが明らかであるといえるか)について
(1)前提事実並びに証拠(甲1、4、5、9)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 本件調査会社は、インデックスサイトにおいて、本件動画の品番等を検索して、本件動画と同一であることが疑われるファイルに対応するトレントファイルをダウンロードし、本件ソフトに当該トレントファイルを読み込ませ、本件ファイルのダウンロードを開始した。本件調査会社は、その際、本件ソフトの実行画面により、当該ダウンロードをしている接続先のピアを確認して、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けた端末が本件ファイルに係るピースをダウンロードすると同時にアップロードしていることを把握し、本件ファイルを再生して、表示される映像が本件動画と同一であることを確認した。
 したがって、本件ファイルはビットトレントを介して取得されたものであるといえ、これに反する被告の主張は理由がない。
(2)以上によれば、別紙発信者情報目録記載の日時において、同記載のIPアドレスの割当てを受けた端末により、本件ファイルが自動公衆送信されたと認められるところ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものである。
(3)被告は、本件発信者に故意又は過失があるとはいえない旨を主張する。
 しかし、原告において発信者の主観に属する故意又は過失を立証する必要はないと解されるから、被告の主張は採用することはできない。
(4)以上に加え、本件の全証拠によっても、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情は見当たらないことからすると、本件発信者が本件動画を自動公衆送信したことにより、特定電気通信による情報の流通によって本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。
2 正当な理由
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定していることが認められる。したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
第5 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松阿彌隆
 裁判官 島田美喜子
 裁判官 峯健一郎


(別紙)発信者情報目録
 以下の時間に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
 日時 令和4年(2022年)7月7日11時23分12秒
 IPアドレス (省略)
 ポート番号 (省略)
 以上

(別紙著作物目録−省略)
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