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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件AG
【年月日】令和5年9月29日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70194号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年7月31日)

判決
原告 グラフィティジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 山本一生


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告が著作権を有する別紙動画目録記載の作品(以下「本件動画」という。)を複製して作成した電子データ(以下「本件複製ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とするとともに、本件複製ファイルを公衆送信したことによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求等のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
ア 原告は、アダルトビデオの企画、制作及び販売を主な業務とする株式会社である。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件動画の著作物性
 本件動画は、著作権法2条1項1号の「著作物」である。
(3)ビットトレントの仕組み(甲4ないし6、9)
ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル又はこれを利用するためのソフトウェアであって、ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。
 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースに係る情報などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。
イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする利用者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。
 ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有するピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。
(4)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲1の35、1の40、1の41、5、9)
 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の品番等に基づいて、本件動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した。
 本件調査会社は、ビットトレントクライアントソフトウェアである「μTorrent」(以下「本件ソフト」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、本件ソフトの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のタスクバーに表示された時刻及び時刻表示ソフトウェアを用いて画面の右上に表示させた時刻とともに、スクリーンショットにより保存した(以下、同スクリーンショットにより保存された画像(甲1の35、1の40、1の41)を「本件各スクリーンショット」という。)。
 本件調査会社は、ダウンロードした上記動画ファイルを再生し、本件動画と比較して、その同一性を確認した。
(5)本件発信者情報の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)本件各氏名不詳者により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件各氏名不詳者により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
(1)原告が本件動画の著作権を有していることについて
 原告代表者は、原告の従業員に本件動画の制作を指示し、同従業員に本件動画を撮影させたものであり、また、本件動画は原告名義で公表されているから、著作権法15条1項により、職務著作として本件動画の著作者は原告とされ、原告にその著作権が帰属する。
(2)本件調査会社の調査結果の信用性について
 本件調査会社の調査結果には、次のとおり信用性が認められる。
ア 本件複製ファイルをアップロードした端末に割り当てられていたIPアドレスの正確性について
 本件ソフトは、ビットトレントをより効率的に利用するためのソフトウェアであって、違法アップロードをした者(以下「侵害者」という。)を特定することを目的として開発されたものではない。しかし、本件ソフトには、侵害者がファイルをダウンロードしつつ、同ファイルをアップロードしている状態を監視することができる機能が備わっており、侵害者のIPアドレスを解明することができる仕組みとなっている。
 本件調査会社は、トレントファイルをダウンロードした上、本件ソフト上にて対象ファイルのダウンロードを開始して、侵害者が対象ファイルをアップロードしていることが判明した場合に、侵害者のIPアドレスを把握し、実際にダウンロードしたファイルを開いて被侵害動画と比較して、その同一性を確認するという方法により、侵害者のIPアドレスを特定している。
 本件においても同様の方法で調査が実施されており、本件各氏名不詳者が本件複製ファイルを不特定多数の者からの求めに応じてダウンロードできる状態にしていた際に割り当てられたIPアドレスに係る調査結果の正確性に疑義はない。
イ 本件複製ファイルをアップロードした時刻の正確性について
 本件各スクリーンショットは、本件調査会社が、本件ソフトを利用して、本件各氏名不詳者から本件複製ファイルをダウンロードしている状況を撮影したものであるところ、本件各スクリーンショットの右上に記載の時刻は、時刻表示ソフトウェアである「TVClock」というアプリケーションを用いて表示させているものである。
 また、本件調査会社の担当者は、本件ソフトを起動しているパソコンの時刻と、それを遠隔操作しているパソコンの時刻を見比べ、一致していることを確認してから本件各スクリーンショットを作成している。
 したがって、本件各氏名不詳者が本件複製ファイルをアップロードした時刻に係る調査結果の正確性に疑義はない。
ウ 小括
 よって、本件各氏名不詳者は、別紙発信者情報目録記載の日時において、本件動画を自動公衆送信又は送信可能化したといえる。
(3)違法性阻却事由がないことについて
 本件各氏名不詳者が本件動画を自動公衆送信又は送信可能化したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
(4)小括
 以上によれば、本件各氏名不詳者により、別紙発信者情報目録記載の日時において、本件動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
(被告の主張)
(1)本件動画の著作権が原告に帰属することの立証がされていないことについて
 本件においては、原告と本件動画を作成した者との関係、当該作成者が原告の指揮命令下において労務を提供しているか否か、当該作成者に対して支払う金銭が労務提供の対価であるかどうか等に照らして、当該作成者が原告の業務に従事する者であると認められること及び当該作成者が職務上本件著作物を作成したと認められることにつき、客観的な証拠が提出されていないから、本件動画が職務著作によるものであるか不明である。
(2)本件調査会社の調査結果の信用性について
 本件調査会社は本件ソフトの開発者ではなく、また、ビットトレントネットワークにおいてファイルをダウンロードしてアップロード可能な状態に置いた端末のIPアドレスの特定に関する専門技術者によって別紙発信者情報目録記載のIPアドレス等が特定されたのか否かも不明である。
 また、別紙発信者情報目録記載の日時についても、その正確性を担保するためのタイムゾーン設定画面のスクリーンショット画像等の客観的な証拠が示されておらず、同日時が正確であることの立証はされていない。
 したがって、本件調査会社の調査結果に信用性があるとはいえず、本件各氏名不詳者が、別紙発信者情報目録記載の日時において、本件動画を送信可能化した又は自動公衆送信したとはいえない。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(原告の主張)
 原告は、本件各氏名不詳者に対し不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があり、正当な理由があるといえる。
(被告の主張)
 事実については不知であり、法的主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件各氏名不詳者により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)本件動画に係る著作権の帰属について
 証拠(甲2の35、2の40、2の41、26)によれば、本件動画は、原告の決定に基づいて、原告代表者が自ら又は原告の従業員に指示して企画制作したものであること、本件動画は、原告の名義が制作者としてパッケージに記載された状態で販売されていることが認められる。
 したがって、本件動画は、「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」であり、原告の「著作の名義の下に公表」されたものといえる(著作権法15条1項)から、本件動画に係る著作権は原告に帰属すると認められる。
(2)本件調査会社の調査結果の信用性について
ア 前提事実(4)のとおり、本件調査会社は、本件複製ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした上、本件ソフトに同トレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、実際にダウンロードした動画ファイルを再生し、本件動画と比較することにより、これらが同一の内容を有していることを確認したことが認められる。そして、本件全証拠によっても、このような本件調査会社による調査結果に特段の問題点は認められない。
 したがって、本件調査会社による調査結果には信用性が認められるというべきである。
イ 被告は、本件調査会社は本件ソフトの開発者ではなく、また、専門技術者によって別紙発信者情報目録記載のIPアドレス等が特定されたか否かも不明であると主張し、本件調査会社による調査の信用性を否定するが、仮にそのような事情があるとしても、これらの事情によって本件調査会社による調査結果の正確性を直ちに否定することはできない。
 また、被告は、原告主張に係る本件複製ファイルがアップロードされた時刻は正確に特定されたものではない旨主張するが、証拠(甲1の35、1の40、1の41、25)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各スクリーンショットに表示された時刻が、他のパソコンに表示された時刻と一致していることを確認した上、本件各氏名不詳者から本件複製ファイルをダウンロードしている場面をスクリーンショットで撮影したことが認められ、他に本件各スクリーンショットにおける時刻の表示の正確性を否定し得る証拠は存在しない。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用することができない。
(3)違法性阻却事由の不存在
 本件各氏名不詳者の行為について、違法性阻却事由が存在することは全くうかがわれない。
(4)小括
 以上によれば、別紙発信者情報目録記載の各日時において、同目録記載のIPアドレス等が割り当てられていた端末により、本件動画がそれぞれ自動公衆送信されたと認められるから、同端末を管理する本件各氏名不詳者によって、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかといえ(プロバイダ責任制限法5条1項1号)、本件発信者情報は、プロバイダ責任制限法5条1項柱書の規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に該当し、被告は、同項柱書の規定する「特定電気通信役務提供者」に該当する。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であることが認められる。
 したがって、原告には被告が保有する本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
3 結論
 以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 間明宏充
 裁判官 バヒスバラン薫


(別紙)発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
35 日時 令和4年(2022年)11月26日18時53分23秒
IPアドレス (IPアドレスは省略)
ポート番号 (ポート番号は省略)
40 日時 令和4年(2022年)12月2日11時45分24秒
IPアドレス (IPアドレスは省略)
ポート番号 (ポート番号は省略)
41 日時 令和4年(2022年)12月3日22時16分15秒
IPアドレス (IPアドレスは省略)
ポート番号 (ポート番号は省略)
 以上

(別紙動画目録―省略)
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