判例全文 | ||
【事件名】「ふみとやすおの歌」事件(2)B 【年月日】令和5年9月19日 知財高裁 令和5年(ネ)第10050号 損害賠償請求控訴事件 (原審・さいたま地裁熊谷支部令和4年(ワ)第323号) (口頭弁論終結日 令和5年8月8日) 判決 控訴人 X 被控訴人 日本テレビ放送網株式会社 同訴訟代理人弁護士 植村周平 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 本件訴えのうち、控訴人が本判決別紙記載の「ふみとやすおの歌」の著作権を有することの確認を求める部分を却下する。 3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。 4 なお、原判決中、原判決別紙1の「ふみとやすおの歌」が著作物であることの確認を求める部分を却下した部分は、控訴人の訴えの交換的変更により、失効している。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 控訴人が本判決別紙記載の「ふみとやすおの歌」の著作権を有することを確認する。 3 被控訴人は控訴人に対し、140万円及びこれに対する平成16年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、控訴人(原審原告。以下「原告」という。)が、被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)に対し、@本判決別紙記載の「ふみとやすおの歌」(以下「原告作品」という。)が著作物であることの確認を求めるとともに、A被告が、テレビ番組内において原告作品又はその実演を録音・録画したものを無断で放送等したことにより、主位的に著作権を侵害し、予備的に著作隣接権を侵害したと主張して、民法709条、著作権法114条3項に基づき、被告に対し、原告作品の使用料相当額9億7329万6000円及び消費税相当額6720万0480円のうち使用料相当額の一部である140万円及びこれに対する不法行為日から支払済みまで平成29年法律第44号附則17条3項の規定によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は、本件訴えのうち、原告作品が著作物であることの確認を求める部分を却下して、その余の請求を棄却した。 これに対し、原告が控訴した。原告は、当審において、本件訴えのうち原告作品が著作物であることの確認を求める部分を、前記第1の2項のとおり、原告が著作権を有することの確認を求めるものへと交換的に変更し、また、同3項のとおり、損害賠償請求についての遅延損害金の起算日を明らかにした。 2 争点及び争点に対する当事者の主張 以下のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決2頁7行目から15行目までを次のとおり改める。 「(1)確認の訴えの適法性(争点(1)) (原告の主張) 原告には、原告が原告作品の著作権を有することの確認を求める部分について確認の利益がある。 原判決は、原告作品の著作物性や、被告の番組において原告作品が演奏されているかを検証することなく即時確定の利益がないと判断しており、理由不備と法令解釈・適用の誤りがある。本件においては、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切である。そのためには、まずは原告作品の著作物性の認定が必要であり、被告製作・著作の番組において、原告作品が使用・演奏されているか検証することが必須である。 (被告の主張) 確認の訴えは、即時確定の利益がある場合、すなわち、現に原告の有する権利又は法的地位に危険又は不安が存在しこれを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるが、控訴審における変更後の請求についても即時確定の利益がないことは明らかであり、却下すべきである。 なお、被告は、原告作品が著作物であると認められた場合に、原告がその著作権を有することについて、積極的に争うものではない。」 (2)原判決2頁21行目の「9億」から同頁23行目末尾までを次のとおり改める。 「9億7329万6000円及び消費税相当額6720万0480円の一部請求として、損害賠償金140万円及びこれに対する平成16年12月28日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 原判決は、「被告の放送した番組の中には、「あたた」などと認識され得る音声が含まれているものもある(甲33、甲38)」と認定しながらも、各証拠のどの部分のものか具体的な記載がなく、どのような経緯で原告作品を再現したと認められないと判示したのか分からず理由不備がある。」 (3)原判決2頁26行目の末尾に「(争点(3))」を加える。 (4)原判決3頁3行目の「別紙1」を「原判決別紙1」と改める。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(確認の訴えの適法性)について 確認の訴えは、現に、原告の有する権利又はその法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切である場合に限り、許されるべきものと解される(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。 これを本件についてみると、原告は被告が原告の許諾なく原告作品を放送した旨主張し損害賠償を請求しているのに対し、被告は、もっぱら被告が原告作品を放送等した事実がないことを主張して争っており、仮に原告作品が著作物だとした場合に原告が著作権者となることについては、記録上、被告において積極的に争っていない。すなわち、本件では、被告が原告作品を放送等した事実の有無が紛争の中心になっており、当該事実の有無は、原告の損害賠償請求権の有無を判断するに当たり、前提として認定・判断されることになる。そして、後記のとおり、本件において、当該事実は認められず、弁論の全趣旨によれば、被告において将来原告作品を放映する予定もないことが認められる以上、原告と被告との間において、原告作品の著作権者を確認することについて即時確定の利益があるとは認められない。 したがって、本件訴えのうち、原告が原告作品の著作権を有することの確認を求める部分は不適法であるから却下する。 2 争点(2)(被告は原告作品を放送したか)について (1)当裁判所も、被告が原告作品を使用した事実は認められないと判断する。その理由は、後記(2)のとおり補正するほか、原判決4頁14行目から同頁20行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。 (2)原判決の補正 ア 原判決15行目の「被告作成の」を「被告製作・著作の」と改める。 イ 原判決4頁20行目末尾に改行の上、次のとおり加える。 「また、原告は、レコード製作者の権利又は実演家の権利が侵害された旨の主張もしており、原告が撮影した、原告及びAが原告作品を歌唱している動画(甲5)が、原告作品を固定したレコード(著作権法2条1項5号)に当たり、また、上記歌唱が原告らによる実演(同項3号)に当たると主張しているものと解されるところ、被告の番組において、上記実演を録画した動画(甲5)が使用されたことを認めるに足りる証拠がない。 原告が、被告に無断で使用されたと主張する部分は、原告作品のうち「あたたーて」の歌詞に相当する部分であるが、仮に、被告が放送したり、DVDとして販売するなどした番組内において、対比表(甲56)記載のとおりに演奏等がされていたとしても、いずれも、原告作品をそのまま再現しているものではなく、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものではないから、同対比表を踏まえても、被告が放送等した番組において、原告作品が使用されたと認めることはできない。 なお、「あたたーて」の5文字は、文字数が少なく、誰もが偶然に発することが十分あり得る程度のものであって、一見して何らかの思想又は感情を表現したものとは認めがたいものである上、原告の主張によれば「あなたはだあれ」の趣旨で幼児が発したものであるというのであるから、他の幼児が原告作品に依拠することなく同じ文字列を発する可能性が高い。また、「あたたーて」の部分に相当する原告作品の旋律及びリズムについても、1小節以内の非常に短いものであって、偶然に同様の旋律やリズムを発することもあり得る程度のものと認められる。そうすると、仮に、被告の放送等する番組において、出演者等によって「あたたーて」と発せられたり、原告作品の「あたたーて」の部分における旋律及びリズムと同じ旋律やリズムが用いられたとしても、これをもって、直ちに原告作品に係る著作権が侵害されたと認めることは困難であるというほかはない。 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。」 3 結論 以上の次第で、原判決中、原告の著作権侵害及び著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、当審における交換的変更に係る原告が原告作品の著作権を有することの確認を求める訴えは不適法であるからこれを却下することとし、原判決のうち、原告作品が著作物であることの確認を求める請求に係る部分は、原告の当審における訴えの交換的変更により失効しているから、その旨を明らかにすることとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水響 裁判官 浅井憲 裁判官 勝又来未子 別紙 |
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