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【事件名】広域高速ネット二九六への発信者情報開示請求事件
【年月日】令和5年8月31日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70294号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年7月6日)

判決
原告 株式会社ホットエンターテイメント
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 株式会社広域高速ネット二九六
同訴訟代理人弁護士 土居範行


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファイル共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を送信可能化及び公衆送信したことによって、本件動画に係る原告の送信可能化権及び公衆送信権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、映像等のデジタルコンテンツの企画、制作等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)
イ 被告は、本件発信者情報を保有しており、プロバイダ責任制限法2条7号の開示関係役務提供者に該当する。
(2)本件動画に係る著作権の帰属
 原告は、本件動画の著作権者である。(甲2、18、弁論の全趣旨)
(3)BitTorrentの仕組み(甲4ないし6、9、弁論の全趣旨)
 BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワークであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。
ア BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、まず、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードする。
 そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentクライアントソフトに読み込ませることにより、トラッカーサイトに接続し、当該ファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルをダウンロードする。なお、ダウンロード中のユーザー(まだ完全な状態のファイルを復元できていない者)は、「リーチャー」と呼ばれる。
イ ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、ピア(データをやり取りするコンピュータをいう。以下同じ。)としてトラッカーサイトに登録され、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(分割されたファイル〔以下「ピース」という。〕を含む。)を提供しなければならないため、ダウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる。すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、当該ファイルについて同時にアップロード可能な状態に置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態になっている。
ウ ユーザーは、ピースの取得を続け、完全な状態のファイルを復元すると、「シーダー」と呼ばれ、シーダーになると、アップロードのみを行うようになる。
(4)原告による著作権侵害調査の概要(甲1、4ないし6、弁論の全趣旨)
ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画に係る著作権侵害についての調査(以下「本件調査」という。)を依頼した。
イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けた発信者(本件発信者)が本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)を、不特定多数のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしていたことを報告した。
第3 当事者の主張
 被告は、答弁書を提出し、権利侵害があったことについては否認する旨反論したものの、被告が否認した事実を立証できるだけの証拠を有していないとして、その余の立証活動は行わず、裁判所の判断に委ねるとし、仮に権利侵害があったと認められる場合には、正当な理由があることを認める旨主張した。
 なお、被告の上記主張を踏まえ、原告もその他に主張立証はないと述べたため、第1回口頭弁論期日において、弁論が終結された。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実、証拠(甲1、4ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査につき、次の事実が認められる。
(1)μtorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つであり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロード及びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特定した上で、当該IPアドレスとともに、当該ユーザーが当該ファイルをアップロードする際の上り速度や、ダウンロードする際の下り速度、ダウンロード量及びアップロード量等を画面上に表示するという機能を有している。
(2)本件調査会社は、μtorrentを起動し、本件動画に係るトレントファイルをμtorrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通じて、本件ファイルのダウンロードを行った。
 そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、μtorrentの上記機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTorrentを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザーの存否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けたユーザーが、本件ファイルに係るピースをダウンロードすると同時にアップロードしていることを確認した。
2 権利侵害の明白性
 前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び上記認定事実によれば、本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードして、当該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrentを通じて自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時において、ダウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる本件調査会社の端末に、本件ファイルのピースを実際にダウンロードさせたことが認められる。
 これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時において本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したものと認めるのが相当である。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
 したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。
3 正当な理由
 前記第3によれば、権利侵害の明白性が認められた場合には、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることについて、争いはない。
4 小括
 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。
第5 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 古賀千尋
 裁判官 尾池悠子


別紙 発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
日時 令和4年(2022年)12月9日14時18分57秒
IPアドレス(省略)
ポート番号(省略)

(別紙著作物目録省略)
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