判例全文 line
line
【事件名】“関ケ原検定事業”事件
【年月日】令和5年8月30日
 東京地裁 令和4年(ワ)第70145号 著作権侵害(不法行為)による請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年7月19日)

判決
原告 A
被告 B
被告 C
被告 D
被告ら3名訴訟代理人弁護士 池田智洋


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実
第1 請求
1 被告らは、別紙原告著作物目録記載のデザインを複製し、頒布してはならない。
2 被告らは、別紙原告著作物目録記載のデザインを使用したすべてのコピー物品を廃棄せよ。
3 被告らは、別紙商標権目録記載の商標や呼称を使用した商品の販売に関する情報の提供、書類の複製、文書または電磁テープのファイリング、コンピュータデータベースへの情報編集、セミナー・検定事業の企画、書籍の制作、興行の企画・運営または開催、教育研修のための施設の提供、検定試験の企画・運営、検定試験の実施を行うことを禁ずる。
4 被告らは、被告らが侵害したインターネットのホームページ上で本件著作権を原告が所有することを公表せよ。
5 被告らは、原告に対し、347万4000円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 仮執行宣言
第2 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1)ア 原告は、別紙原告著作物目録記載の各著作物(以下「本件各著作物」という。)を単独で創作し、著作権を取得した。
イ 原告は、別紙商標権目録記載の商標権(以下、同商標権に係る商標を「本件各商標」という。)を保有している。
(2)被告らは、関ケ原検定を実施するにあたり、令和2年12月から令和3年8月にかけて、別紙原告著作物目録記載1の著作物については、ジャンパーにおいてそのまま使用し、別紙原告著作物目録記載2の著作物については、別紙被告の改変部分記載1のとおりの追記をしてポスターを作成して大垣城等の公共施設に掲載し、別紙原告著作物目録記載3の著作物については、別紙被告の改変部分記載2のとおりの追記をして募集要項を作成して配布し、別紙原告著作物目録記載4の著作物については、別紙被告の改変部分記載3のとおりの改変をした上で合格証書を作成し、別紙原告著作物目録記載5の合格カードについては、そのまま複製して配布し、受験生を募集するホームページにも原告の著作物を掲載し、これらによって、原告の著作物を複製し原告の複製権を侵害した。
 また、被告らは本件各商標を前記ポスター、募集要項、合格証書及び別紙原告著作物目録記載5のデザインの合格カードに記載して使用した。
(3)ア 原告は、前記の被告の行為により、次の損害を被った。
(ア)別紙原告著作物目録記載1の著作物について61万4000円(慰謝料10万円を含む。)
(イ)別紙原告著作物目録記載2の著作物について63万6000円(慰謝料10万円を含む。)
(ウ)別紙原告著作物目録記載3の著作物について42万7000円(慰謝料7万円を含む。)
(エ)別紙原告著作物目録記載4の著作物について26万4000円(慰謝料4万円を含む。)
(オ)別紙原告著作物目録記載5の著作物について26万4000円(慰謝料4万円を含む。)
イ(ア) 別紙商標権目録記載1の商標について21万9000円(慰謝料4万円を含む。)
(イ)別紙商標権目録記載2の商標について35万円(慰謝料6万円を含む。)
(ウ)別紙商標権目録記載3の商標について35万円(慰謝料6万円を含む。)
(エ)別紙商標権目録記載4の商標について35万円(慰謝料6万円を含む。)
(4)被告らは、現在も前記(2)に係る物品の在庫を相当数有していると推測されるため、請求の趣旨1項から3項記載のとおりの差止め及び被告らに在庫の廃棄をさせる必要がある。また、請求の趣旨4項記載の名誉回復措置を執る必要性もある。
(5)よって、原告は、被告らに対して、
ア 著作権法112条1項、2項に基づき、本件著作物の複製、頒布の差止め及び同著作物を複製した物品の廃棄(請求の趣旨1項、2項)を、商標法36条1項に基づき、本件商標を使用する役務の提供の差止め(請求の趣旨3項)を請求し、
イ 著作権法115条に基づき名誉回復措置を執ることを請求し(請求の趣旨4項)
ウ 不法行為に基づき347万4000円を請求(請求の趣旨5項)する。
2 請求原因に対する認否
(1)ア 請求原因(1)アは否認する。別紙原告著作物目録記載の各デザインは、関ケ原町が企画した関ケ原検定の実施に当たって、被告bを含む関ケ原町の職員が原告と共同でデザインしたものであり、仮に著作物性が認められても関ケ原町と原告の共同著作物となる。
イ 請求原因(1)イについて、本件請求原因では、別紙商標権目録記載2、3、4の各商標については商標登録以前の行為が問題とされており、商標権侵害が成立する余地はない。
(2)請求原因(2)について、別紙原告著作物目録記載1のデザインのスタッフジャンパーについては、関ケ原町が原告から購入して着用した。同目録記載2から5のデザインについて、関ケ原検定の運営に当たり、ポスター、申込書、合格証書、賞状、合格カードとして使用したことは認める。ただし、本件著作物創作の経緯からしても、原告はこれらのデザインが関ケ原検定のために使用されることを許諾していた。また、ポスター、募集要項、合格証書及び合格カードに付されている標章は、本件商標と同一ではない。
(3)請求原因(3)は、否認ないし争う。
(4)請求原因(4)は、否認ないし争う。関ケ原町は、原告からの申し入れを受けて、関ケ原検定の事業を中止することとし、関ケ原検定は令和3年7月15日以降実施されておらず、同日以後、原告著作物目録記載のデザインが付されたものはいずれも使用していない。
(5)争う。
3 被告の主張
(1)被告B(以下「被告b」という。)は、岐阜県不破郡関ケ原町が運営する関ケ原町歴史民俗学習館の館長であり、関ケ原町の公務員である。被告C(以下「被告c」という。)は、関ケ原町役場の地域振興課の係長を務める関ケ原町の公務員である。被告D(以下「被告d」という。)は、関ケ原町の町長である。
 請求原因(2)に記載の各行為は、関ケ原町が、関ケ原町の地域振興事業である関ケ原検定の広報及び実施の一環として実施したものであり、公権力の行使として行ったものである。
 よって、原告が問題とする行為は、関ケ原町が公権力の行使として実施したものであるから、被告ら個人が責任を負うことはない。
(2)本件著作物創作の経緯からすれば、原告は、関ケ原町に対し、原告が指摘するデザインが関ケ原検定のために使用されることを許諾していた。
4 被告の主張に対する認否
 争う。
理由
1 損害賠償の請求について
 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される(最高裁昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等)。
 本件で原告は、令和3年に関ケ原町で実施された関ケ原検定に関連して被告らが令和2年12月から令和3年8月にかけて行ったとする関ケ原検定のポスターや合格証書等(以下「本件ポスター等」という。)の作成、配布等を問題にしている。乙3から8及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原町は関ケ原町歴史民俗学習館を運営するところ、関ケ原検定は、関ケ原の戦いに関する知識等を問うもので、関ケ原町歴史民俗学習館内の関ケ原検定実行委員会名義で実施されたもので、関ケ原町歴史民俗学習館名義で検定合格を公認するなどした事業であり、関ケ原町が実施したもので、関ケ原の戦いに関する検定を行うことで関ケ原町がその広報として行ったという趣旨があるものといえる。そして、本件で原告が被告らの行為として主張する行為は、いずれも、関ケ原町が上記の関ケ原検定を実施するに際してされた行為であり、関ケ原町が公権力の行使としてしたものであると認められる。また、弁論の全趣旨によれば被告らは関ケ原町の公務員であることが認められる。
 そうすると、仮に、本件ポスター等の作成、配布等が原告の著作権や商標権を侵害して違法であり、これらの行為に被告らがかかわっていたとしても、関ケ原町のみが賠償の責めを負い、被告ら個人は損害賠償責任を負わない。
 よって、原告の損害賠償請求には理由がない。
2 差止め等の請求について
 弁論の全趣旨によれば、令和3年4月に関ケ原検定が実施されたところ、原告から、知的財産の侵害があるとの警告がされ、関ケ原町は、同年7月には、関ケ原検定事業を中止することとし、その後、関ケ原検定は実施されていない。このような状況のもとで、現時点において、関ケ原町において、本件で原告が自身の著作物であると主張する著作物や原告が有する商標等を利用する事業を行うおそれがあると認めるには足りない。
 そうすると、原告が被告らに対して関ケ原検定に関する行為の差止め等を求める必要性はなく、同請求は認められないというべきである。
3 名誉回復措置について
 本件で、原告は著作権法115条に基づく名誉回復等の措置を請求するが、同措置の前提となる著作者人格権侵害に関する主張はなく、同措置を命じる前提を欠くから、同請求には理由がない。
4 結論
 よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


(別紙原告著作物目録省略)
(別紙商標権目録省略)
(別紙被告の改変部分省略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/