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【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件M
【年月日】令和5年8月30日
 東京地裁 令和4年(ワ)第20707号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年7月5日)

判決
原告 株式会社ホットエンターテイメント
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 浦中裕孝
同 深沢篤嗣
同 金井優憲


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
 本件は,別紙動画目録記載の動画の著作権を有する原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBitTorrentを使用して当該動画の複製物を公衆送信し、又は動画の複製物が記録された端末をBitTorrentのネットワークに接続して送信可能化状態にしたことで、原告の著作権(公衆送信権又は送信可能化権)を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、上記侵害通信又は上記侵害に関連する通信を被告の提供するプロバイダを経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者について
 原告は、映像の企画、制作等を業とする株式会社である。(弁論の全趣旨)被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社であり(争いがない事実)、プロバイダ責任制限法2条3項の特定電気通信役務提供者に当たる。
(2)別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)について
 本件動画が収納され、販売されているDVDの外装(ジャケット)には、制作・著作として原告名が記載されている(甲2の1)。
(3)発信者情報の保有について(争いがない事実)
 被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)を保有している。
(4)BitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)の概要等について(甲4から7の2まで)
 ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファイルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目的のファイル(ファイル全部のみならず、ピースと呼ばれるファイルの一部も含む場合もある。以下同じ。)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うものである。ファイルのデータをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッカー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供して当該他のピアにファイルをダウンロードさせることになる。
 なお、ユーザーは、分割されたファイルのデータを複数のピアから取得するが、クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なファイルに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
(5)原告による調査(甲1の3、4から6まで)
 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、「μTorrent」というクライアントソフト(以下「本件ソフト」という。)を用いて調査した(以下、この調査を「本件調査」という。)。本件調査の際、本件ソフト上には、本件動画のファイルをアップロード及びダウンロードしていたとされるピア(以下「本件発信者」という。)がしたとされる通信(以下「本件通信」という。)の日時及びその際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスが表示された(以下、この結果を「本件調査結果」という。)。
2 争点
 本件の争点は、以下の各点である。
(1)情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるか否か(争点1)
(2)本件各発信者情報が情報の流通による原告の権利の侵害に係る発信者情報に当たるか否か(争点2)
(3)原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否か(争点3)
3 争点に対する当事者の主張
(1)情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるか否か(争点1)について
(原告の主張)
ア ビットトレントの仕組みによれば、ビットトレントのクライアントソフトウェアがダウンロードされている端末がインターネットに接続され、当該端末が他の利用者からファイルのデータを受信している間は、同時に、公衆である他の利用者からの求めに応じて当該端末は自動的に他の利用者の端末へファイルのデータを送信している。そして、本件発信者は、ビットトレントを利用して他のビットトレントの利用者と本件動画を送受信しており、このことで、本件動画は送信可能化状態にされ、かつ、自動公衆送信されているから、本件発信者は、原告の公衆送信権又は送信可能化権を侵害していることは明らかである。また、本件発信者は、少なくともビットトレントを利用して原告の著作物を違法に複製して自己のパソコン等にダウンロードしたものであるから、複製権を侵害していることも明らかである。
イ 被告は、原告が著作者であるとはいえない旨主張するが、本件動画が収納されているDVDの外装(ジャケット)には、原告の第三者認証機関によって割り当てられた会員番号が明記されているところ、当該会員番号は著作権者の保護等を目的としてされたものであり、実名に代えて用いられるものとして周知のものといえるから、著作権法14条により原告が著作権者であるといえる。
 また、被告は、本件調査の際、本件ソフト上に表示された本件調査結果中の「上り速度」欄又は「下り速度」欄に表示がないピアが存在することをもって、本件調査会社が本件動画をダウンロードされているか不明であり、ピアが送信可能化状態であったか不明である旨主張するが、本件調査結果中のピアにかかる表示がされない場合であっても、本件調査会社の本件動画の保有率の数字は上昇しており、本件調査会社がダウンロードできており、当該ピアはダウンロードが可能な状態であったことは明らかである。
 さらに、被告は、本件発信者がビットトレントの仕組みを理解しないまま使用している可能性があり、著作権侵害について故意又は過失があるとはいえない旨主張する。しかしながら、ビットトレントの利用者は、ビットトレントのファイルを分割した部分を利用者間で共有し、インターネットを通じてこれを相互にアップロード可能な状態に置くことにより、ネットワークを通じて十分かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になることを十分に理解した上で、これを利用し、他の利用者と共同して、本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価できる。
ウ したがって、原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえる。
(被告の主張)
ア 原告は、本件動画の著作権者が原告であるとの立証をしていない。
 また、本件発信者は、本件調査の際、本件ソフト上に表示された本件調査結果中の「上り速度」欄又は「下り速度」欄に表示がなく、本件調査会社がダウンロードしたかどうかは明らかでなく、当該ピアからダウンロードが可能な状態になっていることが明らかとはいえない。
 加えて、プロバイダ責任制限法ガイドライン検討協議会(以下「ガイドライン検討協議会」という。)の定めるプロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン(以下「開示関係ガイドライン」という。)によれば、請求者が、発信者の故意又は過失により権利侵害が生じたことについて、根拠を示す資料を提出する必要があるとしている。この点、ビットトレントを利用してダウンロードしたファイルは、自動的に細分化されて他のビットトレントのユーザーによるダウンロードの対象となる仕組みとされているところ、本件発信者は、本件動画を主体的にアップロードする行為をしていないから、複雑なビットトレントの仕組みについて知らずに利用していた可能性があり、本件発信者がビットトレントの仕組みを知っていたことを示す証拠はない。そうすると、本件発信者の故意又は過失によって著作権の侵害行為をしたとはいえない。
イ したがって、原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(2)本件各発信者情報が情報の流通による原告の権利の侵害に係る発信者情報に当たるか否か(争点2)について
(原告の主張)
ア ビットトレントの仕組みからすれば、本件ソフトは、他の本件ソフトを利用して送信可能化状態になっている者を特定し、その者からダウンロードしているのであり、ピアとして表示されている者は、送信可能化状態にあり、かつ、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件動画のファイルのデータを送信している者である。
 また、ビットトレントはIPアドレスが表示されることにその特徴があり、本件ソフト上に表示されたIPアドレスは機械的に表示されたものであって、恣意性が介在する余地はなく、正確なものである。
 そして、本件通信の日時についても、秒の単位では特定していないが、ピアによるファイルのアップロード行為の特定には1分以上要するものであり、少なくとも特定した日時の00秒の時点において本件調査の担当者が本件ソフトを利用して当該行為を確認しており、本件調査結果は、本件発信者が現に自動公衆送信している場面を画像として残している。したがって、原告の本件通信の日時の特定方法は問題がない。実際、同様の調査方法によって意見照会をされた他の発信者とされる者から侵害の事実を認め、和解を希望する旨の連絡は多数来ている。これらの理由によれば、本件調査結果には十分な信用性がある。
この点、被告は、開示関係ガイドラインの記載を根拠に、ガイドライン検討協議会の認定するシステムを利用していないことをもって、本件調査結果に信頼性がない旨主張する。しかしながら、本件調査によって使用された本件ソフトは、ビットトレントを開発した企業が、管理するビットトレントを利用しやすくするために開発したソフトであり、IPアドレスを匿名にしていないことに特徴があるソフトウェアであるから、改ざんの可能性がない。
 したがって、被告の主張は採用できない。
イ そして、特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信…をいう」(プロバイダ責任制限法2条1号)とされるところ、著作権侵害の損害賠償の場合には、ここにいう「送信」には送信可能化や自動公衆送信も含まれるというべきである。また、プロバイダ責任制限法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは、権利を侵害したものとして問題となっている特定電気通信による情報に関する発信者情報をいうが、これは現実に発信した際に把握される発信者情報に限定されない。
 本件において、本件調査会社は本件ソフトを利用して送信可能化をしている本件発信者を特定し、本件発信者から現実に本件動画のファイルのデータをダウンロードしていることから、本件発信者は公衆送信権侵害をしたことは明らかであり、本件調査の結果、その取得元のIPアドレスが表示された。仮に、本件調査会社が現実に本件動画のファイルのデータを取得させた電気通信の送信のみが特定電気通信に該当するとしても、本件において、本件発信者が公衆送信権を侵害したことが明らかである。
ウ したがって、本件各発信者情報は、情報の流通による原告の権利の侵害に係る発信者情報に当たる。
(被告の主張)
ア 原告は、本件通信に係るIPアドレスを別紙発信者情報目録記載のIPアドレス欄のとおり特定している。しかし、開示関係ガイドラインによれば、ピアツーピア型ファイル交換ソフトにおける権利侵害事案においては、請求者においてIPアドレスやタイムスタンプ等を特定した方法が信頼できるものであることに関する技術的資料等を提出するものとされ、例外的にガイドライン検討協議会が認定したシステムである「P2PFINDER」(以下「認定システム」という。)を利用している場合にはそのような技術的資料等の提出を要しないとしている。そして、原告は、認定システムを利用しておらず、本件通信を特定した技術的資料を提出していないから、原告による本件通信のIPアドレスの特定方法が信頼できるものとはいえず、本件調査中に本件ソフト上に表示された数字が本件通信の際に用いられたIPアドレスであるとはいえない。また、原告は、本件通信に係る日時を別紙発信者情報目録記載の日時欄のとおりであると特定しているが、本件調査結果にはタイムスタンプ中に秒数の記載がなく、本件通信が当該時刻に行われた旨の立証はない。
イ なお、原告は、複製権侵害をも理由として本件発信者情報の開示を求めているが、複製権侵害とされるファイルのデータのダウンロードとトラッカーサイトへの登録とが同一の通信によってされたかどうかが明らかではなく、本件通信がされたとしても、それが複製権侵害に係る通信であるかどうかは不明である。そして、原告は、発信者情報開示請求の対象となる情報は直接の侵害情報に限られない旨主張するが、このような考え方は令和3年のプロバイダ責任制限法改正前の考え方であり、現行のプロバイダ責任制限法においては、同法5条2項及び3項に該当するものでない限り、発信者情報開示の対象とならない。
ウ したがって、本件各発信者情報が、情報の流通による原告の権利の侵害に係る発信者情報に当たるとはいえない。
 原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否か(争点3)について
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対し、権利侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等の準備をしており、そのためには、本件発信者に係る発信者情報が必要である。したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を求める正当な理由がある。
(被告の主張)
 争点2及び争点3で述べた事情からすれば、原告が本件発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえないから、原告に発信者情報の開示を求める正当な理由があるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるか否か(争点1)について
(1)前記第2の1(2)のとおり、本件動画が収納され、販売されているDVDの外装(ジャケット)には、「制作及び著作」をした者として原告の名称が記載されており、著作物の公衆への提供の際に原告の名称が著作者名として通常の方法により表示されていることからすれば、本件動画の著作者は原告であると推定され、これを覆す証拠はない。したがって、原告は、本件動画の著作権者であるといえる。
(2)前記第2の1(4)及び(5)で認定したビットトレントの仕組み及び本件調査の方法並びに証拠(甲1の1、4から7の2まで)によれば、本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウンロードし、ビットトレントの仕組みを考案した会社が開発したクライアントソフトである本件ソフトを起動して、本件ソフトを用いて、端末に読み込まれたトレントファイルにより、本件動画のデータのダウンロードを開始し、当該ダウンロード中、本件ソフトにより、画面上にビットトレントに接続して本件動画のファイルをアップロード及びダウンロードしている本件発信者がした通信に際して割り当てられたIPアドレス及びその日時を表示させ、その画面を画像として記録し、さらに、実際に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較し、ダウンロードしたファイルが本件動画のファイルと同一のものであることを確認する方法により、本件調査を行ったと認められる。このような本件調査の内容に格別不自然、不合理な点はなく、本件調査結果を信用することができ、本件調査結果からすれば、少なくとも、本件調査会社は、本件発信者から、本件動画のファイルのデータをダウンロードしたと認められるから、通信によって、本件発信者は原告が著作権を有する本件動画を自動公衆送信したといえる。
(3)被告は、本件調査結果において、本件発信者が本件ソフト上に表示された「上り速度」欄又は「下り速度」欄に表示がないピアであることを理由に、本件発信者が本件動画をアップロードできる状態であったかどうか立証されていない旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲16)によれば、本件ソフト上に表示されたピアについて上記表示がない場合であっても、本件調査会社がファイルのデータのダウンロードができていることからすれば、被告の上記指摘は前記の認定を左右しない。
(4)被告は、開示関係ガイドラインを根拠に、情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるといえるためには、発信者の故意又は過失により権利侵害が生じたことについて根拠を示す資料を提出する必要がある旨主張する。
 しかし、証拠(乙1)によれば、開示関係ガイドラインは、開示関係ガイドライン作成検討委員会の参加者によって作成されたもので、プロバイダがプロバイダ責任制限法5条の要件の判断を誤って発信者情報を開示してしまった場合に責任を問われることがあることに鑑み、同条の要件を確実に満たすと考えられる場合を可能な範囲で明確化したものとされている。このような開示関係ガイドラインの作成の目的等に照らせば、被告指摘の記載は、そもそも、訴訟における法律の解釈等を示したものとはいえず、被告の主張は採用できない。
(5)以上によれば、本件発信者は、通信によって、原告が著作権を有する本件動画を自動公衆送信したのであり、本件において権利制限事由その他の侵害を否定する事情があるとは認められない。そうすると、情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかである。
2 本件各発信者情報が情報の流通による原告の権利の侵害に係る発信者情報に当たるか否か(争点2)について
(1)前記1(2)で認定した本件調査の方法は、その調査結果の信用性に特段の疑問を生じさせるものではなく、また、本件全証拠によっても、その信用性に疑問を生じさせる事実も認められない。
(2)被告は、開示関係ガイドラインを根拠に、本件調査は認定システムを利用するものではなく、原告が別にIPアドレスやタイムスタンプ等を特定した方法が信頼できるものであることに関する技術的資料等を提出していないから、本件通信のIPアドレスの特定方法は信用できない旨主張する。
 しかしながら、開示関係ガイドラインの位置づけは上記1(4)の認定判断のとおりであって、開示関係ガイドラインの定める方法によらない調査方法が直ちに信用性を欠くことにはならない。そして、本件調査結果が信用できることは上記(1)で述べたとおりである。
(3)また、被告は、本件調査結果中にはタイムスタンプ中には秒の記載がなく、本件通信が原告の特定した時刻に行われた旨の立証はない旨主張する。
 本件ソフトにより記録された画面の画像では、その画像が記録された日時について、分の単位では表示されているが、秒の単位の表示はない(甲1の1)。
 しかしながら、証拠(甲9、16)によれば、本件調査会社がしている本件調査と同種の調査においては、調査対象となる動画ファイルの約21.3パーセントをダウンロードするのに約50分(甲9)、約2パーセントをダウンロードするのに約10分(甲16)かかるものであり、その間、ピアに割り当てられているものとして表示されたIPアドレスは一度も変化しておらず、前記(1)で述べたところからすれば、本件調査の際も同様であったと考えられる。そうすると、本件調査会社が画面を画像として記録した時点から1分前までの時点においても、本件調査会社の端末が本件動画を継続的にダウンロードしている間であったと認められるから、本件通信が行われた時間として原告が特定した日時である、画像に表示された分の00秒の時点において、本件発信者は、原告が特定したIPアドレスを使用して、公衆送信に係る通信を行っていたと認めることができる。
 そうすると、この点に関する被告の主張も採用できない。
(4)以上によれば、本件調査結果は信用できるところ、本件調査結果によれば、本件調査会社は、別紙発信者情報目録記載の日時に同目録記載のIPアドレスを割り当てられていた本件発信者から、その時点において、本件動画のファイルのデータのダウンロードを受けたと認められる。したがって、本件発信者は、本件通信によって、原告が著作権を有する本件動画を自動公衆送信したといえるから、本件発信者情報が情報の流通による原告の権利の侵害に係る発信者情報に当たるといえる。そして、本件発信者は、通信によって、原告が著作権を有する本件動画を自動公衆送信したのであり、本件において権利制限事由その他の侵害を否定する事情があるとは認められないから、原告は、「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示を請求する者の権利が侵害された」ことが明らかである。
3 原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否か(争点3)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そのためには、本件通信の発信者情報の開示が必要であるといえるから、原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
 被告は、原告が本件発信者に対して損害賠償請求できない旨を主張するが、前記のとおり、本件発信者が通信によって原告の権利を侵害したことは明らかであり、原告が本件発信者に対して損害賠償請求その他の請求をするためには発信者情報が必要であるといえるから、被告の主張は採用できない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史


(別紙)発信者情報目録
(省略)

(別紙)動画目録
(省略)
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