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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件R
【年月日】令和5年8月21日
 東京地裁 令和4年(ワ)第20994号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年6月12日)

判決
原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 ●(はしごたか)橋利昌
同 平出晋一
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙侵害著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件動画に係る原告の著作権(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)当事者等
ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売、インターネットを利用した情報の収集及び提供等を目的とする株式会社である。
 原告は、その発意に基づき、原告における職務の履行として、原告の業務に従事する者に対し、本件動画の企画、制作等を行わせ、また、本件動画のパッケージに制作当時の原告の商号を表示すると共に、第三者認証機関との対応も行い、自己の著作の名義の下に本件動画を公表した。(甲2の2、8、17、18)
 したがって、原告は、本件動画の著作者としてその著作権を有する。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、また、本件発信者情報を保有している。
(2)「BitTorrent」の仕組み等
 「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆるP2P形式のネットワークである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際には、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。
 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降は、ピースのアップロードのみを行うこととなる。(以上につき、甲4、5、7)
(3)原告による本件動画のビットトレント上のアップロード調査
 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件動画に係るファイルのアップロードの有無につき調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「μtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本件動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードしているユーザにおいて、別紙発信者情報目録記載の日時(以下「本件日時」という。)に同記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)が使用されていることを報告した(甲1の1、2の2、4〜6、9)。
2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
(1)権利侵害の明白性
 本件調査会社は、本件調査に際し、ビットトレントの開発会社によって管理されている本件クライアントソフトを使用した。本件クライアントソフトは、ダウンロードするファイルを検索し、ビットトレントを使用しているピアの情報を表示する機能を有している。そのため、本件クライアントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIPアドレスを解明することが可能となる。
 本件調査会社は、調査対象となる本件動画のファイルをインターネット上で検索してトレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動し、上記トレントファイルから本件クライアントソフト上で対象となるデータのダウンロードを開始した。これにより、本件動画のピースを保有するピア(以下「本件発信者」という。)が接続しているIPアドレス、接続日時等が特定された。
 このような本件調査の結果により、本件発信者は、ビットトレントを通じて自己が取得した本件動画のファイルの一部(ピース)をアップロード可能な状態に置くことにより、これとビットトレントを利用する他のユーザ(ピア)がアップロード可能な状態に置いたその余のファイル(ピース)とをダウンロードすることによって本件発信者以外のユーザが本件動画の完全なファイルをダウンロードすることを可能とさせており、本件動画を送信可能化したといえる。
 したがって、本件発信者の行為により原告の本件動画に係る著作権(送信可能化権)が侵害されたことは明らかである。
(2)本件IPアドレス等の特定の正確性について
 本件IPアドレス等の特定の正確性に問題はない。
 すなわち、本件ソフトウェアは、ビットトレントを管理する会社が管理するソフトウェアであり、かつ、ビットトレントを簡易に使用させるためのものであるから、その信用性は高い。本件調査会社は、これを機械的に利用してIPアドレスを特定しており、その特定にあたって恣意性が介在する余地はない。実際に本件調査会社が検証したところ、IPアドレスが変更されることは稀のようである。しかも、本件調査会社の調査員は、視認しながら調査を行っており、IPアドレスが変更された場合には、ポート番号が不明になるため別途作業をし直すことになる。その意味で、調査結果として提出されたものに関しては、IPアドレスの変更はなかったものである。
 また、IPアドレスの取得に際しては、本件調査会社は、本件クライアントソフトを起動しているパソコンの時刻とそれを遠隔で操作しているパソコンの時刻を本件調査会社の作業担当者が見比べた上で、一致していることを確認してからスクリーンショットの撮影を行っている。このため、本件調査の結果に係る時刻の正確性に問題はない。
(被告の主張)
(1)否認ないし争う。
(2)原告の主張に係る方法により特定されるIPアドレス及び日時の正確性は明らかでない。
 すなわち、原告は、日時について、パソコンの画面の時刻表示(分単位)を操作者において視認し、同時にスクリーンショットでそれを記録するような方法で特定している。しかし、これは、コンピュータのログやソフトにより日時を自動的に把握する方法とは大きく異なっており、正確に日時を把握し記録し得るものか疑問である。とりわけ、パソコンの時刻表示は実際の時刻と数分ずれたりすることがままあることが経験的に良く知られているが、本件では、時刻の正確性を担保する仕組みに関する説明は見当たらない。
 また、仮に時刻表示が正確であるとしても、パソコンの画面表示は分単位であるため、最大約1分の誤差がある。原告は、開示請求の対象とする発信者情報の日時を、当初は「令和4年6月9日14時07分00秒頃」とし、その後「頃」を削除したが、これは秒単位のデータが存在しないから「00秒」としたに過ぎない。
 被告は、本件IPアドレスを含むIPアドレスにつき、会員等に固有のものとして割り当てておらず、「動的」すなわち同じIPアドレスが時に応じて異なる会員等に割り当てられるように管理している。したがって、同じ「令和4年6月9日14時07分00秒」となる約60秒の間でも、同分00秒に本件IPアドレスを割り当てられていた会員が同分59秒には既に割り当てられておらず、別の会員に割り当てられている、といったことが起こり得る。このため、被告は、本件IPアドレス及び「令和4年6月9日14時07分00秒」を前提に、本件IPアドレスを上記日時に割り当てられていたIPアドレス使用者を特定し、その氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの情報を保存しているが、このIPアドレス使用者が、実際に原告が把握した本件IPアドレスを割り当てられていた者(本件動画のファイルを送信可能化した者と原告が主張する者)と一致するか否かは不明である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1)証拠(甲1の1、2の2、3の2、4〜6、9、20、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査の内容は、以下のとおりであることが認められる。
ア 本件調査会社は、原告が著作権を有する本件動画の作品番号やタイトルを聴取し、ウェブサイトにおいて本件動画に係るトレントファイルを検索し、本件動画に係るトレントファイルが存在することを確認した。
イ 本件調査会社は、本件クライアントソフトを起動して端末にダウンロードしたトレントファイルに基づき、本件クライアントソフト上で本件動画に係るピースを有するピアから当該ピースをダウンロードした。本件調査会社は、当該ダウンロード中に当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、スクリーンショットして保存した。また、この際、ダウンロードされたファイルに係る動画と本件動画とを見比べて、前者が後者を複製したものであることを確認した。
 なお、本件クライアントソフトにおいては、画面上ではIPアドレスは表示されるもののポート番号は表示されず、画面上のIPアドレスをコピー&ペーストするとポート番号が表示される仕組みとなっている。そのため、本件調査に当たっては、IPアドレス等の確認のため、IPアドレスのコピー&ペースト、取得元からのファイル(ピース)のダウンロード、それらの様子のスクリーンショット、という一連の作業を行うことになり、この作業には数分の時間を要する。その作業中にIPアドレスが変わり、コピー&ペーストされたIPアドレスとその後にスクリーンショットされたIPアドレスとが異なることはあるが、これらのIPアドレスが合致している場合には、作業中にIPアドレスが変わらなかったことを意味する。本件IPアドレスについては、これらが合致している。
 また、本件調査会社は、IPアドレスを確認した時刻を正確に記録するため、本件クライアントソフトを起動している端末の時刻表示とそれを遠隔で操作している端末の時刻表示を見比べ、一致していることを確認してから、本件クライアントソフトの画面をスクリーンショットしている。
ウ 本件調査に係るスクリーンショット(甲1の1)には、別紙発信者情報目録記載の「日時」欄記載の日時(ただし、上記スクリーンショットに「秒」の表示はない。)と、本件調査会社の使用する端末が本件動画(品番:crs−022)のファイル(ピース)をダウンロード中であること及びそのダウンロード先のピアのIPアドレスとして本件IPアドレスが表示されている。
(2)ビットトレントは、本件クライアントソフトのようなクライアントソフトがダウンロードされた端末(ピア)間において一つのファイルを断片化したピースのダウンロードが始まると、完全に当該ピースのダウンロードがされる前からダウンロードした分のピースのアップロードも始まり、一つのファイルのピース全てのダウンロードが終了したピアは、アップロードのみを行うことになるという仕組みを有する。
 本件では、本件調査会社が本件クライアントソフトを利用して本件動画のファイルに係るピースを有するピアから当該ピースのダウンロードを開始したところ、本件クライアントソフトにより、当該ピアについて、本件IPアドレスを割り当てられたユーザであるとの表示がされた。このことから、本件動画に係るピースは、本件IPアドレスが割り当てられたユーザ(本件発信者)によりアップロードされたものと認められる。
 そうすると、本件動画に係るファイル(ピース)は、本件発信者により、公衆からの求めに応じて送信可能な状態に置かれたということができる。すなわち、本件発信者は、本件動画に係るデータを送信可能化したものであり、これにより、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)。
(3)被告の主張について
 被告は、本件IPアドレス及び時刻の特定の正確性に疑義がある旨を主張する。
 しかし、一般論としてパソコン端末の時刻表示が正確でないことがあり得るとしても、本件において、本件クライアントソフトを起動していた端末やこれを遠隔操作していた端末の時刻表示がいずれも不正確であったことをうかがわせる具体的事情は見当たらない。むしろ、本件調査会社は、本件IPアドレスを確認した際の時刻を正確に記録するため、本件クライアントソフトを起動している端末の時刻表示とそれを遠隔で操作している端末の時刻表示が一致していることを確認した上で、スクリーンショットするという方法を取っており(前記(1)イ)、時刻を自動的に記録する仕組みが取られていないとしても、そこで確認された時刻の正確性は担保されていると見られる。
 また、被告は、その管理するIPアドレスを契約者固有のものとして固定的に割り当てるのではなく、時に応じて異なる契約者に割り当てていることから、一般論としては、1分間に同じIPアドレスが複数の者に割り当てられることはあり得る。しかし、本件調査会社は、IPアドレス等を確認する際、本件クライアントソフトを起動している端末上に表示されたIPアドレスをコピー&ペーストしてペーストした先に表示されるポート番号を確認し、ピースのダウンロード作業を進めた上で、その様子をスクリーンショットで撮影するという調査方法を取っているところ、この過程に要する数分間にIPアドレスが変わり得ることを前提として、コピー&ペーストされたIPアドレスとスクリーンショットされたIPアドレスの合致を確認しており、本件IPアドレスもその過程でIPアドレスの変更がなかったことが確認されている。
 以上によれば、本件IPアドレスを確認した際の時刻が分単位までしか記録されていないことを考慮しても、本件IPアドレスの特定の正確性に疑いがあるとはいえない。
 したがって、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
2 その他の要件について
 前記前提事実及び上記認定を踏まえれば、被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、原告の著作権侵害に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であると認められ、また、本件発信者情報を保有している。
 また、上記1のとおり、本件動画は本件発信者により送信可能化されたことが認められることから、原告には、本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使をするため、本件発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があると認められる。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 吉野弘子


(別紙侵害著作物目録省略)

別紙 発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
日時:(以下省略)
IPアドレス:(以下省略)
ポート番号:(以下省略)
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