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【事件名】漫画「ウチムスマザコン」事件(2) 【年月日】令和5年7月31日 知財高裁 令和4年(ネ)第10048号 著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第12803号 著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求事件(原審第1事件)、 同令和3年(ワ)第2271号 損害賠償請求事件(原審第2事件)) (口頭弁論終結日 令和5年5月15日) 判決 控訴人 X1(以下「控訴人X1’」という。) 控訴人 X2(以下「控訴人X2’」という。) 控訴人ら訴訟代理人弁護士 太田真也 被控訴人 Y 同訴訟代理人弁護士 安藤絵美子 主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について、複製、自動公衆送信及び送信可能化してはならない。 3 被控訴人は、原判決別紙被控訴人公開著作物目録記載1ないし4の各著作物をいずれも削除せよ。 4 被控訴人は、控訴人らに対し、353万9228円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被控訴人は、控訴人らに対し、150万円及びこれに対する令和3年2月17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 6 仮執行宣言 7 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 控訴人らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者であるとするところ、同サークルが企画したクラウドファンディングのプロジェクト(以下「本件企画」という。)のために、漫画家である被控訴人に対し、原判決別紙著作物目録記載1の著作物(以下「本件漫画1」といい、本件漫画1を含め、「ウチのムスコがマザコンになった理由」という題名で被控訴人が作成又は公開した漫画を「ウチムスマザコン」と総称する。)及び同記載2の著作物(以下「本件漫画2」といい、本件漫画1と併せて「本件各漫画」という。)などの作成を依頼し、被控訴人との間で、原稿作成依頼契約(以下「本件契約」という。)を締結したとする。 原審第1事件は、控訴人らが、被控訴人は、控訴人らと本件契約を締結するに当たり、控訴人らに対し、本件各漫画につき、著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたにもかかわらず、これに違反して、本件各漫画と同一の内容である原判決別紙被控訴人公開著作物目録記載の各著作物(以下「被控訴人公開著作物」と総称する。なお、被控訴人公開著作物の具体的な内容は、次に掲げる被控訴人公開著作物一覧(1)ないし(5)のとおりである。)を公開したと主張して、著作権法112条に基づき、本件各漫画の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びに被控訴人公開著作物1ないし4の削除を求めるとともに、被控訴人には、本件合意に違反して、被控訴人公開著作物をインターネット上のウェブサイト等において公開した行為による債務不履行のほか、本件企画に関して委託した業務に関し、次に掲げる本件各債務不履行一覧(1)ないし(8)の各債務不履行(以下、順に「本件債務不履行1」ないし「本件債務不履行8」といい、併せて「本件各債務不履行」という。)があると主張して、損害賠償金353万9228円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年8月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 (被控訴人公開著作物一覧) (1)被控訴人のブログに公開された、本件漫画1の末尾に収録されている4コマ漫画「ありし日の失敗」(被控訴人公開著作物1及び3) (2)被控訴人のブログに公開された、本件漫画1の末尾に収録されている4コマ漫画「ありし日の失敗2」(被控訴人公開著作物2) (3)インターネット上のサービスであるpixivに公開されたウチムスマザコン(被控訴人公開著作物4) (4)株式会社イースト・プレス(以下「イースト・プレス」という。)から発行されたウチムスマザコンの単行本(被控訴人公開著作物5) (5)被控訴人のツイッターアカウントに投稿された本件漫画2の一コマ(被控訴人公開著作物6) (本件各債務不履行一覧) (1)本件企画において発行する同人誌の原稿につき、依頼した内容と異なる原稿を提出したこと及び履行期限までに原稿を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行1) (2)本件漫画2につき、履行期限までに原稿及びネーム(下書き)を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行2) (3)本件漫画1につき、事前の合意に反し、既存の公開済みの作品を提出したこと、依頼した内容と異なる原稿を提出したこと及び履行期限までに原稿を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行3) (4)本件漫画1につき、履行期限までにネームを提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行4) (5)本件企画の宣伝用の漫画につき、履行期限までに原稿を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行5) (6)本件企画に関し、通常一般に非公開であるべき機密情報を漏えいしたことによる債務不履行(本件債務不履行6) (7)本件企画のイベントである打上げへの参加を直前にキャンセルしたことによる債務不履行(本件債務不履行7) (8)本件漫画2のうちの1コマをツイッターにおいて公開したことによる債務不履行(本件債務不履行8) 原審第2事件は、控訴人らが、第1事件の係属中に、被控訴人が、本件企画に参加した他の漫画家9名に対し、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」などと記載された文書を送付したことが不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当すると主張して、被控訴人に対し、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による金員の支払を求める事案である。 原審が、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがその取り消しを求めて本件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人らの主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の2、第3及び第4(原判決4頁19行ないし51頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決4頁23行目末尾の次に「『ラジオへんすて』は集団としてのサークルの名前であるとともに、7名の主要メンバー全員の屋号や芸名のようなものであるが、本件において、『ラジオへんすて』の名を用いて実際に契約の当事者となり被控訴人に対し『ラジオへんすてクラウドファンディング』(本件企画)の企画に用いる漫画原稿の作成等を依頼したのは控訴人両名であるとする。」を、同6頁5行目の「『サクセス』」の後に「(企画が成立すること)」をそれぞれ加え、同頁12行目の「原告らは」を「『ラジオへんすて』から」と改める。 (2)原判決6頁13行目の「支払った(甲5)。」を「支払われたところ、被控訴人側からの度重なる求めにより、平成30年1月8日付けで、『お支払い明細書』(甲5)が被控訴人に交付された。同明細書には、内訳締日2017年12月16日、支払日同月22日とし、『この度は、ラジオへんすて5周年記念クラウドファンディングにご参加下さり誠にありがとうございました。お支払いが発生する事柄に関します明細書を送付いたしますので、ご確認いただけますようお願い申し上げます。』と記載され、商品名には『コミック用漫画原稿料』として『数量74』、『単価3,500.000』、『金額259,000』と記載され、さらに『ストレッチゴール上乗せ原稿料』として『数量74』、『単価591.29』、『金額43,756』が支払われた旨が記載されている。」と改める。 3 当審における控訴人らの主な補充主張 (1)争点1(本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否)については、以下のとおりである。 ア 被控訴人は尋問において、控訴人らから、被控訴人に対して、「ここでしか読めないものを描いてほしいという話があった」ことや、「インターネットや他のところで出ているものとは違う内容にしなければならないということを認識していた」ことを認めており(原審における被控訴人の尋問調書〔7〜10頁〕)、被控訴人が「インターネットや他のところで出ているものとは違う内容にしなければならないということを認識していた」ことは明らかである。 本件企画のホームページ(乙28の1、甲116)でも示されている通り、本件コミックに掲載された作品のレアリティとは、200冊限定、追加増刷等一切なしという、本件コミック200冊以外の他の本や媒体で、本件コミックに掲載された作品と同一の作品は存在しないことである。また、本件コミックに収録する際に新規に追加されたウチムスマザコンの新規4頁分(以下「追加4ページ分」という。)については、新規描き下ろしであるという合意であったことは明らかである。 以上のとおり、本件合意の成立は認められる。 イ 被控訴人は、5月30日時点で、「本件コミック内でしか読めない」ことが、本件企画におけるレアリティの定義であると理解しているため、ウチムスマザコンを全て公開する場合の、本件コミック版のレアリティを出すための提案としてpixiv版の話の途中の一部を未公開にする(ネットにアップしない)対処を、控訴人X2’に対して提案した。仮に本件合意がないのであれば、被控訴人は、控訴人X2’に連絡する必要はないにもかかわらず、全て公開する旨を連絡してきていることからすれば、5月26日より以前に、ウチムスマザコンについて、「本件コミックに載せるにあたり、本件コミック内でしか読めない限定のものにする」という、本件合意があったことは明らかである。 ウ 被控訴人が、6月30日、イースト・プレスの担当者に対し送信したメール、及び控訴人X2’にもスカイプのメッセージに送信した内容は、6月29日に控訴人らと被控訴人との間で成立した、本件コミック版のレアリティを確保する合意の内容を述べたものである。仮に、本件合意がないのであれば、本件コミック版と同一の内容の作品がイースト・プレスから出版されても、本件コミックへの掲載に何ら問題はないということになるため、被控訴人は、イースト・プレスの担当者と打ち合わせた内容を、抜粋して控訴人らに見せる必要はないはずであるし、その内容からしても、イースト・プレスに関する内容だけで良いはずであるにもかかわらず、「同人誌(本件コミック版)では、ネット現状のもの、またはエピソードを削った上で別のエピソード追加の形で収録する予定です。」、「書籍化(イースト・プレス版)の際には同じ原稿はのせない予定です」と、本件コミック版のレアリティの確保に関する内容を、イースト・プレスの担当者へ報告する必要はない。それにもかかわらず、被控訴人が、これらの内容をイースト・プレスの担当者へ報告し、抜粋して控訴人らに見せたのは、6月29日の合意内容を守る意思があることを控訴人らに示すためであり、本件合意があったことは明らかである。 エ 本件合意の内容からみても、控訴人らに独占的な利用を許諾したことにより、著作者である被控訴人が行えなくなるのは、「当該著作物と全く同一内容の著作物をインターネット上で公表したり、他の出版社から発売するといった当該企画におけるレアリティを喪失させるような行為」のみである。そのため、被控訴人は、著作物について、「全ページ書き直し」、「違いを楽しむものになる」という形で、レアリティを損なわないように配慮すれば、自分の著作物を使うことは可能であるし、「全く同一の内容」のものでない限り、「同様」の作品や「登場人物の絵」を公表することは制限されていない(甲107)。本件合意には合理性がある。 (2)争点2(同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行1))については、以下のとおりである。 ア 本件債務不履行(1‐1)(不完全履行)(同人誌「絆」の原稿として甲7を提出したことが不完全履行に当たるか)については、被控訴人は、甲7の原稿に「ファンディングがスタートしても、うまく意思の疎通が出来ない」、「行き違ったり注意されたり、色々としんどかった」と記載したが、同様の内容の投稿記事として、被控訴人の運用するツイッターアカウント(A)において、「伝えようとしたいことが伝わらず言いたいように言われ、」、「矛盾と理不尽の中で、くじける思いもしました」などと投稿し、本件企画及び控訴人らに対する名誉毀損等の不法行為を行ったとして係争中であるが、甲7の原稿に書かれた内容と同様の投稿記事については、アンケート委託業者において、一般の閲覧者に対するアンケートを実施中である。 令和5年(2023年)2月9日現在における、同アンケートの集計状況によれば、188件の回答を得ており、そのうち、167人(88.8%)の回答者が、甲7の原稿に書かれた内容と同様の投稿記事が、悪口だと感じたという結果である。 同アンケート結果によりあらわれる一般の閲覧者の通常の読み方に基づけば、甲7の原稿に書かれた内容は、被控訴人の主張する、「漫画家の創作活動にあたって感じた困難や葛藤を読者に率直に吐露した行為はむしろ読者にとって魅力的な内容」とはいえない(甲135の1〜3)。 イ 本件債務不履行1−2(履行遅滞)については、同人誌「絆」の原稿の提出期限を11月10日に延ばさなければならなかったのは、被控訴人が、9月27日にネット上で不用意な発言をして騒ぎを起こし、その間本件企画に関係する原稿を作成していなかったこと、後から依頼された他社の原稿を優先して作成し、そのことを控訴人らに告げていなかったことが最大の原因である。そのため、控訴人らは、本件企画に関する原稿の最終期限を11月10日に延期せざるを得なかったのであり、提出期限を延期する合意が成立したとはいえない。また、甲7は、同人誌「絆」の原稿として提出すると合意されていたものには当たらず、被控訴人が甲7を提出したことは債務の本旨に従ったものではなく、債務不履行に当たり、被控訴人が内容を変更した原稿データを提出したのは11月12日であったから、同日の提出は履行遅滞に当たる。 (3)争点3(本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行2))については、以下のとおりである。 ア 本件債務不履行2−2(完成原稿の提出に係る履行延滞)(本件漫画2の原稿を11月18日に提出したことが履行遅滞に当たるか)について、被控訴人は、10月25日にネームを提出したが、被控訴人のネームには、原案にはない故人への配慮を欠いた描写が描かれていたため、被控訴人に原稿の修正を強く依頼し、ネームの再確認後、完成原稿の提出を11月10日とした(甲29の1〜3、甲62〔57頁〕、乙第6号証〔12、13頁〕)。 被控訴人が期限までに提出することを約束していた原稿は、控訴人らの確認を経た上での完成原稿であるところ、11月1日に被控訴人が提出した原稿について、控訴人X2’は同月2日に修正の可能性のあることを連絡しているから、同月1日に提出された原稿は、債務の本旨に従った完成原稿ではなかった(乙5〔12、13頁〕)。 5月30日、7月28日の控訴人らと被控訴人の打合せで、本件企画の多くの案件の中から被控訴人が行うものを選択した上で最終的な原稿の提出期限を10月末と合意したものであり、被控訴人のスケジュール管理に問題があったため、11月10日まで提出期限を延長せざるを得なくなった。11月2日に控訴人X2’が述べた謝意は、本件漫画2の内容に対するものであり、完成原稿を受領したことに対するものではない(乙5〔13頁〕)。 被控訴人が11月1日に提出した原稿は、同月2日に控訴人X2’が修正の可能性があることを連絡しているから(乙5〔12、13頁〕)、債務の本旨に従った完成原稿ではなかった。同月18日に控訴人らから修正箇所を連絡し、被控訴人が完成原稿を提出したのは同月19日であるから、完成原稿を同月1日に提出せず同月19日に提出したことは履行遅滞に当たる(乙6〔26頁〕)。 イ 本件債務不履行2−1(ネームの提出に係る履行延滞)(被控訴人が10月25日にネームを提出したことは履行遅滞に当たるか)については、7月28日、控訴人らと被控訴人は、ネームの提出期限を9月末と合意したから、被控訴人が10月25日にネームを提出したのは履行遅滞に当たる。また、11月1日に被控訴人が提出した原稿は、債務の本旨に従った完成原稿でなかったから、同日に原稿が提出されたことにより、10月25日のネームの提出が履行遅滞に当たらないとはいえない。 (4)争点4(本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行3))については、以下のとおりである。 ア 本件債務不履行3−1(不完全履行)(追加4ページ分の3頁目に公開済みの作品の原稿を提出したことは債務不履行に当たるか)については、控訴人らと被控訴人との間では、追加4ページ分は新規描き下ろしでなければならないとの合意が成立していたものであり、本件コミック版に追加された追加4ページ分のうちの3頁目として、原案が被控訴人公開著作物1ないし3として公開されているものを用いたことは合意に反する。 イ 本件債務不履行3−2(不完全履行)(追加4ページ分のうち3頁目について闘病中の家族の様子を内容とする原稿を提出しなかったことが債務不履行に当たるか)について、追加4ページ分については、アンケートの結果をもとに、控訴人らと被控訴人が打ち合わせて決めた4頁分の内容に沿って、4頁分全てを新規で描き下ろすことが、pixiv版60頁と追加4ページ分の合計64頁を本件コミック版として取り扱い、被控訴人が本件企画に参加するための合意内容であった。 ウ 債務不履行3−3(履行遅滞)(被控訴人が本件漫画1の原稿を11月9日に提出したことは債務不履行に当たるか)については、被控訴人は、控訴人らと、7月28日の打合せで、9月末までに追加4ページ分のネームを提出することを合意したが(甲2の3)、被控訴人は9月27日にpixivの10周年企画本について不用意な投稿をして騒ぎを起こし、ネームの提出が遅れることを投稿し(甲73)、控訴人X2’が10月2日に確認すると、9月末までには間に合わないとして提出期限を10月16日まで延期させた。控訴人X2’が10月20日に確認した時点では、提出できるものがない状態だった(甲9の3〔1頁〕、乙6〔4、6頁〕)。 10月26日に控訴人X2’が確認したときには、被控訴人は、追加4ページ分のネームに未着手であることを述べた。10月30日と31日に、控訴人らは、これ以上遅れると本件コミック版に掲載できなくなる期限が11月10日であることを連絡し、同月2日と5日にも催促を行った(甲9の3〔2頁〕、甲9の7〔3頁〕)。11月9日、被控訴人から、追加4ページ分について、ネームではなく清書されトーンが貼られた原稿が提出された(甲31、甲127の1〜3)。このように、追加4ページ分のネームが、期限とされた9月末までに提出されず、11月9日に原稿が提出されたため、控訴人らは、追加4ページ分について、ネームを確認後に下書き、清書、仕上げという工程を経ることができなくなった。以上の経過を考慮すると、追加4ページ分の原稿を11月9日に提出したことは債務不履行に当たる。 (5)争点5(本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行4))については、新規描き下ろしの漫画は、プロット→ネーム→下書き→清書→仕上げという工程で制作されること、ネームの確認は、本件企画に参加した他の漫画家についても行われていたこと(甲122の1〜13、甲126の1〜6)、追加4ページ分の内容は、レアリティを確保するために支援者のアンケートをもとに控訴人と被控訴人が話し合って決めたものであり(甲2の3、甲24)、追加4ページ分についてネームの確認が行われないはずはないことから、7月28日に控訴人らが被控訴人に交付した書面(甲2の1)にネームの提出について書かれていなくても、7月28日の合意には、9月末までにネームを提出することがその内容として含まれていた。追加4ページ分のネームを9月末までに提出しなかったことは債務不履行に当たる。 (6)争点6(宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行5))については、7月28日の打合せにおいて、被控訴人から宣伝用漫画を描くとの提案があったため、控訴人らはその原稿の制作を依頼した(甲2の3、甲62〔57〜58頁〕)。同日の打合わせにおいて、宣伝用漫画の内容は、被控訴人のファンやツイッターのフォロワーに対して、ラジオへんすてクラウドファンディング開催や、被控訴人がラジオへんすてクラウドファンディングでの企画に参加するということを宣伝するものとし、かつ、被控訴人のファンやツイッターのフォロワーが応援したくなるものにすることとなっていた(甲62〔58頁〕)。そして、宣伝用漫画の公開を前提として、控訴人らは被控訴人に対し、ツイッターやブログなどに、ラジオへんすてクラウドファンディングの宣伝の書込みを依頼していた。宣伝用漫画の原稿を8月末までに提出しなかったことは債務不履行に当たる。 (7)争点7(機密情報の漏えいに係る債務不履行(本件債務不履行6))について、ツイッターで、「精神的に追い込まれるようなつらい内容の漫画を描いた」(甲10の1〔1頁〕)などという本件コミックの内容や、「あと2Pで描き終わる」(甲10の1〔2頁〕)といった制作側の進捗状況を、企画者である控訴人らに許可なく投稿したり、「そのお金は作家にいきませんからねー。」(甲10の2)などと、本件コミック以外の本件企画のリターン品については原稿料等の支払ができないという、本件企画参加者しか知りえない情報である契約内容を、企画者である控訴人らに許可なく投稿したりすることは、機密情報の漏洩に当たる。 また、本件企画について「実は、この半年間は弁護士さんのお世話になっています。」、「昨年参加した同人誌のトラブルに巻き込まれて現在も弁護士を通して対応を検討中です。」といった内容をブログに投稿した上で(甲10の3)、外部に広く知らしめることを目的としてブログのURLを掲載したツイッター投稿を行うことは(甲41)、本件訴訟が提起される以前の時点で示談の話が進行中であるという状況下では、通常一般的に非公開であるべき機密情報の漏洩に当たる。 (8)争点8(打ち上げのキャンセルに係る債務不履行(本件債務不履行7))については、控訴人らは、被控訴人と、打ち上げのことを含めた打合せを、7月28日の他、電話やスカイプの通話で複数回行った。7月28日の打合せにおいて、控訴人らは、被控訴人に対し、打ち上げに参加することによる拘束時間や参加費、交通費について説明をした上で、参加するか否かは任意に選択できるが、クラウドファンディングの性質上、被控訴人が打ち上げに参加することを含めて支援(購入)している支援者(購入者)がいる状態になった後に、被控訴人が打ち上げへの参加をキャンセルすると、打ち上げに関する履行内容に欠損が出てしまい、支援者(購入者)に対して約束の不履行となってしまうため、参加表明をする際にはこの点について十分に気を付けるように注意した。被控訴人は、そのような注意を受けた上で、「その日に合わせてスケジュール空けます」として、参加することを決定した(甲62、甲81)。 被控訴人は、控訴人らから、一旦参加を表明すると、以後のキャンセルは許されない旨の説明は受けていた。 控訴人X2’が、10月20日に、被控訴人に対し、「祝賀会には参加するが、打ち上げには参加しない」という選択も可能である旨伝えたのは、被控訴人の同行者についてであり、被控訴人についてではない(乙6〔1〜2頁〕)。 (9)争点9(本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無(本件債務不履行8))については、控訴人らと被控訴人との間には、本件各漫画につき、本件合意(著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意)が成立し、そこには、本件漫画2を本件コミック以外に掲載しないという合意が含まれていたから、被控訴人が本件漫画2の一コマを公開したことは債務不履行に当たる。被控訴人は、無断公開後に控訴人らの指摘を受けて、公開されていた一コマを削除したから、公開が本件合意に反することを知っていた。 (10)争点10(「虚偽の事実」の告知の有無(本件記載部分が「虚偽の事実」の告知に当たるか))については、控訴人らに独占的な利用を許諾したことにより、著作者である被控訴人が行えなくなるのは、「当該著作物と全く同一内容の著作物をインターネット上で公表したり、他の出版社から発売するといった当該企画におけるレアリティを喪失させるような行為」のみである(甲107)。そのため、被控訴人は、著作物について、「全ページ書き直し」、「違いを楽しむものになる」という形で、レアリティを損なわないように配慮すれば、自分の著作物を使うことは可能であるし、「全く同一の内容」のものでない限り、「同様」の作品や「登場人物の絵」を公表することは制限されていない(甲107)。したがって、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」とはいえない ので、本件照会書(甲106の1〜9)の上記記載は、虚偽の事実である。 また、上記記載においては、「独占的利用権を許諾(譲渡)する」と記載されているが、「独占的利用権を許諾すること」と、「譲渡」すなわち「著作権を譲渡すること」とは全く異なる法律行為である。すなわち、「独占的利用権を許諾すること」は、あくまで「著作権者がその利用者以外の者に対しては利用の了解を与えてはいけない」という状態にするだけの法律行為であるのに対し、「著作権を譲渡すること」は、「譲渡人から譲受人に著作権が移転して、譲受人が著作権者となる」という状態にするものであって、両者は、著作権そのものが移転するか否かという点において、根本的な差異がある(甲131)。そして、本件において、控訴人らは、当初から終始一貫して、「独占的利用権の許諾」についてのみ争点としているのであり、「著作権を譲渡」するといった話は一切していないし、控訴人らの主張のみならず被控訴人からの主張においても、独占的利用権の許諾の有無という主張のみで、著作権の譲渡に関する主張などは一切出てきていない。したがって、このような点に鑑みれば、「独占的利用権を許諾(譲渡)する」といった、「独占的利用権を許諾すること」=「著作権の譲渡」との意味に読み取れる記載も、虚偽の事実の記載ということになる。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、当審における控訴人らの主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第3の1ないし2(原判決51頁9行目ないし同86頁5行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決51頁9行目の「第3」を「第5」と、同54頁5行目の「記載されている」を「記載され、『クラウドファンディングのストレッチゴール分の増加支援金が発生した場合につきましては、これを先生方にお支払いする原稿料の増額に充てさせていただきます。(ストレッチゴールとは、目標金額よりも支援金が多く集まった場合の事です)』、『原稿料につきまして説明させていただきますと、少額で心苦しいのですが『モノクロ原稿1枚につき、最低¥3500〜』『カラーカット1枚につき、最低¥5000〜』でお願いさせていただけないかと思います。』とも記載されている」と、同56頁14行目の「以下『追加4ページ分』という。」を「追加4ページ分」とそれぞれ改め、同65頁11行目の末尾の次に「その旨のメールには、『修正原稿をお送りいただき、ありがとうございました!原稿精査チームにお渡しさせていただきます。引き続きよろしくお願い申し上げます。』と記載されている。」を、同頁12行目の「につき、」の次に「甲11の7、」をそれぞれ加える。 (2)原判決65頁18行目の「したが、」を「し、併せて、『税申告の関係で、今回の代金がいつごろ入金になるのか教えていただきたいです。』との連絡も送信したが、」と改め、同頁19行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「(16)原稿料の支払とその後の経緯 控訴人X1’は、被控訴人に対し、12月1日、年内に原稿料の支払をする旨をメールで知らせ、そこに、『あらためまして、この度は原稿の制作から修正までお忙しい中ご対応いただき、ありがとうございました。・・・ありがたいことにストレッチゴールまで到達することができましたので、僅かながらでも原稿料を上乗せしてお支払いさせていただけそうです。』と記載した(甲52)。 そして、前記第2、2(7)のとおり、被控訴人に対し、32万6976円が支払われたが、これにつき、被控訴人は料金の内訳や詳細が必要である旨を連絡していた。 控訴人X1’は、被控訴人に宛てて、前記第2,2(7)の『お支払い明細書』(甲5)記載の内訳締日及び支払日より後の平成29年1月1日、『あらためまして、今回のへんすてクラウドファンディングを通して、コミック原稿のご依頼だけでなく、多くの形でご協力いただきました事を、先生方とのお話し合いの担当として、また本クラウドファンディングの総責任者の一人として、スタッフを代表して御礼申し上げます。・・・今回このような形で先生方に原稿をご依頼させていただき、なおかつイラストやサインのご提供、祝賀会や打上げへのご参加、クラウドファンディングの宣伝に対するお願いにつきましても、快くご協力くださいました事に、感謝申し上げます。おかげ様をもちまして、へんすてクラウドファンディングに関するほぼすべての行程を完了する事ができましたことを、ここにご報告させていただきます。今回のクラウドファンディングをご支援いただいたパトロンの皆様へのお約束として、すべての行程を完了させる事を最優先にスタッフ一同で尽力させていだきましたため、先生方へのご挨拶が遅くなってしまいました事、ご容赦いただければ幸いです。』などとするメールを送信した(乙38)。 一方、本件企画については、平成30年1月1日には、支援者の立場から、出資した資金に不透明さがあるのは気になり、他にも疑問に思っている者もいることから事業計画と資金の使用内訳の公表を求める旨の書き込みがされるようになった(乙33)。 その後、平成30年1月8日付け『お支払い明細書(甲5)』が被控訴人に交付された。これによれば、『コミック用漫画原稿料』及び『ストレッチゴール上乗せ原稿料』として合計30万2756円が支払われたこととされている(これに消費税相当額を加えると合計32万6976円となる。)。 そして、控訴人らと被控訴人との関係が悪化し、被控訴人の夫が被控訴人を代理して控訴人らと話を進めたところ、控訴人X1’は、同年2月頃、『ラジオへんすてクラウドファンディングに関する著作者と頒布元の、今後の権利につきましては、今後双方が関わりを持たない・・・方向で現在お互いにやりとりをしている中ですので、『ウチムスマザコンの本編(ラジオへんすてクラウドファンディングコミック収録のおまけ漫画は除く)』以外の、ラジオへんすてクラウドファンディングに関連した漫画原稿、カラー原稿、サイン等は、『A’(判決注:被控訴人を指す)・ラジオへんすての双方とも、今後は使用しない』という事でいかがでしょうか?(ウチムスマザコン本編は修正などしてラジオへんすてクラウドファンディングコミック用に収録されておりますが、元内容がピクシブで公開されており、3月にイーストプレスさまからコミックが出版されます事に悪い影響が出ない様に配慮してこの様にご提案させていただきます。)』とするメールを送信した(乙41,42)。」 (3)原判決68頁4行目の「られる。」の次を改行し、「加えて、被控訴人との間でウチムスマザコンの取扱い等を巡り紛争となった後においても、前記1(16)のとおり、控訴人X1’は、被控訴人に対し、本件企画との関係で、ウチムスマザコンのpixiv版の公開等が控訴人らとの合意に反する旨を主張するどころか、何ら問題視していないことが明らかなメールを送信している。」を加え、同頁6行目の「これらの」から同頁7行目の末尾までを、「これらの事実関係に照らせば、本件合意の成立の事実は認められないというべきである。」と改め、同73頁2行目の「原告ら」から同6行目の「ともいえる。」までを削る。 (4)原判決76頁25行目の「修正な可能性」を「修正の可能性」に改め、同77頁4行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「加えて、前記1(16)のとおり、本件企画に関しては、無事行程が完了したとの認識が示されており、本件企画に関し被控訴人において何らかの債務不履行に当たる事実があったとの認識は何ら示されていない。さらには、控訴人らによるクラウドファンディングはストレッチゴールに至り、それに伴う追加報酬も被控訴人に対し支払われ、他の作家にも支払われることが告知されているところであり、仮に被控訴人に債務不履行に当たる事実があったと仮定したとしても、控訴人らに対し損害が発生した事実は認められない。」 (5)原判決80頁13行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「加えて、前記1(16)のとおり、本件企画に関しては、無事行程が完了したとの認識が示されており、本件企画に関し被控訴人において何らかの債務不履行に当たる事実があったとの認識は何ら示されていないこと、控訴人らによるクラウドファンディングはストレッチゴールに至り、それに伴う追加報酬も被控訴人に対し支払われ、他の作家にも支払われることが告知されているところであり、仮に被控訴人に債務不履行に当たる事実があったと仮定したとしても、控訴人らに対し損害が発生した事実が認められないことについて、前記(3)ア(ア)と同様である。」 (6)原判決83頁23行目の「ないこと、」の次に、「D前記1(16)のとおり、平成29年1月に至っても、被控訴人に対し、本件企画への関与に感謝し、打上げのキャンセルについて問題視していることが全くうかがわれないメールを送信していること、」を加える。 (7)原判決84頁14行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「加えて、クラウドファンディングに参加を希望する支援者に対しては、『ご支援くださる前に必ずお読み下さい』として、『祝賀会及び打ち上げの日程・参加先生につきましては、先生方がご多忙なため、変更の可能性もございますので予めご了承ください。』との注意もされている(乙28)。」 2 当審における控訴人らの主な補充主張に対する判断 (1)控訴人らは、争点1(本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否)について、@被控訴人は尋問において「ここでしか読めないものを描いてほしいという話があった」ことなどを認めており、本件コミックに掲載された作品のレアリティとは、本件コミック200冊以外の他の本や媒体で同一の作品は存在しないこと、追加4ページ分については新規描き下ろしであるとの本件合意の成立は認められる、A被控訴人は、5月30日時点で、「本件コミック内でしか読めない」ことが、本件企画におけるレアリティの定義であると理解しているため、ウチムスマザコンを全て公開する場合、本件コミック版のレアリティを出すための提案としてpixiv版の話の途中の一部を未公開にする対処を、控訴人X2’に対して提案したものであり、本件合意があったことは明らかである、B被控訴人が、6月30日、イースト・プレスの担当者に対し送信したメール等は、控訴人らと被控訴人との間で成立した、本件コミック版のレアリティを確保する合意の内容を述べたものであり、本件合意があったことは明らかである、C本件合意は内容からしても合理性があり、本件合意の成立は認められる旨を主張する。 しかし、控訴人らが当審において新たに提出した証拠を考慮しても、補正の上で引用した原判決第5の2(1)のとおり、本件合意の成立の事実は認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (2)控訴人らは、争点2(同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行1))について、甲7は、同人誌「絆」の原稿として提出すると合意されていたものには当たらず、被控訴人が甲7を提出したことは債務の本旨に従ったものではなく、債務不履行に当たり、被控訴人が内容を変更した原稿データを提出したのは11月12日であったから、同日の提出は履行遅滞に当たる旨を主張する。 しかし、控訴人らが当審において新たに提出した証拠を考慮しても、補正の上で引用した原判決第5の2(2)のとおり、債務不履行に当たる事実は認められず、控訴人らが主張するアンケート結果も上記認定を左右するものではない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (3)控訴人らは、争点3(本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無((本件債務不履行2))につき、5月30日、7月28日の控訴人らと被控訴人の打合せで、本件企画の多くの案件の中から被控訴人が行うものを選択した上で最終的な原稿の提出期限を10月末と合意したものであり、被控訴人のスケジュール管理に問題があったため11月10日まで提出期限を延長せざるを得なくなった、被控訴人が11月1日に提出した原稿は債務の本旨に従った完成原稿ではなく、被控訴人が完成原稿を提出したのは同月19日であるから、完成原稿を同月1日に提出せず同月19日に提出したことは履行遅滞に当たる、被控訴人が10月25日にネームを提出したことは、7月28日に控訴人らと被控訴人は、ネームの提出期限を9月末と合意したから、被控訴人が10月25日にネームを提出したのは履行遅滞に当たる旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第5の2(3)のとおり、本件漫画2及びネームの提出につき債務不履行に当たる事実は認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (4)控訴人らは、争点4(本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無((本件債務不履行3))について、@追加4ページ分の3頁目に公開済みの作品の原稿を提出したことについては、控訴人らと被控訴人との間では、追加4ページ分は新規描き下ろしでなければならないとの合意が成立していたものであり、原案が被控訴人公開著作物1ないし3として公開されているものを用いたことは合意に反する、A追加4ページ分のうち3頁目について闘病中の家族の様子を内容とする原稿を提出しなかったことについて、追加4ページ分については、4頁分全てを新規で描き下ろすことが本件企画に参加するための合意内容であった、B被控訴人は、控訴人らと、7月28日の打合せで、9月末までに追加4ページ分のネームを提出することを合意したものであり、追加4ページ分の原稿を11月9日に提出したことは債務不履行に当たる旨を主張する。 しかし、控訴人らが当審において新たに提出した証拠を考慮しても、補正の上で引用した原判決第5の2(4)のとおり、債務不履行に当たる事実は認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (5)控訴人らは、争点5(本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無((本件債務不履行4))について、7月28日に控訴人らが被控訴人に交付した書面(甲2の1)にネームの提出について書かれていなくても、7月28日の合意には、9月末までにネームを提出することがその内容として含まれており、追加4ページ分のネームを9月末までに提出しなかったことは債務不履行に当たる旨を主張する。 しかし、控訴人らが当審において新たに提出した証拠を考慮しても、補正の上で引用した原判決第5の2(5)のとおり、債務不履行に当たる事実は認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (6)控訴人らは、争点6(宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無((本件債務不履行5))について、7月28日の打合せにおいて、被控訴人から宣伝用漫画を描くとの提案があったため、控訴人らはその原稿の制作を依頼したものであり、宣伝用漫画の原稿を8月末までに提出しなかったことは債務不履行に当たる旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第5の2(6)のとおり、債務不履行に当たる事実は認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (7)控訴人らは、争点7(機密情報の漏えいに係る債務不履行((本件債務不履行6))について、本件コミック以外の本件企画のリターン品については原稿料等の支払ができないという、本件企画参加者しか知りえない情報である契約内容を、企画者である控訴人らに許可なく投稿したりすることは、機密情報の漏洩に当たり、本件企画について「実は、この半年間は弁護士さんのお世話になっています。」などといった内容をブログに投稿した上で、外部に広く知らしめることを目的としてブログのURLを掲載したツイッター投稿を行うことは、本件訴訟が提起される以前の時点で示談の話が進行中であるという状況下では、通常一般的に非公開であるべき機密情報の漏洩に当たる旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第5の2(7)のとおり、機密情報の漏洩に当たる事実は認められず、被控訴人が債務不履行責任を負うものとは認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (8)控訴人らは、争点8(打ち上げのキャンセルに係る債務不履行(本件債務不履行7)について、被控訴人は、控訴人らから、一旦参加を表明すると、以後のキャンセルは許されない旨の説明を受けており、控訴人X2’が被控訴人に対し「祝賀会には参加するが、打ち上げには参加しない」という選択も可能である旨伝えたのは、被控訴人の同行者についてであり、被控訴人についてではなく、打ち上げのキャンセルは債務不履行である旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第5の2(8)のとおり、債務不履行責任を負う前提となる合意の存在は認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (9)控訴人らは、争点9(本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無(本件債務不履行8)について、本件合意には本件漫画2を本件コミック以外に掲載しないという合意が含まれていたから、被控訴人が本件漫画2の一コマを公開したことは債務不履行に当たるところ、被控訴人は、無断公開後に控訴人らの指摘を受けて、公開されていた一コマを削除したから、公開が本件合意に反することを知っていたものであると主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第5の2(9)のとおり、本件合意の存在が認められず、被控訴人が債務不履行責任を負うものとは認められない。 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (10)控訴人らは、争点10(「虚偽の事実」の告知の有無(本件記載部分が「虚偽の事実」の告知に当たるか))について、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」とはいえないのであるから、本件照会書の記載は、虚偽の事実であり、「独占的利用権を許諾すること」=「著作権の譲渡」との意味に読み取れる記載も、虚偽の事実の記載であると主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第5の2(10)のとおり、本件記載部分につき虚偽の事実に当たるものとは認められない。 したがって、控訴人らの主張は採用することができない。 3 前記認定及び判断は、控訴人らのその余の補充主張によっても左右されるものではない。 4 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則 |
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