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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件Q 【年月日】令和5年7月19日 東京地裁 令和4年(ワ)第18826号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年5月11日) 判決 原告 株式会社MBM 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 ビッグローブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 高橋利昌(編注:高ははしごたか) 同 平出晋一 同 太田絢子 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙発信者情報目録記載1及び8の品番及び作品名の各動画(以下、これらを総称して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成した動画ファイル(以下、これらを総称して「本件各ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態とするとともに、本件各ファイルを公衆送信したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求等のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、各種映像物の企画、制作、販売及びプロデュースを業とする株式会社である(甲20、21)。 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。 (2)本件各動画の著作物性 本件各動画は、いずれも「映画の著作物」(著作権法10条1項7号)である(甲9、弁論の全趣旨)。 (3)ビットトレントの仕組み(甲4ないし7、17、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利用するためのソフトウェアである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースに係る情報などが記載されている。一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする利用者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。 ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有するピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (4)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲4ないし6、9、10、12、弁論の全趣旨) 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した。 本件調査会社は、ビットトレントクライアントソフトウェアである「μTorrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のタスクバーに表示された時刻とともに、スクリーンショットにより保存した。 本件調査会社は、ダウンロードした上記動画ファイルを再生し、表示される映像が本件各動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであることを確認した。 (5)本件各発信者情報の保有 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点 (1)特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1) (2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2) (3)原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) ア 原告は本件各動画の著作権者であること (ア)原告は、本件各動画の作成を発意し、これに基づいて、原告の業務に従事する者らが、原告の職務として、本件各動画の撮影、演出などの制作に係る一切の作業を行った。そして、本件各動画は、原告の名義により公表された。本件各動画の作成に当たり、著作者を原告以外の者とするなどの定めはない。 したがって、著作権法15条1項により、本件各動画の著作者は原告とされるから、その著作権者は原告である。 (イ)原告代表者は、映画の著作物である本件各動画の「監督」を担当し、その「全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条本文)であるから、本件各動画の著作者は原告代表者である。 原告は、本件各動画の製作を発意し、その製作に関する責任を負う主体であったから、本件各動画の「映画製作者」(同法2条1項10号)である。そして、本件各動画の製作に当たり、著作者である原告代表者は、映画製作者である原告に対し、本件各動画の製作に参加することを約束していた。 したがって、同法29条1項により、本件各動画の著作権は原告に帰属する。 (ウ)本件各動画を収録したDVDのパッケージには、原告の名称及び特定非営利活動法人知的財産振興協会(以下「IPPA」という。)によって割り当てられた原告の会員番号が明記されているところ、これは、著作物である本件各動画の公衆への提供の際に、その名称又は変名として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されているといえる。 したがって、著作権法14条により、原告は、本件各動画の著作者、ひいては著作権者と推定される。 イ 本件各氏名不詳者により本件各動画が送信可能化されたこと ビットトレントネットワークを形成するピアは、共有されているファイルの送信を受けるのと同時に、公衆たる他の利用者が管理するピアに対し、当該ファイルを送信し得る状態となる。すなわち、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、他のピアからファイルの送信を受けている間、自動公衆送信装置として機能し、その記録媒体は公衆送信用記録媒体となる。そして、他のピアからファイルの送信を受けることは、自動公衆送信装置への情報の入力に当たるとともに、公衆送信用記録媒体への情報の記録に当たる。 このビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社による調査の際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアにおいて、本件各動画が送信可能化されていることは明らかである。 したがって、本件調査会社がスクリーンショットにより記録した日時及びIPアドレス、すなわち別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者の管理するピアが、ビットトレントネットワークを介して本件各ファイルの送信を受けることは、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化する行為(著作権法2条1項9号の5イ)と評価できる。 そして、本件各氏名不詳者は、特定のファイルに係るデータを細分化したピースを利用者間で共有し、相互にアップロード可能な状態に置くことにより、ビットトレントネットワークを介して一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になるというビットトレントの本質的な特徴を理解して、これを利用しているのであるから、本件各動画全体を送信可能化したと評価できる。 ウ 本件各氏名不詳者により本件各動画が自動公衆送信されたこと ビットトレントネットワークを形成しているピアは、他のピアから共有されるファイルの送信を受けるのと同時に、公衆たる他の利用者が管理しているピアからの求めに応じて自動的にファイルを送信する。 このビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社による調査の際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアが、本件各動画を自動公衆送信していることは明らかである。 したがって、本件調査会社がスクリーンショットにより記録した日時及びIPアドレス、すなわち別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者の管理するピアが、@本件調査会社が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信したこと、A本件調査会社以外の他の利用者が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信したことは、いずれも本件各氏名不詳者による本件各動画の自動公衆送信(著作権法2条1項9号の4)と評価できる。 エ 本件各氏名不詳者による本件各動画の送信可能化や自動公衆送信に係る通信は特定電気通信に当たること 特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)とされているところ、著作権法は、送信可能化及び自動公衆送信を公衆送信すなわち「公衆によつて(ママ)直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信…を行うこと」(著作権法2条1項7号の2)として評価しているから(同項9号の4及び5)、前記イ及びウの本件各氏名不詳者による本件各動画の送信可能化や自動公衆送信に係る通信は、特定電気通信に当たる。 オ 小括 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 (被告の主張) ア 本件各動画に係る著作権が原告に帰属していることは明らかでないこと (ア)原告は、著作権法14条に基づき、本件各動画の著作者は原告と推定されると主張する。 しかし、同条が、自然人による著作について適用されるとしても、原告のような法人による著作にも同様に適用されるものであるかは必ずしも明らかでない。 仮に、法人による著作に同条が適用されるとしても、本件各動画について、「公衆への提供」又は「提示」がどのようにされているのかは不明であり、この要件を満たすことが明らかとはいえない。 また、本件各動画を収録したDVDのパッケージにIPPAの会員番号が表示されているとしても、これが著作者名としての表示であるとは考え難い。 (イ)著作権法15条1項及び29条1項に基づく主張については、いずれも争う。 イ 本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化又は自動公衆送信したかは明らかでないこと (ア)原告は、ビットトレントネットワークを形成するピア全体で、本件各著作物の完全なファイルを送信可能化したから,本件各氏名不詳者は、本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができると主張するが,本件各氏名不詳者の管理するピアが保有していないピースの部分についてまで送信可能化したことになるとはいえない。 (イ)原告は、本件各氏名不詳者の管理するピアが、本件調査会社が管理するピア以外の他の利用者が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信したと主張する。 しかし、本件調査会社以外の他の利用者という潜在的な第三者なるものが,いつ,いかなる対象を,いかなる範囲で,どのようにして送信を受けたかについては、何ら特定がされていないし、具体的な立証もされていない。 (ウ)本件各氏名不詳者の管理するピアが、本件調査会社が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信し、もって本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したとの主張は争う。 (2)争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について (原告の主張) 本件調査会社による調査の際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたIPアドレスが割り当てられていたピアから、本件調査会社の管理するピアに対して、本件各ファイルが送信されていたところ、原告は、当該調査時に端末のタスクバーに表示された時刻と本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレスに基づいて、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスを特定した。 そして、利用者にIPアドレスを動的に割り当てているプロバイダにおいても、一旦利用者に割り当てられたIPアドレスは、数時間経っても変わらない場合も多いから、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時(すなわち各分の0秒)と、本件調査会社がスクリーンショットした日時との間に誤差があるとしても、前者の日時に同目録記載1及び8のIPアドレスが割り当てられていた会員と、後者の日時に同IPアドレスが割り当てられていた会員とが、異なるということはない。 このように、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時において、同IPアドレスにより特定されるピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルが送信されていたのであるから、当該各日時及び各IPアドレスにより特定される者は、「発信者その他侵害情報の送信…に係る者」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号)(以下「プロバイダ責任制限法施行規則」という。)2条各号参照)に当たる。 したがって、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たる。 (被告の主張) PC等の端末の内蔵時計の時刻は、実際の時刻と数分ずれていたりすることが経験的に良く知られているため、時刻の正確性が求められる作業を行う際には、GPSで経時的に時刻が確認できる機器を付加するなど、その正確性を担保するための特別な仕組みを設けるのが通常である。しかし、本件調査会社による調査において、時刻の正確性を担保する仕組みが設けられていたかは明らかでない。仮に、本件調査会社による調査における時刻が正確であるとしても、スクリーンショットに表示されている端末の時刻は分単位であるから、実際の時刻との間には最大約1分の誤差があることになる。 そして、被告は、同じIPアドレスをその時々に異なる会員等に割り当てるように管理しているため、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時(すなわち各分の0秒)に同IPアドレスが割り当てられていた会員と、本件調査会社がスクリーンショットした時に同IPアドレスが割り当てられていた会員とが、異なっている可能性がある。 実際に、被告が、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスにより特定される者に意見照会をしたところ、同人らは、いずれも身に覚えがないと回答した。 したがって、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスにより特定される者は、「発信者その他侵害情報の送信…に係る者」(プロバイダ責任制限法施行規則2条各号参照)といえないから、本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たらない。 (3)争点3(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について (原告の主張) 原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (1)本件各動画の著作権者について 証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件各動画は、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する者が職務上作成した著作物で、原告が自己の著作の名義の下に公表したものであって、本件各動画の作成の時における契約、原告の就業規則等に、本件各動画を原告の業務に従事する者の著作物とする旨の別段の定めがされていなかったと認められるから、著作権法15条1項に基づき、本件各動画の著作者は原告と認められる。 したがって、本件各動画の著作者は原告であるから、その著作権者は原告と認められる。 (2)自動公衆送信に係る情報の流通による原告の権利侵害の成否について 前提事実(4)のとおり、本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手し、本件ソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませて、動画ファイルをダウンロードし、当該動画ファイルを再生して表示される映像が、それぞれ本件各動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであることを確認した。 また、前提事実(3)のとおり、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)ように動作する。 そして、証拠(甲1、4〜6)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各ファイルのダウンロード中に、端末のタスクバーに表示された時刻及び本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報に基づいて、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスを特定したことが認められるところ、この本件調査会社による調査は、当該ピアから、本件調査会社の管理するピアに、本件各ファイルが送信されている状態を捉えたものといえる。 以上によれば、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時において、同IPアドレスが割り当てられていた端末により、同品番及び作品名の動画が、それぞれ自動公衆送信されたと認められるところ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について (1)前記1(2)のとおり、本件調査会社は、本件各ファイルのダウンロード中に、端末のタスクバーに表示された時刻及び本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報に基づいて、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスを特定したことが認められるところ、この本件調査会社による調査は、当該ピアから本件調査会社の管理するピアに本件各ファイルが送信されている状態を捉えたものといえる。 そうすると、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時において、同IPアドレスにより特定されるピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルが送信されていたのであるから、当該各日時及び各IPアドレスにより特定される者は、「発信者その他侵害情報の送信…に係る者」(プロバイダ責任制限法施行規則2条各号参照)に当たる。 したがって、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たる。 (2)被告は、同じIPアドレスをその時々により異なる会員等に割り当てるように管理しているところ、本件調査会社が調査に用いた端末の時刻の正確性が担保されていないことや、当該端末の画面に表示される時刻が分単位であることから、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時に同IPアドレスが割り当てられていた会員と、本件調査会社がスクリーンショットした時に同IPアドレスが割り当てられていた会員とが、異なっている可能性があると主張する。 確かに、利用者にIPアドレスを動的に割り当てているプロバイダにおいては、その時々により同じIPアドレスが別の利用者に割り当てられることがあり得るものの、被告は、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時に同IPアドレスが割り当てられていた会員と、本件調査会社がスクリーンショットした時に同IPアドレスが割り当てられていた会員とが異なっていることを示す具体的な事情を何ら摘示していない。 また、被告は、別紙発信者情報目録記載1及び8の日時及びIPアドレスにより特定される者に対して意見照会をしたところ、身に覚えがないとの回答があった旨を指摘するが、その回答が真実であることを裏付ける客観的な証拠はない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 3 争点3(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。 したがって、原告には本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 (別紙)発信者情報目録 下記日時に下記IPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス 記 1 日時 令和4年2月1日6時30分00秒 IPアドレス 省略 品番 省略 作品名 省略 8 日時 令和4年6月25日8時56分00秒 IPアドレス 省略 品番 省略 作品名 省略 以上 |
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