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【事件名】エキサイトへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】令和5年7月14日
 東京地裁 令和4年(ワ)第23542号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年5月30日)

判決
原告 株式会社h.m.p
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エキサイト株式会社
同訴訟代理人弁護士 藤井康弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙動画目録記載の作品(以下「本件動画」という。)を複製して作成した電子データ(以下「本件複製物」という。)を、本件氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とする、又は実際に自動公衆送信することによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件氏名不詳者に対する損害賠償請求等のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、アダルト動画の企画及び制作を行っている株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件動画の著作物性
 本件動画は、アダルト動画であり、思想又は感情を創作的に表現した映画の著作物(著作権法2条1項1号、10条1項7号)である(甲2、11)。
(3)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲5、6、弁論の全趣旨)
 原告は、本件調査会社に対し、本件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。この依頼を受け、本件調査会社は、「μTorrent」という名称のソフトウェア(以下「本件ソフト」という。)を使用して調査を開始したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を割り当てられた本件氏名不詳者が、ビットトレントネットワーク上において、本件複製物を不特定多数のビットトレント利用者の求めに応じて自動的にアップロードし得る状態にしたとの調査結果を得た。
(4)本件各発信者情報の保有
 被告は本件各発信者情報を保有している。
3 争点
(1)原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
(1)原告に本件動画の著作権が帰属すること
 本件動画のパッケージには、第三者認証機関によって割り当てられた原告の会員番号等が記載されており、著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(実名)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(変名)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されているといえるから(著作権法14条)、本件動画の著作者は原告であると推定される。
 また、本件動画は、原告の発意に基づき、原告代表者及び原告の従業員が職務上作成したものであり、職務著作に該当するから、原告が本件動画の著作者となる(著作権法15条1項)。
 さらに、本件動画の製作において、原告代表者及び原告の従業員は、その企画、全体的な製作に関する決定を行っており、「全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条本文)に該当し、本件動画の著作者であるといえるところ、原告代表者及び原告の従業員は、本件動画の映画製作者である原告に対し参加約束をしたことから、本件動画の著作権は原告に帰属する(著作権法29条1項)。
 以上のとおり、いずれにしても、本件動画の著作権は原告に帰属している。
(2)本件調査会社の調査結果に信用性があること
 本件ソフトは、ビットトレントをより効率的に利用するためのソフトウェアであって、違法アップロードをした者(以下「侵害者」という。)を特定することを目的として開発されたものではない。しかし、本件ソフトには、侵害者がファイルをダウンロードしつつ、同ファイルをアップロードしている状態を監視することができる機能が備わっており、そのような行為に及んだ侵害者のIPアドレスを解明することができる仕組みとなっている。
 本件調査会社は、@「.torrent」という拡張子がついたファイル(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、本件ソフト上にて対象ファイルのダウンロードを開始する、A侵害者が対象ファイルをアップロードしていることが判明した場合には、侵害者のIPアドレスを確認した上で、さらに、実際にダウンロードしたファイルを開いて被侵害品と比較して、その同一性を確認するという方法により、侵害者のIPアドレスを特定している。
 本件においても同様の方法で調査が実施されており、調査結果の正確性に疑義はない。
 そして、上記の調査結果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者が本件複製物を不特定多数の者からの求めに応じてダウンロードできる状態にしていた、又は実際に自動公衆送信していた際のものであるといえる。
 よって、本件調査会社の調査結果には信用性が認められ、本件氏名不詳者が原告の著作権を侵害していることは明らかである。
(被告の主張)
(1)原告に本件動画の著作権が帰属しないこと
 原告は、著作権法14条、15条1項又は29条1項に基づき、自らに本件動画の著作権が帰属すると主張しているが、これらの主張を裏付ける証拠は提出されていない。
 したがって、原告に本件動画の著作権が帰属しているかは明らかではない。
(2)本件調査会社の調査結果に信用性がないこと
 以下の事情などからすれば、本件調査会社の調査結果を信用することはできない。
ア 本件調査会社は、原告の依頼に基づき調査を行った会社にすぎず、本件ソフトを開発した会社でもないから、その説明の中立性、正確性は担保されていない。
イ 本件調査会社は、多数のファイルを同時にダウンロードしていることなどからすれば、IPアドレスの取り違えが発生している可能性がある。
ウ 原告は、本件調査会社の調査結果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者が本件複製物を実際にアップロードしていた際のものであると主張するが、本件調査会社が、本件氏名不詳者が本件複製物をダウンロードしている場面をスクリーンショットで撮影した画像(甲1。以下「本件スクリーンショット」という。)において、侵害者の端末の通信状況が表示される下段の「上り速度」、「下り速度」の欄は、いずれも空欄となっており、このような事情からすれば、上記の日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者が本件複製物を実際にアップロードした際のものではない。
2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(原告の主張)
 原告は、本件氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。
 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)原告に本件動画の著作権が帰属するか
 証拠(甲17、20)及び弁論の全趣旨によれば、原告代表者が、本件動画の撮影及び製作に関する決定を行ったことが認められるから、原告代表者は、本件動画の「全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条)に該当し、本件動画の著作者であるといえる。
 また、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件動画の製作に発意及び責任を有する者、すなわち「映画製作者」(著作権法2条1項10号)であると認められ、原告代表者は「映画製作者」である原告に対し本件動画の「製作に参加することを約束している」ものと認められる。
 したがって、本件動画の著作権は、著作権法29条1項により、原告に帰属する。
(2)本件調査会社の調査結果の信用性
ア 証拠(甲4ないし6、22)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントネットワークとは、インターネットを通じ、P2P方式でファイルを共有するネットワークであり、特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーが、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにおいて当該ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした後、当該トレントファイルを自らの端末のクライアントソフトで読み込むと、トラッカーサイトと呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルを保有するピア(データをやり取りするユーザーの端末)のIPアドレスを取得して、当該ピアから当該ファイルをダウンロードするとともに、自動的にトラッカーサイトにピアとして登録され、以後、別のピアから要求があれば、自己の端末から当該ピアに対して当該ファイルを送信する仕組みのものであることが認められる。
 そして、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件複製物に係るトレントファイルをダウンロードした上、ビットトレントのクライアントソフトの一つである本件ソフトを起動し、本件ソフト上にて、本件複製物のダウンロードを開始したところ、本件IPアドレスを割り当てられた本件氏名不詳者が本件複製物をアップロードしていることを確認し、さらに、実際に本件氏名不詳者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較したところ、これらが同一の内容を有していることを確認したことが認められる。本件全証拠によっても、このような本件調査会社による調査手法に特段の問題点は認められない。
イ これに対し、被告は、@本件調査会社は、原告の依頼に基づき調査を行った会社にすぎず、本件ソフトを開発した会社でもないから、その説明の中立性及び正確性が担保されていない、A本件調査会社は、多数のファイルを同時にダウンロードしていることからすれば、IPアドレスの取り違えが発生している可能性がある、B本件スクリーンショットにおいて、侵害者の端末の通信情報が表示される下段の「上り速度」及び「下り速度」の欄がいずれも空欄となっていることからすれば、本件調査会社の調査結果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者が本件複製物を実際にアップロードした際のものではないなどとして、本件調査会社の調査結果は信用できないと主張する。
 しかし、上記@については、本件調査会社による調査手法に特段問題点が認められないことは上記アで説示したとおりであって、本件調査会社が原告の依頼を受けて調査を行ったことや本件ソフトの開発会社ではないことは、本件調査会社の調査結果の信用性を直ちに否定するような事情とはいえない。したがって、この点の被告の主張は採用することができない。
 上記Aについては、実際にIPアドレスの取り違えが発生していることをうかがわせる証拠もないから、この点の被告の主張は、抽象的なおそれを指摘するものにすぎず、採用することができない。
 上記Bについて、証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件スクリーンショットの撮影時において、本件IPアドレスで特定される端末のファイル保有率は90.2%であり(侵害者の端末の通信情報が表示される本件スクリーンショット下段の「%」欄)、また、本件調査会社の端末の通信情報が表示される本件スクリーンショット上段の「状態」欄には、本件調査会社のダウンロードの進行状況として「ダウンロード中99.6%」と記載されていることが認められる。そうすると、上記の時点において、本件氏名不詳者は本件複製物をアップロードすることが可能な状況にあり、かつ、本件調査会社は本件複製物のダウンロードを実施していたものといえる。このような事情に加え、本件スクリーンショット下部の「上り速度」や「下り速度」欄が空欄であったとしても、ファイルのダウンロードが進行し得ること(甲12)にも鑑みると、被告が指摘する「上り速度」及び「下り速度」欄が空欄となっているということのみをもって、本件調査会社の調査結果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者が本件複製物を実際にアップロードした際のものではないということはできない。
 したがって、被告の主張はいずれも採用することができない。
(3)違法性阻却事由の不存在
 本件全証拠によっても、本件氏名不詳者の行為について、違法性阻却事由が存在することはうかがわれないから、不存在であると認めるのが相当である。
(4)小括
 以上によれば、本件調査会社の調査結果に基づき、本件氏名不詳者が本件複製物をビットトレントネットワークにアップロードすることによって、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)と認めることができる。
2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であることが認められる。
 したがって、原告には被告が保有する本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
3 結論
 以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 バヒスバラン薫
 裁判官 木村洋一


(別紙)発信者情報目録
 以下のIPアドレスを、以下の日時に被告から割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
日時 令和4年(2022年)7月22日7時18分19秒
IPアドレス 省略
 以上

(別紙)動画目録
品番 省略 甲1
作品名 省略 甲2
 以上
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