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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件P
【年月日】令和5年7月13日
 東京地裁 令和4年(ワ)第1540号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年5月25日)

判決
原告 株式会社ケイ・エム・プロデュース
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋利昌(編注:高ははしごたか)
同 平出晋一
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、氏名不詳者ら(以下「本件発信者」という。)がファイル交換共有ソフトウェア「BitTorrent」を使用し、別紙著作物目録記載の各動画(以下、番号順に「本件動画1」などといい、これらを併せて「本件各動画」という。)を送信可能化したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(送信可能化権)を侵害したことは明らかであるなどと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
ア 原告は、アダルトビデオ等の映像の制作、販売を業とする株式会社である。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者。法2条3号)である。
(2)本件各動画の著作権の帰属(甲1、7〜13、21、22、弁論の全趣旨)
ア 本件動画1の監督であるaことA及び本件動画4の監督であるbことBは、いずれも訴外会社から原告に出向していた際に、原告の発意に基づき、原告における職務の履行としてこれらの動画を作成した。両名の出向時の給与は原告が支払っていた。
 また、原告は、「BAZOOKA」(本件動画1)及び「million」(本件動画4)という自己のレーベル名を使用して、自己の著作の名義の下にこれらの動画を公表した。
 したがって、本件動画1及び4については、原告がその著作者として著作権を有する。
イ 本件動画2の監督であるcことCと原告とは、遅くとも令和4年3月14日付け「確認書」(甲11)作成時において、同動画に関する著作権が原告に帰属することを合意した。
 したがって、本件動画2の著作権者は原告である。
ウ 本件動画3の監督であるdことDは、E株式会社(以下「E社」という。)の代表取締役であるところ、原告とE社は、平成29年6月1日付け「映像作品等制作業務委託契約書」(甲12)に基づき業務委託契約を締結した。同契約によれば、同契約に従って作成される音声、映像、画像等のデータである成果物(1条(2))等の著作権等は、その完成と同時に当然に原告に帰属することとされている(13条1項)。
 本件動画3は、この業務委託契約に基づき制作されたものである。
 したがって、本件動画3の著作権者は原告である。
エ 本件動画5の監督であるfことF(以下「F」という。)は、原告からの委託を受け、脚本の創作や映像の編集等の総指揮を行い、本件動画5の脚本や映像内容に関する最終決定権限を有し、映画の著作物である本件動画5の全体的形成に創作的に寄与した。このため、Fは、本件動画5の著作者といえる。
 他方、原告は、自己のレーベル名「million」を使用して、本件動画5の製作を発意し、製作費用を負担するなどの責任を有していたことから、本件動画5の「映画製作者」に当たる。Fは、このような原告に対し、本件動画5の製作に参加することを約束していた。
 したがって、本件動画5の著作権は原告に帰属する。
(3)BitTorrentの仕組み等(甲2、弁論の全趣旨)
 BitTorrentとは、いわゆるP2P形式の通信プロトコル又はこれを実装したファイル共有ソフトであり、その概要や使用の手順は、次のとおりである。
ア BitTorrentにより特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。
イ BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、まず、その使用端末にBitTorrentに対応したクライアントソフト(以下、対応クライアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上で、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これをBitTorrentに読み込ませる。これにより、BitTorrentは、当該トレントファイルに記録されたトラッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求する。トラッカーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に応じ、自身にアクセスしているファイル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユーザーに接続し、それぞれから、当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピースのダウンロードが終了すると、自動的に、元の1つの完全なファイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。他方、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了して完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザーは自動的にシーダーとなる。
 シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置かれる仕組みとなっている。
(4)本件調査(甲3〜5、18、弁論の全趣旨)
ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、BitTorrentにおける本件各動画の著作権侵害に係る調査(以下「本件調査」という。)を委託した。
イ 本件調査は、本件調査会社が開発した著作権侵害検出システム(以下「本件検出システム」という。)を使用して行われた。その概要は、以下のとおりである。
 すなわち、本件調査会社担当者は、トラッカーサイトにおいて、本件各動画と同一と疑われるファイルを検索して、そのハッシュ値を取得し、本件検出システムに登録する。本件検出システムは、定期的に自動でトラッカーサーバに接続し、本件各動画のファイルの提供者のリストを要求して、トラッカーサーバから当該提供者のIPアドレス、ポート番号等が記載されたリストの返信を受け、当該リストのデータを本件検出システムのデータベースに記録する。その後、本件検出システムは、当該リストに記録されたユーザーに接続をして、当該ユーザーからの応答を確認し(以下、この応答確認を「HandShake」という。)、これを記録する。HandShakeの応答が行われたということは、当該ユーザーが当該ハッシュ値のファイル(以下、本件におけるこのファイルを「本件侵害動画」という。)を所持していることを意味する。ただし、本件検出システムは、HandShakeの際に、本件侵害動画のダウンロードを行っていない。
ウ 本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙動画目録(1)〜(5)の「発信時刻」欄記載の日時(HandShakeが行われた日時)に、本件侵害動画がアップロードされていること、このアップロードの通信に同目録の「IPアドレス」欄記載の各IPアドレス(以下、これらを併せて「本件IPアドレス」という。)が使用されていることなどを報告した。
(5)被告による本件発信者情報の保有(弁論の全趣旨)
 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は次のとおりである。
(原告の主張)
(1)公衆送信化権侵害
 本件調査及びBitTorrentの仕組みによれば、本件発信者は、遅くとも別紙動画目録(1)〜(5)の「発信時刻」欄記載の日時までに、本件各動画のファイルの全部又は一部を取得して自己の端末に保存し、かつ、これと同時に、トラッカーに対して当該ファイルの送信が可能であることを通知し、もって、他の不特定多数のユーザー(ピア)からの要求に応じて当該ファイルの送信(アップロード)をすることができる状態にあった。したがって、本件発信者が、遅くとも当該日時までに、BitTorrentのネットワークを介した特定電気通信による情報の流通によって、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したことは明らかである。
(2)被告の主張について
ア BitTorrentにおいては、共有されるファイルを電子的に特定するために、ファイルごとにハッシュが定められているところ、本件各動画と、本件発信者がアップロードできる状態にしていたハッシュが付されたファイルの動画は、いずれも同一である。本件侵害動画に修正増減がある場合でも、本件各動画の総再生時間と比較すると、結合部分ないし削除部分はごく僅かである。字幕についても、表示されているのは画面のごく一部分であり、これにより本編の視聴が妨げられるようなものではない。したがって、本件各動画と本件侵害動画は実質的に同一である。
イ 本件調査の過程ではHandShakeが行われているところ、HandShakeが行われたことは、本件発信者が、本件検知システムの要求に応じて自動的に本件各動画をダウンロードできる状態にしていたことを示す。このため、このHandShakeによって、原告の送信可能化権が侵害されたということができる。
ウ 本件検出システムは、権利侵害情報のダウンロード時に発信元のIPアドレス等を自動的にデータベースに記録する機能を有するところ、IPアドレスの特定方法の信頼性に疑いはない。
 また、本件検出システムのリストに記載された送信元のIPアドレスが実際の送信元のIPアドレスと同一であることは、試験用ファイルを用いた2度の同一性確認試験の結果からも明らかである。
(被告の主張)
 争う。
(1)本件侵害動画には本件各動画に広告動画や映像の画面上に字幕等が付されているなどしていることから、本件各動画と本件侵害動画とは同一性を欠く。
(2)被告が本件発信者に対して法6条1項に基づく意見聴取を行ったところ、一部の者から、身に覚えがないなどとして発信者情報開示に同意しない旨の回答があった。これらの者との関係では、本件各動画にかかる著作権侵害は認められない。
(3)本件調査においては、本件各動画のダウンロードがなされていない。トラッカーに対する通知やHandShakeにおける通信をもってファイルの全部ないし一部が送信されるものではないから、これにより著作権の具体的な侵害があったとはいえない。
(4)本件調査については、本件検出システムにおける時刻等の記録の正確性が担保されていないなど、その信用性に疑義がある。
第3 当裁判所の判断
1 争点に対する当裁判所の判断
(1)送信可能化権侵害の成否
 BitTorrent及び本件検出システムの仕組み(前提事実(3)、(4))を踏まえると、本件発信者は、その端末にBitTorrentをインストールして、本件各動画のファイルに係るピースをダウンロードし、かつ、当該ピースを不特定の者からの求めに応じてBitTorrentのネットワークを介して自動的に送信し得るようにし、被告から本件IPアドレスの割当を受けてインターネットに接続された状態の下、HandShakeの時点である別紙動画目録(1)〜(5)の「発信時刻」欄記載の各日時において、アクセスしてきた不特定の者に対し、自動的に、本件各動画のファイルのピースをアップロード可能な状態にあることを通知したものと認められる。
 そうすると、本件発信者は、HandShakeの時点である別紙動画(1)〜(5)目録の「発信時刻」欄記載の各日時において、本件各動画に係るファイル(ピース)につき自動公衆送信し得るようにしていた(著作権法2条1項9号の5ロ)ものといえる。
 したがって、このような本件発信者の行為により、別紙動画目録(1))〜(5)の「発信時刻」欄記載の各日時において本件各動画に係る原告の送信可能化権が侵害されたことは明らかと認められる。
(2)被告の主張について
 被告は、本件侵害動画が本件各動画との同一性を欠く旨や本件検出システムの正確性その他本件調査の信用性に疑義がある旨などを主張する。
 まず、証拠(甲14〜16)及び弁論の全趣旨によれば、本件侵害動画は、本件各動画には表示されない字幕や文字が表示されたり、広告が挿入されたり、本件各動画の末尾にあった著作権に関する警告等の部分が削除されたりしている点で、本件各動画と完全に同一内容のものではないことが認められる。もっとも、両者の内容は上記の点を除き概ね一致しており、相違する点である字幕等の表示は動画の視聴を妨げるような態様のものではなく、また、広告等の挿入ないし削除もわずかな程度に過ぎない。したがって、本件各動画と本件侵害動画との相違は、内容的には実質的同一性を失わせる程度のものとはいえない。
 また、被告の意見聴取に対する回答者の一部が身に覚えがないなどと回答したからといって、必ずしもその者による権利侵害が否定されるものではない。
 さらに、本件調査に当たっては本件発信者による当該ファイルの送信が行われていないけれども、送信可能化とは、著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の行為により自動公衆送信し得るようにすることで足り、受信者によるダウンロードを要しない。
 本件調査の信用性については、本件検出システムにおける発信元のIPアドレス等の記録化は自動的に行われており、人為的な誤りが介入するおそれはなく、本件記録を精査しても、当該システムの正確性ひいては本件調査の信用性に疑義を生じさせる証拠は見当たらない。被告は、本件調査における時刻の記録の正確性について疑義を呈するけれども、本件検出システムは、その利用するクラウドサービスの提供者が提供するNTPサーバと定期的に時刻の同期を行うことでシステムの内部時計の正確性を確保しており、別紙動画目録(1)〜(5)の「発信時刻」欄記載の日時もこれに依拠したものと認められる(甲4、18)。このため、本件調査に係る時刻の表示に恣意や手作業による誤差が介在する余地はなく、表示された時刻は正確なものといってよい。また、本件検出システムのリストに記載された送信元のIPアドレスが実際の送信元のIPアドレスと同一であることは2度の同一性確認試験によって確認されているところ(甲6、17、18)、これらの試験の正確性等を疑わせる証拠は見当たらない。その他本件検出システムの信用性を疑わせる事情を示す証拠はないことに鑑みると、本件調査は信用するに足りるものといってよい。
 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 その他の要件
 上記1のとおり、本件発信者による本件各動画に係る原告の送信可能化権侵害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等を予定していることが認められるから、原告には本件発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)が認められる。
3 まとめ
 以上より、原告は、法5条1項に基づき、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 久野雄平
 裁判官 吉野弘子


(別紙)発信者情報目録
 別紙動画目録(1)〜(5)記載の各IPアドレス(同目録ポート番号欄に記載がある場合は、「各IPアドレス及び各ポート番号」)を、同目録記載の各発信時刻に割り当てられていた者に関する以下の情報。
 @氏名又は名称
 A住所
 B電子メールアドレス

(別紙動画目録(1)〜(5)省略)
(別紙著作物目録省略)
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日本ユニ著作権センター
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