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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件R
【年月日】令和5年7月6日
 東京地裁 令和4年(ワ)第22370号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年5月11日)

判決
原告 株式会社A&T
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松田真


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙侵害著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件動画に係る原告の著作権(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)当事者
ア 原告は、本件動画の著作権を有する。(甲2の4)
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、また、本件発信者情報を保有している。
(2)「BitTorrent」の仕組み等
 「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆるP2P形式のネットワークである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際には、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。
 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降は、ピースのアップロードのみを行うこととなる。(以上につき、甲4、5)
(3)原告による本件動画のビットトレント上のアップロード調査
 原告は、本件訴訟提起に先立ち、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおいて、本件動画に係るファイルがアップロードされているかどうかの調査を委託した。本件調査会社は、「μtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本件動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードしているユーザにおいて別紙発信者情報目録記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)が使用されていると報告した(甲1の4、4〜6)。
2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
 本件調査会社は、ビットトレントを利用した本件動画のダウンロード及びアップロードの調査に際し、ビットトレントの開発会社によって管理されている本件クライアントソフトを使用している。本件クライアントソフトは、ダウンロードをするトレントファイルを検索し、ビットトレントを使用しているピアの情報を表示する機能を有している。そのため、本件クライアントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIPアドレスを解明することが可能となる。
 本件調査会社は、調査対象となる本件動画のファイルをインターネット上で検索してトレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動し、ダウンロードしたトレントファイルから本件クライアントソフト上で対象となるデータのダウンロードを開始した。これにより、本件動画のピースを保有するピア(以下「本件発信者」という。)が接続しているIPアドレス、接続日時等が特定された。
 上記の調査により、本件発信者は、ビットトレントを利用する他のユーザ(ピア)からその余のファイル(ピース)をダウンロードすることによって完全なファイルを取得すると共に、本件動画のピースをアップロード可能な状態に置き、本件発信者以外のユーザが本件動画の完全なファイルをダウンロードすることを可能とさせており、本件動画を送信可能化したことは明らかである。
 したがって、原告の本件動画に係る著作権(送信可能化権)が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
 不知ないし争う。
 原告の主張するビットトレントの仕様に照らせば、本件動画が送信可能化(アップロード可能化)されたのは、これに先立ち、本件動画がダウンロードされたからにほかならない。そうすると、原告の送信可能化権は、これに先立ってなされたファイルのダウンロードによって侵害されたといえる。しかし、ファイルをダウンロードする行為は、あくまでデータを受信する行為であって、法2条1号の特定電気通信(「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」)に当たらない。このように、仮に原告の送信可能化権が侵害されているとしても、これは特定電気通信による情報の流通によって侵害されたわけではないから、法5条1項の要件を充たさない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1)証拠(甲1の4、2の4、4〜6)及び弁論の全趣旨によれば、本件クライアントソフトを使用した本件調査会社による調査内容は、以下のとおりであることが認められる。
ア 本件調査会社は、原告が著作権を有する本件動画の作品番号やタイトルを聴取し、ウェブサイトにおいて本件動画に係るトレントファイルを検索し、本件動画に係るトレントファイルが存在することを確認した。
イ 本件調査会社は、本件クライアントソフトを起動して端末にダウンロードしたトレントファイルから、本件クライアントソフト上で本件動画に係るピースを有するピアから当該ピースをダウンロードした。本件調査会社は、当該ダウンロード中に当該端末に当該ピアのIPアドレスとして表示されているIPアドレスを確認し、スクリーンショットして保存した。
ウ 同スクリーンショットの画像(甲1の4)には、本件動画(品番:PTS_368)のファイル(ピース)につき、本件調査会社が別紙発信者情報目録記載の「日時」欄記載の日時にダウンロードしていること、当該ピースのダウンロード先のピアのIPアドレスとして、本件IPアドレスが表示されていることが認められる。
(2)上記の認定事実及び前記前提事実を踏まえて検討する。
 ビットトレントは、本件クライアントソフトのようなクライアントソフトがダウンロードされた端末(ピア)間において一つのファイルを断片化したピースのダウンロードが始まると、完全に当該ピースのダウンロードがされる前からダウンロードした分のピースのアップロードも始まり、一つのファイルのピースの全てのダウンロードが終了すると、アップロードのみを行うことになるという仕組みを有するものである。
 本件調査会社が本件クライアントソフトを利用して本件動画のファイルに係るピースを有するピアから当該ピースのダウンロードを開始したところ、当該ピアについて、本件IPアドレスを割り当てられたユーザであるとの表示がされた。このことから、本件動画に係るピースは、本件IPアドレスが割り当てられたユーザ(本件発信者)によりアップロードされたものと認められる。
 そうすると、本件動画に係るファイル(ピース)は、本件IPアドレスが割り当てられた本件発信者により、公衆からの求めに応じて送信可能な状態に置かれたということができる。すなわち、本件発信者は、本件動画に係るデータを送信可能化したものであり、これにより、本件動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)。
 これに対し、被告は、本件動画が送信可能化されたのは、これに先立ち、本件動画がダウンロードされたからであり、原告の送信可能化権はファイルのダウンロードによって侵害されたといえるところ、ファイルのダウンロードはあくまでデータを受信する行為であって、特定電気通信に当たらない旨を主張する。
 しかし、ビットトレントの仕組み上、ピアによるピースのアップロードの前提として、それに先立つピースのダウンロードが存在するとしても、少なくとも、別紙発信者情報目録記載の日時に本件IPアドレスを割り当てられた本件発信者が、当該日時時点において、本件動画のピースをダウンロードしつつアップロードしていたことは前記認定のとおりである。その時点のアップロードに係る通信は、不特定者により受信されることを目的とする電気通信の送信として、特定電気通信に当たるものと認められる。
 したがって、被告の上記主張は採用できない。
2 その他の要件について
 前記前提事実及び上記認定を踏まえれば、被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であると認められ、また、本件発信者情報を保有している。
 また、上記1のとおり、本件動画は本件発信者により送信可能化されたことが認められることから、原告には、本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使をするため、本件発信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があると認められる。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 吉野弘子


別紙 発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及び発信元ポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
日時:令和4年(2022年)7月8日15時47分56秒
IPアドレス:(省略)
発信元ポート番号:(省略)

(別紙侵害著作物目録省略)
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日本ユニ著作権センター
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