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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件Q
【年月日】令和5年7月6日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70144号 発信者情報開示命令申立却下決定に対する異議事件
 (口頭弁論終結日 令和5年5月9日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 小井土直樹
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松田真


主文
1 東京地方裁判所令和4年(発チ)第10006号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和5年2月28日にした決定を認可する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 東京地方裁判所令和4年(発チ)第10006号事件の発信者情報開示命令申立却下決定を取り消す。
2 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
3 発信者情報開示命令申立てに係る手続費用及び訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 司法書士である原告は、氏名不詳者(以下「発信者」という。)がツイッター(インターネットを利用してメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークをいい、以下「ツイッター」という。)に別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)の投稿(以下「本件投稿」という。)をしたことにより、原告の著作権及び著作者人格権が侵害されるとともに、原告の名誉権が侵害されたと主張して、インターネット接続サービス事業を運営する株式会社である被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任法」という。)5条2項に基づき、発信者情報開示命令の申立てをした。
 本件は、原告が、上記申立てを却下した決定に対し、同法14条1項に基づき、異議の訴えを提起した事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨から認定できる事実をいう。)
(1)当事者
 原告は、東京司法書士会に所属する司法書士であり、「a」の表示名及び「@(以下省略)」のユーザー名でツイッターアカウントを開設している(甲2、弁論の全趣旨)。
被告は、インターネット接続サービス事業を運営する株式会社である。
(2)原告による本件写真の投稿
 原告は、令和2年9月3日頃、原告が申し立てた発信者情報開示仮処分命令申立事件に係る申立書類一式をiPhoneで撮影し(本件写真)、同日、本件写真と共に「発信者情報開示仮処分命令の申立をまた行いました月曜日に債権者面接。明日はYouTube動画とコメントで開示したいものがあるためGoogle社に申立予定です。もう少し勉強させていただき、匿名による誹謗中傷に困っている方に情報提供したり、書類作成をしてあげたりと出来るようにいたします。」(絵文字省略)との文章をツイッターに投稿した。本件写真は、別紙著作物目録記載のとおりである(甲2、弁論の全趣旨)。
(3)発信者による本件投稿
 発信者は、令和2年9月4日、本件投稿を行った。本件投稿の内容は、別紙投稿記事目録記載のとおりであり、本件写真と共に「申立を行ったというツイートで掲載している画像。申し立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」との文章が記載されている(甲3)。
(4)原決定
 原告は、令和4年10月17日、当庁に対し、本件と同趣旨の請求を内容とする発信者情報開示命令の申立てをしたものの、当庁裁判官は、令和5年2月28日、原告の申立てを却下する旨の決定をした(甲1)。
3 争点及び当事者の主張
(1)本件の争点
 本件の争点は、@権利侵害の明白性、A侵害関連通信該当性、B開示を受けるべき正当な理由の有無である。
(2)当事者の主張
ア 権利侵害の明白性
(原告の主張)
 原告は、本件記事の投稿に先立つ別紙著作物目録記載の発表日時に、同目録記載の写真(以下「本件写真」という。)を、自ら開設するツイッターアカウントに投稿する方法で公表した。本件写真は、原告が申し立てた発信者情報開示仮処分に係る申立書類一式を撮影したものであり、原告に対し誹謗中傷をする者に対し容赦せず、法的措置も辞さないとする意思など、原告の思想や感情を創作的に表現した著作物である。
 したがって、発信者がツイッターにおいて本件写真を原告の氏名を記載せず投稿したことにより、原告の著作権(公衆送信権及び送信可能化権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害された。
 また、発信者は、本件写真と共に「申し立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」と投稿することによって、原告が発信者情報開示仮処分命令申立てを行っていないのに、これを行ったとの虚偽の投稿をする人物であるという事実を摘示しており、これにより原告の名誉権が侵害された。
(被告の主張)
 本件写真は発信者情報開示仮処分命令申立書をiPhoneで撮影しただけのありふれたものであり、著作物には当たらない。また、発信者による本件投稿は、公正な慣行にも合致し、原告による投稿を批評するという目的のために正当な範囲内で行われたものであるから、著作権法32条1項の引用として適法である。さらに、本件投稿については、前記目的等に照らせば、著作権者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはなく、公正な慣行にも合致しているから、著作権法19条3項により著作者名の表示を省略することができる。
 また,名誉権侵害の主張については争う。
イ 侵害関連通信該当性
(原告の主張)
 権利の侵害に係る投稿に用いられたアカウントのログインに係る通信は、アカウント所持者が変更されたと認められる特段の事情のない限り、全て特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則5条1項柱書の「侵害情報の通信と相当の関連性を有するもの」と解される。したがって、少なくとも本件記事の投稿に用いられたアカウントにログインするために行った識別符号その他の符号の電気通信による送信であって、投稿日時に近接する別紙ログイン日時目録記載の日時頃のログインに係るものは、いずれも同規則5条1項1号に該当し、本件投稿の侵害関連通信に該当する。
(被告の主張)
 同規則5条1項柱書の「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当する通信は、侵害情報の送信一つにつき一つであり、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信を意味する。そして、別紙ログイン日時目録に記載された43個の接続日時に係るログインは、いずれも本件投稿の直前のログインではない。したがって、別紙ログイン日時目録記載のログインは、いずれも侵害関連通信ではない。
ウ 開示を受けるべき正当な理由の有無
(原告の主張)
 原告は、本件記事の発信者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求や著作権法に基づく差止請求をする予定であるが、この権利を行使するためには被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受ける必要がある。
(被告の主張)
 本件写真は販売されているわけではないため、本件投稿によって原告に損害はない。また、原告はツイッターを運営するTwitter社に対して著作権侵害のツイートがある旨申告しておらず、著作権侵害差止請求の予定があるとは考えられない。
第3 当裁判所の判断
1 著作物性について
 著作権法2条1項1号は、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものである旨定めている。
 これを本件についてみると、前記前提事実、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、発信者情報開示仮処分命令申立事件に関する申立書及びこれに関する書面をiPhoneで撮影したものであるところ、その内容は、「管轄上申書」と題する書面等を重ねた上、若干斜めに「発信者情報開示仮処分命令申立書」と題する書面を重ね、ほぼ真上からこれを撮影したものであり、本件写真の左右には余白があるものの、上記各書面は本件写真の大部分を占めており、そのほとんどの部分が写真の枠内に収まっていることが認められる。
 上記認定事実によれば、本件写真の構図は、書面等をその大体の部分が写真の枠内に収まるようにほぼ真上から撮影するというごくありふれたものであり、光量、シャッタースピード、ズーム倍率等についても、原告において格別の工夫がされたものと認めることはできない。
 そうすると、本件写真は、ありふれた表現にとどまるものであるから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、本件写真が著作物に該当するものと認めることはできない。
 したがって、本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
 これに対し、原告は、申立書類一式を撮影することによって、原告に対し誹謗中傷をする者に対し容赦せず、法的措置も辞さないとする意思など、原告の思想や感情を創作的に表現したものであるなどと主張する。しかしながら、原告主張に係る思想や感情を十分に考慮しても、上記において説示した本件写真の表現内容等を踏まえると、上記判断を左右するに至らず、原告が弁論終結後に提出した原告準備書面1の内容を踏まえても、本件写真の表現内容等に照らし、上記判断は動かない。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。
2 引用について
 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸般の事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記前提事実、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は発信者情報開示の仮処分命令を求める民事保全手続に係る申立書等を撮影したものであり、本件投稿が、本件写真と共に「申立を行ったというツイートで掲載している画像。申し立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」との文章を投稿するものであることからすると、本件投稿は、原告が、上記民事保全手続の申立てをした旨投稿しているのに、同投稿に付された本件写真に「受付印」がないことを批評する目的で本件写真を利用したことが認められる。
 そうすると、本件投稿において本件写真を示すことは、批評の対象となった投稿の内容を理解するに資するものといえるから、本件写真の利用は、批評の目的上正当な範囲内で行われたものといえる。
 また、前記前提事実、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真には、「債権者」として原告の氏名が記載されており、本件投稿には、「申立を行ったというツイートで掲載している画像。」と記載されていることが認められることからすれば、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を踏まえると、本件写真の撮影者は、原告であると理解されると解するのが相当である。そうすると、本件写真の出所は明らかであるといえ、その他に、本件写真及び本件投稿の内容、上記批評の目的、本件写真の掲載態様等を併せ考慮すると、本件投稿に本件写真を添付したことは、公正な慣行に合致しているものと認めるのが相当である。
 したがって、仮に本件写真に著作物性が認められるとしても、本件投稿において本件写真を利用する行為は、著作権法32条1項の規定に基づき、適法であるものと認められる。
 これに対し、原告は、本件投稿には引用元の記載がないため公正な慣行に合致せず、また、引用の目的も原告の名誉を毀損するためであり、正当な目的ではない旨主張する。しかしながら、原告の主張は、後記(3)及び(4)における裁判所の認定とは異なる前提に立って、論難するものにすぎず、上記判断を左右するに至らない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
3 氏名表示権侵害について
 著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる(著作権法19条3項)。
 これを本件についてみると、仮に本件写真に著作物性が認められる場合であっても、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件写真の著作者が原告であると理解されることは、前記において説示したとおりである。その他に、本件投稿の批評の目的、本件投稿の記載内容、掲載態様等を併せ考慮すれば、本件投稿において本件写真を利用するに当たり、原告の氏名の表示は、著作権法19条3項に基づき、省略することができるものといえる。
 したがって、仮に本件写真に著作物性が認められるとしても、本件投稿において本件写真を利用する行為が、原告の氏名表示権を侵害するものとはいえない。
 以上によれば、本件投稿により原告の著作者人格権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
4 名誉権侵害の成否
 新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものであり(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、上記の理は、ツイッターにおいて投稿された内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても、異なるところはない。
 これを本件についてみると、本件投稿の内容は、前記(2)において説示したとおり、原告が民事保全手続の申立てをした旨を投稿しているのに、同投稿に添付された本件写真には受付印が押されていないという事実を摘示するものにすぎず、これを超えて、原告が虚偽の事実を投稿する人物であることを摘示するものと認めることはできない。そうすると、上記認定に係る摘示事実が原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。
 したがって、本件投稿により原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
 これに対し、原告は、本件投稿につき、原告が虚偽の事実を投稿する人物であることを摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させる旨主張するものの、原告の主張は、上記認定とは異なる前提に立って名誉権侵害を主張するものであり、その前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用することができない。
5 小括
 その他に、弁論終結後に提出された原告準備書面1を含め、原告の主張及び証拠を改めて検討しても、本件投稿及び本件写真の内容等を踏まえると、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
 以上によれば、原告主張に係る各権利は、いずれも侵害されたことが明らかであるとはいえず、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
第4 結論
 よって、原決定は相当であるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 古賀千尋
 裁判官 尾池悠子


別紙 発信者情報目録
 IPアドレス(省略)を別紙ログイン日時目録記載の各ログイン日時(JST)ころに使用した契約者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス
 以上

別紙 ログイン日時目録
1 令和2年7月22日午前7時59分03秒
2 令和2年7月23日午前8時49分43秒
3 令和2年7月24日午前8時50分39秒
4 令和2年7月25日午前8時55分13秒
5 令和2年7月26日午前8時56分11秒
6 令和2年7月27日午前8時30分07秒
7 令和2年7月28日午前7時30分20秒
8 令和2年7月29日午前8時51分34秒
9 令和2年7月30日午前8時05分34秒
10 令和2年7月31日午前8時06分08秒
11 令和2年8月1日午前8時22分30秒
12 令和2年8月2日午前8時24分00秒
13 令和2年8月3日午前8時24分51秒
14 令和2年8月4日午前8時36分42秒
15 令和2年8月5日午前8時27分34秒
16 令和2年8月6日午前8時14分46秒
17 令和2年8月7日午前8時11分27秒
18 令和2年8月8日午前8時12分25秒
19 令和2年8月9日午前8時19分05秒
20 令和2年8月10日午前8時30分23秒
21 令和2年8月11日午前8時31分34秒
22 令和2年8月12日午前8時50分14秒
23 令和2年8月13日午前7時42分24秒
24 令和2年8月14日午前8時31分56秒
25 令和2年8月15日午前8時17分53秒
26 令和2年8月16日午前8時18分22秒
27 令和2年8月17日午前8時45分17秒
28 令和2年8月18日午前8時21分43秒
29 令和2年8月19日午前7時22分48秒
30 令和2年8月20日午前8時38分20秒
31 令和2年8月21日午前8時39分06秒
32 令和2年8月22日午前8時09分51秒
33 令和2年8月23日午前8時31分50秒
34 令和2年8月24日午前8時10分01秒
35 令和2年8月25日午前8時37分35秒
36 令和2年8月26日午前8時39分00秒
37 令和2年8月27日午前8時49分11秒
38 令和2年8月28日午前8時50分05秒
39 令和2年8月29日午前8時05分45秒
40 令和2年8月30日午前8時07分06秒
41 令和2年8月31日午前8時42分54秒
42 令和2年9月1日午前8時43分21秒
43 令和2年9月2日午前8時50分06秒
 以上

別紙 投稿記事目録
閲覧用URL: https://以下省略
ユーザー名: @以下省略 投稿日時:2020年9月4日18:27
投稿内容(省略)
 以上

別紙 著作物目録
1 著作者 原告
2 発表日時 令和2年9月3日午後5時5分ころ
3 発表元URL:https://以下省略
4 著作物の形態 写真の著作物
5 写真(省略)
 以上
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/