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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AD 【年月日】令和5年6月23日 東京地裁 令和4年(ワ)第19646号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年4月17日) 判決 原告 株式会社グルーヴ・ラボ 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦 同 円子知頌 同 郭宗●(編注:さんずい+白+告) 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙発信者情報目録記載5、7及び9の品番及び作品名の各動画(以下、これらを総称して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成した動画ファイル(以下、これらを総称して「本件各ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得るようにするとともに、本件各ファイルを公衆送信したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求等のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、映像、音楽等のデジタルコンテンツの企画、制作、編集、販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である(弁論の全趣旨)。 (2)本件各動画の著作物性及び著作権者 原告は、著作物である本件各動画の著作権者である(甲9、弁論の全趣旨)。 (3)ビットトレントの仕組み(甲4ないし7、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利用するためのソフトウェアである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。 ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有するピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (4)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲4ないし6、8、9) 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であることが疑われるファイルに対応するトレントファイルを入手した。 本件調査会社は、ビットトレントクライアントソフトウェアである「μTorrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応するファイルをダウンロードし、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報をスクリーンショットにより保存した。 本件調査会社は、ダウンロードした上記トレントファイルに対応するファイルを再生し、表示される映像が本件各動画と同一であることを確認した。 (5)本件各発信者情報の保有 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点 (1)特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1) (2)原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2) 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) ア 本件各氏名不詳者により本件各動画が送信可能化されたこと ビットトレントネットワークを形成するピアは、共有されているファイルの送信を受けるのと同時に、公衆たる他の利用者が管理するピアに対し、当該ファイルを送信し得る状態となる。すなわち、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、他のピアからファイルの送信を受けている間、自動公衆送信装置として機能し、その記録媒体は公衆送信用記録媒体となる。そして、他のピアからファイルの送信を受けることは、自動公衆送信装置への情報の入力に当たるとともに、公衆送信用記録媒体への情報の記録に当たる。 このビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社による調査の際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアにおいて、本件各動画が送信可能化されていることは明らかである。 したがって、本件調査会社がスクリーンショットにより記録した日時及びIPアドレス、すなわち別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者の管理するピアが、ビットトレントネットワークを介して本件各ファイルの送信を受けることは、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化する行為(著作権法2条1項9号の5イ)と評価できる。 イ 本件各氏名不詳者により本件各動画が自動公衆送信されたこと ビットトレントネットワークを形成しているピアは、他のピアから共有されるファイルの送信を受けるのと同時に、公衆たる他の利用者が管理しているピアからの求めに応じて自動的にファイルを送信する。 このビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社による調査の際、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアが、本件各動画を自動公衆送信していることは明らかである。 したがって、本件調査会社がスクリーンショットにより記録した日時及びIPアドレス、すなわち別紙発信者情報目録記載の日時及びIPアドレスにより特定される本件各氏名不詳者の管理するピアが、@他の利用者が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信したこと、A本件調査会社が管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信したことは、いずれも本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信する行為(著作権法2条1項9号の4)と評価できる。 ウ 本件各氏名不詳者による本件各動画の送信可能化や自動公衆送信に係る通信は特定電気通信に当たること 特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)とされているところ、著作権法は、送信可能化及び自動公衆送信を公衆送信として評価しているから、前記ア及びイの本件各氏名不詳者による本件各動画の送信可能化や自動公衆送信に係る通信は、特定電気通信に当たる。 エ 違法性阻却事由の不存在 本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化及び自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。 オ 小括 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 (被告の主張) ア 本件調査会社による調査が信頼性及び信用性を有するものであることは明らかでないこと 原告は、本件ソフトウェアを用いた調査結果に基づいて、本件各発信者情報から特定される者が本件各動画に係る原告の権利を侵害した者であると主張する。しかし、本件ソフトウェアを用いた調査は、一般社団法人テレコムサービス協会においてP2Pファイル交換ソフトウェアによる権利侵害情報の流通に関する検知システムとして信頼性が認められると認定されたシステムを用いたものではないから、当該調査結果が信頼性及び信用性を有するものであるとはいえない。 イ 本件各氏名不詳者の管理するピアが保有するデータは本件各動画を構成するに足りないものである可能性があること ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルのデータは、多数のピースに分割され、ピース単位でピア同士の間で共有されている。そのため、仮にビットトレントネットワーク上に本件各ファイルを構成する全てのピースが存在していたとしても、本件各氏名不詳者が管理するピアにおいては、当該ファイルを構成するピースの一部しか保有されておらず、かつ、その一部のピースからは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない可能性がある。 ウ 本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化又は自動公衆送信したかは明らかでないこと (ア)トレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した者が「公衆」に当たるかは明らかでないこと 著作権法が送信可能化及び自動公衆送信に当たる行為として定めているものは、当該行為によって行われ、又は行われ得ることとなる送信が、「公衆」からの求めに応じて自動的に行うものでなければならない(著作権法2条1項9号の5柱書、同項9号の4)。 ビットトレントネットワークにおいては、特定のファイルに対応するトレントファイルを共有し、ビットトレントネットワークに参加したピアに対してのみ、当該特定のファイルを構成するピースを送信することができる。そのため、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化又は自動公衆送信したというためには、トレントファイルを取得して、自身の管理するピアをビットトレントネットワークに参加させた者が「公衆」に当たらなければならないが、この点についての立証がされているとはいえない。 (イ)原告が主張する本件各氏名不詳者の管理するピアによる通信が本件各動画を送信可能化したものであるかは明らかでないこと 本件において、本件各動画を送信可能化する行為と評価する余地があるのは、本件各氏名不詳者の管理するピアが、トラッカーに対し、自身が本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを最初に通知した送信に限られる。なぜなら、ビットトレントの仕組みに照らせば、特定のピアに本件各ファイルの一部又は全部が記録された後、当該特定のピアがトラッカーに対し本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを通知し、トラッカーが保有するリストに自身の情報を記録させることによって、他のピアは当該特定のピアが本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを初めて認識できる。したがって、ピアがトラッカーに対し、自身が本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを最初に通知する送信をした時点で、本件各動画に係る送信可能化状態が作出される。 しかし、原告が主張する本件各氏名不詳者の管理するピアによる通信は、トラッカーに対し、自身が本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを最初に通知する送信ではないから、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化したことが明らかといえない。 (ウ)本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したかは明らかでないこと 原告は、本件各氏名不詳者の管理するピアが、他の利用者の管理するピアからの求めに応じて、当該ピアに対して本件各ファイルを自動的に送信したことが、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信する行為に当たると主張するが、具体的にいかなる通信が本件各動画の自動公衆送信に該当するのかは特定されていない。 したがって、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことが明らかといえない。 (2)争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について (原告の主張) 原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (1)自動公衆送信に係る情報の流通による原告の権利侵害の成否について 前提事実(4)によれば、本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であることが疑われるファイルに対応するトレントファイルを入手し、本件ソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応するファイルをダウンロードして、当該ファイルを再生して表示される映像がそれぞれ本件各動画と同一であることを確認したことが認められる。 また、前提事実(3)のとおり、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)ように動作することが認められる。 そして、証拠(甲1、4、6)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各ファイルのダウンロード中に表示されたピアのIPアドレス等の情報に基づいて、別紙発信者情報目録記載5、7及び9の日時欄の日時及び同IPアドレス欄のIPアドレスをそれぞれ特定したことが認められるところ、当該表示は、当該ピアから、本件調査会社の管理するピアに、本件各ファイルが送信されている状態を捉えたものといえる。 以上によれば、別紙発信者情報目録記載5、7及び9の日時欄の日時において、同IPアドレス欄のIPアドレスが割り当てられていた端末により、同品番及び作品名欄の動画が、それぞれ自動公衆送信されたと認められるところ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。 (2)被告の主張について ア 被告は、本件調査会社による調査結果が信頼性及び信用性を有するものではないと主張する。 しかし、被告は、一般社団法人テレコムサービス協会においてP2Pファイル交換ソフトウェアによる権利侵害情報の流通に関する検知システムとして信頼性が認められると認定されたシステムを用いたものではないから、本件調査会社による調査結果が信頼性及び信用性を有するものでない可能性がある旨を抽象的に主張するにとどまり、本件調査会社による調査結果が信頼性及び信用性を欠くものであることを示す具体的な事情を何ら摘示していない。 そして、本件全証拠によっても、本件調査会社による調査結果の信頼性及び信用性に合理的な疑いを差し挟むような事情は何ら認められない。 イ また、被告は、本件各氏名不詳者が管理するピアにおいては、当該ファイルを構成するピースの一部しか保有されておらず、かつ、その一部のピースからなるデータからは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる動画を再生できない可能性があると主張する。 この点、証拠(甲1)によれば、本件各氏名不詳者が管理するピアは、少なくとも本件各ファイル全体の83.3パーセント以上に相当するピースを保有していたと認められるところ、前提事実(4)のとおり、本件調査会社は、ダウンロードした上記ファイルを再生し、表示される映像が本件各動画と同一であることを確認できたというのであるから、本件各動画の本質的特徴を感得するに十分な数量及び組合せのピースを保有していたと認められる。 ウ さらに、被告は、トレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した者が「公衆」に当たることの立証がされているとはいえないと主張する。 著作権法上、「公衆」(同法2条5項)とは、不特定の者又は特定の多数の者を意味すると解される。そして、特定のファイルに対応するトレントファイルは、インターネット上で公開されているのが通常であると考えられるところ、そのようなトレントファイルは少なくとも不特定の者において利用することができるから、同じトレントファイルを共有している他のピアの管理者も不特定の者となるのが通常である。これに対し、本件全証拠によっても、本件各ファイルが特定かつ少数の者の間でのみ共有されていたとは認められない。 したがって、本件各ファイルに係るトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した本件調査会社を含む他のピアの管理者は「公衆」に当たるといえる。 エ 以上のとおり、被告の前記各主張はいずれも採用することができない。 (3)小括 以上の検討結果に加え、他に違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情は見当たらないことからすると、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことにより、特定電気通信による情報の流通によって本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。 2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、損害賠償請求等をする予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。 したがって、原告には本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 (別紙)発信者情報目録 下記日時に下記IPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称及び住所 記 以下省略 |
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