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【事件名】加圧ベルトの写真無断流用事件C(2)
【年月日】令和5年6月21日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10016号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第23925号)
 (口頭弁論終結日 令和5年5月29日)

判決
控訴人 株式会社サーナ(以下「控訴人会社」という。)
控訴人 X(以下「控訴人X」という。)
被控訴人 Y


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における追加請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は、全て控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人会社に対し、105万円を支払え。
3 被控訴人は、控訴人Xに対し、30万円を支払え。
第2 事案の概要等(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。)
1 事案の概要
(1)本件は、
ア 控訴人会社が、@被控訴人は、控訴人会社が著作権を有する画像の複製物をウェブサイトに掲載して控訴人会社の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害し、控訴人会社はこれによって損害を受けた、A被控訴人は上記@の著作物の複製物の掲載によって法律上の原因なく利益を得て、控訴人会社は損失を受けた、B被控訴人は、周知性のある控訴人会社の商品等表示を使用して控訴人会社の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)及び控訴人会社の営業上の信用を害する不正競争(同項21号)を行い、控訴人会社はこれによって損害を被ったと主張し、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求又は不正競争による損害賠償請求として(選択的請求)、110万円の支払を求め、
イ 控訴人会社の代表取締役である控訴人Xが、被控訴人による控訴人会社の著作権侵害行為及び不正競争がされたため、法律相談に行く等の対応を余儀なくされ、被控訴人の前記行為は控訴人Xに対する不法行為ともなり、控訴人Xはこれにより損害を受けたと主張し、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、30万円の支払を求めた事案である。
(2)原判決は、控訴人会社の請求のうち、被控訴人に対して不法行為に基づく損害賠償請求として5万円の支払を求める限度で認容し、控訴人会社のその余の請求及び控訴人Xの請求をいずれも棄却した。控訴人らは、敗訴部分を不服として本件控訴を提起し、当審において、無形損害についての賠償請求(選択的請求)を追加した。
2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張
 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり補正し、後記4のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の2ないし4(原判決2頁21行目ないし7頁18行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 原判決の補正
(1)原判決5頁22行目の「及び本件著作物」を「、本件加圧ベルト及び本件画像」に改める。
(2)原判決6頁15行目の「毀損された。」を「毀損されたから、本件掲載行為は、不正競争防止法2条1項21号所定の不正競争に該当する。」に改める。
4 控訴人らの当審における追加請求に係る主張及びこれに対する被控訴人の反論
〔控訴人らの主張〕
 被控訴人は、本件画像を無断で被控訴人ショップに掲載し、控訴人Xが特許権等の権利を有し、控訴人会社がインターネット上で販売している本件加圧ベルトを、控訴人会社の販売価格よりも高額で販売した。本件画像には控訴人会社の名称が記載されており、被控訴人は、控訴人会社の名称を用い、価格を改ざんして自らの利益のために本件加圧ベルトを販売し、これによって控訴人会社の信用と名誉を毀損しており、控訴人らは、その対処のために膨大な時間と費用を要した。
 以上の事情に照らせば、被控訴人は、民法710条に基づき、控訴人らに対し、慰謝料を含む無形損害の賠償義務を負う。
〔被控訴人の主張〕
 控訴人らの主張は否認ないし争う。同主張には、法的根拠も、裏付けとなる証拠もない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人会社の請求は、被控訴人に5万円の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がなく、控訴人Xの請求はいずれも理由がなく、当審における追加請求もいずれも理由がないものと判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3(原判決7頁20行目ないし11頁4行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正
(1)原判決7頁21行目から8頁7行目までを次のとおり改める。
 「 前提事実(3)、証拠(甲13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、本件加圧ベルトの写真の画像と本件加圧ベルトの説明文を併せた内容であり、控訴人会社が本件加圧ベルトを販売するウェブサイトに掲載する目的で作成を決めたこと、控訴人会社の代表者である控訴人Xが、Sosoft社の従業員に対し、商品の置き方や撮影アングル等を具体的に指示して本件加圧ベルトを撮影させ、撮影した複数の写真の中から本件画像に使用するものを選択し、本件加圧ベルトの説明文も作成したことが認められる。
 上記事実によれば、本件画像は、控訴人会社の思想を創作的に表現したものであってその個性が現れているから、言語及び写真の著作物に該当すると認められ、かつ、控訴人会社がその作成を決め、その写真はSoSoft社の従業員が控訴人会社の指揮監督の下で撮影したものであるから、本件画像は控訴人会社の業務に従事する者が職務上作成した著作物であると認められる。
 また、本件画像は本件加圧ベルトを販売するウェブサイトに掲載され、その本件加圧ベルトの説明部分の箇所には、控訴人会社の商号が記載されるとともに、本件加圧ベルトが控訴人会社の有する知的財産権(特許権、意匠権、商標権)承諾済みの商品である旨の記載があり(前提事実(3))、これらの事実によれば、本件画像は控訴人会社が自己の著作の名義の下に公表したものであるということができる。
 そして、本件画像の作成の時における契約等に別段の定めがあるとは認められないから、著作権法15条1項により、控訴人会社が本件画像の著作者であり、本件画像の著作権を有すると認められる。」
(2)原判決8頁13行目の「著作権」の後に「(複製権及び公衆送信権)」を加える。
(3)原判決8頁26行目の「陳述書」の後に「(甲7、11)」を加える。
(4)原判決9頁4行目の「これらの苦情により」から同頁6行目末尾までを「そもそも前記陳述書に記載された苦情の電話があったと認めるに足りない上、仮に何らかの苦情の電話があったとしても、そのことをもって控訴人会社の信用が一般的に低下したと認めることはできない。」に改める。
(5)原判決9頁25行目から10頁10行目までを次のとおり改める。
 「 控訴人会社は、控訴人会社の商号、本件加圧ベルト及び本件画像が、需要者の間に広く認識されている(不正競争防止法2条1項1号)と主張する。本件加圧ベルトは、インターネット上の商取引サイトによって販売されている商品であるから、その販売地域は一定の地域に限定されず、日本国内の広範囲にわたるものであると考えられる。
 そして、本件加圧ベルトに関連する広告宣伝等として、控訴人会社が販売する加圧ベルトを紹介した、控訴人Xが著者である書籍が過去に発刊されたことはあるが(甲10、11)、それ以外に本件加圧ベルトの広告が新聞や雑誌等に掲載された事実や、その他の媒体で本件加圧ベルトの宣伝がされた事実を認めるに足りる証拠はない。本件加圧ベルトが複数のインターネット上の商取引サイトにおいて販売されたからといって、直ちに本件加圧ベルト及び本件画像が日本国内の広範囲にわたって需要者の間に広く認識されたと認められることにはならない。
 また、本件加圧ベルトのこれまでの販売台数など、その具体的な販売状況も明らかでない。
 以上の事情によれば、本件加圧ベルト及び本件画像が、不正競争防止法2条1項1号にいう『需要者の間に広く認識されている』商品等表示に当たるとは認められない。
 控訴人会社の商号についても、控訴人会社が本件加圧ベルトの販売以外にどのような活動をしているか明らかでなく、前記書籍や本件加圧ベルトを販売するインターネット上の商取引サイトにその商号が掲載された事実は認められるものの、それ以外にその商号が新聞、雑誌等の媒体で宣伝、報道等されたとは認められず、やはり同号にいう『需要者の間に広く認識されている』商品等表示に当たるとは認められない。」
(6)原判決10頁14行目から15行目にかけての「いえない。」の後に「また、控訴人会社は、被控訴人の行為が不正競争防止法2条1項21号所定の不正競争に該当すると主張するが、同号の不正競争が成立するには虚偽の事実の告知又は流布が必要であるところ、被控訴人が、控訴人会社に無断で、SoSoft社による販売価格よりも高額で本件加圧ベルトを販売したことが、控訴人会社に関する虚偽の事実の告知又は流布に当たるとはいえない。」を加える。
(7)原判決10頁23行目から24行目にかけての「証拠はない。」を「証拠はなく、控訴人Xの権利又は法的に保護される利益が侵害されたとは認められない。」に改める。
2 控訴人らの当審における追加請求に係る主張に対する判断
 控訴人らは、被控訴人の行為の態様に照らし、民法710条に基づき控訴人らの無形損害の賠償が認められるべきであると主張する。
 しかし、控訴人会社については、被控訴人の行為によって控訴人会社の信用が毀損されたと認められないことは、補正後の原判決「事実及び理由」第3の2(1)の説示のとおりであり、同様に、控訴人会社の名誉が毀損されたとも認めることができない。
 また、仮に、何らかの信用低下があったとしても、被控訴人が被控訴人オンラインストアで本件加圧ベルトを販売した期間が短期間であったことなど、本件の事実関係に照らせば、控訴人会社の信用低下の程度が大きいものであるとはいえず、財産的損害の5万円の賠償によって評価し尽くされているといえ、更に無形的損害に係る金銭的賠償を受けることはできないというべきである。
 控訴人Xについては、被控訴人の行為によって、控訴人会社に対する権利侵害とは別に、控訴人Xの権利又は法的利益の侵害が生じたと認められないことは、補正後の原判決「事実及び理由」第3の3(4)の説示のとおりである。
 控訴人らの当審における補充主張は採用することができない。
3 結論
 以上によれば、原判決は相当であり、控訴人らの控訴は理由がなく、控訴人らの当審における追加請求もいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 水野正則
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