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【事件名】加圧ベルトの写真無断流用事件(2)
【年月日】令和5年6月21日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10004号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和4年(ワ)第5840号)
 (口頭弁論終結日 令和5年4月24日)

判決
控訴人 株式会社サーナ(以下「控訴人会社」という。)
控訴人 X(以下「控訴人X」という。)
被控訴人 株式会社アリシア(以下「被控訴人会社」という。)
被控訴人 Y(以下「被控訴人Y」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 野島梨恵
同 正木友啓
同 工藤温子


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における追加請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は、全て控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人会社に対し、連帯して105万円を支払え。
3 被控訴人らは、控訴人Xに対し、連帯して30万円を支払え。
第2 事案の概要等(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。)
1 事案の概要
(1)本件は、
ア 控訴人会社が、@(ア)被控訴人会社は、控訴人会社が著作権を有する画像の複製物をウェブサイトに掲載して控訴人会社の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害し、控訴人会社はこれによって損害を受けた、(イ)被控訴人会社は上記(ア)の著作物の複製物の掲載によって法律上の原因なく利益を得て、控訴人会社は損失を受けた、(ウ)被控訴人会社は、周知性のある控訴人会社の商品等表示を使用して控訴人会社の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)及び控訴人会社の営業上の信用を害する不正競争(同項21号)を行い、控訴人会社はこれによって損害を被った、A被控訴人会社の代表取締役である被控訴人Yは、会社法429条1項に基づき、被控訴人会社の前記著作権侵害行為及び不正競争によって生じた控訴人の損害について賠償義務を負うと主張し、被控訴人会社に対しては不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求又は不正競争による損害賠償請求として(選択的請求)、被控訴人Yに対しては会社法429条1項による損害賠償請求として、連帯して110万円を支払うよう求め、
イ 控訴人会社の代表取締役である控訴人Xが、被控訴人会社の前記著作権侵害行為及び不正競争が行われたために法律相談に行く等の対応を余儀なくされ、被控訴人会社の前記行為は控訴人Xに対する不法行為ともなり、控訴人Xはこれにより損害を受けており、被控訴人会社の代表取締役である被控訴人Yは、会社法429条1項に基づき、被控訴人会社の不法行為による控訴人の損害について賠償義務を負うと主張し、被控訴人会社に対しては不法行為に基づく損害賠償請求として、被控訴人Yに対しては会社法429条1項による損害賠償請求として、連帯して30万円を支払うよう求めた事案である。
(2)原判決は、控訴人会社の請求のうち、被控訴人会社に対して不法行為に基づく損害賠償請求として5万円の支払を求め、被控訴人Yに対して会社法429条1項による損害賠償請求として5万円の支払を求める限度で認容し(ただし、原判決は、控訴人会社が支払を受けることのできる金額が全体で5万円であると判断したと認められる。)、控訴人会社のその余の請求及び控訴人Xの請求をいずれも棄却した。控訴人らは、敗訴部分を不服として本件控訴を提起し、当審において無形損害についての賠償請求(選択的請求)を追加した。
2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張
 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり補正し、後記4のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の2及び3(原判決3頁22行目ないし9頁26行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 原判決の補正
(1)原判決7頁15行目の「原告会社の商号」を「控訴人会社の商号又は控訴人商品」に改め、同頁20行目末尾に「したがって、控訴人会社の名称(商号)及び控訴人の商品のいずれも、需要者の間で広く認識されている。」を加える。
(2)原判決7頁23行目及び同頁26行目の「原告商号」をいずれも「控訴人会社の商号又は控訴人商品」に、同行目から8頁1行目にかけての「原告の商品」を「控訴人会社の商品」に、それぞれ改める。
4 控訴人らの当審における追加請求に係る主張及びこれに対する被控訴人らの反論
〔控訴人らの主張〕
 被控訴人らは、本件画像を無断で被控訴人オンラインストアに掲載し、控訴人Xが特許権等の権利を有し、控訴人会社がインターネット上で販売している控訴人商品を、控訴人会社の販売価格よりも高額で販売した。本件画像には控訴人会社の名称が記載されており、被控訴人らは、控訴人会社の名称を用い、価格を改ざんして自らの利益のために控訴人商品を販売し、これによって控訴人会社の信用と名誉を毀損しており、控訴人らは、その対処のために膨大な時間と費用を要した。しかも、被控訴人らは、被控訴人オンラインストアの責任者として、被控訴人Yの氏名でなく「A」という架空の氏名を掲載しており、控訴人らは、実際の責任者の特定に時間と費用が必要となり、本来の業務に専念するための貴重な時間を奪われた。
 以上の事情に照らせば、被控訴人らは、民法710条に基づき、控訴人らに対し、慰謝料を含む無形損害の賠償義務を負う。
〔被控訴人らの反論〕
 被控訴人らが、本件商品の写真を被控訴人オンラインストアに掲載した期間は短く、閲覧数も極めて少なかったのであり、控訴人らから指摘を受けて直ちに掲載を取りやめている。したがって、仮に、控訴人らが何らかの精神的苦痛を受けたとしても、5万円の財産的損害の賠償により評価されており、被控訴人らが同額を超える損害賠償義務を負うことはない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人会社の請求は、被控訴人会社及び被控訴人Yにそれぞれ5万円の支払を求める限度で理由があり(後記のとおり、被控訴人らの債務は不真正連帯債務の関係にあると解される。)、その余の請求はいずれも理由がなく、控訴人Xの請求はいずれも理由がなく、当審における追加請求もいずれも理由がないものと判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3(原判決10頁2行目ないし13頁10行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正
(1)原判決10頁7行目から同頁12行目までを次のとおり改める。
 「 前提事実(2)ア、イ、証拠(甲3、18、22)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、控訴人商品の写真の画像と控訴人商品の説明文を併せた内容であり、控訴人会社が控訴人商品を販売するウェブサイトに掲載する目的で作成を決めたこと、控訴人会社の代表者である控訴人Xが、SоSoft社の従業員に対し、商品の置き方や撮影アングル等を具体的に指示して控訴人商品を撮影させ、撮影した複数の写真の中から本件画像に使用するものを選択し、控訴人商品の説明文も作成したことが認められる。
 上記事実によれば、本件画像は、控訴人会社の思想を創作的に表現したものであってその個性が現れているから、言語及び写真の著作物に該当すると認められ、かつ、控訴人会社がその作成を決め、その写真はSоSoft社の従業員が控訴人会社の指揮監督の下で撮影したものであるから、本件画像は控訴人会社の業務に従事する者が職務上作成した著作物であると認められる。
 また、本件画像は控訴人商品を販売するウェブサイトに掲載され、その控訴人商品の説明部分の箇所には、控訴人会社の商号が記載されるとともに、控訴人商品が控訴人会社の有する知的財産権(特許権、意匠権、商標権)承諾済みの商品である旨の記載があり(前提事実(2)ア)、これらの事実によれば、本件画像は控訴人会社が自己の著作の名義の下に公表したものであるということができる。
 そして、本件画像の作成の時における契約等に別段の定めがあるとは認められないから、著作権法15条1項により、控訴人会社が本件画像の著作者であり、本件画像の著作権を有すると認められる。」
(2)原判決10頁17行目の「少なくとも過失により、」を削り、同頁19行目の「可能化した。」の後に「本件画像は、控訴人商品を撮影した写真と文字が組み合わされたものであり、その文字には、控訴人会社の名称と、控訴人会社が控訴人商品に係る特許権等を有するという趣旨の文言が含まれており、控訴人商品を販売するインターネット上の商取引サイトに掲載されていたのであって(前提事実(2)ア)、これらの事実によれば、本件画像の内容から、控訴人会社が本件画像に関して著作権を有する可能性があることを被控訴人会社が容易に認識し得たといえる。それにもかかわらず被控訴人会社は控訴人会社に無断で本件画像の複製物を被控訴人オンラインストアに掲載したのであるから、この掲載によって控訴人会社が有する本件画像の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したことについて、故意があったか、又は少なくとも重過失があったと認められる。」を加える。
(3)原判決11頁11行目から同頁18行目までを次のとおり改める。
 「 会社の代表取締役は、会社に対して受任者として善良な管理者の注意義務(会社法330条、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を負っているところ、悪意又は重大な過失によりこれらの義務に違反し、これによって第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠と第三者の損害に相当因果関係が認められれば、第三者に対して損害賠償義務を負う(同法429条1項)。
 被控訴人会社は、本件画像の複製物を被控訴人オンラインストアに掲載し、これによって控訴人会社が有する本件画像の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害した(前記1(2))。被控訴人Yは被控訴人会社の代表取締役であり、かつ、被控訴人オンラインストアの責任者であって(前提事実(2)イ)、これらの事実によれば、被控訴人Yは、被控訴人会社が本件画像を被控訴人オンラインストアに掲載したことを認識していたと推認され、この推認を覆す事情は認められない。また、本件画像は、その内容からして控訴人会社が著作権を有する可能性があると容易に認識し得るものであり(前記1(2))、被控訴人Yも上記可能性を認識したか、又は容易に認識し得たと認められる。
 以上の事実によれば、被控訴人Yは、被控訴人会社の代表取締役として、著作権を控訴人会社が有する可能性のある本件画像の複製物を、被控訴人会社が被控訴人オンラインストアに掲載しないようにさせるべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠ったものであり、この任務懈怠について少なくとも重大な過失があると認められる。そして、上記任務懈怠によって、控訴人会社の著作権侵害が生じ、控訴人会社に前記(2)のとおり5万円の損害が生じたと認められるから、被控訴人Yは、控訴人会社に対し、会社法429条1項に基づき同額の損害賠償義務を負う。」
(4)原判決11頁23行目末尾に「なお、被控訴人会社の控訴人会社に対する不法行為に基づく損害賠償義務と、被控訴人Yの控訴人会社に対する会社法429条1項に基づく損害賠償義務とは、不真正連帯債務の関係にあると解される。」を加える。
(5)原判決12頁3行目の「原告会社の商号」を「控訴人会社の商号又は控訴人商品」に改める。
(6)原判決12頁16行目から同頁22行目までを次のとおり改める。
 「 控訴人会社は、上記事実があることを前提に、控訴人会社の商号及び控訴人商品が、需要者の間に広く認識されている(不正競争防止法2条1項1号)と主張する。
 しかし、控訴人商品は、インターネット上の商取引サイトによって販売されている商品であるから、その販売地域は一定の地域に限定されず、日本国内の広範囲にわたるものであると考えられる。
 そして、控訴人商品に関連する広告宣伝等として、控訴人会社が販売する加圧ベルトを紹介した、控訴人Xが著者である前記書籍が過去に発刊された事実が認められるものの、それ以外に控訴人商品の広告が新聞や雑誌等に掲載された事実や、その他の媒体で控訴人商品の宣伝がされた事実を認めるに足りる証拠はない。控訴人商品が複数のインターネット上の商取引サイトにおいて販売されたからといって、直ちに控訴人商品の商標が日本国内の広範囲にわたって需要者の間に広く認識されたと認められることにはならない。
 また、控訴人商品のこれまでの販売台数など、その具体的な販売状況も明らかでない。
 以上の事情によれば、控訴人商品が、不正競争防止法2条1項1号にいう『需要者の間に広く認識されている』商品等表示に当たるとは認められない。
 控訴人会社の商号についても、控訴人会社が控訴人商品の販売以外にどのような活動をしているか明らかでなく、前記書籍や控訴人商品を販売するインターネット上の商取引サイトにその商号が掲載された事実は認められるものの、それ以外にその商号が新聞、雑誌等の媒体で宣伝、報道等されたとは認められず、やはり同号にいう『需要者の間に広く認識されている』商品等表示に当たるとは認められない。」
(7)原判決12頁23行目の「3」を「4」に改める。
(8)原判決12頁25行目から13頁3行目までを次のとおり改める。
 「 控訴人会社は、被控訴人会社が控訴人商品を控訴人会社に無断で販売(転売)したことは、不正競争防止法2条1項21号の信用毀損行為に該当すると主張する。
 しかし、同号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為を不正競争と定めているところ、被控訴人会社が控訴人商品を控訴人会社に無断で販売した行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるとは認められない。仮に、被控訴人が、SoSoft社による販売価格よりも高額で控訴人商品を販売したとしても、その行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるとはいえない。
 したがって、被控訴人会社が同号所定の行為をしたとは認められない。」
(9)原判決13頁4行目の「4」を「5」に、同頁10行目の「原告Xの権利を侵害した」を「控訴人Xの権利又は法律上保護される利益の侵害が生じた」に、それぞれ改める。
2 控訴人らの当審における追加請求に係る主張に対する判断
 控訴人らは、被控訴人会社の行為の態様に照らし、民法710条に基づき控訴人らの無形損害の賠償が認められるべきであると主張する。
 しかし、控訴人会社については、被控訴人会社の行為によって控訴人会社の名誉又は信用が毀損されたと認めるに足りる証拠はない。控訴人Xは、その陳述書(甲18)において、顧客から、控訴人商品の販売価格がインターネット上の商取引サイトごとに異なっているとして、控訴人会社がいい加減な会社であると電話で言われた旨陳述しているが、仮に顧客から上記内容の電話がかけられた事実があったとしても、控訴人会社の名誉又は信用が一般的に低下したと認められることにはならない。
 また、仮に、控訴人会社に何らかの信用低下があったとしても、被控訴人会社が被控訴人オンラインストアで控訴人商品を販売した期間が短期間であったことなど、本件の事実関係に照らせば、控訴人会社の信用低下の程度が大きいものであるとはいえず、財産的損害の5万円の賠償によって評価し尽くされているといえ、更に無形的損害に係る金銭的賠償を受けることはできないというべきである。
 控訴人Xについては、被控訴人会社の行為によって、控訴人会社に対する権利侵害とは別に、控訴人Xの権利又は法的利益の侵害が生じたと認められないことは、補正後の原判決「事実及び理由」第3の5(13頁4行目から10行目まで)の説示のとおりである。
 控訴人らの当審における補充主張は採用することができない。
3 結論
 以上によれば、控訴人会社の請求は、被控訴人らに対して5万円の連帯支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、控訴人Xの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって、控訴人らの控訴は理由がなく、控訴人らの当審における追加請求もいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。なお、原判決は、被控訴人らが各自控訴人会社に対して5万円を支払うよう命じているが、被控訴人らそれぞれが連帯して控訴人会社に5万円の支払義務を負うとの趣旨であることは明らかであるから、原判決を変更する必要はないというべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 水野正則
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