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【事件名】「感動アニマルズ」テロップ事件
【年月日】令和5年6月12日
 東京地裁 令和4年(ワ)第9090号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年4月18日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 吉永雅洋
同 遠藤大介
同 蓮池純
同 神田竜輔
被告 B
同訴訟代理人弁護士 山口絢子
同 工藤雅大
同 藤井悠太
同 菅原友和


主文
1 被告は、原告に対し、24万円及びこれに対する令和2年7月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを8分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
 被告は、原告に対し、190万2113円及びこれに対する令和2年7月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)における同目録記載5の内容のテロップ(以下「本件テロップ」という。)を創作したとする原告が、被告による別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)の投稿は原告の著作物である本件テロップを複製、翻案及び公衆送信したものであり、本件テロップに係る原告の著作権(複製権、翻案権及び公衆送信権)を侵害するものである旨主張して、被告に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害190万2113円及びこれに対する不法行為日(本件記事投稿日)である令和2年7月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。)
(1)原告は、動画の配信・閲覧サービス「YouTube」において、「感動アニマルズ」との名称の動画配信チャンネル(以下「本件チャンネル」という。)を運営し、動画の配信を業として行う者である。
 被告は、「人生を楽しむブログメディア|楽蔵−raku−zo−【らくぞー/ラクゾー】」と題するウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を運営していた者である。
(2)原告は、令和2年6月5日、本件チャンネルに本件動画を投稿して公開した。本件動画は、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー、BGM、本件テロップ及びこれを朗読したナレーションによって構成されている(甲8〜10)。
 本件テロップの内容は別紙著作物目録記載5のとおりである。
(3)被告は、令和2年7月27日、被告サイトに本件記事を投稿して公開した。本件記事の具体的内容は別紙「本件記事の内容」記載のとおりである。
(4)原告は、大阪地方裁判所に対し、令和3年3月16日、被告サイトの管理者に係る発信者情報の開示を求める民事訴訟を提起し、同年9月6日、その開示を命じる判決(甲6)を得た。その結果、原告は、同月10日付け「通知書」と題する書面(甲7)により本件記事の発信者情報の開示を受け、本件記事の投稿者が被告であることが特定された。
2 争点
(1)本件テロップに係る原告の著作権侵害の成否(争点1)
ア 本件テロップの著作物性及び原告の著作権の有無(争点1−1)
イ 複製権、翻案権及び公衆送信権侵害の有無(争点1−2)
ウ 原告が本件テロップの著作権を主張することの信義則違反の有無(争点1−3)
(2)原告の損害(争点2)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1−1(本件テロップの著作物性及び原告の著作権の有無)
〔原告の主張〕
ア 本件テロップは、男性2名(CとD)が野生のライオン(シルガ)を保護し、愛情をもって育て上げたこと、その後シルガを野生動物の保護地区に放し、別れを告げたこと、1年後の再会の際にシルガはCとDを覚えており、Cに抱きついたことなどのエピソードに関し、出来事や登場人物の感情等について、原告独自の形容の仕方や叙述方法で表現されたものであり、その表現方法に原告の個性が発揮されている。
 したがって、本件テロップは、原告の思想又は感情を創作的に表現した言語の著作物であり、原告にその著作権が帰属する。
イ 本件テロップが対象とするエピソードが既に公開されたものであったとしても、既存の表現物と本件テロップとで共通するのはいわばアイデアに係る部分に過ぎない。同じエピソード(アイデア)であっても、どのような表現を用いて著述するかについては、表現者の個性が発揮される。
〔被告の主張〕
 本件テロップと同様の文章の構成によりCとシルガのエピソードを紹介するインターネット上の記事は、本件テロップの公開前から散見される。すなわち、本件テロップは、原告の思想又は感情を創作的に表現したものではなく、既に公開されているエピソードを画像、映像と共に再紹介するものであり、著作物性は認められない。
 また、本件テロップは、本件動画に表示される画像等の内容を文字で明らかにしたに過ぎず、これらの補助的役割を果たすにとどまるものであって、本件動画と分離して利用することはできない。本件動画の全体的形成に創作的に寄与しているのは、画像等の製作者(撮影者)であり、原告ではない。
(2)争点1−2(複製権、翻案権及び公衆送信権侵害の有無)
〔原告の主張〕
ア 本件記事のインターネット上への投稿は、サーバへのアップロードを必然的に伴うものであり、その際、当該サーバに本件テロップを有形的に再製している。したがって、当該投稿は原告の複製権を侵害する。
 また、当該サーバへのアップロードは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録するものであり、送信可能化に該当することから、原告の公衆送信権を侵害する。
イ 本件記事は、本件テロップの表現の一部を要約等したものである。このような本件記事は、本件テロップに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作するものといえる。したがって、本件記事は原告の翻案権を侵害する。
ウ 被告は、これらの行為を故意又は過失により行ったものである。
〔被告の主張〕
 争う。
(3)争点1−3(原告が本件テロップの著作権を主張することの信義則違反の有無)
〔被告の主張〕
 本件テロップと構成及び内容が酷似する記事は、本件動画公開前から複数公開されている。また、本件動画を構成する画像、映像の中には、引用元が示されていなかったり、無断転載を禁じられているものを使用したりするものがある。このように、原告は第三者の著作権を侵害して本件動画を作成したものである。また、本件テロップは本件動画のために作成されたものである。
 本件において、原告は、第三者の権利を侵害しながら作成した動画による収益が減少したとして損賠賠償を請求し、また、本件動画全体としては請求が認められない可能性があるため、本件テロップのみを対象として権利侵害を主張している。このような原告の請求は信義則に反するものであり、認められるべきものではない。
〔原告の主張〕
 争う。本件で問題となっているのは本件テロップに係る著作権侵害である。被告は、本件動画に掲載されている画像等の性質という本件テロップに係る著作権侵害とは関係のない事情を持ち出しているに過ぎない。
(4)争点2(原告の損害)
〔原告の主張〕
ア 逸失利益
(ア)主位的主張
 YouTubeでは、動画の再生回数等に応じて動画投稿者に収益が支払われる。被告が本件記事を被告サイトに投稿したことにより、必然的に、本件テロップの閲覧数が減少し、原告の収益が減少した。
 原告は、本件記事の投稿前は1日当たり平均4万4045円の収益を得ていたが、本件記事の投稿から削除までの127日間の収益は1日当たり平均1万1846円となった。その差額及び本件記事の掲載期間に鑑みると、原告の逸失利益は少なくとも127万5000円を下らない。
(イ)著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(予備的主張)
 公益社団法人日本文藝家協会(以下「日本文藝家協会」という。)の公表する「著作物使用料規程」(以下「本件規程」という。)によれば、「著作物を書籍として複製し、公衆に譲渡する場合の使用料は、本体価格の15%に発行部数を乗じた額」が上限とされる。同規程は、作家等、文芸を職業とする者の職能団体である上記協会が会員である著作権者から委託を受けた著作物について、その使用料等を定めるものである。本件規程は、文芸家による小説その他の言語の著作物を対象とするものであるところ、本件テロップも同様に言語の著作物であるから、使用料相当額の算定に当たっては、その相場を示すものとして本件規程が参考とされるべきである。
 本件においては、本件動画の創作的価値のうち、本件テロップの占める割合、比重、本件記事による利用が原告の著作権を侵害する態様によりされているものであること等の事情を考慮し、本件記事に係る相当な使用料率は、本件動画の経済的価値の5%とされるべきである。
 本件動画の経済的価値は、本件動画の投稿日(令和2年6月5日)から本件記事の削除日(同年11月30日)までに発生した収益額とされるべきであるところ、その額は379万4863円である。
 したがって、これに上記使用料率を乗じた18万9743円が、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)に当たる。
イ 発信者情報の取得に要した費用
 原告は、弁護士に委任して、発信者情報開示請求訴訟を経て被告が発信者であることを特定した。これに要した実費(1万4194円)及び弁護士費用(44万円)の合計45万4194円は、調査費用として相当因果関係のある損害である。
ウ 弁護士費用
 原告は、本件訴訟の提起を原告訴訟代理人弁護士に委任した。その弁護士費用相当額は17万2919円を下らない。
エ 小括
 以上より、主位的には合計190万2113円の損害賠償が認められるべきである。仮にこれが認められないとしても、調査費用及び弁護士費用と共に、「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」18万9743円の損害賠償が認められるべきである。
〔被告の主張〕
ア 逸失利益
(ア)主位的主張について
 本件動画の収益は、本件記事投稿前の令和2年6月26日頃に集中し、同年7月日頃にも一定の収益が上がっているが、それ以降は低い収益が続いている。このように、本件動画の収益額は令和2年6月26日から同年7月17日の間に大きく減少しているから、本件記事の投稿により本件動画の再生回数及び原告の収益が減少して原告に損害が生じたとはいえない。本件動画の再生回数及び原告の収益の減少は、本件記事の投稿以外の要因によるところが大きい。
 したがって、被告の行為と相当因果関係の認められる損害は、多く見積もっても本件記事の閲覧数に対応する限度に限られる。本件動画の再生回数1回当たりの収益は約0.45円である一方、本件記事の閲覧数は154回であるから、原告に生じた損害額は69円となる。
(イ)予備的主張について
 本件動画の全体的形成に創作的に寄与したのは画像、映像の製作者であり、画像等の補助的役割にとどまる本件テロップが本件動画の経済的価値に占める比重は極めて小さい。したがって、使用料率は5%に満たない。
 また、本件動画の経済的価値は、本件記事の公開期間中(令和2年7月27日〜同年11月6日)の本件動画の収益を基礎とすべきところ、その額は114万4092円である。これに69円を加えたものに、使用料率を仮に5%として乗じても、損害額は5万7208円である。
イ 発信者情報の取得に要した費用
 発信者情報の取得に要した費用は認める。しかし、不法行為との相当因果関係は認められない。
ウ 弁護士費用
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件テロップの著作物性及び原告の著作権の有無)
(1)前提事実(第2の1)、証拠(甲8〜10)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー、BGM、本件テロップ及びこれを朗読したナレーションによって構成されるところ、スライドショー及びBGMのみではストーリー性が乏しく、本件動画の内容を正しく把握することは困難であると認められる。その意味で、本件テロップ及びこれを朗読したナレーションは、その余の構成部分に比して、本件動画の中で重要な役割を担うものといえる。また、このような役割を担う本件テロップの内容は、男性2人が群れを離れた野生のライオンを保護し育てた後、野生動物の保護地区に戻したことや、後に男性らの1名がこの保護地区を訪れた際の当該ライオンとの再会の模様等の一連の出来事に関し、推察される各主体の心情等を交えて叙述したものである。表現方法についても、本件テロップは、動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体や表現の手法等を選択すると共に、構成や分量等を工夫して作成されたものといえる。
 したがって、本件テロップは、その作成者である原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり、言語の著作物と認められる。
(2)被告は、本件テロップと同様の文章の構成により本件テロップと同じエピソードを紹介するインターネット上の記事は本件テロップの公開前から散見されるなどとして、本件テロップの著作物性は認められない旨主張する。
 証拠(乙1〜4)によれば、本件テロップの公開前から、男性2人が野生のライオンを育て、保護地区に戻したことや、後に男性が保護地区を訪れた際の当該ライオンとの再会の模様等の一連の流れに関して、本件テロップと共通性を有する少なくとも4つの記事がインターネット上で公開されていることが認められる。そのうちの1つの内容は、おおむね別紙「既公開記事の内容」記載のとおりであり、本件テロップとその公開前から存在する記事とでは、アイデアないし事実を共通にする部分があると認められる。しかし、その具体的な表現を比較したとき、各主体の心情その他の表現の内容及び方法においてこれらは表現を異にし、本件テロップにおいては、上記既存の記事には見られない創作性が発揮されているといってよい。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点1−2(複製権、翻案権及び公衆送信権侵害の有無)
 本件テロップと本件記事の各内容を比較すると、本件記事には、本件テロップと完全に一致する表現が多数含まれる。他方、相違する部分は、句読点の有無や助詞の違い、文言の一部省略等の僅かな相違のほか、例えば、本件テロップには、「ドイツ出身のCさんは幼い頃からずっと動物を大切に思ってきました。」とあるのに対し、本件記事には、「この感動のストーリーは2人の人間から始まります。その1人がCさん。Cさんはドイツ出身。幼い頃よりずっと動物を大切に思ってきました。」とあるなどの相違部分が存在する。これらの相違部分は、表現の手法等に若干の違いが見られるものの、内容的には、本件テロップの表現を若干修正したり、要約又は省略したり、前後の表現を入れ替えるなどしているにとどまり、実質的にほぼ同一の内容を表現したものといえる。
 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号)、著作物の再製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるものを作成する行為をいうものと解される。また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 本件記事は、記事中に本件動画が埋め込まれていること(甲4)や、上記のとおり、本件テロップと完全に一致する表現を多数含み、相違する部分も、句読点の有無等の僅かな形式的な相違や本件テロップの表現の僅かな修正、要約、前後の入れ替え等にとどまり、実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると、本件テロップに依拠したものと認められると共に、著作物である本件テロップの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。
 したがって、被告が本件記事を被告サイト上に投稿する行為は、原告の本件テロップに係る複製権又は翻案権を侵害するものであると共に、本件記事を送信可能化するものとして公衆送信権を侵害するものと認められる。また、本件記事が本件テロップに依拠していることから、上記著作権侵害行為につき、被告には少なくとも過失が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
 以上より、原告は、被告に対し、著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、損害賠償請求権を有することが認められる。
3 争点1−3(原告が本件テロップの著作権を主張することの信義則違反の有無)
 被告は、原告が第三者の著作権を侵害して作成した動画による収益が減少したとして損賠賠償を請求し、また、本件動画全体としては請求が認められない可能性があるため、本件テロップのみを対象として権利侵害を主張しているとして、原告の請求が信義則に反する旨主張する。
 しかし、そもそも、本件動画につき第三者の著作権を侵害して作成されたものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、本件テロップは独立した表現物として把握し得るものであること、本件記事もそのような本件テロップに依拠して作成されたものとみられることに鑑みると、原告が本件テロップの著作権侵害を主張することをもって信義則に反するということはできない。この点に関する被告の主張は採用できない。
4 争点2(原告の損害)
(1)認定事実
 前提事実、証拠(甲14〜19(17については枝番を含む。)、乙11〜14)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、令和2年6月5日に本件動画を投稿した。YouTubeでは動画の再生回数等に応じて動画投稿者に収益が支払われるところ、上記投稿日から同年10月10日までの本件動画の再生回数は約680万5000回、推定収益は309万6740円であった。また、推定収益の推移は別紙「推定収益の推移データ」のとおりであり、上記投稿日から同年11月30日までの推定収益は379万4863円であった。
イ 令和2年7月27日、被告は本件記事を投稿して公開したが、同年9月30日まで閲覧者はおらず、その後、原告の申入れを受けて本件記事を削除した同年11月までの本件記事の閲覧回数は154回であった。
ウ 作家等文芸を職業とする者の職能団体であり、著作権管理事業を行う日本文藝家協会は、その著作物使用料規程である本件規程により、著作物を書籍として複製し、公衆に譲渡する場合の使用料につき、本体価格の15%に発行部数を乗じた額を上限として利用者と協会が協議して定める額としている。
エ 原告は、本件訴訟に先立ち、本件記事につき発信者情報開示請求訴訟を提起して発信者情報の開示を受けたところ、その際、原告は、弁護士に訴訟追行を委任し、弁護士費用44万円(消費税込)、実費1万4194円を支払った。
(2)逸失利益について
ア 主位的主張について
 上記認定のとおり、本件記事の閲覧回数は、同年10月1日以降本件記事が削除されるまでの間の154回にとどまる。このことと、本件動画の再生回数及び推定収益、とりわけ推定収益の推移の状況に鑑みると、このような本件記事の投稿と本件動画の再生回数ないし収益の減少との間に因果関係を認めることはできない。したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 予備的主張について
 原告は、本件記事により被告が得た収益の額ではなく、本件動画の経済的価値に本件規程を参考にした仮想使用料率を乗じて、一回的な給付としての「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)を算出すべき旨主張するものと理解される。他方、被告は、このような原告の主張を前提としつつ、本件記事により被告が得た収益の額を本件動画の経済的価値(ただし、その算定対象期間は原告の主張と異なる。)に加算したものに仮想使用料率を乗じて「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算出すべき旨を主張する。そこで、本件においては、本件動画の経済的価値を基礎とし、これに仮想使用料率を乗ずることによって、一回的な給付としての「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算出することとする。
 まず、本件動画の経済的価値は、本件記事の投稿期間とは直接の関わりがないと思われることから、原告の主張のとおり、本件動画の投稿日から本件記事の削除日までの収益額379万4863円をもって本件動画の経済的価値とするのが相当である。他方、上記本件動画の経済的価値及び本件規程の内容を参酌すると共に、本件テロップは、本件動画の中で重要な役割を担うものではあるものの、画像等と一体となって本件動画を構成するものであること、ここでの仮想使用料率は著作権侵害をした者との関係で事後的に定められるものであることその他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、仮想使用料率については3%程度とみるのが相当である。そうすると、本件テロップに係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法114条3項)は、12万円をもって相当とすべきである。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(3)発信者情報の取得に要した費用
 ウェブサイトに匿名で投稿された記事が不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、被侵害者は、侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、非侵害者には、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。その際、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求の遂行に必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといってよい。
 本件では、上記認定のとおり、原告は、発信者情報開示請求訴訟に係る弁護士費用44万円(消費税込)及び実費1万4194円の合計45万4194円を支出した。発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち10万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(4)弁護士費用
 本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経過、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、本件訴訟に係る弁護士費用のうち、被告の不法行為と相当因果関係のある損害を2万円と認めるのが相当である。
(5)まとめ
 以上より、原告は、被告に対し、著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、24万円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為の日である令和2年7月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 久野雄平


(別紙著作物目録、別紙投稿記事目録、別紙本件記事の内容、別紙既公開記事の内容、別紙推定収益の推移データ省略)
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