判例全文 line
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【事件名】新聞記事の社内LAN無断公開事件B(2)
【年月日】令和5年6月8日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10008号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第12348号)
 (口頭弁論終結日 令和5年4月18日)

判決
控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。) 株式会社日本経済新聞社
同訴訟代理人弁護士 冨來真一郎
同 大場規安
同 高島璃子
被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。) 首都圏新都市鉄道株式会社
同訴訟代理人弁護士 富田純司
同 木暮信吉


主文
1 一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は、一審原告に対し、696万円及びこれに対する平成31年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 一審原告のその余の請求を棄却する。
2 一審被告の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを6分し、その5を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 一審原告
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)一審被告は、一審原告に対し、4414万6971円及びこれに対する平成31年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 一審被告
(1)原判決を取り消す。
(2)一審原告の請求を棄却する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に同じ。)
 本件は、一審原告において、同社が著作権を有すると主張する新聞記事(原判決別紙一覧表参照。本件各記事)につき、一審被告が、この画像データを作成して記録媒体に保存した上、当該画像データを被告イントラネット上にアップロードし、一審被告従業員等が閲覧することができる状態に置いて、本件各記事に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したと主張して、一審被告に対し、不法行為(民法709条。損害額につき法(著作権法)114条3項)に基づき、その使用料相当損害金の一部及び弁護士費用相当損害金として合計4414万6971円及びこれに対する不法行為後の日である平成31年4月17日(本件各記事の被告イントラネットへの最終掲載日の翌日)から支払済みまで平成29年改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は、一審原告の請求を459万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却したところ、一審原告及び一審被告の双方が敗訴部分について控訴した。
2 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、次のとおり訂正し、後記3のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決5頁3行目の「546件」を「547件」と、同4行目の「530件」を「531件」と、同18行目の「516件」を「517件」とそれぞれ改める。
 原判決8頁15行目末尾に「(原判決別紙一覧表のオレンジ色着色部分)」を、同9頁12行目末尾に「(原判決別紙一覧表の青色着色部分)」をそれぞれ加える。
3 当審における当事者の補充主張
(1)一審原告
ア 平成30年3月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数(争点(1))について
(ア)本件は、一審原告がアクセスすることができない環境下で行われた著作権侵害の事案である。一審被告は、著作権侵害の指摘を受けた平成31年4月16日から同月22日までに、被告イントラネットに掲載した記事データの全てを削除し、当該データを保存しなかったのであり(甲5、8、16)、本件では一審原告による立証が極めて困難であるから、法114条の5に基づき、裁判所により相当な損害額が認定されるべきである。
 本件で、一審被告広報担当者は、令和元年5月28日の新聞社との協議の際、平成30年度における本件記事の掲載件数を360件程度とする同日付け報告書(甲5。以下「甲5報告書」という。)を踏まえつつ、同年3月以前にも記事クリッピング作業のやり方は同じであり、掲載した記事件数に大きな増減はないと発言している。同発言の信用性は極めて高いから、一審被告は、同年3月以前に、保管していた記事517件に限らず、年間312件(同年4月以降、平成31年4月16日までに掲載された記事件数)の記事を掲載したと推認されるべきである。
(イ)仮に、前記(ア)のとおり年間312件と推認することができない場合であっても、一審被告が保管していた517件の7倍から9倍程度が被告イントラネットに掲載されていたと推認されるべきである。
 すなわち、甲5報告書では、平成30年度において被告イントラネットに掲載された「当社記事」及び「当社関連記事」の合計は40件であり、それ以外の記事は320件程度とされているから、全体の掲載件数は「当社記事」及び「当社関連記事」の9倍となる。また、令和2年3月6日付け一審被告代理人弁護士の回答書では、平成30年4月から平成31年4月までに掲載された「当社記事」及び「沿線記事(当社関連記事)」の合計は47件であり、それ以外の記事は315件とされている(甲6の2)から、全体の掲載件数は「当社記事」及び「当社関連記事」の7倍強となる。こうした点を踏まえ、一審被告は、「当社記事」及び「当社関連記事」として分類した前記517件の7倍から9倍に当たる件数(3619件から4653件)の記事を掲載したと推認されるべきである。
イ 損害及び損害額の認定(争点(3))について
(ア)原判決は、被告イントラネット掲載後のアクセス状況を考慮して損害額を算定しているが、閲覧可能状態にするという便益が無断かつ無償で奪取された場合には、当然それによって損害が生じるというべきで、送信可能化権の侵害態様を踏まえても、掲載後に閲覧されたかどうか、閲覧回数が多かったか少なかったかについては、損害額算定の上で考慮すべきではない。
(イ)原判決は、アクセスする者が掲載から1年以内でほぼいなくなると推認するが、このような推認には合理性はない。一審被告は、少なくとも平成31年4月16日まで被告イントラネットへの記事の掲載を継続しており、このことから、同掲載の目的がいつでもアクセスし利用することができるアーカイブとして保存することにあったことは明らかである。原判決が認定根拠とする乙第19号証も、提訴後に一審被告の従業員によって作成された報告書であり、任意に選別されたわずか2つの掲載記事の追跡結果にすぎず、裏付けとなる客観的データもないから、到底信用することができない。
(ウ)原判決は、イントラネットへの掲載を定める本件料金表3及び4について、使用期間が1年を超える場合の使用料の収受実績等に関する証拠がないとする。しかし、本件料金表3が適用された平成22年3月以降のイントラネット掲載事例は多数あり、1年以上の掲載に関する例として、少なくとも本件料金表3について電力株式会社の例(甲34)があり、本件料金表4についても火災保険株式会社の例(甲35)がある。
(2)一審被告
ア 本件各記事が著作物とはいえないこと(争点(2))について
 法は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸・・・の範囲に属するもの」について著作物性を認めているのであり(法2条1項1号)、単なる表現の工夫があることで著作物性が認められるわけではない。仮に、記載された「文字の羅列」自体に文章表現の工夫があるとしても、できあがった文章表現が「ありふれた」ものであれば、著作物として保護されない。本件各記事については、例えば甲第9号証の308を見ても明らかなように、事実の伝達をするものにすぎず、文章表現もありふれており、記者の個性が発揮されているとはいい難い。法10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」には著作物性を認めておらず、記事における表現上の工夫のみで創作性を認めることになれば、同項に違反することになる。
イ 本件各記事の著作物性につき一審被告には故意、過失がないこと(争点(2))について
 本件料金表1ないし4は国民や企業者向けにアナウンスがされておらず、これをもって一審被告が新聞記事に著作権があることを知るべきであったと認定することはできない。新聞記事に「工夫」がある程度で、その文字の羅列が著作物であるから転載することができないと考えることは、社会通念からみて不可能である。
ウ 平成30年3月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数(争点(1))について
 平成30年3月以前の保管記事517件のうち、枠付き記事107件を除く410件の記事については、被告イントラネットに掲載されたとはいえない。一審被告の記事収集は、自社に関する情報を広く収集し保管するために始められたものであり、被告イントラネット掲載のためではない。保管されている記事の体裁も、枠付き記事が存在する平成24年7月以降とそれ以前で大きく異なっている。平成24年6月までの保管記事には「新聞社名」と「新聞発行日付」が付されているが、これは資料として保管する上で当然のことであり、このことから掲載を推認することはできない。実際、一審被告が保管している記事の中には、掲載されていないものもある(乙7の別紙1、乙15)。
エ 損害額につき法114条3項に係る金額を記事1件当たり5000円とする認定が過大であること(争点(3))について
 一審原告は利用料金規定の全容を明らかにしておらず、特に定期クリッピング規定を提出していないから、一審原告が都合よく提出した証拠によって損害額を算定することは許されない。被告イントラネットにおける記事掲載に関する一審原告の請求額は、他の新聞社のものよりも高額である(乙13)。そして、端末数500台以下(乙17)、掲載期間が通常1か月(乙19)を前提にすれば、本件料金表3及び4においても、1か月の使用料は4500円になる。その上、本件料金表3及び4では、自社関連記事の利用料金を7割とし、自己へのインタビュー記事を利用する場合には利用料金を5割としている。こうした点を考慮すると、損害額について記事1件当たり5000円と認定することは過大である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、平成30年3月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数等は1266件であると認め(争点(1))、一審被告による一審原告の本件各記事についての著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為の成立を認め(争点(2))、一審原告が本件各記事に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を記事1件当たり5000円とし、一審被告の不法行為による一審原告の損害の額を633万円、この損害額と相当因果関係にある弁護士費用相当額を63万円(損害額合計696万円)と認める(争点(3))のが相当であると判断する。
 その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり、当審における当事者の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決11頁14行目冒頭から同12頁14行目末尾まで(争点(1)について)を以下のとおり改める。
「(1)前記前提事実(3)アのとおり、一審被告は、本件各記事のうち平成30年3月以前の記事517件を保管しており、そのうちの平成24年度から平成29年度までの114件の中で枠付き記事は107件である。そして、この「枠」は、被告イントラネットに掲載する際に周知しやすくすることを目的として付されたものであり、一審被告もこの枠付き記事が被告イントラネットに掲載されたと推測されると主張していることを踏まえると、この枠付き記事107件については、いずれも被告イントラネットに掲載されたと認めるのが相当である。
(2)他方で、平成30年3月以前の記事のうち、一審被告が保管する枠が付されていない記事410件(=517件―107件)については、本件証拠上、被告イントラネットに掲載されたことを直接裏付ける客観的な証拠はない。また、証拠(乙7の別紙1、乙15)及び弁論の全趣旨によれば、一審被告が保管している本件新聞記事の中には、TX開業当初の平成17年8月23日から同年9月2日までの時期に限られたわずか16件の記事ではあるが、被告イントラネットに掲載されていない記事もある(これらの記事については原判決別紙一覧表からは除外されている。)。
 しかし、前記前提事実(3)イのとおり、一審被告は、平成30年4月以降の記事として保管している312件については、被告イントラネットにその全てを掲載しており、証拠(甲8、16)及び弁論の全趣旨によれば、一審被告広報担当者は、令和元年5月28日に行われた一審原告を含む新聞社6社との面談の際、クリッピング作業のやり方は平成30年3月以前も同じである旨の発言をしていたことが認められる。また、枠付き記事が作成された平成24年度から平成29年度までの記事として保管されている114件については、その9割を超える107件が枠付き記事であり、残りの7件についても、「枠」が付される表紙の存否が不明であるため(前提事実(3)ア(イ))、枠付き記事であったかの確認がとれないにすぎない。さらに、証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によれば、枠付き記事が作成され始めた平成24年7月より前の記事(甲30の1ないし408)についても、その全てについて新聞社名と新聞発行日付が付されていることが認められ、一審被告が平成17年8月以降継続して被告イントラネットに記事を掲載していたこと(乙1)を併せ考慮すると、枠付き記事が作成される以前に保管された記事についても、その多くが被告イントラネットに掲載されていたと強く推認される。
 以上の検討を踏まえ、一審被告が保管する平成30年3月以前の記事517件から枠付き記事107件を除いた410件のうち、その約9割に当たる370件(枠付き記事と合わせると477件)が被告イントラネットに掲載されたと認めることとする。
(3)ア そこで進んで、上記の517件以外の記事が平成30年3月以前に掲載されたかを検討するに、証拠(甲5、8、15、16、乙25(23頁))及び弁論の全趣旨によれば、一審被告広報担当者は、令和元年5月28日に行われた一審原告を含む新聞社6社との面談の際、直近1年の本件新聞の掲載記事が360件程度あり、その内訳は、一審被告についてのものが25件、一審被告に関連するものが15件、その他に分類されるものが320件程度あったとし、クリッピング作業のやり方は平成30年3月以前も同じであり、直近1年より前についても掲載頻度は大きくは違わない旨の発言をしていることが認められる。こうした発言内容に加え、同月以前の記事517件については、その内容が概ね一審被告についてのものか、一審被告に関するものであること(甲30)からすると、保管されている同517件の記事以外にも「その他」に分類される記事が掲載されていたことが強く推認されるといわざるを得ない。
 これに対し、当該一審被告広報担当者は、別件訴訟(東京地裁令和2年第3931号事件)の証人尋問において、一審被告ないしTXの沿線関係の記事以外で掲載されたものはかなり少なかったとか、直近1年に比べて5分の1よりももっと少ないときもあったとか供述するが(乙25(3、4頁))、訴訟前に同人が作成した甲5報告書の内容と一致しない点が多く、同供述を裏付けるに足りる客観的ないし的確な証拠がない以上は、直ちに同供述を採用することは相当でない。
イ もっとも、本件において、前記517件の記事以外の記事が平成30年3月以前に具体的に何件掲載されたかを認めるに足りる客観的ないし的確な証拠はない。前記一審被告広報担当者の掲載頻度に関する発言も、直近1年分以外の記事は廃棄済みであることを前提にしつつ、参加した新聞社側の者からの追及的な質問に答える形で曖昧に言葉を濁しつつされたものであり(甲5、8、16、乙18、25(28頁))、確固たる根拠を示した断定的な回答であるとはいえない。そもそも、証拠(乙1、18、25)及び弁論の全趣旨によれば、同一審被告広報担当者は、平成14年4月に一審被告に入社し、広報(被告イントラネットへの記事の掲載業務を含む。)を担当することになったものの、平成20年4月には広報の仕事を離れて駅現業職場に異動し、平成26年7月に広報業務に復帰したことが認められるのであるから、駅現業職場にいた約6年間は記事掲載の詳細を把握する立場にはなかったという事情もある。
 また、前記のとおり、令和元年5月28日から直近1年の本件新聞の掲載記事についても、その約9割近くの記事(360件中320件)が一審被告に関連しない「その他」に分類されるものであるものの、その選別基準は本件証拠上不明である。そして、「その他」に分類される記事は、一審被告ないしこれに関連する記事に比べて選別基準が曖昧になり、その時々の記事の内容ないし選別者の違いにより掲載数が大いに異なることがあり得ることは優に推認されるところである。そうすると、何ら客観的ないし的確な証拠もないのに、一審被告広報担当者の前記掲載頻度に関する発言のみを根拠に、平成30年3月以前も同年4月以降の掲載数312件と同じ掲載数があったとたやすく認めることはできない。
ウ 以上の検討を踏まえると、本件においては、一審原告が主張するように年間312件の記事が毎年掲載されていたと認めることは困難であるが、他方、保管されている同517件の記事以外にも「その他」に分類される記事が掲載されていたこと自体は強く推認されるから、上記諸事情を総合勘案した上で、平成30年3月以前に掲載された記事の件数を、前記において認めた477件の2倍に当たる954件であると推認することとする。」
(2)原判決12頁15行目冒頭の「(2)」を「(4)」と改め、同18行目の「証拠はない。」の後に「前記(3)ア、イのとおり、」を加え、13頁4行目冒頭の「(3)」を「(5)」と、同7行目の「829件」を「1266件(=954件+312件)」と、同9行目の「829件」を「1266件」とそれぞれ改める。
(3)原判決14頁12行目の「別紙一覧表のとおり、合計829件の」を「合計1266件の」と改める。
(4)原判決18頁17行目の「使用期間が」から19行目末尾までを削る。
(5)原判決19頁8行目の「合計829件」を「合計1266件」に、同9行目「414万5000円」を「633万円(=1266件×5000円)」に、同10行目の「45万円」を「63万円」に、同13行目から14行目の「459万5000円」を「696万円(=633万円+63万円)」にそれぞれ改める。
2 当審における当事者の補充主張に対する判断
(1)一審原告の補充主張について
ア 平成30年3月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数(前記第2の3(1)ア)について
(ア)一審原告は、一審被告が保管していた記事517件に限られず、平成30年3月以前に年間312件の記事が掲載された旨主張し、その根拠として、令和元年5月28日の新聞社との協議における一審被告の広報担当者の発言を指摘する。
 しかし、平成30年3月以前にも記事クリッピング作業のやり方は同じであり、掲載した記事件数に大きな増減はないとする一審被告広報担当者の発言からは、一審被告が保管する517件の記事以外にも本件新聞の記事を掲載していたことが強く推認されるものの、本件において、一審原告が主張するように、同月以前に年間312件の記事が毎年掲載されたことを認めるに足りる客観的ないし的確な証拠はない。そして、同発言も断定的なものとまではいえないこと、同広報担当者が広報業務から離れていた時期があること及び「その他」に分類される記事の選別基準が明確でないことは既に説示したとおりである。
 そうすると、一審被告広報担当者の上記発言のみをもって平成30年3月以前に年間312件の記事が毎年掲載されたと認めることはできないから、一審原告の上記主張を採用することはできない。
(イ)また、一審原告は、仮に、年間312件と推認することができなくて、一審被告が保管していた記事517件の7倍から9倍程度が平成30年3月以前に被告イントラネットに掲載されていたと推認されるべきであると主張する。
 しかしながら、上記主張も、結局のところ、平成30年4月以降の年間掲載記事数と同じ記事数が同年3月以前に掲載されたとするものにすぎず、同様に、そのように推認するだけの的確な証拠がない。一審被告における「その他」に分類される記事の選別基準は本件において見当たらず、同基準が往々にして曖昧になり、その時々で掲載数が大いに異なることがあり得ることは既に説示したとおりである。
 そうすると、平成30年4月以降の自社記事及び関連記事とその他の記事の掲載割合から、同月以前の掲載記事数を推認することはできないというべきであるから、一審原告の前記主張も採用することはできない。
(ウ)なお、一審原告は、本件が一審原告にとってアクセスすることができない環境下で行われた著作権侵害の事案であることや、一審被告が記事データの全てを削除したことを指摘し、これによる一審原告側の立証の困難性を指摘する。
 しかし、本件において平成30年3月以前の記事の掲載数を認めるに足りる証拠がないなどの前記事情を踏まえれば、上記の削除事実を併せ考慮したとしても、一審原告の前記各主張を認めることは困難である(ママ、原文句読点ナシ)
イ 損害及び損害額の認定(前記第2の3(1)イ)について
(ア)一審原告は、掲載後の閲覧の有無や閲覧回数の多寡は損害額算定の上で考慮すべきではないとか、閲覧(アクセス)継続期間についても、アクセスは1年以内に留まらなかったなどと主張する。
 しかし、本件料金表3及び4においても使用期間に応じて使用料が決められていること(原判決第3の4(1)ア(ウ)、(エ))からすると、一審原告の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法114条3項)を認定する上で、一審被告による本件各記事についての著作権の侵害態様として、掲載後のアクセスの有無や閲覧回数の多寡を考慮することは不当とはいえない。また、本件において、被告イントラネットへの本件各記事の掲載期間を具体的に認めるに足りる証拠がない以上、最終掲載日である平成31年4月16日まで長期間にわたってアクセスがあったはずであると判断することもできない。上記報告書についても、その信用性を特に否定するだけの証拠は見当たらない。
 よって、一審原告の前記主張は、いずれも採用することができない。
(イ)なお、一審原告は、当審において、イントラネットへの掲載を定める本件料金表3及び4について、使用期間が1年を超える場合の使用料の収受実績等に関する証拠(甲34、35)を提出する。これによれば、本件料金表3については電力株式会社の例があり(甲34。平成24年4月からの継続掲載につき、平成26年4月から平成27年3月までの1年間について1万4000円(税別)を収受)、本件料金表4についても火災保険株式会社の例(甲35。平成27年12月5日からの継続掲載につき、平成29年12月5日から平成30年12月4日までの1年間について7200円(税別)を収受)があることが認められる。
 もっとも、上記2例をその他の使用料収受実績(原判決第3の4(1)イ)と併せ考慮しても、本件料金表3において1年以上は原則として利用できないとされていること(甲12)、本件料金表4では使用期間が1年を超える場合の明示的な言及がないこと(甲13)に変わりはない。上記2例の実績の存在から、一審原告の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を本件料金表3ないし4のとおり認定することは困難というべきである。
(2)一審被告の補充主張について
ア 本件各記事が著作物とはいえないこと(前記第2の3(2)ア)について
 一審被告は、本件各記事が事実を伝達するものにすぎず、文章表現もありふれているなどとして著作物性を否定する旨の主張をするが、本件各記事において、記事内容を分かりやすく要約したタイトルが付され、文章表現の方法等について表現上の工夫が凝らされていることは原判決認定のとおりである(原判決第3の2(1))。一審被告は、本件各記事の著作物性を否定する例として甲第9号証の308の記事を挙げるものの、証拠(同号証の308に加え、甲21ないし23)及び弁論の全趣旨によれば、同記事は、同日(平成31年3月28日)に掲載された他社記事と比較して、東急電鉄の発祥や設立経緯についての記載はなく、かえって商号変更の理由が分社化に伴うものであることを記載するなど、記載内容の取捨選択がされ、記者の何らかの創造性が顕れており、著作物であると認められる。本件各記事は、法10条2項にいう「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」とはいえないから、一審被告の上記主張は採用することができない。
イ 本件各記事の著作物性につき一審被告には故意、過失がないこと(前記第2の3(2)イ)について
 一審被告は、本件料金表1ないし4が国民や企業者向けにアナウンスがされていないことや、本件新聞の記事についての著作物性の疑義から、本件新聞の記事についての著作権侵害の故意、過失があると認定することはできないと主張する。
 この点、本件料金表1ないし4自体は一審原告の内部における算定基準にすぎないものの、一審原告がこれらに基づいて使用料を収受していたという社会的な実態があることや(原判決第3の4(1)イ)、一審原告が、TX開業以前から毎年繰り返し、本件新聞上に記事の著作権が保護されていることに関する記事を掲載していたこと(甲38ないし41)、一審被告自身も自社のウェブサイトにおいてコンテンツの著作物性を主張し、事前に許可のない使用を禁じていること(甲36)を踏まえると、新聞記事に著作物性が認められることがあり、その記事の使用に当たっては新聞社の許可を得る必要があるといった一般的な知識を一審被告が有していなかったとまでは直ちに認めがたい。一審被告には、一審原告の著作権を侵害していることについて懸念を抱く余地があったといわざるを得ず、一審被告が本件各記事の著作権やその使用の許否について、法的な観点から調査検討したことは本件証拠上認められないことも踏まえると、一審被告には少なくとも過失が認められる。結局のところ、一審被告の上記主張は、いわゆる法の不知と同種の位置付けを与えられるべきものというべきであり、採用し得ない。
ウ 平成30年3月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数(前記第2の3(2)ウ)について
 一審被告は、記事収集の目的や保管態様等を挙げて、平成30年3月以前の保管記事のうち、枠付き記事107件を除く410件について被告イントラネットに掲載されたとはいえないと主張する。
 しかし、引用に係る原判決の第3の1 (1)(補正後のもの)のとおり、一審被告が平成30年4月以降の保管記事全てを被告イントラネットに掲載していること、一審被告広報担当者の面談の場における発言、枠付き記事が作成された時期においては保管記事の9割を超える記事が枠付き記事であったこと等を踏まえると、枠付き記事を除く410件について被告イントラネットに掲載されていなかったと認めることは困難である。一審被告は、記事収集の目的が自社に関する情報の収集・保管であるとし、枠付き記事を始める以前の平成24年6月までの保管記事に「新聞社名」と「新聞発行日付」が付されていることも保管のためであると主張する。しかし、掲載の主な目的は一審被告の業務に関連する最新の時事情報を従業員に周知することであると認められるのであり(乙1)、しかも、一審被告の主張する保管目的は一審被告従業員への周知目的と両立するものであるから、上記判断を妨げるものではない。さらに、一審被告は、保管している記事の中に被告イントラネットに掲載されていないもの(乙7の別紙1、乙15)があることを指摘するが、これはTX開業当初の時期に限られたわずか16件の記事にすぎず、この点をもって上記410件について掲載が全く否定されるものでもない。
 よって、一審被告の前記主張は採用することができない。
エ 損害額につき法114条3項に係る金額を記事1件当たり5000円とする認定が過大であること(前記第2の3(2)エ)について
 一審被告は、一審原告がその利用料金規定全て、特に定期クリッピング規定を提出していないことを指摘して、損害額につき記事1件当たり5000円と認めることの不当性を主張する。しかし、定期でクリッピング利用する場合の料金表は、契約を締結する場合において低廉な使用料を設定して事前に利用許諾を受けるインセンティブを与えるものであり(弁論の全趣旨)、本件において著作権侵害の不法行為における損害額を算定する場合に同料金表を考慮しなくとも、上記損害額の算定が不当になるものでもない。
 その他にも一審被告はるる主張をするが、これを考慮したとしても、上記損害額の認定が過大といえるものではないから、一審被告の主張はいずれも採用することができない。
第4 結論
 以上によれば、一審原告の本訴請求は、696万円及びこれに対する平成31年4月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきであるところ、これと異なる原判決は一部失当であって、一審原告の控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更し、一審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 中村恭
 裁判官 岩井直幸
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