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【事件名】パンフレット画像のWEB掲載事件(2)
【年月日】令和5年6月5日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10007号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和4年(ワ)第967号)
 (口頭弁論終結日 令和5年4月24日)

判決
控訴人 X
被控訴人 Y


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、700万円及びこれに対する令和4年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の要旨
 本件は、控訴人が、飲食店を経営していた被控訴人に対し、@控訴人が、被控訴人に依頼されて調理器具及び食材を購入し、その代金を立て替えた旨主張して、立替払契約に基づき、立替金5万8708円、A被控訴人が、別紙画像等目録2記載の画像(以下「本件画像2」という。)を、被控訴人のウェブサイトに掲載して表示した行為が、控訴人の著作物であるパンフレット(以下「原告パンフレット」という。甲7の1ないし8)に係る著作権(公衆送信権)の侵害に当たる旨主張して、不法行為による損害賠償として57万円、B被控訴人が、別紙画像等目録1及び3記載の画像(以下、それぞれを「本件画像1」、「本件画像3」という。)を作成し、画像等投稿サイト「インスタグラム」に投稿した行為が、控訴人の原告パンフレットに係る著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害に当たる旨主張して、不法行為による損害賠償として81万0348円、C被控訴人が、控訴人がイスラム教徒であることを知りながら、控訴人に対しアルコール販売を執拗に勧め、控訴人の宗教上の人格権を侵害した旨主張して、不法行為による損害賠償として慰謝料50万円、D被控訴人が、控訴人の委託を受けて控訴人の作った料理の販売をした旨主張して、販売委託契約に基づく受取物引渡請求権に基づき、売上金6万0944円、E被控訴人が、控訴人に対し店舗を使用させることを合意したにもかかわらず、その履行をしなかったため、控訴人が損害を被った旨主張して、債務不履行による損害賠償として100万円、F被控訴人が、第三者に対し、控訴人の自宅の住所を開示して控訴人のプライバシー権を侵害した旨主張して、不法行為による損害賠償として慰謝料100万円、G被控訴人が、第三者をして控訴人を脅迫、恐喝して、控訴人の生活の平穏を害した旨主張して、不法行為による損害賠償として慰謝料100万円、H被控訴人が、原審における答弁書の陳述によって、控訴人を侮辱、罵倒して、その名誉感情及び名誉権を侵害した旨主張して、不法行為による損害賠償として慰謝料200万円の合計700万円及びこれに対する令和4年12月14日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定(以下「改正前民法所定」という。)の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求について、Bのうち本件画像1の投稿に係る不法行為による損害賠償として3万3000円(内訳・公衆送信権侵害による損害3000円、同一性保持権侵害による損害(慰謝料)3万円)、Cの販売委託契約に基づく受取物引渡請求として手数料控除後の売上金5万4850円の合計8万7850円及びこれに対する令和4年12月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
 そこで、控訴人は、原判決中控訴人敗訴部分を不服として、本件控訴を提起した。
2 前提事実
 次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁14行目の「飲食店」を「飲食店「甲」」と、同頁24行目から25行目にかけての「パンフレット(以下「原告パンフレット」という。)」を「原告パンフレット」と、同頁末行の「原告パンフレットは」を「原告パンフレットの1枚目(以下、その画像を「原告パンフレット画像」という場合がある。)は、別紙原告パンフレット画像のとおり」と、同行目の「被告の屋号」を「控訴人の屋号」と改める。
(2)原判決4頁15行目から16行目にかけての「(以下「本件画像1」という。)」を「(本件画像1)」と、同頁20行目の「(以下「本件画像2」という。)」を「(本件画像2)」と、同頁24行目の「(以下「本件画像3」という。)」を「(本件画像3)」と改める。
(3)原判決5頁10行目から12行目までを次のとおり改める。
「 被控訴人は、令和4年5月17日の原審第2回弁論準備手続期日において、控訴人に対し、被控訴人の控訴人に対する家賃等支払請求権を自働債権とし、控訴人の被控訴人に対する売上金引渡請求権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした。」
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決5頁23行目の「人格」を「人格権」と改める。
2 原判決6頁12行目の「原告は」を「控訴人は、令和元年10月頃から同年12月頃までの間」と、同頁16行目の「代金」を「代金(合計5万8708円)」と改め、同行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 控訴人は、被控訴人に対し、被告店舗を間借りして営業したい旨の申出をした当時、調理器具を含めた荷物は郵便局に預けており、調理器具や食材などを新たに購入しなくてもまかなえる状態であったが、被控訴人が早く原告営業を開始するように急がせたため、被控訴人の依頼に基づいて、被控訴人のために調理器具及び食材の代金の立替払をした(甲50)。
 よって、控訴人は、被控訴人に対し、立替払契約に基づき、立替金5万8708円及びこれに対する請求の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
3 原判決7頁4行目の「損害」を「損害(合計57万円)」と改め、同行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「ウ よって、控訴人は、被控訴人に対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、57万円及びこれに対する不法行為の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
4 原判決8頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 また、被控訴人は、原告パンフレットのポスターが表示された本件画像3をインスタグラムに投稿することによって(甲52)、控訴人の原告パンフレットに係る著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害した。」
5 原判決8頁2行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「ウ よって、控訴人は、被控訴人に対し、著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、81万0348円及びこれに対する不法行為の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
6 原判決8頁13行目及び18行目の各「人格」をいずれも「人格権」と改め、同頁20行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 よって、控訴人は、被控訴人に対し、宗教上の人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料50万円及びこれに対する不法行為の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
7 原判決9頁5行目の「多い可能性があり」を「多いから」と改め、同頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 よって、控訴人は、被控訴人に対し、販売委託契約に基づく受取物引渡請求権に基づき、売上金6万0944円及びこれに対する請求の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
8 原判決9頁末行末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 そして、控訴人主張の被控訴人に対する売上金引渡請求権は、被控訴人の控訴人に対する上記家賃等支払請求権を自働債権とする相殺(前記第2の2(4))により消滅した。」
9 原判決10頁14行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 よって、控訴人は、被控訴人に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、100万円及びこれに対する令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
10 原判決11頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 よって、控訴人は、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円及びこれに対する不法行為の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
11 原判決11頁10行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 よって、控訴人は、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円及びこれに対する不法行為の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
12 原判決11頁16行目冒頭に「ア」を加え、12頁1行目の「100万円」を「200万円」と改め、同頁2行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「イ 原判決は、被控訴人の答弁書の記載に関し、控訴人の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまでは言い難いと判断したが、被控訴人の答弁書の記載は、控訴人がビジネスパートナーなどとは呼べない程度の技術とセンスであり、控訴人が設定する料理の価格に見合う技術に達していない人間であるから仕事も見つからないという意味に解釈できるものであって、控訴人の社会的評価を低下させるものである。
 したがって、原判決の上記判断は誤りである。
ウ よって、控訴人は、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料200万円及びこれに対する不法行為の後である令和4年12月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
第4 当裁判所の判断
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決12頁17行目の「被告飲食店が料理を提供するほか」を「被控訴人が被告飲食店において被控訴人の調理した料理を提供するほかに」と改める。
2 原判決13頁12行目の「原告パンフレット」から13行目の「使われ」までを「原告パンフレット画像(別紙原告パンフレット画像)の上部の「乙」と記載された部分と下部の「TheOriginalTribesCouscous」、「ByMr.Funtazy」などと記載された部分を省いてトリミングされており」と改める。
3 原判決16頁3行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 この点に関し、控訴人は、被控訴人に対し、被告店舗を間借りして営業したい旨の申出をした当時、調理器具を含めた荷物は郵便局に預けており、調理器具や食材などを新たに購入しなくてもまかなえる状態であったが、被控訴人が早く原告営業を開始するように急がせたため、被控訴人の依頼に基づいて、被控訴人のために調理器具及び食材の代金の立替払をした(甲50)旨主張する。
 しかしながら、控訴人が根拠として挙げる控訴人の被控訴人宛ての2019年10月25日付けメール(甲50)には、「私たちは11/7にソフトオープンすると合意したが、まだ鍋を準備できていない。田町で住む場所を確保し、5日程度あれば郵便局で預かっている荷物を開封して、私のキッチンツールを使うことができます。」、「Yさんが立替払いに合意しましたので、もし役に立つものが見つかったら注文するかもしれないが、その際は追って業者からYさんの携帯電話に連絡させますね。」旨の記載はあるものの、このメールに対して被控訴人が控訴人に対して応答したことを認めるに足りる証拠はなく、他に「Yさんが立替払いに合意しました」との記載内容が事実であることを裏付ける証拠もないことに照らすと、控訴人の上記主張は採用することができない。」
4 原判決16頁25行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 この点に関し、控訴理由書中には、原告パンフレットに関し、「原告は被告に電子データを提供したことは一度もありません。」(3頁)との記載がある。しかし、控訴人は、原審において、被控訴人に対し、原告パンフレットの電子データを提供した旨の主張をしていたこと(令和4年2月9日付け訴状訂正申立書12頁9行目・25行目、原審第1回弁論準備手続期日調書)、被控訴人の原審における供述等に照らし、上記記載は採用することができない。」
5 原判決18頁21行目の「、前記第2の3(3)(原告の主張)」を削り、19頁10行目末尾に「なお、甲52を勘案しても、これと同様である。」を加える。
6 原判決20頁13行目の「人格」を「人格権」と、同頁22行目の「その内容」から25行目末尾までを「他方で、控訴人の上記陳述を客観的に裏付ける証拠はなく、被控訴人が控訴人に対し、アルコール販売を強く勧めた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人の上記主張は理由がない。」と改める。
7 原判決21頁5行目「原告は被告に対し」の前に「前記認定事実によれば、」を加え、同頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 この点に関し、控訴理由書中には、「確かに、原告は被告に対し売上金の10%相当額を手数料として支払うことを約して調理した料理の販売を委託したが、そもそも、原告が申した手数料10%は…リクルート社の認定POSデータ「AirRegi」の開示を行うことを条件に、原告と被告の双方が合意したものである。」、「原告と被告は、原告による被告店舗の利用について条件が折り合わず、結局契約自体が成立していないのだから、原告は契約上の義務(手数料10%)の支払い義務を負わない」との記載がある。
 しかし、原審においては、控訴人は被控訴人に対し、売上金から手数料10%を控除する合意をした旨の主張をしていたこと(令和4年5月16日付け被告の答弁書に対する認否反論(準備書面)5頁11行目)、被控訴人の原審における供述等に照らし、上記記載は採用することができない。」
8 原判決21頁15行目の「足りない。」を「足りないから、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の相殺の主張は理由がない。」
第5 結論
1 以上によれば、控訴人の請求は、被控訴人に対し、本件画像1の投稿に係る著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償として3万3000円(内訳・公衆送信権侵害による損害3000円、同一性保持権侵害による損害(慰謝料)3万円)、販売委託契約に基づく受取物引渡請求として手数料控除後の売上金5万4850円の合計8万7850円及びこれに対する令和4年12月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余はいずれも理由がないから、棄却すべきものである。
 したがって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
2 なお、付言するに、控訴人は、令和5年4月24日に当審口頭弁論が終結された後に、同年5月15日付け「控訴人第1準備書面」、同日付け「証拠説明書」、同月19日付け「証拠説明書」及び証拠(甲2の1ないし2の3、19、20、53の1ないし67)の写しを提出しているが、甲2の1ないし2の3については、原審で取り調べられた甲2と同じウェブサイトの内容(甲2の3)か、これに付随する内容のもの(甲2の1及び2)であること、甲60については、当審口頭弁論終結前の作成日付の甲19、20、65ないし67の電子データを格納したDVDであること、その他の証拠の作成日付も当審口頭弁論終結前のものであること、上記各証拠の内容に鑑みると、控訴人が、上記各証拠を当審口頭弁論終結時までに提出できなかったことについて、やむを得ないといえるだけの事情はうかがわれない。また、上記各証拠に基づく「控訴人第1準備書面」もこれと同様である。
 以上を総合すれば、本件においては、弁論を再開して控訴人に更に攻撃防御方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事情があるとは認められないから(最高裁昭和55年(オ)第266号同56年9月24日第一小法廷判決・民集35巻6号1088頁参照)、当裁判所は、口頭弁論を再開しないこととした。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 遠山敦士
 裁判官 天野研司


別紙 原告パンフレット画像●(省略)●
別紙 画像等目録●(省略)●
 以上
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