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【事件名】調理器具の写真無断流用事件D(2)
【年月日】令和5年5月31日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10123号 損害賠償請求控訴事件
 (原審 東京地裁令和3年(ワ)第15525号)
 (口頭弁論終結日 令和5年4月17日)

判決
控訴人 エス・アンド・ケー株式会社
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 山下汐里


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審において拡張した請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、全て控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、190万1480円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、原審において、被控訴人の運営するオンラインストアにおける原判決別紙画像目録1記載@ないしF及び同目録2記載の各画像(以下、「本件各画像」という。)を複製した画像の掲載が、本件各画像についての控訴人の著作権(複製権、公衆送信(送信可能化を含む。)権)を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償として、著作権法114条3項により算定される損害金199万9980円及びこれに対する令和3年4月15日(最終の不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審が、控訴人の請求について、15万円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、控訴人が敗訴部分の取り消しを求めて本件控訴を提起した。
 控訴人は、当審において、控訴人の損害につき、@訴状貼用印紙額1万7000円、A訴状の予納郵便切手6000円、B控訴状印紙2万2500円、C控訴状予納郵券6000円の合計5万1500円についても控訴人の被った損害であり、控訴人の損害額は、原審で主張した199万9980円のほかに前記5万1500円を加えた合計205万1480円であると主張して、原審で認容された15万円のほかに、190万1480円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める旨に訴えの追加的変更をした。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の2ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁17行目及び同頁25行目の「別紙」の前にそれぞれ「原判決」を加える。
(2)同4頁26行目の「2000円」の次に「(消費税込み)」を加え、同5頁22行目の末尾の次を改行し次のとおり加える。
 「オ その他の損害
 控訴人が負担した、@訴状貼用印紙額1万7000円、A訴状の予納郵便切手6000円、B控訴状印紙2万2500円、C控訴状予納郵券6000円の合計5万1500円についても控訴人が被った損害である。
カ 合計した損害額
 前記のとおり、控訴人の被った損害は、エ及びオの合計205万1480円であるから、被控訴人は、控訴人に対し、原審が認容した15万円のほか、190万1480円及びこれに対する令和3年4月15日から支払い済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金を支払うべきである。」
(3)同7頁5行目の末尾の次を改行し次のとおり加える。
 「ウ 控訴人の主張するその他の損害
 控訴人が損害として主張する、@訴状貼用印紙額1万7000円、A訴状の予納郵便切手6000円、B控訴状印紙2万2500円、C控訴状予納郵券6000円の合計5万1500円については、著作権侵害に基づく損害とはいえず、訴訟費用の負担の裁判において判断されるべきものである。」
3 当審における控訴人の主な補充主張
(1)被控訴人ストアにおいては、本件各画像が、商品ごとに、異なるURLのページとして独立して使用されているものであり、全ページが一体を成すものではないから、被控訴人による本件各画像の複製は、商品ごと、ページごとに独立して行われたものであって、その使用は当該ページ数に相当する回数が行われたものである。そうすると、損害賠償額の計算については、無断複製に係るページ数分を乗じて算定されるべきであるから、本件各画像を使用した製品ページごとに、6万6666円を支払わなければならない。
(2)本件各画像は、控訴人が自ら取扱う商品を自ら販売するための販売資料として使用するために多額の費用をかけて、いつも社に依頼して独自に制作したものであり、そもそも第三者に使用許諾することを想定しておらず、その料金体系が存在しないものであるから、そのような場合の著作権法114条3項の損害額の算定に当たっては、一般的に写真素材の使用許諾がなされるときの使用料の相場を参考とせざるを得ず、当然そのような使用料の相場を示す根拠となるのはライセンス等を目的とするサービスの料金体系しかないのであるから、本件各画像がレンタルや販売を目的としていないからといって、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)を参考にすることができないとするのは著作権法114条3項の解釈及び適用を誤るものである。
(3)また、被控訴人による本件各画像の無断転載はいわゆるデッドコピーをして顧客を誘引することを目的とし、商業的に利用しているものであり、その目的及び態様は極めて悪質であるから、損害額の算定に当たっては、これらの具体的事情も考慮すべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、当審において拡張された後の控訴人の請求について、被控訴人に対して損害賠償金15万円及びこれに対する最終の不法行為の日である令和3年4月15日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第3の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決8頁19行目、同9頁15行目、同10頁22行目及び同14頁2行目の「別紙」の前にそれぞれ「原判決」を加える。
(2)同11頁8行目の「画像レンタルサービスにおいて、」の次に「ウェブ上で6か月までの使用につき消費税込みで2万2000円とするものがあるが(甲6)、これら新聞社の画像レンタルサービス(甲5、6)において、」を、同頁9行目の「画像が」の次に「どのような条件で」を、同頁11行目の「など、」の次に「被写体に代替性や再現性がなく、」をそれぞれ加え、同頁15行目の「提供されている」を「提供され、それが静止画コンテンツとして広告に用いられる」と改め、同頁16行目の「画像が」の次に「どのような条件で」を加える。
(3)同13頁4行目の「代替可能性が小さいとまではいえないものの」を「被写体に代替性や再現性がないものとは異なるから、そこで一応示されている使用料を直ちに参考とすることはできないものの、」と改め、同14頁14行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。
 「オ 控訴人の主張するその他の損害について
 控訴人は、当審において、控訴人の損害額につき、@訴状貼用印紙額1万7000円、A訴状の予納郵便切手6000円、B控訴状印紙2万2500円、C控訴状予納郵券6000円の合計5万1500円についても損害であると主張する。
 しかし、これらはいずれも、訴訟費用に係るものであるから(民事訴訟費用等に関する法律2条1号、2号、11条1項1号、13条)、損害の問題ではなく、訴訟費用の負担の裁判(民事訴訟法67条1項)において、控訴人、被控訴人のいずれに全部又は一部を負担させるかの問題であり、本件においては、後記3のとおりである(なお、原審における予納郵便切手については、控訴人に対する事務連絡の郵送やその他書面の送達等に使われた後、1188円分が令和4年11月25日に控訴人に対し返還されている。)。
4 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断
(1)控訴人は、被控訴人ストアにおいては、本件各画像が、商品ごとに、異なるURLのページとして独立して使用されているものであり、全ページが一体を成すものではないから、被控訴人による本件各画像の複製は、商品ごと、ページごとに独立して行われたものであって、その使用は当該ページ数に相当する回数が行われたものであり、損害賠償額の計算については、無断複製に係るページ数分を乗じて算定されるべきである旨を主張し、これに沿う証拠として、甲25ないし32を提出する。
 しかし、前記3(2)イ(ア)で述べたとおり、本件の使用料相当額の算定に当たり、被控訴人ストアにおいて、本件各画像が異なる態様で複数回利用された場合と同視することはできないから、ページ数(販売している商品の種類の数)を乗じて使用料相当額を算定することが相当とはいえず、当審において控訴人の提出する甲25ないし32も、いずれも音源ないし映像、美術関係品や報道画像等に係るものであって、本件における使用料相当額の認定を直接左右するものではないというべきである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)控訴人は、本件各画像は、控訴人が自ら取扱う商品を自ら販売するための販売資料として使用するために多額の費用をかけて、いつも社に依頼して独自に制作したものであり、そもそも第三者に使用許諾することを想定しておらず、その料金体系が存在しないものであるから、そのような場合の著作権法114条3項の損害額の算定に当たっては、一般的に写真素材の使用許諾がなされるときの使用料の相場を参考とせざるを得ず、当然そのような使用料の相場を示す根拠となるのはライセンス等を目的とするサービスの料金体系しかないのであるから、本件各画像がレンタルや販売を目的としていないからといって、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)を参考にすることができないとするのは著作権法114条3項の解釈及び適用を誤るものである旨等を主張する。
 しかし、既に述べたとおり、控訴人の提出する証拠からは、使用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の使用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これらを本件における侵害額の算定の参考とすることはできないし、前記3(2)イ(イ)dのとおり認められる本件各画像の使用目的等からすれば、これら利用料金表等の記載を損害額の算定に当たり直ちに参考とすべきともいえないというべきである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)控訴人は、被控訴人による本件各画像の無断転載はいわゆるデッドコピーをして顧客を誘引することを目的とし、商業的に利用しているものであり、その目的及び態様は極めて悪質であるから、損害額の算定に当たっては、これらの具体的事情も考慮すべきである旨等を主張する。
 しかし、前記3(2)イ(イ)dで述べたとおり、1オンラインストア当たりの使用料相当額を定めるに当たっては、被控訴人による本件各画像の利用の態様等も勘案し、本件における具体的事情を考慮して認定したものである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。」
2 その他、控訴人は縷々主張するが、前記認定及び判断は、控訴人のその余の補充主張によっても左右されるものではない。
3 結論
 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴人の当審における追加請求については理由がないから棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、67条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 水野正則
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