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【事件名】調理器具の写真無断流用事件F(2)
【年月日】令和5年5月30日
 知財高裁 令和5年(ネ)第10002号 損害賠償金請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第21922号)
 (口頭弁論終結日 令和5年4月20日)

判決
控訴人 エス・アンド・ケー株式会社
被控訴人 株式会社BOOTROOM
同訴訟代理人弁護士 辻居弘平
同 加藤尚敬
同 山田耕平


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における拡張請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の申立て
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、44万0992円(原審における損害金請求額の敗訴部分41万6662円+当審における損害金拡張額2万4330円)及びこれに対する令和3年4月18日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
(以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の概要
 本件は、控訴人において、被控訴人が原判決別紙画像目録記載の各画像を複製して、その運営するウェブサイト(被告サイト)の店舗のウェブページにおいて閲覧できる状態とした行為につき、これらの画像に係る控訴人の著作権(複製権及び送信可能化権)が侵害されたと主張して、被控訴人に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金46万6662円及び不法行為後の日である令和3年4月18日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審は、本件請求につき、被控訴人に対して5万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる限度でこれを認容し、その他の請求を棄却した。
 控訴人は、敗訴部分(46万6662円から5万円を控除した部分及びこれに対する遅延損害金)を不服として控訴を提起するとともに、当審において、損害金2万4330円及びこれに対する遅延損害金を追加する拡張請求をした。
2 前提事実
 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の1(前提事実)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁14行目の「ブランド」の次に「(以下、その経営主体を「スキャンパン社」という。)」を、同16行目の「株式会社いつも」の次に「(以下「いつも社」という。)」をそれぞれ加え、同22行目の「その頃から」を「上記ア記載の譲渡を受けた後」と改める。
(2)原判決3頁6行目から7行目の「本件画像Gの画像を選択して」を「本件画像Gの中から選択された画像を」と改める。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
 次のとおり補正し、後記4に当審における控訴人の補充主張を、後記5に同追加主張を付加するほかは、原判決第2の2(争点)及び第3(争点に関する当事者の主張)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁20行目末尾に改行して次のとおり加える。
 「 本件各画像のうち、本件画像A中のフライパンの写真及び本件画像B中の作業中の職人の写真3枚は、スキャンパン社から提供を受けたものであるが、本件画像@、C、F中の各写真及び本件画像Gは控訴人が撮影した写真である。いずれの写真も控訴人がいつも社に提供し、控訴人の指示の下に同社が、控訴人の考案する文章や控訴人の選択する素材、配色、構図、フォントを配置、組み合せて控訴人独自の発想を表現して、本件画像@ないしGを作成した。」
(2)原判決5頁16行目から17行目の「赤で囲った文章」を「赤色文字で記載した文章」と改め、6頁23行目の「6万6666円」の次に「(当初、ウェブサイトの1ページ当たり6画像を利用していたとして損害賠償金をウェブサイト1ページ当たり5万円としていたが、その後、1ページ当たり8画像を利用していたことが判明したことによる〔5万円÷6×8〕。)」を加える。
4 当審における控訴人の補充主張(控訴人の損害額について)
(1)本件画像@ないしGについては、それぞれ個別の商品の利用イメージや優位性を説明するための販促用商材として敢えて商品ごとにページを分けて別個に使用されている。仮に、本件画像@ないしFと本件画像Gが一体としてみられる利用態様であったとしても、被告サイトにおいては、本件画像が、個別の商品の販売促進のため個別の商品ごとに異なるURLのページごとに独立して使用されている。したがって、全ウェブページが一体をなすものではないから、その複製又は送信可能化は、当該商品ごと又はウェブページごとにその数だけ行われたものである。したがって、損害賠償額は、少なくとも、当該無断複製又は送信可能化に係るウェブサイトのページ7ページ分の額となるはずである。
(2)音楽ないし音源の利用料について、曲の使用回数、使用方法、複製枚数(本数)等による例があり(甲21ないし24)、複数回利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている。また、美術作品の利用料について、美術作品の使用回数、複製枚数等による例があり(甲25、26)、目的ごとに(例えば、URLが異なるウェブページ)複数回利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている。画像の利用料について、1媒体につき1回限りによる例があり(甲27)、画像を複数媒体(例えば、URLが異なるウェブページ)に利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている。画像素材のウェブサイトでも、著作権で保護された画像を複数媒体(例えば、URLが異なるウェブページ)に利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている(甲28)。
 著作物を複数媒体に利用すると回数ごとに利用料が発生するとされているこれらの料金体系を、本件各画像の利用に当てはめた場合、利用料は、被告サイトにおける利用ページごとにカウントされるべきである。
 また、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)についても、素材(写真等)の数、利用予定期間、利用回数、媒体数(URLが異なるウェブページで使用した場合等)ごとに料金設定がされている。
(3)本件各画像は、控訴人が自ら取り扱う商品の販売促進のために制作されたものであり、そもそも第三者に利用許諾をすることは想定されておらず、料金体系など存在し得ない。このような場合、一般的に写真素材の利用許諾がされるときの利用料の相場を参考にして損害を算定せざるを得ないはずであり、そして、そのような利用料の相場の根拠となるのは写真のライセンス等を目的とするサービスの料金体系しかない。そうであれば、本件各画像がレンタルや販売を目的としていないとしても、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)の料金額を参考にせざるを得ない。そして、被告サイトは通販サイトであり、誰でもいつでもアクセス可能であり、本件各画像が掲載されていた期間が比較的短期とはいえ、相当数の利用者によって閲覧された蓋然性が高い。また、被控訴人の利用は、顧客を誘引することを目的とする商業的利用であるから、その目的及び態様が悪質であることも損害額の算定に当たり考慮されるべきである。
5 当審における控訴人の追加主張
 本件第1審及び控訴審において生じた次の訴訟費用合計2万4330円を、本件における著作権侵害の不法行為により生じた損害として追加する。
@ 訴え提起の手数料5000円
A 第1審における郵便費用5830円
B 控訴提起の手数料7500円
C 控訴審において予納した郵便費用6000円
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件請求は、被控訴人に対して損害賠償金5万円及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月18日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり補正し、後記2に当審における控訴人の補充主張に対する判断を、後記3に当審における控訴人の追加主張に対する判断を付加するほかは、原判決第4の1ないし3に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決7頁19行目の「写真は、本件各商品の製造過程や使用例等を示すものであり」を「本件画像@及び本件画像Cの写真は、本件各商品の使用例等を示すものであり」と、同21行目の「人物」を「鍋」と、9頁13行目の「明確に表現する点において」を「独自性のある方法で表現する点において」と、同24行目「甲9」を「甲4、9」と、10頁23行目から24行目の「本件画像Gの内容を選択しつつ」を「本件画像Gの中から画像を選択しつつ」とそれぞれ改める。
(2)原判決11頁10行目の「これに対し、」の次に以下のとおり加える。
 「控訴人は、いつも社に対し、本件各画像等のデザイン制作業務を含む委託契約の対価として約700万円を支払った旨を指摘するが、当該委託契約の業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、その支払の多くは、本件各画像の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービスの対価であると推認することができる(甲12、15、16)。
 したがって、上記約700万円の支払に基づいて、控訴人による著作権の行使について受けるべき金銭の額を算定することは相当ではない。
 次に、」
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)控訴人は、前記第2の4のとおり、@本件各画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数(7ページ)を基本に算定すべきである(同(1)及び(2))、A第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同(3))旨主張する。
 上記主張に対して、引用に係る原判決の第4の3(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
(2)著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
 本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件各画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、一体の利用とみることができるから、本件各画像又はウェブページごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件各画像の利用期間も短期間であって、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像A中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像B中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件各画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件各商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。このことは、本件各画像が文字、写真等の素材を組み合わせたものであったとしても変わるものではない。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件各画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。
(3)次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申請を要するものと定めていること(甲25)、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲26)、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること(甲27)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲28)が認められる。もっとも、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料についてウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、本件各画像とは著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
(4)さらに、写真又は画像の利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められる。しかし、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。また、ペイレスイメージズは、印刷物又はウェブ用との用途における画像素材単品での購入価格を、解像度、大きさに応じて440円から5500円に設定しているとの事実は認められるものの(乙3)、どのような画像が想定されているのか不明であり、やはり、この購入代金をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることができない。
(5)以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、被告サイト全体における利用について5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記(1)@の主張を採用することはできず、同Aに主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断
 控訴人は、前記第2の5のとおり、原審及び当審において生じた訴訟費用を不法行為に基づく損害として追加する旨を主張する。
 民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものについては、専ら訴訟裁判所の裁判所書記官の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから、当該訴訟における不法行為に基づく損害賠償請求において、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解される(最高裁平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小法廷判決・民集74巻3号646頁参照)。
 控訴人は、訴え提起及び控訴提起の手数料や書類の送付に要した郵便費用を不法行為に基づく損害として主張するが、これらは民事訴訟費用等に関する法律2条1号、2号に定めるものであるから、これら費目を本件において損害賠償として請求することはできない。
 したがって、上記主張に係る損害に関する損害賠償請求は理由がない。
4 結論
 以上の次第であり、控訴人の原審における請求は、被控訴人による本件各画像の著作権(複製権及び送信可能化権)侵害の不法行為に基づき、被控訴人に対し、損害賠償金5万円及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月18日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命じる限度で理由があるから、この限度で控訴人の請求を認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、また、控訴人の当審における拡張請求は全部理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 中村恭
 裁判官 岩井直幸
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