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【事件名】ファッションサイトの写真改変事件
【年月日】令和5年5月18日
 東京地裁 令和4年(ワ)第13979号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年3月6日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 木村剛大
同 藤沼光太
被告 株式会社Bordi
同訴訟代理人弁護士 森田雅也
同訴訟復代理人弁護士 森中剛
同 ●(はしごたか)橋直
同 浦崎捷


主文
1 被告は、別紙被告写真目録記載の各写真を複製し、自動公衆送信し又は送信可能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、237万6000円及びこれに対する令和4年7月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを6分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は、原告に対し、1541万0912円及びうち500万円については令和4年7月24日(訴状送達の日の翌日)から、うち1041万0912円については令和5年2月11日(訴え変更申立書送達日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、別紙原告著作物目録記載の各写真(以下、同目録記載の番号順に「原告写真1」などといい、これらを一括して「原告写真」という。)の著作権を有するところ、被告が、その運営するウェブサイト、写真・動画共有サービス「インスタグラム」及び短文投稿サービス「ツイッター」において、別紙被告写真目録記載の各写真(以下、同目録記載の番号順に「被告写真1」などといい、これらを一括して「被告写真」という。)を掲載した行為は、原告写真に係る原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権及び送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害すると主張して、被告に対し、著作権及び著作者人格権に基づき被告写真の利用の差止め(著作権法112条1項)を求めると共に、著作権及び著作者人格権侵害の不法行為(民法709条)に基づき1541万0912円の損害賠償及びうち500万円については令和4年7月24日(訴状送達の日の翌日)から、うち1041万0912円については令和5年2月11日(訴え変更申立書送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)当事者
ア 原告は、韓国在住のモデル兼経営者であり、「ASCLO」(エジュクロ)との名称のブランドのアパレルを、自ら共同代表を務める韓国企業である株式会社NEXTを通じて販売している。
イ 被告は、アパレルの販売を主たる業務とする株式会社である。
(2)被告ウェブサイト等における被告写真の掲載
 被告は、遅くとも令和3年4月頃までに、その運営するウェブサイト「BEEPSHEEPSHAMP」(URLは省略)並びにインスタグラム(URLは省略)及びツイッター(URLは省略)(以下、これらを併せて「被告ウェブサイト等」という。)の各アカウントにおいて、被告写真を掲載した。
 なお、被告写真90及び91は、同一の画像と見られるところ、被告ウェブサイト等のうちこれらの画像が掲載されたものと見られるページ(甲9)のこれらの画像に対応するものは1枚のみであり、被告ウェブサイト等において、他に被告写真90及び91と同一の画像が掲載されたものと見られるものはない。そこで、以下では、被告写真90及び91は1枚の画像として取り扱うこととし、個別に言及する場合には「被告写真90」と表記することとする。
3 争点
(1)原告写真の著作物性(争点1)
(2)原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者(争点2)
(3)原告写真に係る著作権及び著作者人格権侵害行為の有無(争点3)
ア 複製権及び翻案権侵害(争点3−1)
イ 公衆送信権及び送信可能化権侵害(争点3−2)
ウ 同一性保持権侵害(争点3−3)
エ 氏名表示権侵害(争点3−4)
(4)被告の故意又は過失の有無(争点4)
(5)原告の損害額(争点5)
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(原告写真の著作物性)
〔原告の主張〕
 原告は、ファッション商品の販売を目的とし、自らをモデルとして撮影したり、第三者をモデルとして撮影したり、商品自体を撮影したりして、原告写真を創作した。自らがモデルとなる場合は、自撮りによる方法、三脚を利用する方法又は第三者に指示する方法で、iPhone又は一眼レフカメラを使って撮影しているところ、原告は、商品がより良く見えるように、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度、カメラの位置等を工夫して撮影している。第三者をして原告自身を撮影させる際にも、これらの事項を全て原告自らが決め、第三者に指示して撮影させている。第三者を撮影する際(例えば原告写真247〜253、265等)にも、原告は、自らこれらの事項を工夫して撮影している。物を撮影する場合も同様である。
 したがって、原告写真はいずれもありふれたものとはいえず、原告の思想・感情が創作的に表現されているものであるから、著作物である。
〔被告の主張〕
 原告写真は、以下のとおり、いずれも創作性が認められず、著作物とはいえない。
ア 原告写真43、108、110、115、328について
 これらの写真は、商品と思われるものが単体で撮影されたものであって、「身に着ける」、「コーディネートする」という要素が含まれない。また、原告の撮影方法と同様の撮影方法により撮られた写真は数多く存在する。しかも、原告写真328については、背景も単なる白色であって、何ら創意工夫が認められない。
イ 原告写真16、18、20、23、44、64、67、77、84、99、106、111、157、184、189、198、264、266、282、283、312、314、318、324〜326について
(ア)これらの写真は、商品と思われるものを着用しているものの、そこで衣服として写されているのは同商品1つのみであって、少なくともコーディネートをするという要素を含むものとはいえない。また、被写体の撮影方法も、商品を着た被写体を正面から撮影するというありふれたものであって、創意工夫が認められない。加えて、原告の撮影方法と同様の撮影方法で撮られた写真は数多く存在する。
(イ)原告写真64、67、84、157、184、189、198、264、266、312、314については、背景に特段特徴があるわけでもなく、撮影場所の選択において創意工夫が認められない。
(ウ)原告写真16、18、20、23、44、77、99、106、282、283、318、324〜326は、背景等に物が存在するものの無造作に置かれているのみであり、撮影場所の選択において創意工夫が認められない。
(エ)原告写真111は、単に立っている姿を撮影するというありふれたものであって、撮影方法に創意工夫が認められない。
ウ 原告写真1〜4、10、11、22、25〜28、32、33、40、59、60、65、74〜76、79、80〜82、86、89、100、101、103〜105、107、185、190〜195、206、208、232、233、235、246、275、286、291、317、323、327について
(ア)これらの写真は、商品と思われるものを複数組み合わせて着用していることがうかがわれるものの、いずれも被写体の自撮りという方法での撮影であるため、少なくとも片手でスマートフォンを保持しなければならず、その体勢は自ずと限られ、また、必ずスマートフォンというコーディネートに無関係なものが映り込み、さらには、全身もしくは半身が映る鏡を利用しなければならないため、その撮影場所が限られることはもとより、鏡の大きさ、向き、形状等によりその構図は大きく制約を受ける。また、原告の撮影方法と同様の撮影方法で撮られた写真は数多く存在する。
(イ)原告写真1〜3、25、26、79、80、107、185、190〜195、275は、被写体が、単に鏡の前に立つか座るかして写真を撮影するというありふれたものであり、かつ、背景に特段特徴があるわけでもなく、撮影方法や撮影場所の選択等の観点において創意工夫が認められない。
(ウ)原告写真4、10、11、22、27、28、32、33、40、59、60、65、74〜76、82、83、86、89、100、101、103〜105、206、208、232、233、235、246、286、291、317、323、327も、単に被写体が鏡の前に立つか座るかして写真を撮影するというありふれたものであり、かつ、背景に物があるものの無造作に置かれているに過ぎないといえ、撮影方法や撮影場所の選択等の観点において創意工夫が認められない。
エ 原告写真5〜9、12〜15、17、19、21、24、29〜31、34〜39、41、42、45〜58、61〜63、66、68〜73、78、81、85、87、88、90〜98、102、109、112〜114、116〜156、158〜183、186〜188、196、197、199〜205、207、209〜231、234、236〜245、247〜263、265、267〜274、276〜281、284、285、287〜290、292〜311、313、315、316、319〜322、329〜336について
(ア)これらの写真は、商品と思われるものを複数組み合わせて着用し、第三者に撮影されていることがうかがわれる。
 もっとも、原告写真29、30、102、131、136〜138、199、201、223〜231、244、257、272〜274、302、303〜306、311、319〜322については、背景に特徴が見られない場所において、単に立っている被写体の写真を撮影するというありふれたものであり、撮影場所の選択や撮影方法として創意工夫が認められない。
(イ)原告写真9、12〜15、17、21、24、31、34、36〜39、41、42、45、46、54〜58、61〜63、78、85、87、88、200、207、209〜212、221、222、234、267、277〜279、287、290、296、313、315、316は、単に立つか座るかしている被写体を撮影するというありふれたものであり、かつ、背景に物があるものの無造作に置かれているに過ぎないといえるのであって、撮影方法や撮影場所の選択等の観点において創意工夫が認められない。
(ウ)原告写真5〜8、19、35、47〜53、66、68〜73、90〜98、109、112〜114、116〜130、132〜135、139〜156、158〜183、186〜188、196、197、202〜205、213〜220、236〜243、245、247〜256、258〜263、265、268〜271、276、280、281、284、285、288、289、292〜295、297〜301、304、305、307〜310、329〜336は、単に立つか座るかしている被写体を撮影するというありふれたものであり、撮影方法において創意工夫が認められない。
(2)争点2(原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者)
〔原告の主張〕
 原告写真は、2016年(平成28年)8月7日〜2020年(令和2年)9月30日にかけて、原告が自ら撮影し、又はスタッフに指示して撮影させたものであり、原告の個性が表れている著作物であるから、原告がその著作者であり、著作権及び著作者人格権を有する。
〔被告の主張〕
 原告写真の撮影時期、及び、撮影が原告自ら撮影し、又はスタッフに指示して撮影させたものであることは不知。その余は否認ないし争う。
 原告写真のうちいずれが自撮り撮影されたものであるかは明らかでない上、自撮り撮影したものと思われる写真に写る者が原告自身かどうかは不明である。
 原告写真のうち原告がスタッフに指示をして撮影させたものについては、指示の内容や程度等によっては当該スタッフが著作者である可能性もある。その場合、当該スタッフから著作権の譲渡を受けていなければ原告が著作権者となることはない。
 したがって、原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者が原告であるとはいえない。
(3)争点3−1(複製権及び翻案権侵害の有無)
〔原告の主張〕
 原告写真と被告写真とを対比すると、別紙対比表のとおり、被告写真は、一部切除されたものがあるものの、原告写真をデッドコピーしたに等しい。このため、被告は、被告写真を被告ウェブサイト等に掲載することにより、原告写真に依拠し、原告写真を有形的に再製したといえる。
 また、被告写真には複数の写真を組み合わせて作成されたものがあるところ、当該写真は、原告写真の一部を切除して貼り付けることにより、新たな著作物として創作したものである。
 このような被告の行為は、原告写真に係る原告の複製権及び翻案権を侵害するものである。
〔被告の主張〕
 被告が被告写真を被告ウェブサイト等に掲載したことは認める。その余は否認ないし争う。
(4)争点3−2(公衆送信権及び送信可能化権侵害の有無)
〔原告の主張〕
 被告写真は原告写真の複製物(又は翻案物)であるところ、被告は、被告写真を被告ウェブサイト等に掲載することにより、不特定多数の公衆に送信すると共に、閲覧者がアクセスしたときにいつでも被告写真を自動的に送信できる状態に置いている。
 このような被告の行為は、原告写真に係る原告の公衆送信権及び送信可能化権を侵害するものである。
〔被告の主張〕
 被告が被告写真を被告ウェブサイト等に掲載したことは認める。その余は否認ないし争う。
(5)争点3−3(同一性保持権侵害の有無)
〔原告の主張〕
ア 原告写真は、原告が商品をより良く見せるために構図等を工夫して創作した著作物である。このため、原告写真の一部でも切除された場合には、原告の意に反する改変となる。
 しかるに、被告写真の一部は、原告写真の一部を切除して複製されたものである。このような被告の行為は、原告写真に係る原告の同一性保持権を侵害するものである。
イ 著作者の意に反する「改変」(著作権法20条1項)とは、著作者の意に反して著作物の表現を変更すること、すなわち著作者の主観的意図に反する改変をいう。
 販売する衣服のデザインを購入者に伝えることも原告が原告写真を創作した目的の1つではあるが、原告写真は、商品が魅力的なものとして購入者の購買意欲に訴えるために撮影されたものであって、写真の構図はこのような目的において重要なものである。また、被告が商品の販売のために原告写真を無断で使用するのであれば、原告写真をそのまま使用すればよく、あえて原告写真の上下又は左右を切除する必要もない。こうした事情は、原告写真の一部を僅かに切除したものであっても異ならない。
 したがって、被告が、原告写真につき、わずかに切除した行為も含め上下又は左右を切除した行為は、原告の主観的意図に反する改変すなわち意に反する改変にあたる。
〔被告の主張〕
ア 著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、客観的にみて、通常の著作者であれば、特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、意に反する改変とはいえず、同一性保持権の侵害に当たらない。意に反する改変かどうかは、当該分野の著作者の立場から当該改変行為が通常その著作者の意に反するといえるか否かを、事案ごとに考慮すべきものである。
 原告写真は、写真に写る衣服を身に着けた被写体を撮影したアパレルに関する写真であるが、仮にいずれの写真も商品がより良く見えるようにコーディネートしているのであれば、原告写真は、どのような商品であるか購入者に検討させるために撮影し掲載されたものといえる。また、衣服の購入者が衣服を購入する際に重視する点としては価格、デザイン、着心地、品質等があげられるところ、このうちデザインは写真により購入者に伝えることが適する事項であり、ほとんどのアパレル事業者がそのような対応を取っているといえる。そうすると、原告写真のような写真を撮影する著作者の合理的意思としては、販売する衣服のデザインがどのようなものかを購入者に伝えることを重視しているとみられる。このため、撮影された衣服のデザインが全く異なるものに理解されてしまうような変更、切除その他の改変をした場合に、当該改変行為は著作者の意に反する改変に該当するものと解される。
イ 本件の場合、別紙対比表のとおり、被告写真はいずれも原告写真で撮影された商品たる衣服のデザインが全く異なるものに理解されてしまうような変更、切除その他の改変をしているとはいえない。特に、被告写真10〜15、20〜26、28、29、31、32、34〜37、39〜42、45、55、56、58〜64、67〜72、74〜76、129、131、136〜143、148〜151、153〜155、167、194、213、238、241〜243、250〜252、261、266、267、274、278、281、285〜287、297〜300、302〜305、309、310、329〜331については、肉眼で確認不能な程度又は肉眼による確認が容易でない程度の差異しかない。その他についても、若干寄り又は引きになっている程度のものや被写体たる商品及び商品を身に着けている者に改変が行われずその背景の一部が改変されたに過ぎないものが非常に多い。
ウ したがって、仮に原告写真が原告を著作者とする著作物であるとしても、被告が原告の同一性保持権を侵害したとはいえない。
 また、仮に、著作者の意に反する改変につき著作者の主観的意図に反するものをいうとしても、上記のような被告写真は、著作者の人格的利益を害することがないといえる場合に該当し、同一性保持権を侵害したとはいえない。
(6)争点3−4(氏名表示権侵害の有無)
〔原告の主張〕
 被告は、被告ウェブサイト等における被告写真の掲載に際し、原告の氏名を著作者名として表示していない。
 このような被告の行為は、原告写真に係る原告の氏名表示権を侵害するものである。
〔被告の主張〕
 被告が、被告ウェブサイト等への被告写真の掲載に際し、原告の氏名を著作者名として表示していないことは認める。その余は否認ないし争う。
(7)争点4(被告の故意又は過失の有無)
〔原告の主張〕
 被告には、原告の著作権及び著作者人格権の侵害につき、少なくとも過失がある。
 被告においては、写真の使用に際し、第三者から許可を得なければ使用できないことの認識があったとみられるところ、被告は、後記タオバオに直接確認したり、後記杭州社等がタオバオや写真の権利者から写真の利用許諾を受けた契約書を確認したりするなど、杭州社等が写真の利用に関し正当な権原を有しているか容易に確認可能であったにもかかわらず、これを怠っている。
〔被告の主張〕
 被告は、従前より、原告写真に写っている商品を、委託者を被告、受託者を中国企業である杭州直行便供●(應の簡体字体)●(鏈の簡体字体)有限公司(以下「杭州社」という。)、連帯保証人を株式会社SNIFFJAPANとする物流業務委託契約を締結し(以下「本件業務委託契約」という。)、杭州社が運営する「THE直行便」というサービスを利用して、中国の主要なECサイトと主要な卸売市場から商品を購入することができるプラットフォーム「タオバオ」に出店していた「MRCYC原●(創の簡体字体)男装」というショップ等から購入していた。その際、同ショップの商品販売ページに掲載されている写真には、実名又は変名として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されていなかった。そのため、被告は、原告写真が原告の著作物であることを認識していなかった。
 また、被告は、杭州社の担当者に対し、タオバオに掲載されている写真の利用について尋ねたことがあったが、当該担当者は、タオバオに掲載されている写真については、何らの許可を取る必要なく、自由に使用することができる旨回答した。
 さらに、被告は、杭州社と契約する以前、「バンリ」という杭州社と同様のサービスを提供する会社と契約をしていたが、同社からも同様の説明を受けていた。加えて、本件訴えの提起後、原告写真に写る商品を購入したショップに掲載されていた原告写真について、被告が改めて杭州社の担当者に問合せをしたところ、問題ない旨回答を受けた。
 このように、被告は、現実的に対応可能な著作物の調査等は行っていたのであるから、原告写真につき、原告が著作者である著作物であることを認識予見する可能性はなく、また、仮に認識予見すべきであったとしても不注意はない。したがって、被告には、原告の著作権及び著作者人格権侵害につき、故意・過失はない。
(8)争点5(原告の損害額)
〔原告の主張〕
ア 著作権侵害
 原告写真は、アパレルに関する写真の著作物であるところ、アパレルは、通常、春夏と秋冬の2シーズンに分けられて展開されるものである。このため、原告写真についても、少なくとも6か月は使用することを意図して作成されたものである。
 また、インターネットやデジタルコンテンツにおける写真のコマーシャル使用の際のライセンス料率の相場は、6か月間の使用で1枚当たり3万5200円を下らない。原告写真は販売するアパレル商品に関する写真であり、被告がストックフォト等からライセンスを受けることで代替可能な写真ではないことからも、上記相場を下回ることはない。
 このため、本来であれば原告が被告に対する原告写真のライセンスにより得られた金額は、1182万7200円を下らない。
 これに消費税(10%)を加算すると、被告の原告に対する著作権侵害による原告の損害額は、少なくとも1300万9920円である。
イ 著作者人格権侵害
 原告写真は、「ASCLO」の商品をより良く見せるために原告が構図等を工夫して創作した著作物であるから、被告による同一性保持権及び氏名表示権侵害により、原告は極めて深い精神的苦痛を被った。
 したがって、被告の原告に対する著作者人格権侵害による原告の損害額は、100万円を下らない。
ウ 弁護士費用相当損害額
 被告が原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことにより、原告は、原告代理人に依頼をせざるを得なかった。
 したがって、被告による原告の著作権及び著作者人格権侵害との間に因果関係のある弁護士費用相当損害額は、140万0992円を下らない。
〔被告の主張〕
ア 原告写真がアパレルに関する写真であることは認める。その余は否認ないし争う。
イ 衣服は、春、夏、秋、冬の4シーズンで販売されるものと考えるべきであり、原告写真も、少なくとも6か月間の使用を意図して作成されたものとはいえず、むしろ4シーズンの区分けを前提とした3か月の使用を意図して作成したものというべきである。
 また、インターネットやデジタルコンテンツにおける写真の使用の際のライセンス料については、画像350点までダウンロード及びウェブサイト等で使用することができる毎月定額制のものも存在する。本件では原告写真を336点使用しているところ、画像350点までのライセンス料が月額5万9400円のプランによれば、写真1点当たり約170円となるから、被告が使用した原告写真336件の1か月分のライセンス料は約5万7120円であり、3か月利用を前提として計算すると、原告が被った損害額は多くとも合計約17万1360円を上回らない。また、写真1点当たり2200円とする例や1年間の利用で2万円とする例もあるところ、前者では、原告が被った損害額は多くても73万9200円であり、後者では多くても合計金672万円を上回らない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告写真の著作物性)及び争点2(原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者)について
(1)著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであり(著作権法2条1項1号)、写真の著作物もこれに含まれる(同法10条1項8号)。写真は、被写体の選択、組合せ、配置、陰影もしくは色彩の配合、構図もしくはトリミング、部分の強調もしくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピードもしくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり、写真を写真の著作物として保護するためには、これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され、その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。
 証拠(甲68)及び弁論の全趣旨によれば、原告写真は、2016年(平成28年)8月7日〜2020年(令和2年)9月30日の間に撮影されたものであること、撮影は、原告の取扱商品の販売促進目的で行われたこと、被写体は、原告自身がモデルとなっている場合、原告以外の人物がモデルとなっている場合及び商品自体が撮影されている場合があること、原告自身がモデルとなっている原告写真の撮影は、自撮り又は三脚を用いて原告自身が行った場合と原告がスタッフに指示して行われた場合とがあること、原告以外の人物がモデルとなっている場合及び商品自体が撮影された場合の撮影は原告自身が行ったこと、いずれの撮影方法による場合においても、撮影にあたり、原告は、商品がより良く見える写真とするために、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度及び位置等を工夫したことが認められる。
 これらの事情を踏まえると、原告写真は、いずれも原告を撮影者とするものといってよく、また、撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現され、その個性が表されているものといえる。
 したがって、原告写真は、いずれも写真の著作物といえると共に、原告は、その著作者として原告写真の著作権及び著作者人格権を有することが認められる。
(2)被告の主張について
ア 原告写真の著作物性について
 この点につき、被告は、商品が単体で撮影されている場合、商品1点を被写体の人物が着用している場合、複数の商品を着用した被写体の人物が自ら撮影している場合及び複数の商品を着用した被写体の人物が第三者に撮影されている場合に大きく分けた上で、構図、撮影方法及び撮影場所の選択等の点で創意工夫が認められないなどと指摘して、原告写真はいずれも著作物とはいえない旨を主張する。
 確かに、原告写真を構成する個別の要素に着目すれば、表面的には他の写真においても見受けられるものが存在するようにも思われる。しかし、原告写真は、原告の取扱商品の販売促進目的で撮影されること以外には明確な制約がなく撮影されたものとみられ、また、撮影対象とされる商品の種類は多数に上ることを踏まえると、商品そのものを単体で撮影するか、被写体の人物に身に着けさせて撮影するか、後者の場合、1点の商品のみを着用させるか、複数の商品を組み合わせて着用させるか、また、撮影を被写体の人物自らが行うか、第三者に撮影させるかといった観点からだけでも、その組合せは相当多数に上ることは多言を要しない。これに、着用する商品のコーディネートや撮影場所の選択、被写体の人物の体勢や物の配置、背景といった構図等の要素をも加味すると、原告写真において、撮影者がその思想又は感情を創作的に表現し、その個性を表す余地は相当に広いというべきである。こうした事情を総合的に考慮すると、被告が縷々指摘する諸事情を考慮したとしても、なお原告写真はいずれも著作物と認めるに足りるものといえる。
 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者について
 この点について、被告は、原告写真のうちいずれが自撮り撮影されたものであるかは明らかでなく、その被写体の人物が原告自身かどうかも不明であり、また、原告がスタッフに指示して撮影させたものについては、指示の内容等によってはスタッフが著作者である可能性もあることを指摘して、原告写真の著作権者・著作者人格権者が原告であるとはいえない旨を主張する。
 しかし、原告の陳述書(甲68)においては、上記認定のとおりの事実が陳述されているところ、原告が、モデル兼経営者として、アパレルを自らが共同代表を務める会社を通じて販売していることに鑑みると、その陳述内容には合理性があるといってよく、他方、その信用性を疑うべき具体的な事情は見当たらない。
 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点3−1(複製権及び翻案権侵害の有無)について
(1)複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、より具体的には、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製することをいう。もっとも、既存の著作物に修正、増減、変更等が加えられた場合でも、その修正等に創作性が認められない場合はなお「複製」にあたる。他方、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作するに至った場合は、「翻案」にあたる。
(2)証拠(甲1〜66)及び弁論の全趣旨によれば、被告写真のうち、被告写真20、21、23、26、29、36、40、42、56、62、64、67、69、71、72、139、140、142、143、242、243、250、251、267、274、278、298、300、309、310、329は、対応する原告写真と、少なくとも肉眼で視認し得る限度では全く同一と見られる。
 また、被告写真1〜19、22、24、25、27、28、30〜35、37〜39、41、43、44、46〜55、57〜61、63、65、66、68、70、73〜90、92〜138、141、144〜204、206〜212、214〜241、244〜249、252〜263、266、281、285〜287、291、294、297、299、301〜308、311〜328、330〜336は、対応する原告写真の上下左右の一部を切除したものと見られるものの、その修正等に創作性は認められないものといえる。
 したがって、これらの被告写真については、対応する原告写真を複製したものといえるから、その被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の著作権(複製権)の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
(3)その余の被告写真について
ア 被告写真45は、原告写真45と対比すると、被写体の人物に向かって右側の部分がやや広く写っていると共に、原告写真45では被写体の人物の向かって右側腰付近の机上に存在する薄板状の物体が被告写真45には存在しないという違いがある。
イ 原告写真205と被告写真205とを対比すると、原告写真205の下部に存在する「MEGASIZED」の文字が被告写真205には存在しないという違いがある。
ウ 被告写真213は、原告写真213と対比すると、原告写真213の上下左右がそれぞれ一部切除されていると共に、原告写真213の被写体の人物の右側にあるエレベーターの操作盤と見られる部分が被告写真213では消去されている。
エ 被告写真264は、原告写真264と対比すると、原告写真264の被写体の人物の背景である幕様の物体が単色の背景に置き換えられていると共に、上下及び左右方向の各中央部に「NEWARRIVAL」との白抜き文字及びその上下各1本の白線が被写体の人物上に重ねられている。
オ 被告写真265は、原告写真265と対比すると、上下左右がそれぞれ一部切除されているほか、「3DAYS」との白抜き文字、これと同一サイズ・同一フォントの「OUTERSALE」との黒文字及びこれらより小さいサイズでフォントの異なる「1.29−1.31」との白抜き文字が上下方向に3段に配置されている。
カ 被告写真268及び271は、原告写真268及び271と対比すると、原告写真268及び271の被写体である男女2名の人物の全身のうち、左側の男性の腰付近から上部(被告写真268)又は下部(被告写真271)にフォーカスするように上下左右を大きく切除したものである。
キ 被告写真269及び270は、原告写真269及び270と対比すると、いずれも原告写真269又は270の被写体である男女2名の人物の全身のうち、右側の女性の腰付近から下部(被告写真269)又は上部(被告写真270)にフォーカスするように上下左右を大きく切除した上で、同程度の面積の他の画像をその右側に配置して組み合わせ、その境目上の上部に「PPP」との白抜き文字(被告写真269)又は下部に「BSS」との白抜き文字(被告写真270)が重ねられている。
ク 被告写真272は、原告写真272と対比すると、原告写真272と同一と見られる画像の最上部の左から中央付近にかけて、判読不能ながら白抜き文字様の記載が重ねられている。
ケ 被告写真273は、原告写真273と対比すると、原告写真273の上下左右を一部切除した上で、被写体の人物の背中部分に「SHEEP」、「SHAMP」と推察される同一サイズ・同一フォントの白抜き文字が波状に撓んで上下2段に配置されている。
コ 被告写真275は、原告写真275と対比すると、原告写真275と同一と見られる画像の中央下部に「TM」、「BEEP」、「SHEEP」と推察される白抜き文字(「TM」は他より小さなフォント、他の2つの文字列は同一サイズ・同一フォント)が波状に撓んで上下3段に配置されている。
サ 被告写真276及び277は、原告写真276及び277と対比すると、原告写真276又は277と同一と見られる画像の最上部左隅(被告写真276)又は最下部右隅(被告写真277)に、判読不能ながら白抜き文字様の記載が重ねられている。
シ 被告写真279は、原告写真279と対比すると、原告写真279の上下左右を切除した上で、下部中央に大きく「BEEP」、小さく「SHEEPSHAMP」の同一フォントの白抜き文字を上下2段に配置すると共に、その下端部やや上方の左端から右方向及び右端部やや左側の上端から下方向にそれぞれ白線をその交点まで配置している。
ス 被告写真280は、原告写真280と対比すると、原告写真280と同一と見られる上下左右の各端部に黒枠を配置している。
セ 被告写真282は、原告写真282と対比すると、原告写真282の上下左右を切除した上で、左下部の被写体の人物の袖口に円弧状に「AMP」及び「SHA」などと見られる文字が2段に配置されている。
ソ 被告写真283は、原告写真283と対比すると、原告写真283の上下左右を切除した上で、その上端部やや下方の右端から左方向及び左端部やや右側の下端から上方向にそれぞれ白線をその交点まで配置している。
タ 被告写真284は、原告写真284と対比すると、原告写真284の画像のうち被写体の人物の胴部中央付近を中心として円形に切除したものを単色の背景上に配置すると共に、その上下及び左右方向中央部分付近に「UNIQUEPRINTED」、「T−SHIRT」の同一サイズ・同一フォントの白抜き文字を上下2段に配置し、さらに、円形状の画像部の最下部に白色の略長方形を配置してその内部に「CHECKNOW」の文字を配置するなどしている。
チ 被告写真288は、原告写真288の画像のうち被写体の人物部分を抜粋し、これを、「BEEPA/W」及び「EarlyAutumn」の上下2段に配置した文字列を右方向に90°回転させた部分と上記人物部分を含む7名の人物の画像を上下2段縦4列に配置したうちの下段左端部に配置している。
ツ 被告写真289は、原告写真289の画像のうち被写体の人物部分を抜粋し、これを、白色の背景の上下及び左右方向中央部分から下方に配置された3名の人物部分のうち左端部に配置している。
テ 被告写真290は、原告写真290の画像のうち被写体の人物部分を抜粋し、白色の背景の上下方向中央部分に左右方向に配置した4名の人物部分のうち左から2番目に配置している。
ト 被告写真292は、原告写真292の画像のうち被写体の人物部分を抜粋し、これを、白色の背景の上下及び左右方向中央部分から下方に配置された4名の人物部分の右端部に配置している。
ナ 被告写真293は、原告写真293のうち被写体の人物部分を抜粋し、これを、白色の背景の上下及び左右方向中央部分に下部に向けて略V字状に配置した5名の人物部分の右端部に配置している。
ニ 被告写真295は、原告写真295のうち被写体の人物部分を抜粋し、これを、白色の背景の上下及び左右方向中央部分から下方に配置された商品の画像の右側に配置している。
ヌ 被告写真296は、原告写真296のうち被写体の人物部分を抜粋し、これを、白色の背景の下半分部分に配置された3名の人物部分の左端部に配置している。
ネ 小括
 これらの被告写真については、既存の著作物である対応する原告写真に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作するに至ったものといえる。
 したがって、これらの被告写真は、対応する原告写真を翻案したものといえるから、その被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の著作権(翻案権)の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
3 争点3−2(公衆送信権及び送信可能化権侵害の有無)について
 被告は、被告写真を被告ウェブサイト等に掲載しているところ(前提事実(2))、これにより、被告は、被告写真を、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行い、また、公衆からの求めに応じ自動的にこれを行い得るようにしたものといえる。また、前記のとおり、被告写真は、いずれも原告写真を複製ないし翻案したものである。
 したがって、被告による被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、原告写真を公衆送信及び送信可能化したものといえるから、同掲載行為は、原告写真に係る原告の著作権(公衆送信権及び送信可能化権)の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
4 争点3−3(同一性保持権侵害の有無)について
(1)著作者は、その著作物の同一性を保持する権利を有し、その意に反してその変更、切除その他の改変を受けない(著作権法20条1項)。この同一性保持権は、著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨のものであることから、著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえないと解される。その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行うべきものである。
(2)まず、被告写真のうち、原告写真と全く同一と見られる被告写真20、21、23、26、29、36、40、42、56、62、64、67、69、71、72、139、140、142、143、242、243、250、251、267、274、278、298、300、309、310、329については、そもそも改変が認められないことから、著作者である原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものとはいえない。これに反する原告の主張は採用できない。
 他方、原告写真の翻案といえる被告写真45、205、213、264、265、268〜273、275〜277、279、280、282〜284、288〜290、292、293、295、296は、その改変により原告写真とは別の著作物を創作するに至ったものであるから、著作者である原告の意に反する改変を行ったものといえる。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
(3)被告写真1〜19、22、24、25、27、28、30〜35、37〜39、41、43、44、46〜55、57〜61、63、65、66、68、70、73〜90、92〜138、141、144〜204、206〜212、214〜241、244〜249、252〜263、266、281、285〜287、291、294、297、299、301〜308、311〜328、330〜336については、対応する原告写真の上下左右の一部を切除したものと見られる点で、原告写真を改変したものといえる。もっとも、このうち被告写真10〜15、22、24、28、31、32、34,35、37、39、41、55、58〜61、63、68、70、74〜76、131、136〜138、141、148、149、151、153〜155、238、241、252、285〜287、299、303、305、330、331については、その切除の程度が一見してはわからないほどごく僅かであり、相当に注意深く観察してようやく僅かに切除されている部分を把握し得る程度に過ぎない。
 そうすると、被告写真10〜15、22、24、28、31、32、34,35、37、39、41、55、58〜61、63、68、70、74〜76、131、136〜138、141、148,149、151、153〜155、238、241、252、285〜287、299、303、305、330、331については、その改変の程度はなお客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものにとどまり、著作者の意に反する改変とはいえないとするのが相当である。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたらない。
 他方、被告写真1〜9,16〜19、25、27、30、33、38、43、44、46〜54、57、65、66、73、77〜90、92〜130、132〜135、144〜147、150、152、156〜204、206〜212、214〜237、239、240、244〜249、253〜263、266、281、291、294、297、301、302、304、306〜308、311〜328、332〜336については、切除部分が一見して明らかであるところ、原告写真は、原告の取扱商品の販売促進を目的としたものとはいえ、商品をより良く閲覧者に見せるために構図、撮影方法、撮影場所の選択その他の点で工夫がされたものであることに鑑みると、その改変は客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものとはいえず、著作者の意に反する改変といえる。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたる。
 以上に反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
5 争点3−4(氏名表示権侵害の有無)について
 被告が被告ウェブサイト等に被告写真を掲載するに当たり、原告の氏名を著作者として表示していないことは当事者間に争いがない。
 しかるに、原告写真はいずれも原告を著作者とする著作物であることから、これらにつき、原告は氏名表示権を有する。
 そうである以上、被告ウェブサイト等への被告写真の掲載は、原告写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
6 争点4(被告の故意又は過失の有無)について
 証拠(乙10〜12、14、20)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告写真に写っている商品を、委託者を被告、受託者を杭州社とする本件業務委託契約に基づき、杭州社が運営する「THE直行便」というサービスを利用して、中国の主要なECサイトと主要な卸売市場から商品を購入することができるプラットフォーム「タオバオ」に出店していた「MRCYC原●(創の簡体字体)男装」というショップ等から購入していたこと、タオバオ上のショップの商品販売ページに掲載されている原告写真には、著作権マークや原告の氏名等は表示されておらず、引用元等の記載もないこと、被告担当者が、2022年(令和4年)8月24日、杭州社の担当者に対し、「MRCYC原●(創の簡体字体)男装」ほか1店舗の名前を挙げて、被告の購入した原告写真に係る商品の画像につき、「こちらのショップは画像使用許可が必要そうな商品ありますか?」と問い合わせたところ、杭州社担当者は、「使って大丈夫と思います!」と回答したことが認められる。
 他方、被告が本件業務委託契約に基づき原告写真に係る商品の購入を開始した当初その他本件訴訟の提起前に、原告写真の利用に係る権利関係について杭州社に確認したことを裏付けるに足りる証拠はない。その点を措くとしても、被告担当者の問合せに対し杭州社担当者は、根拠を示すことなく「使って大丈夫と思います!」と回答したに過ぎず、また、原告、杭州社及び被告への販売店舗のうち誰との関係で「大丈夫」とするのかも不明であって、原告写真の利用に係る権利関係の調査として十分とはいいがたい。このことは、被告が杭州社との本件業務委託契約に基づき「タオバオ」の出店店舗から原告写真に係る商品を購入していたこと、これらの店舗に掲載されていた原告写真に著作権マークや原告の氏名、引用元等が記載されていなかったことを考慮しても異ならない。
 したがって、被告は、被告写真の被告ウェブサイト等への掲載による原告の著作権及び著作者人格権侵害につき、少なくとも過失が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
7 争点5(原告の損害額)について
(1)著作権侵害による損害額について
ア 証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)株式会社アマナの「amanaimages料金表」(甲67)によれば、「写真・イラスト/出版・報道・教育写真」欄に記載された料金表(以下「アマナ料金表」という。)において、「1社・1種・1号・1版・1回・1箇所の使用に限った料金設定」として、「Standard」では、「WEBバナー広告・WEBCM/Eメール広告/アプリ内広告/SNS内広告/動画配信広告」につき、「使用箇所」は「場所問わず」、「サイズ」は「サイズ問わず」で、使用期間「〜3ケ月」の場合は2万8600円、「〜6ケ月」の場合は3万5200円である旨が表示されている(いずれも税込)。
(イ)画像・動画の素材サイト「PIXTA」の「画像定額制プランのご案内」ページ(乙5)には、「1名利用」の場合の「月々更新プラン」として、「画像350点/月」当たり5万9400円(税込)(1点当たり約170円)の料金プラン(以下「PIXTAプラン」という。)が掲載されている。また、「単品購入」の場合は画像サイズごとに料金が異なる(素材1点あたりSサイズ550円〜XLサイズ5500円(いずれも税込))ことも表示されている。
(ウ)個人の制作者によると見られるウェブサイトの「画像のご使用について」と題するページ(乙6の1)には、当該ウェブサイト内の写真等を「印刷物や放送番組、企業Webサイト等に使用したい」場合の「画像使用料金(1枚1回1媒体あたり)」につき、「当Webサイトに掲載している画像をそのままダウンロードしていただく場合」は「1枚2,200円(消費税込み)」である旨が表示されている(以下「本件料金表示」という。)。なお、同ページには、使用期間に関する記載は見当たらない。また、小中学校等が学習活動等の教材として使用する場合や小中学生が自由研究に使用する場合は原則として自由に使用し得る旨も表示されている。
(エ)株式会社西日本新聞社のウェブサイト「西日本新聞社コーポレートサイト」の「記事・写真の利用案内」のページ(乙6の2)には、基本料金表(2022年1月現在。以下「西日本新聞社料金表」という。)が掲載されているところ、当該料金表には、「記事・写真の使用料金」につき、「営利利用」の場合、「HP」への掲載は、「取材協力なし」のとき、1年間の掲載可能期間で税別2万円とされている。
イ 原告写真は、原告の取扱商品の販売促進を目的として撮影されたものである。これに対し、アマナ料金表は、「写真・イラスト/出版・報道・教育写真」欄というその掲載場所から、利用目的を「出版・報道・教育」とする画像のウェブ広告目的での利用に関する料金表であることがうかがわれる。このため、本件において、アマナ料金表をもとに原告の損害額を算定するのは相当でない。西日本新聞社料金表も、新聞に掲載された写真等の使用料金を定めたものと見られることから、同様である。
 また、本件料金表示は、対象とする画像の性質、内容等の詳細が不明であるが、小中学校等の学習活動等の教材としての使用や小中学生の自由研究での使用は原則自由とされていることに鑑みると、少なくとも商用目的で作成された画像を対象とするものではないことがうかがわれる。そうすると、本件において本件料金表示をもとに原告の損害額を算定するのも相当でない。
 他方、PIXTAプランについては、「PIXTA」がそもそも写真・動画の素材サイトであることに鑑みると、原告の損害額算定に当たり同サイトの料金体系を参照することには一定の合理性があると考えられる。もっとも、被告は、原告写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害して被告写真を被告ウェブサイト等に掲載していたものであるから、原告の損害額の算定に当たり、定額制プランであるPIXTAプランを参照するのは相当でない。むしろ、被告は、遅くとも2019年(令和元年)11月30日には被告写真268〜271を掲載していたことが認められること(甲31〜34)、その後被告写真がいずれかの時点で削除されたことを認めるに足りる証拠はないこと、被告写真が原告写真の無断利用であること等に鑑みると、「PIXTA」の「単品購入」の場合の料金を参照して算定することが合理的と考えられる。その際の料金については、本件が著作権侵害の事案であること、原告写真のサイズが不明であること、被写体とされるアパレルという商品の性質上、実際には3か月又は6か月程度で掲載の目的を達するとみられること等に鑑み、「PIXTA」の「単品購入」の場合の料金幅のほぼ中間値が1枚当たり3000円(税込)であることを踏まえ、1枚当たり6000円(税込)を基礎として算定するのが相当である。
 そうすると、被告により原告の著作権が侵害された原告写真は全335枚(被告写真90及び91は1枚と見ることから、これに対応する原告写真も原告写真90又は91のいずれか1枚と考えられる。)であることから、原告の損害額は201万円となる。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(2)慰藉料額について
 被告による同一性保持権侵害が認められるのは、原告写真全335枚のうち255枚であること、原告写真は、原告が構図等を工夫して撮影したものではあるものの、芸術作品ではなく、原告の取扱商品の販売促進目的で撮影されたものであること、被告写真は被告が仕入れた原告写真に係る商品の販売促進目的で掲載されたものとみられること、被告写真における原告写真の改変の程度その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告による原告写真に係る原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害による慰藉料は、15万円とするのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(3)弁護士費用相当損害額について
 被告による原告の著作権及び著作者人格権侵害により、原告は、原告代理人らに依頼して本件訴えを提起することとなったことに鑑みると、被告の上記侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は、21万6000円と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(4)小括
 したがって、原告は、原告写真に係る原告の著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づき、被告に対し、237万6000円(著作権侵害につき201万円、著作者人格権侵害につき15万円、弁護士費用相当損害額21万6000円)の損害賠償請求権及びこれに対する令和4年7月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
8 まとめ
 以上のとおり、被告による被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、原告写真に係る原告の著作権及び著作者人格権侵害にあたり、また、これについて被告には過失が認められることから、原告は、被告に対し、著作権及び著作者人格権に基づき、被告写真の複製、自動公衆送信又は送信可能化することの差止請求権を有すると共に、不法行為に基づき、237万6000円の損害賠償請求権及びこれに対する令和4年7月24日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余を棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 稲垣雄大は、転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 杉浦正樹


(別紙被告写真目録、別紙原告著作物目録、別紙対比表省略)
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