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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件O
【年月日】令和5年5月15日
 東京地裁 令和4年(ワ)第70105号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年3月16日)

判決
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 遠藤大介
同 吉永雅洋
同 蓮池純
同 神田竜輔
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 橋利昌
同 平出晋一
同 太田絢子


1 主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークをいい、以下、単に「ツイッター」という。)において、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)により別紙投稿記事目録のユーザー名記載のアカウント(以下「本件アカウント」)を通じて同目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)をされたことにより、本件投稿に画像として添付された別紙著作物目録記載の各画像(以下「本件画像」という。)に係る著作権(複製権及び公衆送信権)のほか、プライバシー権及び名誉感情を侵害されたと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条2項に基づき、別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者(甲3、12ないし14)
ア 原告は、「Instagram」(インターネットを利用して画像等を投稿することができる情報ネットワークをいう。)において、画像の投稿等をしている者である。
イ 被告は、インターネット等のネットワークを利用した情報通信サービス、情報提供サービスその他の情報サービスの提供等を目的とする株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号にいう特定電気通信役務提供者である。
(2)本件投稿(甲1、2、12ないし14)
 本件発信者は、別紙投稿記事目録の投稿日時欄記載の日時に、ツイッターにおいて、本件アカウントにログインした上で、同目録の使用画像1ないし4を添付して、同目録の投稿内容記載の本件投稿をした。
 本件投稿には、原告の氏名、年齢及び住所(ただし、都道府県及び市区町村までのもの)が記載されている。また、本件投稿において添付された画像は、原告の容ぼう等が写った本件画像と同一のものである。
(3)ログイン時の通信に係るIPアドレス等の開示(甲4、5)
 原告は、本件訴訟に先立ち、ツイッターを管理するTwitter,Inc.から、本件投稿をした本件アカウントのログイン時の通信(以下「本件各ログイン通信」という。)に用いられたIPアドレス及びタイムスタンプ(以下「IPアドレス等」という)の開示を受けた。
(4)本件各ログイン通信に係る照会に対する被告の回答及び本件訴訟の経過等(甲8、9、当裁判所に顕著)
ア 原告は、被告に対し、本件各ログイン通信に係るIPアドレス等を踏まえ、本件各ログイン通信のうち、以下の接続日時において、以下のIPアドレスの割当てを被告から受け、かつ、別紙投稿記事目録記載の接続先IPアドレスに接続して本件アカウントにログインした者に係る情報の開示及び保存を求める旨を通知した。
イ これに対し、被告は、上記アの@ないしBの通信について、調査の結果、異なる複数の対象者が検出されたため、開示及び保存の請求に係る対象者を1名に絞ることができなかった旨の回答をした。
ウ 原告は、本件訴訟に先立ち、被告を相手方(債務者)として、上記アの@ないしBの通信に係る発信者の情報の消去禁止を求める仮処分を申し立たてた。
 原告及び被告は、上記仮処分手続において、被告が上記各通信に係る調査をしたところ、上記@の通信については「A」、上記Aの通信については「A」及び「B」、上記Bの通信については「A」(上記「A」及び「B」は、該当者の略称であり、上記「A」は同一人物を指す。)がそれぞれ該当することを確認したことを踏まえ、被告が上記に係る各情報を一定期間保管すること等を内容とする和解をした。
エ 原告は、被告に対し、上記アの@ないしBの通信に係る発信者情報の開示を求めて本件訴訟を提起したところ、被告は、上記各通信について、上記ウ記載のとおり、「A」及び「B」という異なる者が該当するため、発信者情報の開示は認められない旨の主張をした。
 その後、原告は、開示請求の対象を「A」に限ることとし、本件訴訟における請求の趣旨を上記アのBの通信(以下「本件通信」という。)に係る発信者の情報(本件発信者情報)の開示のみを求める内容に訂正した。
(5)本件発信者情報の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)本件投稿による権利侵害の明白性(争点1)
ア 本件投稿によるプライバシー権侵害の明白性(争点1−1)
イ 本件投稿による名誉感情侵害の明白性(争点1−2)
ウ 本件投稿による著作権侵害の明白性(争点1−3)
(2)正当な理由の有無(争点2)
(3)侵害関連通信該当性(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(プライバシー権侵害の明白性)について
(原告の主張)
 本件投稿には、住所の記載があるところ、これは原告に関する実際の情報を記載するものである。そして、この情報は、原告の私生活上の事実であり(私事性)、一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であって(秘匿性)、一般の人々に未だ知られていない事柄であること(非公知性)が明らかである。
 また、原告は、公的な活動をしているわけではなく、一般の市民にすぎない。他方で、本件投稿は、原告の氏名や顔写真と共に住所を公開するものであり、態様として悪質であって、原告に甚大な精神的負担を課すものである。これらの事情を考慮すれば、本件投稿に記載された情報を公表する社会的意義、必要性等はおよそ観念することができず、公表されない法的利益が優越することは明白である。そうすると、本件投稿によるプライバシー権侵害について、違法性阻却事由が存在しないことは明らかである。
 したがって、本件投稿が原告のプライバシー権を侵害することは明らかである。
(被告の主張)
 争う。
 本件投稿で記載された住所は、県及び市の記載にとどまるものであるから、本件投稿が、原告を同定可能にする投稿となるものかどうかは明らかではない。また、県及び市の記載にとどまる住所の記載が、プライバシー権侵害を構成するかどうかも明らかではない。
2 争点1−2(本件投稿による名誉感情侵害の明白性)について
(原告の主張)
 本件投稿には、「綺麗好きなのに臭い汚マンコ雌豚です。」といった記載があるところ、これは、性器について汚いと述べた上で雌豚と罵る内容であって、原告の自尊心等を著しく傷つけることは明らかである。そして、原告が芸能活動等を行っていない一般人であること、氏名等の情報や写真と共にこのような内容が記載されていること、「晒しで有名にしてあげてください(ハートマーク)」、「ラブリツで下のモザなし写真!」といった投稿が併記されていること等も考慮すれば、本件投稿は、社会通念上許される限度を超えるものである。
 また、本件投稿が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であり、専ら原告を侮辱する目的でなされたものである以上、違法性阻却事由を観念することができない。
 したがって、本件投稿が原告の名誉感情を侵害することは明らかである。
(被告の主張)
 争う。
 本件投稿の記載は、好意的でないひどい表現であるが、被告は、原告の写真が公開された経緯、原告がSNS等を通じていかなる情報を発信しているか、その社会的評価等について何ら知識がないため、本件投稿が当然に社会通念上許される限度を超えた表現といえるのか必ずしも明らかではない。
3 争点1−3(本件投稿による著作権侵害の明白性)について
(原告の主張)
(1)著作物性について
 本件画像は、いわゆる写真アプリを使用し、被写体の組合せ・配置、色彩の配合、背景等に撮影者の個性が発揮されていることから、創作性が認められ、著作物性が認められる。
(2)著作権の帰属について
 本件画像は、原告が自身を撮影したものであり、原告に著作権が帰属する。
(3)複製権及び公衆送信権の侵害について
 本件発信者は、本件画像をそのままコピーして本件投稿をしている。
 そして、本件投稿は、インターネット上に掲載する上でサーバへのアップロードを必然的に伴うものであって、当該サーバに本件画像を有形的に再製しているため、本件画像に係る原告の複製権を侵害することが明らかである。
 また、サーバへのアップロードは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆用記録媒体に情報を記録するものであって、送信可能化に該当するから、本件画像に係る原告の公衆送信権を侵害することが明らかである。
(4)権利制限規定の適用がないことについて
 本件投稿は、原告のプライバシー権及び名誉感情を侵害する極めて悪質なものである。このような本件投稿の悪質性に照らせば、本件投稿における本件画像の利用について、引用による利用(著作権法32条1項)等の権利制限規定の適用がないことは明らかである。
(5)小括
 したがって、本件投稿が原告の著作権を侵害することは明らかである。
(被告の主張)
 争う。
 被告は、本件画像に関して、著作権の帰属等について知らず、本件投稿への掲載が著作権侵害に当たるかなどは分からない。また、被告は、本件投稿への本件画像の掲載が、引用又はそれに準じた違法性阻却事由に該当する余地がないものか分からない。
4 争点2(正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使する予定である。したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が認められる。
(被告の主張)
 不知である。
5 争点3(侵害関連通信該当性)について
(原告の主張)
 本件通信は、以下のとおり、本件投稿に係る侵害関連通信(プロバイダ責任制限法5条3項、同法施行規則5条2号)に当たる。
(1)ツイッターにおいては、アカウントへのログインをした上で投稿をするものであり、アカウント名及びパスワードを入力することによりログインを行わなければ投稿をすることができない。そうすると、投稿をしたアカウントにログインをした者と、投稿をした者とが同一である高度の蓋然性が認められる。
 しかるに、本件通信は、本件投稿の3時間36分前にされており、本件通信と本件投稿との間には時間的近接性が認められる。そして、本件通信をした者と、本件投稿をした者とが同一であるとの高度の蓋然性を覆すような事情は見当たらない。
 したがって、本件通信は、本件投稿との関係において、侵害関連通信に該当する。
(2)また、侵害情報の送信と最も時間的に近接して行われた通信以外の通信も侵害関連通信に該当することは、総務省によるプロバイダ責任制限法の逐条解説(甲22)のとおりである。また、プロバイダ責任制限法5条3項並びに同法施行規則5条柱書及び同条2号の趣旨に照らせば、ログインに係る送信と当該侵害情報の送信とが相当の関連性を有するか否かは、当該ログインに係る送信と当該侵害情報の送信との時間的近接性のほか、当該侵害情報の発信者を特定する他の手段、方法等の有無を総合考慮して判断すべきである。
 しかるに、本件通信は、本件投稿と時間的に近接している。また、被告の調査結果によれば、前提事実(4)アAの通信について本件アカウントにログインした者が特定できないこと、同@の通信は本件投稿後のログインに係る通信であり、ツイッターの仕様上、投稿後のログインが投稿前のログインと比較した場合に、侵害情報の送信との関連性が希薄であることを踏まえれば、本件通信(同B)に係る情報のほかに、本件発信者を特定する適切な手段はない。
 したがって、本件通信は、本件投稿との関係において、侵害関連通信に該当する。
(被告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1−2(本件投稿による名誉感情侵害の明白性)について
 本件事案の内容に鑑み、争点1−2を先に判断する。
(1)ある者の名誉感情を損なう行為は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるといえる場合に、上記の者の人格的価値を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。
 これを本件についてみると、前提事実によれば、本件投稿は、原告の氏名等を記載した上、原告の容ぼうが写った画像を添付して、原告を「綺麗好きなのに臭い汚マンコ雌豚です。」と評するものであることが認められる。
 そうすると、上記認定に係る本件投稿の内容を踏まえると、本件投稿が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることは明らかである。仮に、名誉毀損と同様に、違法性阻却事由の存否という判断枠組みに立って検討したとしても、上記内容を踏まえると、これが認められないことは明らかである。
 したがって、本件投稿は、原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為法上違法となることが明らかであるものと認められる。
(2)小括
 以上によれば、その余について判断するまでもなく、本件投稿による権利侵害の明白性が認められる。
2 争点2(正当な理由の有無)について
 証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求等をすることを予定していると認められる。したがって、前記1において説示したところを踏まえると、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。
3 争点3(侵害関連通信該当性)について
(1)プロバイダ責任制限法5条2項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(関連電気通信役務提供者)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨規定し、同条3項は、上記にいう「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう旨規定している。
 そして、同法施行規則5条柱書及び同条2号は、あらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態にするための手順に従って行った識別符号その他の符号の電気通信による送信(以下「ログイン時送信」という。)のうち、侵害情報の送信と相当の関連性を有するものは、同法5条2項及び3項にいう「侵害関連通信」に該当する旨規定している。
 上記の各規定の内容を踏まえると、同法5条2項及び3項は、侵害情報の送信に必ずしも該当しないログイン時送信に係る発信者情報についても、ログイン時送信が「侵害関連通信」に該当するものとして開示請求の対象とし、もって、被害者の権利回復の利益と発信者の表現の自由、プライバシー等との均衡を図るものであると解することができる。
 上記各規定の趣旨目的に鑑みると、ログイン時送信が侵害情報の送信と相当の関連性を有するものかどうかは、侵害情報の送信とログイン時送信との時間的近接性の程度、特定電気役務提供者における通信記録の保存状況その他の諸事情を総合考慮して判断すべきであると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに、前提事実(2)及び(4)によれば、本件発信者は、本件アカウントにログインした上で本件投稿をしたこと、被告は、本件各ログイン通信に係るIPアドレス等から特定される通信について、前提事実(4)アの@ないしBに係る情報を保有していること、このうち、上記@の通信は、本件投稿の約2時間32分後にされていること、他方、上記Aの通信及び上記Bの通信は、いずれも本件投稿前にされているところ、上記Aの通信は、本件投稿の約5分前にされているものの、被告の調査においては異なる複数の対象者(A及びB)が検出されており、被告において本件アカウントにログインする通信をした者を特定することができないこと、これに対し、上記Bの通信は、本件投稿の約3時間36分前にされたものであるものの、被告において本件アカウントにログインする通信をした者(A)を特定し得るものであること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実に係る通信記録の保存状況等を踏まえると、本件アカウントにログインする通信をした者を特定できる通信は、上記@の通信及び上記Bの通信であるところ、本件通信は、本件投稿の約3時間半前にされていることからすると、少なくとも本件通信は、侵害情報の送信と時間的に近接したものといえる。
 そうすると、本件通信は、本件投稿と相当の関連性を有するものと認めるのが相当である。
(3)したがって、本件通信は、本件投稿との関係において、侵害関連通信に該当する。
4 その他
 その他に、被告の主張を改めて十分に検討しても、上記において説示したところを踏まえると、被告の主張は、いずれも採用することができない。
第5 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 小田誉太郎
 裁判官 國井陽平


(別紙)発信者情報目録
 別紙ログイン情報目録IPアドレス欄記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録接続先IPアドレス欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を、別紙ログイン情報目録ログイン日時欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げる情報。
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス

(別紙)ログイン情報目録
ログイン日時 ログイン日時(日本時間) IPアドレス
2022/3/7 9:21:42 2022/3/7 18:21:42 省略

(別紙)投稿記事目録
URL https://(以下省略)
投稿内容 【晒し依頼】
名前:省略
年齢:省略
省略
綺麗好きなのに臭い汚マンコ雌豚です。
晒しで有名にしてあげてください(ハートマーク)
ラブリツで下のモザなし写真!
使用画像1 省略
使用画像2 省略
使用画像3 省略
使用画像4 省略
ユーザー名 省略
投稿日時 2022年3月7日 21時57分
接続先
IPアドレス
以下のうちいずれか。
省略

別紙著作物目録、省略
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